小中学校の教職員が授業や校務で生成AI活用の第一歩を踏み出せるように
第183回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2025.6.6 Fri
小中学校の教職員が授業や校務で生成AI活用の第一歩を踏み出せるように</br>第183回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2025319日、宮城県総合教育センター情報教育班 次長(班長)指導主事の山下 学氏を招いて、「宮城県総合教育センターの生成AI活用研修ガイドブックについて」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、同センターが手がけた教職員向けの「生成AI活用研修ガイドブック」について山下氏が講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「宮城県総合教育センターの生成AI活用研修ガイドブックについて」

■日時:2025319日(水) 12時~1255

■講演:山下 学氏
宮城県総合教育センター情報教育班 次長(班長)指導主事

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

 シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

ガイドブックへの教育委員会や現場も教職員からの反応などの質問が多数

石戸:「素晴らしいガイドブックを迅速に作られたことに、感銘を受けました。実際の利用実態はいかがでしょうか」

 

山下氏:「利用実態を掴むまでには、至っていません。それでも、意外なところからガイドブックを見ていると言われたほか、ある先生が他の学校で先生をされているご家族にこのガイドブックを紹介したところ、すでにご存じだったと聞きました。我々が思ってもいないようなところで、意外と使われているという感触は持っています」

 

石戸:「生成AIの利用状況について、視聴者から質問がきています。『初等、中等、高等教育のそれぞれにおいて、どのぐらい利用が進んでいるのでしょうか』というものです。いかがでしょうか」

 

山下氏:「正直言ってかなり難しい質問ですね。例えば、県では生成AI活用のルールが決まっていますが、市町村では方向性が決まっているところが3分の2程度です。3分の1は、まだルールをどうするかも決めかねていると感じています。チャレンジできる環境が整っている自治体や学校では先生方もチャレンジしていますが、そこまで至っていない自治体も多く、先生方も困っているところではないでしょうか。

 

そういった背景があってガイドブックを発行したので、市町村の教育委員会などには生成AI活用の参考資料にしていただきたいと思っています。また、大きい市町村には教育職の指導主事がいますが、小規模市町村には教育職の指導主事がいないところもあります。そういった市町村では、自治体として学校現場の課題を把握し切れないことが課題ともなります。そうした自治体についても何とかサポートしたいと考えています」

 

石戸:「視聴者からは『教職員の生成AIの活用にあたってはリテラシーの問題だけではなく、環境の整備も必要で、それをどのように克服されたのか』という質問がきています。山下さんの感覚として、生成AIの活用にポジティブとネガティブの割合はどのくらいと感じていらっしゃいますか。そして、ポジティブだが活用が進まないところにおいては、環境整備等なにがボトルネックになっていますか」

 

山下氏:「具体的な数字は持っていないですが、ICT活用についてポジティブな先生とネガティブな先生がいるのと同じという感覚は持っています。新しいものを積極的に取り入れようという先生方がいる一方で、基礎・基本を忠実に学ばせることを大切にしている先生方もいらっしゃいます。ただし、後者の先生方が、決してAIに対して否定的かというと必ずしもそうではないと思います。利活用の環境がまだ整わず、ルールも未整備で『活用していいよ』と言われていないからチャレンジできないのだと思います。

 

また、校務を効率化しようと生成AIの活用を検討しても、そのために必要な情報、児童・生徒の家庭環境や成績などの情報は機密情報なのです。つまり、生成AIを使える環境があったからといって、本当に使ってよいのか、入力してよい情報なのかといった視点で考えると、判断が非常に難しくなります。今後、生成AIの利活用の環境整備が進み、学校に安心・安全な生成AIの環境が入ってくれば活用の場面は増えていくのではないかと思います」

 

石戸:「視聴者から『他にもおすすめの活用事例があれば教えていただきたい』という質問がきています。先ほど中学校の事例がありましたが、小学校や高校、校務などで、ガイドブックの例から離れた新しい使い方の事例がありましたら、教えてください」

 

山下氏:「他の素晴らしい事例を把握するなど、まだそこまでは我々も深められていない状況です。これは使えるよねと思った事例がでてきても、そこで活用されていたデータを入れて紹介はできないものも多くあります。2025年度は、このガイドブックを宮城県総合教育センターの研修でも使いますので、県内の先生方からもっと多くのユニークなアイデアをお聞きすることができるでしょう。今後、それらを掲載していきたいと考えています」

