コロナ休校への英進館の対応/英進館のAI活用事例
第5回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2020.7.28 Tue
コロナ休校への英進館の対応/英進館のAI活用事例<br>第5回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2020年6月17日、英進館株式会社の筒井 俊英氏を招いて、「コロナ休校への英進館の対応/英進館のAI活用事例」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

本シンポジウムでは、新型コロナウイルス感染拡大による休校に対し工夫することで、対面授業にも劣らないオンライン授業を実現した英進館の対応について紹介。合わせて、公立高校入試当日平均点算出の大幅な効率化を実現したAIの活用事例も紹介した。終盤では超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに、参加者からの質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。

 

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「コロナ休校への英進館の対応/英進館のAI活用事例」
■日時:2020年6月17日(水)12時~12時55分
■講演:筒井 俊英氏
英進館株式会社 代表取締役社長
■ファシリテーター:石戸奈々子
超教育協会理事長

 

筒井氏は約45分間の講演で、オンライン授業には対面授業には無いメリットがあり、十分な教育効果を上げることができると語った。また、大勢のベテラン教師が長い時間をかけて算出していた公立高校入試当日平均点について、AIを活用することで高精度を維持したままで人員も時間も大幅に削減することが可能になったと話す。その主な講演内容は以下のとおり。

英進館としての新型コロナウイルス感染拡大への対応について

英進館としての新型コロナウイルス感染拡大への対応についてのお話をします。新型コロナウイルス感染拡大により、2020年3月2日から全国の小中高校が一斉休校となり、それに合わせて英進館だけでなく国内のほとんどの学習塾が休校しました。

 

その時点では、まさかコロナの影響がここまで大きくなるとは思っていませんでしたが、それでも授業の振替をどうするか、授業料の返金をどうするのか、頭を悩ませました。そうしたなか、春休みからは殆どの塾が対面授業を再開し、4月からの通常通りの授業ができると信じていた矢先、3月末から日本全体でコロナ感染者数が爆発的に増え、4月7日には緊急事態宣言が出されました。これは、どんなに早くとも4月、5月の大型連休明けまでは対面授業が一切できないことを意味し、塾で働く者としては非常に衝撃的なことでした。学校・塾ともに、教育に携わる者として、「子どもたちの学びを止めないことが最も重要」という点では思いは共通です。

 

しかし、学校と我々、民間の教育機関=塾で決定的に異なる点は、塾の場合、授業ができなければ生徒たちの即時退会、休会を意味し、授業料収入がストップするということです。一方でその間も家賃や人件費などの固定費は払い続ける必要があり、日本全国の塾の経営者は、このままでは半年も持たない、倒産するという恐怖のなかで、もがいてきたと思います。

 

そんな思いをいだきながら4月が始まったわけですが、英進館は従来対面授業を前提としていたため、オンライン授業をすぐに配信できるよう、十分な準備が出来ていませんでした。ただ、先述したとおり授業料収入を得るにはとにかく授業をするしかない、完璧な形でなくとも良いから、手元にあるリソースを駆使して可能な範囲でオンライン授業に切り替えなければならないと考えました。

 

そして全く授業ができなかった4月の第1週目に突貫工事で準備を始め、翌週には動画配信にまでこぎつけました。しかし、当初、保護者の方々のほとんどが動画に対して抵抗感をお持ちで、「対面授業できないのに、動画で正規の授業料を取るのか」というお怒りの声も非常に多く頂きました。

圧倒的ボリュームの授業動画を配信

こうした不満を解消するために、私たちはまず配信するオンライン授業動画の分量を、普段の対面授業よりも圧倒的に増やすことにしました。いわゆる「物量作戦」です。例えば小学6年生や中学3年生の受験学年でも、通常の対面授業は週3回程度なのですが、オンライン授業動画はそれを週5回毎日(日曜日と英進館の定休日の月曜日以外)へと配信を増やしました。学年によっては通常の対面授業の2倍以上にまで動画での授業コマ数を増やしたのです。

 

この取り組みは非常に意味がありました。対面授業では授業時間、コマ数の制約があり、教科書の全ての内容を解説することはできません。つまり、どうしても重要事項の「抜粋型」になってしまうのですが、動画での授業ならコマ数をいくらでも増やせます。「省略なし」で全ての内容を解説できます。教師総動員で、動画を「撮りまくって」大量に配信したことで、「授業料を半額にしてください」「塾を辞めさせます」、といった声は急激に減ってきました。

 

▲ スライド1・動画を大量に収録・配信し、
学年によっては対面授業比2倍以上の授業を
オンラインで実施。

オンライン学習の予定表を全学年・全クラス別に作成・発行

動画の収録・配信と合わせて取り組んだのは「学習予定表」の作成です。動画は「いつでも視聴できる」ので、視聴するのを後回しにしてしまうと、結果的にオンラインで授業を受けなかったということになりかねません。そこで、「この時間帯には、この動画を視聴してください」という学習予定表を全学年・全クラス別に発行しました。

