概要
超教育協会は2026年3月18日、SAK University 東京イノベーションキャンパス 学部長の土橋 直樹氏を招いて、「次世代を担うIT人材を育成するーSAK University 東京イノベーションキャンパスの取り組み」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、土橋氏が2025年に開校したSAK Universityの概要や設立の背景について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
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「次世代を担うIT人材を育成するーSAK University 東京イノベーションキャンパスの取り組み」
■日時:2026年3月18日(水) 12時~12時55分
■講演:土橋 直樹氏
SAK University 東京イノベーションキャンパス 学部長
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
コンピュータサイエンスとAIに特化 新しい高等教育モデルに関心が集まる
石戸:「IT分野は独学でも習得可能だとされる一方で、近年ではGoogleをはじめとする企業が、自社の認定するスキルや学習プログラムを大学卒業相当の価値として位置づける動きも見られます。こうした学びの多様化が進む中で、あえて大学という形を選ばれた意義はどこにあるのでしょうか。なぜ大学である必要があったのか、その背景やお考えをお聞かせください」
土橋氏:「私たちの根本にあるのは『学生のためになるかどうか』という視点です。同じ時間を学ぶのであれば、その成果がより高い価値につながるものであるべきだと考えています。現実的には、大学卒業の有無が就職において有利に働く側面は否めません。学位を取得できるかどうかを考えれば、エセックス大学と提携する形の方が望ましいと判断しました。
もちろん、SAKとして3〜4年の教育を行うことは可能です。しかし、それだけの期間学ぶのであれば大学在学と同等であり、学位を取得できる方が学生の将来に資すると考えました。そのため、エセックス大学と提携する今回の形を採用しています」
石戸:「設立の背景として、IT人材の不足が挙げられていました。この課題は長年にわたり指摘されており、日本には関連分野を扱う大学も数多く存在していますが、いまだ十分に解消されているとは言えません。この状況をどのように捉え、どこに本質的な原因があると分析されているのでしょうか。また、その課題に対して、SAK Universityとしてどのような解決策を提示しようとされているのか、お考えをお聞かせください」
土橋氏:「既存の教育機関には長所と短所の両面があります。大学では文部科学省の認可を受けた整ったカリキュラムに基づき教育が行われていますが、ITは変化のスピードが非常に速く、その更新に追随しきれていない面があります。したがって、教育内容も常にアップデートしていく必要があり、それに対応できるかどうかが重要なポイントだと考えています」
石戸:「エセックス大学のカリキュラムと御社独自のカリキュラムを組み合わせて構成されているとのことですが、いずれも継続的にアップデートされる仕組みになっているという理解でよろしいでしょうか」
土橋氏:「授業は、エセックス大学のシラバスに基づくものと、当社が構築し同大学の承認を得て実施するものの2種類があります。既存の授業内容を変更する場合には承認が必要ですが、新たな科目を設けることは可能で、後から承認を得て単位化することもできます。そのため、技術進化に応じた更新は柔軟に行える仕組みになっています」
石戸:「エセックス大学の承認は必要であるものの、従来の文部科学省管轄の大学と比較すると、カリキュラムの更新はより柔軟に行えるという理解でよろしいでしょうか」
土橋氏:「柔軟性は高いと思います」
石戸:「生成AIの進展により、プログラムをAIが生成する時代が到来しています。こうした状況の中で、大学はどのようなスキルを教えるべきなのでしょうか。『学生は何を学ぶべきか』という問いには、いまだ明確な答えが見えていないようにも感じます。そのような時代において、エンジニアに求められるスキルをどのように定義し、それをどのようにカリキュラムへと反映されているのか、お考えをお聞かせください」
土橋氏:「現在、教育業界はAIの登場に大きな影響を受けています。プログラムもAIが生成する時代ですが、それでも重要な能力はいくつかあります。まずは言語化能力です。生成AIに適切な指示を与えるためには、プロンプトを通じて的確に表現する力が不可欠です。次に読解力です。生成されたソースコードを理解する力が求められます。そして、コードをもとに構造化・抽象化し、仮説を立てて思考する力も重要です。
これは英語学習に似ており、ライティングやスピーキング、リーディングといったスキルが必要になります。同様に、基礎となる知識も不可欠です。
最近の例ですが、同僚が授業で使用する簡単なWebサービスを、AIを活用して数時間で開発したと聞きました。AWS(Amazon Web Services)のECS(Elastic Container Service)上に自動的に構築され、サーバーレスで稼働し、Terraformによって環境が整備されたとのことです。
こうした内容に含まれる用語を理解していなければ、生成AIを活用して同様のものを作ることはできません。英単語に相当するような基礎知識は不可欠です。まずは、その基礎を1年次や2年次にしっかりと身につけることが重要です。あわせて、AIそのものへの理解も求められます。ツールとして利用すること自体は容易ですが、それを既存のサービスや業務にどのように組み込むかは、AIに対する理解がなければ実現できません。基礎知識の習得とともに、AIそのものを理解することが不可欠だと考えています」
石戸:「視聴者から多くの質問が寄せられています。『高等専門学校への募集についてはどのようなアナウンスをされているのでしょうか。また、募集にとどまらず、共同の取り組みのようなもので何かお考えがあればお聞かせください』というものです。いかがでしょうか」
