概要
超教育協会は2026年5月13日、韓国教育学術情報院 主任研究員の曺 圭福(Cho, kyubok)氏を招いて、「生成AIを活用した授業づくりのコツとレシピ~韓国教育学術情報院の取り組みについて」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、曺氏が韓国教育学術情報院(KERIS)の概要と、韓国におけるAIを活用した授業の実態について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。
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>> 曺氏講演資料公開「生成AI を活用した授業づくりのコツとレシピ~韓国教育学術情報院の取り組みについて」(pdf 3,414 KB)
「生成AIを活用した授業づくりのコツとレシピ~韓国教育学術情報院の取り組みについて」
■日時:2026年5月13日(水) 12時~12時55分
■講演:曺 圭福(Cho, kyubok)氏
韓国教育学術情報院 主任研究員
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
曺氏は約30分の講演において、韓国におけるAIを活用した教育の実態について話した。主な講演内容は以下のとおり。
ハイレベルなAI活用授業のために教師の力量を育む準備を早くすべき
【曺氏】
本日は、生成AIを活用した授業づくりのコツとレシピについてお話しします。まず、韓国教育学術情報院(KERIS)について紹介します。
KERISは韓国教育学術情報院法に基づいた、韓国の文部科学省に当たる教育部の直轄機関です。2026年の予算は約4,500億ウォンで、日本円にすると約500億円です。単なる研究機関ではなく、実際に企業などと協力してシステムとコンテンツを開発し、運営及びサービスするなどが含まれるため予算規模が大きいです。職員数は約480人で、主なサービスは初中等教育向けのオンライン学習・教育情報ポータル・EDUNET(エデュネット)、教育行政情報システム・NEIS(ナイス)の提供です。また、K-EDUPINE(K-エデュファイン)という学校の行・財政システムも提供しています。大学向けには、学術研究情報サービス・RISS(リス)、オープンコースウェア・KOCW(オープンコースウェア)などのサービスを展開しています。
このようなサービスだけではなくて、研究、コンテンツ開発も手がけています。研究活動では独自研究もありますが、委託研究がメインです。KERISで研究内容を企画し、大学などの研究者に委託して研究を進めています。コンテンツ開発では、教材やガイドの開発・作成をはじめ、全国的なAI教育に関する教員研修も実施しています。AIデジタル教科書を含めたAI教育用プラットフォームも企画・管理しています。
次に現在、韓国のAI教育の状況について説明します。具体的には、AI教育とその教師に関する問題が指摘されています。AI教育をするには、そもそも何がまず大事で重要か。やはり先生です。「Teacher First」です。まずは教師の力量が育まれる環境を整えることが必要です。日本では、AI活用授業を実践できる教師の力量を育む準備ができていますか。韓国や日本だけではなくて、アメリカやヨーロッパも、まだ準備が整っていないように私は思います。
具体的に5つの視点で考えていきたいと思います。
教師のAI活用授業力を育成できる大学教員とカリキュラムが整っているでしょうか。これができていないと、教師の力量を育むことはできないと考えます。日本は現状、いかがですか。次にAI活用方法や逆効果への注意が先行して、AIを活用した学びや学習が皮相化していないかという視点も重要です。AI活用授業の実践が一部の教科中心になっていないかについても考えてみましょう。また、そもそも教師のAI活用授業の実態をきちんと把握していますか。教師の力量を育むには、前もって実態を把握する必要があります。韓国でも実態把握がまだ十分ではないと思います。世界的にも、しっかり把握していると思える調査・報告は限られています。各国の文部科学省や教育委員会に該当する機関で、実態を正しく把握している事例は、私が検索した限りではありませんでした。
