AIが答えを示す時代に、「自分で決める力」をどう育むか ーNTT×TBS「e6 project」が挑む次世代エデュテインメントー第208回オンラインシンポレポート・後半
活動報告|レポート

概要
超教育協会は2026年6月10日、e6合同会社 共同代表CEOの鈴木 邦治氏(講演当時:NTT株式会社 e6 projectリーダー/X-Tech Bridge学長)を招き、「正解のないAI時代を生き抜く『自分で決める力』~NTT×TBSが挑む次世代エデュテインメント”e6 project”~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、鈴木氏が、AI時代の子どもたちに求められる「自分で決める力」と、その力を物語や体験を通じて育む「e6 project」について講演した。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を交えながら質疑応答が行われた。その後半の模様を紹介する。
>> 前半のレポートはこちら
「正解のないAI時代を生き抜く『自分で決める力』~NTT×TBSが挑む次世代エデュテインメント”e6 project”~」
■日時:2026年6月10日(水)12時~12時55分
■講演:鈴木 邦治氏
NTT株式会社 e6 project リーダー / X-Tech Bridge 学長
※肩書は講演当時。鈴木氏は2026年8月8日付でe6合同会社共同代表CEOに就任。
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
AI時代だからこそ、「楽しい」「ワクワクする」を起点にする
石戸:「視聴者の皆さまからも多くの質問が寄せられていますが、まずは私からいくつか質問させていただきます。
e6 projectでは、『自分で決める力』が重要であるという問題意識のもと、これからの時代に育むべき力を定義されています。AIが提示するさまざまな選択肢の中から、自ら選び、決断する力は非常に重要だと思います。一方で、その前提となる『問いを立てる力』もまた欠かせない力ではないでしょうか。
現在、AIと教育の分野では、『問いを立てる力』の重要性が盛んに語られています。そのような中で、あえて『自分で決める力』をプロジェクトの中心に据えられた背景には、どのような問題意識や考えがあったのでしょうか」
鈴木氏:「理由はひとつではありませんが、私自身の体験や経験によるところもあります。
私は小学生の頃、心身の不調から登校できない時期がありました。その中で、『少しだけ家から出てみよう』、『昨日より少し遠くへ行ってみよう』と、自分で決めた小さな行動を重ねていき、中学校から学校に復帰することができました。
誰かに『学校へ行きなさい』と言われたから行けたわけではありません。自分で決めたことだからこそ、自分ごととして取り組み、少しずつ前へ進むことができた。その経験は、現在のプロジェクトにもつながっています」
石戸:「『自分で決める』ことを軸にコンテンツを制作されている点が、とても興味深いと感じています。e6 projectは、エンターテインメントでありながら教育的な要素も兼ね備えた、まさにエデュテインメントの取り組みだと思います。その中で、子どもたちが単にコンテンツを楽しむだけではなく、『自分で決めた』と実感できる体験を、どのように設計されているのでしょうか。
また、これまでのエデュテインメントとの違いとして、『自分で決める力』を育むための要素をどのように組み込み、体験の中でどのように機能させているのか、もう少し詳しくお聞かせください」
鈴木氏:「まず『スイートキャッスル』では、キューブ型のスポンジを投げてお菓子の城を作りますが、どのスポンジを集めるかによって、完成する城の形や色が変わる仕組みになっています。何を集めるかを自分で決めることで、そのアウトプット、つまり最終的な形が変わるように設計しています。
『ケンケンビート』では、自分だけが選ぶ3つのキーワードからオリジナル曲を制作するため、そもそも完成する曲自体が、自分の選択によって変わります。
『黒渦騎士団からの挑戦状』では、AIとの対話内容によって最終的なアウトプットが変わります。自分自身が何を話すかを決めることで、体験そのものが変化するということが大前提にあります。
