概要
中国では新型コロナウイルスの蔓延による学校休校直後から、5000万人の生徒が遠隔授業を受けられる体制を整備したというニュースが流れ大変驚きました。今回はその中国でどのような遠隔教育がなされてるのか伺いました。
オンライン授業3~中国の後半をお届けします。
(インタビュアー:石戸奈々子 超教育協会理事長)
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なぜ中国は迅速に遠隔教育に切り替えられたのか
今回小学生のお子さんがいるお2人のお母さんを紹介してくださったのは、野村総研時代から上海にいる横井正紀さん。中国が迅速に遠隔教育に切り替えられたのは、それを可能とするインフラが中国に整備されていたからだと指摘します。
「DingTalkは多くの企業で導入されています。位置情報も全て共有されるため、出勤状況がすぐに分かる。よって出勤簿代わりに利用されています。会社では、メールではなくwechatを活用しています。それらがすべてスマホ1台で対応できる。多くの人がこのような活用の仕方に慣れていたため、簡単に移行できました。」
また、中国の取り組みはICT化とはニュアンスが違うといいます。というのも、上海では紙とスマホとパソコンが常に融合しているからです。
「書類申請をする際に、紙にプリントアウトして、記載し、ハンコを押して送る、というの行為は日常的にあります。だから、宿題をする際にも写メを撮って送るのは自然な行為であり、違和感がなく進みます。また、渋滞が多いのでオーディオブックも浸透しています。そして、その長さがだいたい10−20分。授業が20分になったのもオーディオブックの標準にあわせたという話であり、思いつきで決めたわけではありません。そのあたりが中国の生活のインフラだと思います。」
インフラといえば、遠隔教育へ移行するに当たり、家庭のデバイス・ネット環境は問題なかったのでしょうか?
「上海はネットやデバイスがない問題はないと思います。スマホはみんな持っていますし、ネットの普及率も高いので。」
しかし、3月1日に遠隔教育がスタートし、会社のネットにも影響が出たといいます。中国の幼稚園から大学生までの生徒数は約2.7億人。いまではその半数近くが午前中に遠隔教育に切り替わったというからそれもそのはず。
ネット増強のスピードも早いといいます。「次の日には、電波が悪かった田舎の山奥に中国移動が基地局を建てに行きました。子どもたちの教育環境を維持しようと、国をあげて様々な機関が協力をしました。インフラが整っていたということに加え、インフラを高速で整えたというところが中国のすごさです。」と横井さんは続けます。
保護者から見た遠隔教育の課題
課題は何でしょうか?趙さんと呂さんは、口を揃えて、「遠隔教育の効果」、「身体への影響」、「親の負担」の3点を挙げます。
時間割は同じですが、授業時間が短くなったり、また子どもたちへの負担軽減のため途中から授業コマ数が減らされたりしました。その一方で、その分を課題で補っているため、授業が遅れているわけではありません。しかし、「実際どのくらい身についているのかが分からない」と不安を口にします。通学時との学習効果の差を気にしている保護者は多いといいます。
身体への影響に関しては、まずなによりも気になるのは運動不足。体操の時間があり、先生の動きに合わせて画面の前で体操はしているものの、10分〜20分程度といいます。そして長時間画面を見る生活における目への影響も気になります。
親の負担増は大きな課題であり、3月末に行われたある調査によると、1日当たりの子どもの勉強に親が付き添う時間は 2~3時間が43.1%、5時間以上が6.2%という結果になりました。呂さんは共稼ぎ家庭のため、子どもは毎日ひとりで、家で、遠隔授業を受けています。お昼ご飯は隣に住むご友人に依頼をしています。遠隔授業が始まった当初は一人で取り組むことはできませんでしたが、いまは全て一人でこなしているというから驚きです。
その一方で、「低学年の子どもにそれは無理!」と趙さんは強調します。趙さんのご家庭も共稼ぎ。趙さんのご両親にサポートを頼んでいます。頼める実家や友達がない家庭は仕事を休む、もしくは辞めるといったことも起きているようです。
「とにかく負担が大きいからはやく学校が始まって欲しい」と呂さんと趙さん。子どもたちも「学校に行きたい」と同じ意見です。理由は、友だちもいるし、先生の授業を直接聞くほうが楽しいから。いまの放送型の遠隔教育は一方向に講義が流れるだけなので、先生の授業を生で聴くほうが、コミュニケーションがあって参加意識が芽生えると呂さんは指摘します。
「小さい子は授業に興味がありません。テレビ放送を見ながらも、遊んだり、お菓子を食べたりしています。毎日寝坊して、遊んで、そりゃ楽しいでしょうけれどね。」と趙さん。
最後に
さて、日本では臨時休校を踏まえ、様々なEdTech企業が無償で教材を提供しはじめました。その状況は中国でも同じです。習い事もオンラインになりました。呂さんのお嬢さんが通うピアノ教室も、先生とZoomでレッスンをしています。バレー教室もオンライン化したそうです。
しかしながら、子どもたちの時間は限られているため、いまは学校の課題に追われており、無料提供されている教材は多いものの、そこまで手は回らないというのが実態のようです。
上海市が緊急事態宣言をだしたのは死者1名、感染者数50名くらいの頃でした。「地下鉄の運行時間は19時まで。商業施設・図書館・カラオケ・床屋・ジム等の営業提示。14日分の健康状態を記録するアプリによる健康QRを表示しないと公共交通機関への乗車やオフィス・商業施設への入室はできない。
感染者の行動情報を得るための支柱カメラの活用と、その情報の地図アプリでの可視化。自宅隔離措置のため自宅ドアのセンサー設置。ここまでやるのか?と驚くほど街にはだれもいなくなり、家に籠もる生活を上海市民は選択しました。日本ではまだ街に人が溢れている映像が上海にも届いており不安です。」と横井さんは家族を残している日本の状況を心配しています。
日本でもこれから休校がいつまで続くのか見通しが立ちません。スマホと写メで対応するなど、上海のできることから取り組む姿勢は参考になるのではないでしょうか。