5つめの視点です。AIはとても早く進化し、普及しています。すでに誰でも使っています。そのスピードに学校教師がついて行けるかどうかが重要な問題です。格差が広がっていくのではないかと心配です。こうした視点で考えると、AI活用授業力のための準備はとても難しいことがわかります。だからこそ、早く行うべきです。
先生のAI活用授業の力量を育むには研修と教育が必要
それでは、こうした教師の力量をどうやれば育むことができるのでしょうか。そのためのポイントを2つ示します。
▲ スライド3・AI活用授業の
力量を育むための2つのポイント
まず、AI活用はデジタル活用の延長線上にあるのかどうかをしっかりと考えるということです。デジタル活用の延長線上という側面もありますが、私は「AIはデジタルとは別のもの」という考えです。新しい部分があると思います。そのことを踏まえて、AI活用授業の力量を育む必要があるというのが1つめのポイントです。
重視すべきはAI活用の特殊性として、AIには人格的な部分があるということです。さらに、学習データがリアルタイムに個人ごとやグループごとに生成されるので、それをどのように捉えるか、どのように活用するか、それこそがAI活用授業の力量につながると思います。
もう1つのポイントは、教師のAI活用授業の力量を育むときの、具体的な問題点を理解することです。AI活用授業の力量を育むには教員養成、初任研修、現職実践の3つが必要だということです。今の教師のほとんどは、生成AIが普及する以前に教師になっています。教員養成と初任研修において生成AIの活用について研修を受ける機会がありませんでした。生成AIに関連しては現職実践だけしかできない状況です。つまり、現職実践の中で、教師のAI活用授業の力量を育む必要があるのです。とても限られた機会です。だから、とても難しいです。
教員の専門性を高めるには、教員の実践共同体と知識構築共同体が必要とされていますが、AI活用授業の専門性を高めるときにもこの2つがあるかどうか。さらに、より効果的に力量を育むために、授業参観の活用、授業動画や授業指導案、授業データの共有がなされているかどうかです。
教師のAI活用授業の力量を育むには、これらを踏まえた教員教育が不可欠です。KERISの「AI活用授業の事例集 レシピとコツ」というのは、この授業指導案に該当します。
他にも問題はあります。「認知のアウトソーシング」です。
▲ スライド4・授業でのAI活用によって
引き起こされる問題
これには2つの問題があります。まずは、「誤った習熟感」による幻想です。生成AIを使うと素早く立派な成果物が出ます。すると、児童生徒はあたかも自分の力でやったような、自分の努力の成果であるように錯覚してしまいます。児童生徒だけでなく、その周りにいる先生や大人たちも錯覚します。「この子はすごい」という錯覚とあわせて、先生までも「私はきちんと教えている」と錯覚してしまうことがあります。
もう1つは「メタ認知的怠慢」です。生成AIがさまざまなことをしてくれるので、自分の予想通り、あるいは予想よりも遥かに良い成果物が出ることがあります。自分で考えようとはせずに任せてしまいます。つまり、「怠けてしまう」のです。さらに、「誤った習熟感」と「メタ認知的怠慢」は相乗効果をもたらします。とても危うい状況に陥るリスクがあります。
このような問題を踏まえて、現職の教師の生成AIを活用した授業の力量を育むためのレシピ、コツを何とか抽出して、早く広げて紹介したいと思い、2025年に4~5カ月をかけて事例集を作りました。
事例集はKERISのホームページからも紹介されています。QRコードからは事例集の紹介動画を見ることができます。
AI活用授業のレシピとコツを伝える授業指導案を作成
先ほど、KERISの「生成AI活用授業の事例集 レシピとコツ」は、授業指導案に該当すると話しました。先生の生成AI活用授業の力量のカギを握る授業指導案について説明します。先生の授業の力量を育むための研修や教員教育においては、授業の実践の文脈を踏まえることが大切だと思います。その文脈を踏まえた教員教育の方法のひとつとして有効なのが、授業指導案作成です。言い換えれば、生成AI活用授業のレシピとコツを伝えるためのツールが授業指導案なのです。