 

石戸:「今のお話しのように、ベストプラクティスを共有できる仕組みがあると素晴らしいですね。実際に使われた先生方や子供たち、保護者の方の反応はいかがでしたか」

 

山下氏:「冬休み前に発行してからまだ数カ月なため、教職員での活用にとどまっています。先生方からは非常に良い言葉をいただき、また、制作途中に先生方にもパラパラと内容を見ていただいたところ、こうしたガイドブックは本当にありがたいというお言葉をいただいています。

 

我々もガイドブックを制作する段階で、教育向けに生成AIについて基礎からまとまっている資料はあるのかと思い調べてみたところ、意外とありませんでした。先端的な事例が載っているものはあっても、基礎から積み上げていく内容のガイドブックはなく、他の委員会でも出していませんでした。他にないから我々が取り組む価値があると考え、制作しました。その意味からも教職員の方々からは、よい反応をいただいています」

 

石戸:「ガイドブックの反応もさることながら、ガイドブックを基に生成AIを使って校務を効率化したり、授業で使用した先生もいらっしゃると思います。その結果、得られた感触など反応はいかがでしょうか」

 

山下氏:「それについてもやはり把握し切れてはいません。我々が学校の先生方と日常的に顔を合わせていないこと、特に毎年1月から3月の時期は研修が少なく、先生方にお会いする機会が少ないことも影響しています。ただ、ガイドブックを見ていただいた先生方からは『これは使えそうだから、私の教科でもやってみたい』、『これいいよね』という反応をいただいています」

 

石戸:「先ほど視聴者から『ガイドブック作成にあたり文部科学省のガイドライン以外に参考にした資料があれば教えていただきたい』という質問がありましたが、お話しを伺うと他にないから作成したということでした。そうなると、他の自治体からの問い合わせ、使いたいという声もあると思います。県外からの反響がありましたら教えてください」

 

山下氏:「他県からも『使わせてほしい』、『研修で使ってもいいですか』という連絡は既に何件かいただいています。オープンに公開していますので、活用できるのであれば、ぜひ使ってくださいとご案内しています。他県からもそういったお問い合わせをいただき、我々としては良かったと思っています」

 

石戸:「『教員向けに素晴らしいガイドブックだと思います。今後は子供が使う上でのガイドブックや保護者の理解を得るためのガイドブックなどを出す予定はありますか』という質問がきています。今後の展望についても教えてください」

 

山下氏:「実際に作成できるかどうかはわかりませんが、心の中では児童・生徒用も作っていかなければいけないし、作りたいという思いは持っています。ただ、児童・生徒用となると自治体ごとのルールが変わるので、そこが難しいところです。自治体ごとに異なるルールの最大公約数か最小公倍数に合わせることも意識しながら、先生方の参考になるような資料であれば今後も作っていきたいと思っています。児童・生徒に向けたガイドブックについては、目指してはいますが現時点では出せるかどうかはわかりません」

 

石戸:「宮城県はプログラミング教育においてもガイドブックなどを用意するのが早かったと記憶があります。視聴者からは生成AIのみならず教育DX全般に関する質問もきています。『実際に学校現場で教育DXの取り組みをされている中で運用に乗せていくまでの間、工夫している点やうまくいっている点、試行錯誤してもなかなかうまくいかない点などを教えてください』というものです」

 

山下氏:「教育DXは非常に大きなテーマです。授業DXと校務DXという2本柱があり、授業DXについては、どこの学校でもそれほど大きな差異はないと思っています。ただ、校務DXはシステムの違いや、やれることの違い、自治体による差がありますので、宮城県総合教育センターとして全体的にとりまとめてDX推進の支援をするのは簡単ではないと思っています。

 

ただし、決して難しいからやらないということではありません。研修を見直していく中で、2025年度中には『はじめよう授業DX』と『はじめよう校務DX』という研修会を実施予定です。また、各学校に直接我々が赴き、年間を通して伴走しながら教育DXを進めていく新たな支援型研修会という取り組みも一緒にやっていく予定です。

 

そして、その支援型の取り組みでは、市町村教育委員会に対しては、2年間伴走しながら各学校や市町村教育委員会のニーズを捉え、その要望に応じた教育DXを進めていくような取り組みを考えています。これらの対象校や対象教育委員会は、公募で募集します。

 