ただ、現段階で『自分で決める』という要素を十分に取り込み切れたとは思っていません。AIとのさまざまな対話を通じて判断が連鎖し、最終的に自分がどうするかを決めるところまで実現したいという思いがあります。その意味では、まだまだこれからだと考えています。
一方で、一般にエデュテインメントでは、学習内容の分かりやすさが前面に出ることも多いと思います。一方、私たちはまず、子どもたちが『好き』、『ワクワクする』と思えることを入口にしたいと考えています。
楽しさの後に教育を付け加えるのではなく、夢中で遊ぶ体験の中に、子どもが自分の感情に気づき、選び、決める要素を自然に組み込む。私たちは『ファンファースト』と言っていますが、それが本プロジェクトの特徴です」
石戸:「これまでも、インタラクティブなゲームをはじめ、プレイヤーの選択によってその後の展開が変化するコンテンツは数多く存在してきました。そうした従来のコンテンツとの違いは、AIを活用することで、一人ひとりの選択に応じて世界観や体験そのものがより柔軟に変化していく点にあるのではないかと理解しています。そのような体験を実現するために、どのような工夫や仕掛けを取り入れているのでしょうか。
また、先ほどエンターテインメント性を重視しているというお話がありました。視聴者の方からも、『エンターテインメントを通じて学ぶことについて、楽しいだけで終わってしまうという批判もありますが、どのように学習成果につなげていくのでしょうか』という質問が寄せられています。
私自身も、『自分で決める力』を育むという目的に対して、その成果をどのように捉え、評価していくのかに関心があります。それとも、あえて評価の対象にはしないという考え方なのか。その点についてもお聞かせいただけますでしょうか」
鈴木氏:「AI技術の進展によって、子どもたちがその場で行った選択に応じて、例えば難易度を変えたり、体験そのものをパーソナライズしたりすることが可能になっています。そうしたAI技術は積極的に取り入れるべきだと考えています。
一方で、先ほどもお話ししたように、今回制作したものは、かなりエンターテインメント性を重視しています。教育的な要素をより強くしたコンテンツについては、教育ベンチャーなどと協業し、別の形で一緒に制作していくという考え方もあり、現在まさに話を進めているところです。
現段階では、まず子どもたちが夢中になれる体験価値をつくり、実際の反応を確かめることを優先してきました。そのため、『自分で決める力』がどのように育ったのかを定量的に評価するところまでは、十分に着手できていません。
今後は、教育機関や研究者、教育事業者とも連携しながら、子どもの選択や対話、体験後の変化をどのように捉え、評価していくのかについても検証を進めたいと考えています」
石戸:「オリジナルIPを制作されたことも、とても魅力的な取り組みだと感じました。中でも、そのテーマとして『感情』を選ばれた点が非常に印象的です。その理由についてお聞かせください」
鈴木氏:「TBSのクリエイターの皆さんとも話し合いながら制作しましたが、理由はとてもシンプルです。『AI時代に本当に必要なのは感情だ』と確信しているからです。
論理性や左脳的な思考でできることは、AIが一定担うようになります。だからこそ、『なんとなく楽しい』、『ワクワクする』、『なんとなくエモい』という感覚こそが、人間に残された価値であり、大切にすべきものだと考えています。
プロジェクトの中心には、常に『エモーション』というキーワードがありました。クリエイターの方々と議論を重ねる中で、元素だけではなく『感情元素』も存在する世界というアイデアが生まれ、それをもとに世界観を構築していきました」
石戸:「その『感情』と、『自分で決める』という意思決定との関係をどのように整理されているのでしょうか」
鈴木氏:「とてもシンプルなことだと思っています。最終的にさまざまな選択肢がある中で、最後は自分が好きなものを選べば良い。その感覚を自分自身が持っているからだと思います。自分が何に心を動かされたのかに気づくことが、自分なりの判断軸を持つ第一歩だと考えています」
石戸:「視聴者の皆さまからは、今後の展開に関する質問も数多く寄せられています。私自身もぜひ伺いたいところです。