▲ スライド6・授業指導案とは
AI活用授業のレシピとコツを伝えるツール
KERISでは授業指導案作成の過程で、主体的に対話できる深い学びを高め、認知のアウトソーシングを下げるための授業のコツとレシピを集めることを考えました。教科別学習指導要領に定められた到達目標の達成を前提にしたものです。具体的には、このような問題意識を持って授業に取り組んできた先生の指導案を集め、そうした先生方の生成AI活用の授業の意図、ご自身の授業を省察した記録などを授業指導案の形でまとめようと取り組みました。
そして、AI活用授業の実践を共有し、知識構築共同体のような雰囲気でお互いに話し合って、より良い授業のノウハウやコツやレシピを抽出するような作業をしました。教科別、学校級別のミーティングや全体のミーティングを繰り返し、ベテランの教師と専門教授からのフィードバックも受けました。専門性の高い教授の一人は、東京大学 大学院教育学研究科 学校教育高度化専攻(教職開発コース) 准教授の一柳 智紀先生です。授業指導案をまとめた途中のものを全て生成AIで日本語に訳して、一柳先生にお送りして、先生からコメントをいただいて修正しました。
その次に、収集された授業指導案の中から、ノウハウなどの暗黙知をできるだけ分かりやすいかたちにして、それを合わせてまた再分析をして抽出していきました。調査過程で収集したデータから直接、理論を構築する質的調査手法であるグラウンデッド・セオリーの考え方を踏まえた内容分析です。50人の先生が国語、数学、社会の3つの科目に絞り、54単元・169コマ・440ページにまとめました。圧縮された内容になっています。
さらには、授業事例集を作成した先生方々に対して、「あなたの指導案はこの分析に当てはまりますか」と質問調査も実施。そこから抽出した結果を再分析して再修正しています。2025年9月から2026年1月までの5カ月をかけて仕上げました。
AI活用授業の指導案から浮かび上がった8つの特徴
多くの先生方からの授業指導案を分析した結果として分かってきた主な特徴について説明します。
まずは、収集した指導案のほぼ全てが課題・問題解決型学習であること。そして部分的でメタ認知的な活用があること。チューターとして生成AIを活用したこと。認知的な不協和を敢えて活用したこと。そして、ストーリーテリングや視覚化、リアルタイム学習データの把握に生成AIを活用しているほか、個別学習とグループ学習においてAIが活用されていることなどが分かりました。
そのうち、課題・問題解決型学習で生成AIを活用したケースでは、演劇をする、提案書を書くなど具体的に「目に見える形」で成果がまとまっています。
その成果物は、例えば演劇をするとか提案書を書くとか、固まった目に見える形になりました。あるいは固まった成果物ではなく、プロセス重視で例えばディベートを練習すること自体を目的とするものもありました。活動自体が目的であることも含まれていますが、指導案の8~9割くらいは、児童生徒の興味が湧きやすい、意欲を高めやすい「見える形」を目標としているという共通点がありました。
次に部分的にメタ認知的な活用をしていた事例を紹介します。
最初はアナログ方式で、その後に生成AIを活用している指導案が多くありました。どのような目的で生成AIを活用するのかを考えさせ、先に自分の考えをまとめて予測を立て、グループで討議するなどして、敢えて授業の序盤ではAIの活用を禁止しているケースもありました。「事前計画」、「中間チェック」、「成果物の検証」のサイクルを回し、俯瞰し、理解し、議論し、生成AIからどのように対話したり、フィードバックを受けたりしたかを記録する指導案もありました。
▲ スライド10・部分的でメタ認知的な
生成AI活用授業の指導案
次にチューターとしての生成AIの活用です。生成AIと児童生徒が、どのような関係を結ぶか、2つに分けてみました。ポイントは、生成AIと児童生徒がどのような関係にあるか。もう1つはその役割設定を誰が行うかです。
▲ スライド11・チューターとして
生成AIを活用するときのポイント