私たちは、こうした取り組みを通じて各学校の良い事例を作っていきたいと思っています。そして、良い事例を『はじめよう授業DX』と『はじめよう校務DX』の研修会で横展開することにより、組織として取り組んでもらえるような流れを作っていくことを考えています」

 

石戸:「生成AIを授業の中に取り込んでいくと児童・生徒の一人ひとりに、個別の家庭教師が付くような学びが展開できると思います。それに伴い授業や学校の在り方も今まで以上のスピードで変化が求められると思います。宮城県総合教育センターの山下さんとして、これから10年後20年後のあるべき学校の姿や教育の姿をどのように描いていらっしゃるかを教えてください」

 

山下氏:「新しい学習指導要領で探究型の授業が増えていくのと一緒で、今までの一方通行で教える授業から、子供たち自身が自分たちで学び取ることや、未知の問題に取り組めるようなスキルを身に付けていくことが、より大切になってくると思います。そういう意味では、今までは教える人が先生だけでしたが、生成AIも、もしかすると子供たちに対して教えてくれる人になり得るかもしれません。

 

ただし、生成AIが常に正しいこと言っているかどうかはわかりません。それは多分、今までの既存のメディアもそうだったと思います。新聞に載っていることや、テレビに出ていること、本に書いてあることが常に正しいのか絶対的なのかを我々大人は経験の中から読み解いてきたと思います。それと同じように、子供たちにも読み解くテクニックをどうやって身に付けさせられるか、これからは大事になってきます。入ってくる情報量はとてつもなく多く、その情報をどう処理していくのか、どう考えていくのか、どうアイデアを出していくのか、そして、それをどう実行していくのか、そこが最も大切になってきます。そうしたことを実践しながら、社会を変えていく目標を持った子供たちを育てていくのが、僕らの仕事だと個人的に思っています」

 

石戸:「共感しかないお話だと思います。子供たちを育む学びの環境を作っていくために、今後どのようなことに取り組みたいと思っていますか」

 

山下氏:「先生方は普段の学校の中の目の前の生徒との対話等の時間を非常に大切にされていると思います。意識が生成AIの活用など他のところになかなか振り向ける余裕のない状況にあると思います。我々がある程度まとめた生成AIの活用ガイドブックをオフィシャルに出し、それを見ていただくことは先生方にも意識を変えるチャンスになると思いますので、我々の立場としては、先生方に良い形で情報提供をしていくことが大事な仕事なのかなと思っています。今回こういう機会をいただいたのも、おそらく今まで我々が手を伸ばせていなかったような場面で県内の先生方にもご覧いただいていると思いますので、非常にありがたい機会だと考えています」

 

石戸:「学びの環境が大きく変わることが求められる中、現実的には不登校の子供たちが急増しているなど、課題も山積みです。一方で、神山まるごと高専など革新的な学校や、学校教育法一条校ではないけれどもこれまでにはない学びの環境作りに取り組む事例もたくさん生まれつつあります。そうした状況を山下さんとしてはどのようにご覧になっていますか。それを踏まえて宮城県のみならず日本の公教育の変化に対する期待、ご意見がありましたら教えてください」

 

山下氏:「我々もそういった先進的な学校を見習っていかなければいけないと思います。公教育の立場にいる我々には、先進的な学校が取り組んでいる成功事例を、先進的な学校や環境に行けない子供たちにも提供していく使命があると考えています。どこの地域に生まれても、同じ教育を受けられることは学習指導要領の根底です。我々はそこを意識して、新しい教育や新しい考え方を常にアップデートして提供していく、それが教育の在り方なのではないかと常々、思っています」

 

石戸:「最後に生成AIの活用に関しても先駆的な事例を作った自治体として、今後の抱負と他の地域へのメッセージを一言お願いします」

 

山下氏:「先駆的と言われるとすごくありがたいですが、我々は単に最初にガイドブックを作っただけで、なかなか実態と実力が伴ってはいません。私は教育において、指導者の方が子供たちよりも常に優れていると思い込む状態は良くないと思っています。新たなことをしている若者たちが自分たちを超えてくれることを願い、教育者や先人は生きていくべきではないでしょうか。今回はガイドブックを出しましたが、しばらく経過した後に『最初は良かったけれども、今となっては遅れている』などと言われないよう、アップデートを心がけていきます。前に進むような教育に寄与できれば良いなと思っています」

 

最後は石戸の「公教育の在り方についても、非常に刺激的なお話をいただきありがとうございました」との言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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