『自分で決める力』を育むコンテンツを子どもたちに届ける方法は、さまざまな形が考えられると思います。そのような中で、最初の展開として『テーマパーク』という形を選ばれたのは、どのようなお考えからだったのでしょうか。
テーマパークにはワクワクする魅力がある一方で、実際にその場へ足を運ばなければ体験できないという側面もあります。そこで、今後は学校教育との連携なども視野に入れていらっしゃるのでしょうか。今後の構想についてお聞かせください」
鈴木氏:「学校教育との接続も、ぜひ実現したいと考えています。NTTグループには、学校向けサービスや全国の教育現場、子ども向けイベントなど、多様な接点があります。
将来的には『感情騎士』の世界観を活用したアプリや教材、学校や地域で体験できる小型コンテンツなどを展開し、リアルな場だけでなく、子どもたちの日常の中にも学びの体験を届けたいと考えています。
また、『NTTドリームキッズ』という子ども向けイベントがあり、そのチラシは約70万部、小学校に配布されています。その中で『Emotional Knight』を紹介し、認知を広げながら、しっかりと学びにつなげていきたいとも考えています。
テーマパークから始めた理由についてですが、まさに『決める力』にも関わる話です。論理的な理由というより、私自身の感情が出発点でした。実は、このe6 projectは、NTTホールディングスの社長塾という、新規事業を提案する社長研修から始まりました。その中で提案した内容が順調に進み、TBSと一緒に取り組ませていただくことになりました。
そのとき、『NTTとしてワクワクすることをやるなら何だろう』と考えました。NTTはどちらかというとBtoB企業であり、一般の方々には電話やインターネットの会社という印象が強いと思います。
だからこそ、NTTとして何か一つでもワクワクすることを実現するなら何がよいかと考え、テーマパークという発想に至りました。そのとき自分が抱いた感情を、今も大切にしています」
石戸:「学校との接続というお話がありましたが、具体的にはどのようなことを実現したいと考えているのでしょうか」
鈴木氏:「やはりアプリを作りたいと思っています。今回の『Emotional Knight』は元素記号をモチーフにしたIPです。そのため、必ずしもAIにこだわる必要はありません。シンプルにモンスターと遊びながら元素を覚えられるだけでも、理系教育の分野では十分に意味があると思っています。
『AIだから』ということにとらわれず、純粋に学びにつながるコンテンツとして作っていきたいと考え、現在も取り組んでいます」
石戸:「視聴者から、『実際にやっている中で、子どもたちの反応から得られた印象的な発見があれば教えてください』という質問です。いかがでしょうか」
鈴木氏:「ひとつ面白いと感じたのは、音声対話型のコンテンツを、さまざまな年代の方に体験していただいたときの反応です。年代によって、AIとの対話の仕方が大きく異なることが印象的でした。私たち大人の世代は、音声認識がうまく機能しなかった時代を経験しているため、機械に伝わりやすいよう短く、端的に話す傾向があります。
一方、若い世代や子どもたちは、相手がAIであることを過度に意識せず、人と話すときのように自然に会話します。これからの子どもたちは、私たちの想像を超える形でAIと関係を築いていく。その前提で、体験や安全性を設計する必要があると感じました。
いわゆるAIネイティブの考え方は、私たちの世代とは大きく異なります。これからは、私たちには想像できないようなAIの使い方が広がっていくのだろうと感じました。それは私自身にとっても大きな気づきであり、今後の開発にも生かしていきたいと思っています」
石戸:「確かに、子どもたちがAIを使っている様子を見ていると、機械というより、人と会話しているように見えますね」
鈴木氏:「子どもたちは、少なくともAIを単なる機械として身構えることなく、友達と話すように自然に対話しているように見えました」
石戸:「だからこそ、先日もAIへの相談がきっかけとなり、大きな出来事へと発展した事例が連日報じられていました。AIとの付き合い方やAIリテラシーも、これからますます重要になってくると感じています。
このプロジェクトでは、AIとの向き合い方についてどのような点を意識されているのでしょうか。また、子どもたちにどのようなことを伝えていきたいと考えているのか、お聞かせください」