 

▲ スライド2・オンライン授業でも、
生徒が「やるべきこと」がわかるよう
学習予定表を作成

 

さらに、学習予定表には、「まずは問題集でこの問題を解いて、この時間帯にはこの動画を視聴してください」などと細かい注意事項や指示も入れました。単に動画を配信するだけではなく、1コマ40分の中で子どもたちが動画を観ながら何をすれば授業を効果的に受けられるのかを考えて、その指示を細かく記したのです。具体的には、授業の1コマを5分単位、10分単位に区切り、「ここでマル付けをする」、「ここで動画を観る」、「ここで小テストを解く」、「ここでプリントをやる」というような指示です。

 

こうした取り組みをゼロから短期間で、全学年・全クラス・全カリキュラムで実施しました。その結果、小学5年生、6年生では毎週1000分、小学2年生、3年生でも毎週200分の動画配信と、学習効果を高める明確な指示が可能になりました。

 

▲ スライド3・小5、小6は動画だけで
毎週1000分の動画。
小2、小3でも算数と国語を合わせ毎週200分。
具体的な学習手順も1コマごとに明記。

同時双方向授業の実施に向けZoomを導入

動画配信に取り組む過程で明らかになってきたのが、一方通行の動画配信だけでは、授業に「参加している」という一体感が足りないということでした。やはり、「同時双方向」のオンライン授業を実現できる環境を一刻も早く整えようとZoomの利用を検討しました。

 

しかし英進館全校舎へのWi-Fi導入と全授業でのZoom使用を一気に行うことはできません。そこでまず取り組んだのは、Zoomを活用したホームルームです。週に1回か2回、30人単位のクラスごとにホームルームをZoomで実施しました。私もホームルームに参加しましたが、この取り組みはとても良かったです。内容うんぬんではなく、生徒と先生が、あるいはクラスメイト同士の子どもたちが、久々にお互いの顔を見ながら話をすることができた。子どもたちにとっても教職員にとっても、本当に「感動の一瞬」でした。

 

▲ スライド4・4月第3週目からはついに、
Zoomを使用したホームルームが開始される

Zoomでライブ授業を開始、校舎・クラスごとの工夫も

次に取り組んだのがZoomを活用してのライブ授業一斉配信です。総本部の1校舎から九州全県の英進館生に向けて配信する、参加者数が1000人単位となる大規模授業です。各学年・クラス別に、英進館を代表する「カリスマ先生」によるライブ授業を配信し、例えば中学3年生の「県立高校受験用クラス」には、約1800名が参加しました。

 

リアルタイム授業ですので、録画の授業動画配信とは違って、火曜日の午後2時から午後2時40分というように時間が決まっています。参加できなかった生徒用に3日後にはライブ授業の収録動画も配信しましたが、90%以上の生徒はライブで視聴しました。「その時間しか観られない」という条件も重要なのだと感じました。

 

一方で、「双方向のライブ授業を期待していたのに1対1800人では質問もできない」といったご意見も頂きました。そこで、ZoomのWebinar(ウェビナー)機能を使い、約30人の代表生徒をパネリストに選び、双方向で質問などをやり取りできるようにしました。代表となる30人以外は自分から質問などのコミュニケーションは取れないのですが、パネリストの生徒が当てられたり質問したりのシーンが画面にアップで表示されると臨場感があり、動画配信だけの単調さからは一歩前進したと思いました。

 

そして5月の大型連休明け、4月7日の緊急事態宣言から1カ月弱かかりましたが、各校舎にWi-Fi環境が整い、クラスごとにZoomを利用してのオンライン授業が可能になりました。

 

この頃には各校舎の教師や生徒に、Zoomを使っていろいろな試みをしてもらいました。その中でも評判が良かったものをいくつか紹介します。

 

まずは「オンライン自習室」です。各校舎のクラスごとに30~40人の生徒が入れるオンラインの自習室です。毎週火曜日の午前10時から午後3時までの5時間、Zoomのギャラリービューでクラスの友だちの顔が見える形で自習できるようにしました。サボって寝転がっていたりするとクラスメイトに見られてしまいますし(笑)、友だちが勉強している姿もわかるので、「自分もやらなければ」という緊張感も保てます。

 

教師もただボーッと見ているだけではなく、10分、15分おき程度に声かけをしました。「○○くん、凄いね! 気合いが入ってるね」とか、「××くん、寝てないかな?」などという声かけが非常に効果的でした。

 

オンライン激励会も教師から提案のあった工夫です。授業だけでなく、昨年の生徒さんのエピソードや成功例、失敗例など様々な話をオンラインで伝えて、生徒と語り合いました。