役割としては、児童生徒に検討のための意見を述べたり、児童生徒と対立する立場に立ったりする役割です。他にも歴史上の人物となってインタビューの対象になるという例が多く見られました。そして役割設定は、予め設定されているケース、教師が設定するケース、児童生徒が自分で設定できるケースの3つがあります。生成AIと児童生徒の関係では、水平的な関係と上下的な関係に分けられることが特徴的でした。
水平的な関係とは、例えばフィードバックを提供したり、ディスカッションの相手になったりする関係です。上下関係はある意味では教師です。新しい視点を提示したり助言したり方向性を提示したり、上からの助言をします。このように水平と上下に分けられることが分かりました。
認知的不協和について説明します。認知的アウトソーシングのちょうど反対のようなイメージで、児童生徒に「えっ、どういうこと」、「これは、いったい何かな」というような刺激を与える仕組みとしての生成AIの活用事例です。具体的には、2種類の生成AIに同じプロンプトを入力すると異なる結果が得られることを認識させる、教科書の内容と生成AIの結果が違うことや自分が作成した成果物と生成AIの成果物が違うことを認識させる、生成AIの誤りを発見させるなど、認知的不協和を起こす生成AIの活用事例です。
▲ スライド13・認知的不況和を起こすような
生成AIの活用
生成AIのフィードバックをもとに、「どういうことだろう」と児童生徒が考えるような指導案を作るためのレシピとコツをまとめました。
小学校では国語・算数・社会で中学校では協働学習で生成AIを活用
ストーリーテリングにおける生成AI活用の指導案です。物語にすると、深い理解を促すことができます。そして新たな再解釈ができます。これは数学でも国語でも活用できます。
▲ スライド15・ストーリーテリングの視点で
生成AIを活用した指導案の特徴
ストーリーテリングにおいては、次のような5つのパターンが見られました。
▲ スライド16・ストーリーテリングにおける
5つのパターン
人物に文脈を与える、概念と現実を関連付ける、物語的な時間の流れを見せる、視点の変化、活動に基づくストーリーテリングというような5つのパターンが抽出できました。
一方、授業内容の視覚化において生成AIを活用する指導案では、直感的で構造的に理解する助けとなることが分かりました。
▲ スライド17・授業内容を
直感的・構造的に理解するのに
生成AIの活用が役立つ
視覚化といっても図や絵にするのではなく、表でまとめることだけでも概念を具体化するのに有効です。データの処理やストーリーテリングの可視化においても、視覚化は効果があります。
▲ スライド18・授業内容の
視覚化を目的とした
生成AI活用授業を実践するコツ
授業において、リアルタイム学習データを活用できるメリットは、生成AIで抽出・分析したデータを先生と児童生徒が見ながら授業をできるということです。
▲ スライド19・リアルタイムデータの
活用においても生成AIは必須
私はこれも、教員研修のために欠かせない領域だと思います。例えば授業中にAIとの対話記録を確認、正答率を確認する、自分が間違った問題を振り返るといったことができると授業の質も変わってきます。
▲ スライド20・AIを活用した
学習評価とフィードバックの実践例
個別学習とグループ学習における生成AI活用の結果を示します。小学校では、国語や算数の個別学習に生成AIを活用するケースが多く、社会科では協働学習での活用も進んでいます。中学校の場合は、協働学習で使う場面が多くありました。
▲ スライド21・個別学習・グループ学習における
AI活用結果
最後に実際の授業指導案を紹介します。
▲ スライド22・生成AIと協働して
「星の王子様」を上演する準備をするという
授業の指導案
生成AIと協働して「星の王子様」を上演する準備をするという授業の指導案です。生成AIを活用することによって、グループで劇の場面を表現して文学作品そのものへの理解が深まり、演劇を深く学習することにつながることを目指しました。
AI教育をめぐる日韓両国の実践と試行錯誤からお互いに学び合うことが重要だと思います。AI教育をきっかけとして、日韓の協力がさらに深まることを願っております。
>> 後半へ続く