鈴木氏:「この点については、個人的な観点とNTTとしての観点の二つがあると考えています。
まず個人的な観点ですが、AIがここまで賢くなったからこそ、AIだけに答えを求めるのではなく、さまざまな価値観に触れることが大切だと思っています。AIの意見だけではなく、お父さんやお母さん、先生など、それぞれ異なる価値観を持つ人たちの話を聞いた上で、自分はどうするのかを決めていくという姿勢に、もう一度立ち返るべきではないでしょうか。人との関わりがとても重要であることは、常に心に留めておくべきだと考えています。
一方、NTTグループは、国産LLM『tsuzumi2』の開発をはじめ、AIガバナンスや安心・安全なAI活用に取り組んできました。
子どもがAIを使うコンテンツでは、回答内容の安全性だけでなく、個人情報やプライバシー、知的財産への配慮も欠かせません。技術を提供する企業として、そうした基盤を整えた上で体験を届けることも、NTTがこのプロジェクトに参画する意義の一つだと考えています」
石戸:「視聴者から、このような質問が寄せられています。今回は、通信事業者であるNTTと放送局であるTBSが連携し、エンターテインメントを軸としながら教育分野に取り組んでいますが、『新しい教育を提供する視点から、これからの学校や先生、保護者に伝えたいメッセージは何ですか』また、『学校教育は何を変えるべきですか』という質問です。いかがでしょうか」
鈴木氏「私は教育の専門家ではないということが大前提ですが、自分自身で学ぶことはとても重要だと思っています。AIが答えを示してくれるからといって、小学生に暗記は不要だとか、知識を身につける必要はないという考え方には、少し違和感があります。
やはり、自分自身で考え、覚え、それを自分の言葉でアウトプットする経験は、AIを使わない状態で積み重ねておく必要があります。そういう意味では、小論文や読書感想文を自分で書く経験は、とても大切だと考えています」
石戸:「最後に、今後の展望について伺って締めくくりたいと思います。5年後、10年後を見据えたときに、このプロジェクトを通じて社会にどのようなインパクトを生み出していきたいとお考えでしょうか。また、本日のお話を伺っていて、鈴木さんの教育に対する強い思いが伝わってきました。10年後、日本においてどのような学びの姿を実現したいと考えていらっしゃるのか、最後にお聞かせください」
鈴木氏:「e6 projectとしては、2026年7月、8月に向けて大きな発表を予定しています。その中で、このプロジェクトにかける本気度も感じていただけるのではないかと思っています。5年後、10年後には、『感情騎士』を多くの子どもたちに長く愛されるIPへ育て、その世界観を体験できるフラッグシップとなる場も実現したいと考えています。
その上で、フラッグシップとなるテーマパークをしっかりと作り上げ、誰もが遊びに来られる場所にしたいと思っています。5年、10年という時間をかけて、多くの人に知られる大きな事業へと育て、『あのとき話していたプロジェクトが、ここまで大きくなったんだ』と思っていただけるよう、これからも邁進していきます。
教育の未来については、私個人の話になります。私は小学校の約3年間学校へ通うことができず、中高と通ったのち、、大学時代にももう一度倒れてしまいました。決して順風満帆な人生ではありませんでした。それでも、自分の苦しい感情と向き合いながら、『今日はここまで進んでみよう』と一歩ずつ自分で決め、行動してきた結果、今こうしてこの仕事に携わることができています。
自分の思いに気づき、自分で一歩を選ぶことができれば、人は何度でも前へ進むことができる。そのことを、子どもたちに伝えられるサービスをつくりたいと考えています」
最後は石戸の「AIが瞬時に『答えらしきもの』を示してくれる時代だからこそ、『何を大切にしたいのか』、『どんな未来を選びたいのか』を、自分自身で考え、決める力がますます重要になってくると思います。その力を一方的に教えるのではなく、楽しみながら、体験を通じて自然に育んでいく。そうしたこのプロジェクトに、私自身も大きな可能性を感じました。また、鈴木さんご自身が歩んでこられた経験は、きっと未来を担う子どもたちの勇気にもつながっていくのではないかと感じています」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。