土橋氏:「募集は、Webや紙媒体などさまざまな手段で行っています。ただ、新しい学校であるため認知が十分とは言えず、より多くの方に知っていただくための活動を進めています。その中で、高校からもお声がけをいただき、情報Iの授業や探究学習での連携など、具体的な取り組みを協議しながら進めている事例もいくつかあります」
石戸:「学生像に関する質問も寄せられています。『どのような学生に来て欲しいと考えているか、従来の大学とは違う学生像を想定されているのでしょうか』というものです。いかがでしょうか」
土橋氏:「シンプルに言うと、意欲のある学生ですね。入学時点での学力や偏差値はそれほど重視していません。本学でしっかり学べば、社会で活躍できる力は身につくと考えています。むしろ、ITを学びたい、将来こうしたことに挑戦したいという意志を持つ学生に来て欲しいと思っています」
石戸:「進路に関する質問も寄せられています。『在学生は将来どのような進路を検討されているのでしょうか』というものです。国内外の就職先、進学先など具体的なイメージがありましたらお聞かせください」
土橋氏:「まだ卒業生はいないため実績はお伝えできませんが、エセックス大学への留学に関心を持つ学生は比較的多い印象です。英語力の習得は必要ですが、留学後に修士課程へ進学したり、海外で就職したりといった目標を持つ学生も見られます。一方で、卒業後すぐに就職を希望する学生もいます」
石戸:「お話を伺う中で、リカレント教育としてのニーズも高いのではないかと感じました。実際の入学者層については、高校卒業者が中心となっているのでしょうか」
土橋氏:「昼間部と夜間部を設けており、昼間部は高校卒業後に進学する学生が中心です。中には他大学から転入してくる学生もいます。夜間部は社会人がほとんどです」
石戸:「学生数はどの程度でしょうか」
土橋氏:「まだ募集人数は確定していませんが、昼間部・夜間部合わせて100名以上です。夜間部にはIT業界以外の方も多く、医療、放送、営業など多様な分野から参加されています。いずれもAIを学ぶ必要性を感じ、意欲的に取り組んでいる方が多い印象です」
石戸:「大学でありながら、職業教育機関や企業研修機関としての側面も併せ持っているように感じました。これは、従来の大学とは異なる新しいモデルとして設計されたものなのでしょうか」
土橋氏:「日本では新しい試みですが、世界的にはトランスナショナル教育として一般的なモデルです。ある国の大学の学位を、別の国で授業を受けて取得する仕組みは、シンガポールやマレーシア、台湾などでも見られます。その意味では特別に新しいわけではありませんが、当校はAIに特化し、その分野の人材育成に注力している点が特徴だと考えています」
石戸:「視聴者の方から、『日本の高等教育にどのような影響を与えたいとお考えですか』というご質問をいただいています。SAK Universityの取り組みを通じて、日本の高等教育にどのような変化や影響をもたらしたいとお考えでしょうか。あわせて、社会や教育界に対して、どのようなメッセージを発信していきたいのかについてもお聞かせください」
土橋氏:「現在の大学は、確立された優れた教育機関であると考えています。一方で、大学は研究機関としての側面も持っています。広い視点では重要な役割ですが、就職して社会に出る学生にとっては、大学での学びが実社会で活かされるものであることが望ましいと感じています。
社会で活用できる知識を得られる場の重要性は高く、その一つの選択肢として、SAK University 東京イノベーションキャンパスを知っていただければ幸いです」
石戸:「視聴者からこのような質問も寄せられています。『実践的なIT人材とありますが、企業側が求める実践力と教育側が考える実践力にはずれがあることもあるのではないでしょうか。皆さんは実践力をどのように定義し、どのように評価しているのでしょうか』というものです。この点について、まずお考えをお聞かせください。
あわせて、高校までの教育と大学教育のあいだにあるギャップ、さらに大学での学びと社会が求めるスキルとのギャップについて、どのように捉え、どのように対応されているのかについてもお聞かせいただけますでしょうか」
土橋氏:「まず社会とのギャップについてですが、当校は株式会社エスアイイーというIT企業を母体としており、エンジニア派遣や人材紹介、転職支援などを通じて多くの企業と関わっています。また、法人研修も実施しており、日本の数百社と連携しています。
そのため、現場で求められるスキルや研修ニーズが直接教育内容に反映される環境にあり、企業が必要とする技術がダイレクトに入ってくる仕組みになっています。この点で、社会とのギャップは極めて小さいモデルであると考えています。
一方、高校までの学びとのギャップについては、現時点では大きな課題とは捉えていません。当校のITスクールは20年以上にわたり、未経験者の育成に取り組んできました。ITを学んだことがない学生であっても、一流のエンジニアへと育成するノウハウがあります。そのため、入学時点でITの知識がなくても、十分に対応可能だと考えています」
石戸:「続いての質問です。『このような新しい教育モデルは、今後、他の大学や日本の教育全体に広がる可能性もあります。横展開する際の課題や条件についてどのように考えていますか』というものです」
土橋氏:「トランスナショナル教育にはさまざまな形がありますが、本学の特徴は日本語で教育を提供している点にあります。国際連携では通常、英語での授業が求められますが、今回エセックス大学からは日本語での実施が認められました。
これは、SAKが長年にわたり実務直結型の教育を行ってきた実績が評価された結果です。いわば実績に基づいた特例的な側面もあり、この点が本学の特徴と言えます。今後、展開していく際には、こうした実績が重要な要素になると考えています」
石戸:「最後に、今後の展望について一言お願いします」
土橋氏:「沢山の学生の方に来ていただきたいです。まずは、より多くの学生に本学を知っていただきたいと考えています。そのために、このような機会をいただいています。数年後、卒業生がさまざまなITの現場で活躍し、その成果を耳にできることを楽しみにしています。そうした未来の実現に向けて取り組んでいきたいと考えています」
最後は石戸の「社会のニーズに的確に応えるカリキュラムを備え、日本の高等教育に新たな風を吹き込む存在として、今後さらなる広がりを見せていくことを期待しています」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

