概要
超教育協会は2025年1月15日、一般社団法人新経済連盟(新経連)の渉外アドバイザーである小木曽 稔氏を招いて、「新経済連盟における教育改革に向けた議論と取り組みについて」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、小木曽氏が新経済連盟における教育改革に向けた議論と取り組みについて講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
>> 前半のレポートはこちら
「新経済連盟における教育改革に向けた議論と取り組みについて」
■日時:2025年1月15日(水) 12時~12時55分
■講演:小木曽 稔氏
一般社団法人新経済連盟 渉外アドバイザー
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
教育改革に「どう風穴を開けるか」経済界の取り組みに視聴者からの強い関心
石戸:「ありがとうございます。AI関連の質問が複数きています。生成AIの登場により教育業界も大きな衝撃を受けます。生成AI以降、新経連での教育の在り方に関する議論も変化したのではないかと思います。生成AIビフォー、アフターの議論の違いについて、お話いただけますか」
小木曽氏:「実は、AIについてはまだ議論し切れていないので、さらに議論をしなければいけないという状況です。それを踏まえて変化が2つあると思っています。
1つはAIがない世界での教育指導やコンテンツの在り方とAI readyになっている今とで、子供たちが変わってきています。その中で何を教えるのか。デジタルコンピテンシーやポストAI時代に求められる人間の付加価値、能力が変わってきているという現状を抜きに学習指導要領を議論しても意味がないという気がしています。見直さなければいけないという問題意識を持っています。
AIの活用が進み、人間がやらなくても良いことが増えるのであれば、それについては教えなくても良いという考えがあります。一方で、アントレプレナーシップをよりきちんと教えないと、ポストAI時代になったときにはその能力がより重要になるのではないかとも考えています。新経連の中でやってきた議論にAIが入ることによって、アントレプレナーシップの議論をきちんとしなければいけないということがより鮮明になったと感じています。あわせて、教えなくてもよいことは教えずに、教える項目はより効率化する、何より先生方の働き方を変えることができるというAIのプラス面を考えて、今後、何を教えるかという議論をしていかなくてはいけないと話しています」
石戸:「私も生成AIにより求められる変化に関する議論の内容は、これまでの議論と相違なく延長線上であると思っています。いよいよそれを迅速に社会実装しなければならない状況になったということであり、これまでの議論の方向性が違っていたわけではないと捉えています。
GIGAスクール構想に関係した質問もきています。先ほどもお話があった通り、新経連はプログラミング教育の必修化も訴えてこられました。2020年からGIGAスクール構想、そしてプログラミング教育の必修化が始まりましたが、新経連は今の状況をどう評価されていますか。現状で感じていらっしゃる課題や、さらに力をいれるべきと捉えている点も教えて下さい」
小木曽氏:「GIGAスクール構想で考えなくてはならないのは『大容量高速通信』、『クラウド化』が本当にどこまで進んでいるのか、まだまだ途上だと思っています。『なんちゃってGIGA』のようところがあって、学校でのシステム環境の改善の余地はかなりあると思います。もう少し深掘りして調査をしないとその実態がまだ見えないのですが、そこに国費が必要という話があれば我々も応援したいと考えています。
そして、プログラミング教育では、その評価が難しいと思っています。今のプログラミング教育を『なんちゃってプログラミング』と批判するのは簡単だと思います。ただし、プログラミングを『情報』という科目として、どのように位置づけるのか、情報教育をどのように位置づけるのか、具体的にどう直して欲しいのかという提案をどうするのかといったことは課題として残っています。この議論がまだ十分にし切れていないので、今のままだと取り上げて制度化に移せない段階だと思っています。
アントレプレナーシップ教育のところで一部吸収できる部分はありますが、それだけではないところがあって、『情報』についてだけ学ぶのはとても必要だと思います。提言の中ではうまく説明し切れていないですが、アントレプレナーシップ教育だけではなくて情報教育の強化も盛り込んでいます。ただ、ここは皆さんとも議論を深めたいなと思っている課題として、ネクストプログラミング教育の『ネクスト』をさらに解像度を高くして示さないと誰にも刺さらないでしょう。私もネクストのところで何を言えばよいのか、アイデアがあまり湧いていませんので、アイデアがある方は是非教えていただければと思います」
石戸:「是非、WGで議論できればと思います。ネクストに関しては、まさに生成AIやアントレプレナーシップ教育等も踏まえて議論すべきですね。GIGAは、おっしゃる通り高速大容量通信など、より良い環境整備の実現を願います。
本日のお話は、いまの公教育としての初等中等教育を、どのようにより良いものにしていくかが中心でした。一方で、これまでの教育とは一線を画した特徴ある新しい学校創設の動きも出ています。そのような動きを新経連としてどのように捉えていらっしゃるのかお伺いしたいです」
小木曽氏:「それは全く良いと思っています。現状ではその中でやりにくい部分があると思います。大学レベルでそのような新しい教育を求めて新設許可申請を出すのも難しいところがあるという気がします。一般論としてあると思います。そうだとすると、新しい教育の仕組みを導入する私立についての文部科学省の許認可行政の見直しと、新経連でも以前から言ってるところですが、株式会社立学校の参入のしやすさといった問題も『古くて新しい問題』として考えていく必要があるという気はします」
石戸:「なぜ私がこの質問をしたかというと、具体的なアクションが気になっていたからです。もちろん公教育をより良いものにするために産官学連携でしっかりと対応することも大事な一方、産業界だからこそできる風穴の開け方もあると思います。それも期待したいです。
産業界が変化しないと採用のしくみが変わらず、採用がかわらないと入試が変わらず、入試が変わらなければ教育の現場も変わらないという側面もあると思います。産業界が実際にどのような人材を求め、就活一つ取ってみてもどのように変化をしていくか。教育現場に求めることと合わせて、産業界が人材育成や人材採用という点でどう変化していこうとされているのかについてもお話を伺いたいです」
小木曽氏:「出口から議論した方が早いということは、おっしゃる通りで私もその意味では、会社が何で採用するのか、今こそ単純な学歴ではなく、学習歴にすべきだということを考えています。そうすると学習データの在り方に焦点が当たってきて、整備しなければいけないという議論に繋がりやすいと思うのです。ただ、あまりそこがつながって議論し切れていないと思います。言い過ぎると炎上しそうなところもあり、議論しにくいですが、そこから議論すると一気通貫するような気がします」
石戸:「1つ前の質問はまさにそれを念頭に置いておいたからこそ、新しい教育の構築についてのご意見を質問をさせていただきました。今までの評価とはまったく違うやり方で産業界が採用を始めたときに教育現場が変化をしていく可能性もあると思います。もちろん両面での議論が有効と思いますが、ぜひ一緒に議論したいです」
小木曽氏:「私も逆に言うと人に質問されると頭が整理されると思っていますので、大変貴重な機会をいただきありがとうございました」
石戸:「最後に一言お願いします」
「教育データのシステムアーキテクチャの議論は、どのように話し合われるのかまだ見通しが立ちません。私としてはさまざまな人が言う『こういうことじゃないか』、『ああじゃないか』という意見に触れたいと思っています。オンラインシンポをご視聴されている方で、そういうことを言いたくてたまらないという人がいたら、データWGや個人へご連絡ください。よろしくお願いします」という小木曽氏の言葉で、シンポジウムは幕を閉じた。