 

その他にもオンラインテストも実施しました。中学1年生を対象に、事前に模擬試験を郵送しておき、指定した日の午前10時に一斉スタート。受験者の中1生を全てZoomで繋ぎ、画面共有した状態で午前10時50分まで試験を実施し、10分間休憩を取るといったかたちです。

 

▲ スライド5・Zoomによるライブ授業、オンライン
自習室、オンライン激励会、オンラインテストなど
各校舎、各クラス独自の試みも実施

 

また、オンライン授業の充実化の取り組みでは、5月第2週から「ELNO」というシステムを導入して、すべての受講ログを記録できるようにしました。それにより「この生徒は、どの動画をどれだけ視聴しているのか」といった確認ができるようになり、的確な声かけや自宅への電話掛けがしやすくなりました。

自宅受験でも99%以上の生徒が正しくテストを受験

英進館は塾ですのでテストが大切です。今年は登校自体ができず、3月、4月、5月とまったく通常のテストができない状況でしたが、「たとえ自宅受験でもテストをきっちり実施し、成績順位の集計や志望校判定もやるべきだ」ということで、自宅受験形式でテストを実施しました。

 

特に英進館ではテストを頻繁に実施していて、受験生ともなるとほぼ毎週のペースです。週ごとの学習カリキュラムやテストの受験をスケジュール通りに進めてもらうために、毎週金曜日の午後5時までに約3万人の全生徒分のテスト問題と解答用紙、数十枚のプリント教材を郵送準備しました。これは、全校舎の教職員総出での作業でした。

 

土曜日に郵送をして、翌週の火曜日には生徒の自宅に届きます。そして、木曜日までにテストを解き封筒に入れ、木曜日の消印までの期限で返送してもらい、その後英進館で採点と成績処理を行いました。通常と同様に順位や志望校判定も算出しました。

 

▲ スライド6・教職員総出で
約3万人の全館生に
テスト問題やプリントなどを発送

 

実は自宅受験でテストを行うことは、生徒保護者にとっても大きな負担をお掛けすることになります。タイトなスケジュールの中で問題を受け取り、提出頂かなければなりませんし、ご自宅でテストを実施している間はご家族やご兄弟が静かにしておくといった周囲のサポートが不可欠です。それでも結果的には95%の生徒が期限までに解答を提出し、自宅受験にもかかわらず99%以上の生徒が公正にテストを受けてくれていました。

 

こうして実施してきた自宅受験のテストデータを分析してみると、英進館で2019年に模試を受けた生徒の成績と比較しても、ほぼ近い結果が出ています。つまり、オンライン授業の効果として、対面授業をやっていたときとほぼ同程度の学力が身についていると考えています。

 

もう一つ、人工知能AIの活用事例についてもお話をさせていただきます。英進館では20年以上前から、福岡県で3月に行われる県立高校の入試が行われた当日に、各学校の合格ラインと全受験者の平均点を予想して公表しています。AIを使わずとも英進館の予想精度は驚異的です。問題を作成する側の教育委員会も当日に平均点予想を出すのですが、半年後に発表される実際の平均点と比較すると、ほぼ毎年のように我々の予想の方が県教委予想よりも正確です。ただ、この高い精度は、科目の知識はもちろん過去のデータや出題傾向にも精通した経験豊富な精鋭教師たちが30人集まって、3時間の奮闘の末にようやくたどり着ける領域でした。

 

AIを使い始めたのはここ3年です。なにより劇的な変化は作業負担を圧倒的に効率化出来たことです。30人で3時間、のべ900時間を要していた算出作業が、僅か2名の担当者によって10分で出来るようになりました。しかも、肝心な予想精度は従来と同じかそれ以上で、2019年の各高校合格ボーダーライン予想においても、発表した予想得点と実際のボーダーライン得点との誤差は1点以内になりました。

 

このように、英進館はオンライン授業だけでなく、入試の平均点やボーダーラインの予測などにもICTを活用しています。新型コロナウイルス感染症の拡大で、図らずも学校・塾問わず、教育の現場においてはオンライン学習が推進されました。今後のさらなるICTの進化、教育コンテンツの充実で、対面授業では実現できないメリットを持ったオンライン授業を実施できるでしょう。

 

この2~3カ月間、対面授業が一切できずにオンライン授業をせざるを得ないという環境に置かれたことで、生徒、保護者に「オンライン授業には対面授業よりも良い部分が数多くある」ことを実感していただけました。動画の授業であれば自分がわかっているところは、1.5倍速や2倍速で視聴することができます。わからないところは繰り返し聞けるし、通学や通塾の非効率さも省けます。オンライン授業ならではの良さを再認識していただけたと思っています。これは教職員も、そして私自身も強く感じていることです。

 

 

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