ブロックチェーンの活用で教育DXが加速する
第13回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2020.10.2 Fri
ブロックチェーンの活用で教育DXが加速する<br>第13回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2020年7月29日、LasTrust(ラストラスト)株式会社 代表取締役の圷(あくつ)健太氏を招いて、「ブロックチェーン×教育~学歴をオンラインで立証」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

前半で圷氏は、LasTrustが展開するブロックチェーン証明書のメリットと、ブロックチェーンがもたらす教育のデジタル化の可能性について紹介。後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに、参加者からの質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。

 

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「ブロックチェーン×教育~学歴をオンラインで立証」
■日時:2020年7月29日(水)12時~12時55分
■講演:圷 健太 氏
LasTrust株式会社 代表取締役
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

圷氏は約25分間の講演において、まず、国内外で導入が進む「ブロックチェーン証明書」の現状と今後の動きについて概説。続けて、ブロックチェーン証明書による学習や活動履歴のデジタル化が、教育業界にデジタルトランスフォーメーションをもたらす可能性について説明した。その主な講演内容は以下のとおり。

ブロックチェーン証明書を仕組みとメリット

私たちのチームの始まりは、経済産業省が2019年2月に主催した「ブロックチェーン技術による学習履歴や論文の改ざん防止」がテーマのハッカソン(※ソフトウェア開発を行うイベント)です。そこで「ブロックチェーン証明書発行システム」を発表して2つの賞を受賞し、審査員から「非常に社会実装が近いシステム」と評価されたことが創業のきっかけです。

 

LasTrustは、ブロックチェーン技術を使った学習履歴や活動実績など「デジタルクレデンシャル」の発行に特化した国内唯一のスタートアップであり、ブロックチェーンの証明機能が、今後の教育産業に非常に大きな影響をもたらし、価値を与えることができることを確信しています。

 

私たちのミッションは、ブロックチェーン技術を利用して「個人の見えざる価値を可視化」することです。具体的には、個人が持つ資格、学位、学習履歴、社会的実績など「目に見えない」価値を、ブロックチェーン技術で安全にデジタル化していくことで、その実現のために提供するサービスが「ブロックチェーン証明書発行SaaS」である「CloudCerts(クラウドサーツ)」です。

 

▲ スライド1・ブロックチェーン証明書発行サービス
CloudCerts(クラウドサーツ)

 

「ブロックチェーン証明書」の導入メリットを簡単に説明いたします。まず、紙の証明書や資格等の原本性を保ったまま、安全にデジタル化できます。しかも、ブロックチェーンに書き込まれた情報には、「改ざんされる可能性が極めて低い」という特質があります。ブロックチェーンは世界中どこからでもアクセス可能なネットワークですので、証明書の内容が正しいか、誰でも簡単に検証可能な仕組みになっています。

 

▲ スライド2・ブロックチェーン証明書の導入メリット

 

生徒数の多い学校では、証明書の発行数も数万通~数十万通にもなるでしょうが、CloudCertsは、ブロックチェーンに記録された膨大な証明書をリストで管理する機能もクラウドで提供しており、証明書の取り消しや再発行も簡単にできます。

 

発行プロセスが全て非接触で、オンライン上で完結できるため、新型コロナウイルス感染症の拡大で窓口を開けられず、学生に直接証明書を発行できないという悩みを抱える教育機関から高い評価を得ています。

▲ スライド3・大幅にコストを削減できるブロックチェーン証明書

 

教育機関で実務運用されている例として、ビジネス・ブレークスルー社の導入事例を紹介します。同社では、大前研一氏が塾長を務める大前経営塾の卒塾生に対してブロックチェーン修了証書を発行しています。これにより、大前経営塾の卒塾生は、自己の学びの実績を企業と共有したり、自らのブログやSNSに貼ったりして多くの人にセキュアに告知することが可能です。

▲ スライド4・大前経営塾の卒塾生はCloudCertsを有効に活用している

ブロックチェーンがもたらす教育のDX

私たちLasTrustでは、ブロックチェーン証明書によるスタディログやライフログのデジタル化は、さらに深い広がりを持つ、まさに「教育産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)」とでも言うべき価値の転換をもたらすと考えています。そのような使い方を実現する第一歩として、「紙の証明書のデジタル化」に取り組んでいるのです。

 

ブロックチェーンによって発行された証明書は、スマートフォンの画面などに紙の証明書のようなイメージで表示させることもできますが、【スライド5】のように、「デジタルバッジ」の集積をポートフォリオのように表示し、個々のバッジの中身が証明書になるようなアーキテクチャを作ることもできます。これにより学習者は、学習履歴、取得資格、習得実績など自己の学びの実績を低コストで担保していけるのです。

▲ スライド5・証明書はデジタルバッジとして一覧表示することも可能

 

もちろん、プロフィールに文字で書いても同様のことは実現できます。ただ、ブロックチェーンバッジとの大きな違いは、それが「自己申告」の実績に過ぎないか、それとも教育機関がブロックチェーンに書き込んだ「お墨付きのある」スタディログなのか、というところです。

 

後者であれば実績を数学的に担保できますので、私たちは、このバッチの一つひとつが、社会的信用を担保するアセット(社会的資産)になると考えます。このバッジを集めること、言い換えると学びの実績を集積していくことによって、新たな価値を学習者が享受できるエコシステムが可能になります。

▲ スライド6・ブロックチェーン証明書は学習者の一生使える「アセット」

「ラーニングエコノミー」における ブロックチェーン証明書の可能性

これは弊社だけの考えではなく、アメリカでは「ラーニングエコノミー」活動の一環として、すでに取り組みが始まっています。「ラーニングエコノミー」は、SDGsの一つである「世界中の教育の平等」の達成を目的とした概念で、2018年に国連で提唱されました。このラーニングエコノミーに則り、アメリカのコロラド州が始めたプロジェクトに「シーラボ(以下、C-Lab)」があります。

 

このC-Labについて簡単に紹介いたします。

▲ スライド7・コロラドで始まったラーニングエコノミー「C-Lab」

 

C-Labは、コロラド州の「高校卒業後の進学率が他州と比べて非常に低い」という問題の解決を図るために始められたプロジェクトです。基本的にはCloudCertsと同様、学習者の履歴、卒業証明、あるいはUdemyやMOOCといったオンライン教育プラットフォームの修了証などの学習履歴をブロックチェーンに記録していく取り組みですが、デジタル化された学習記録をAI解析することによって、学習者が最適なキャリアパスやアドバイスを得られる「アクティブラーニング」の手法を取り入れています。さらに、一歩進んだ取り組みとして、学習者が自分の学習データをブロックチェーン証明書やバッジとして企業に提供することで、企業側が学習プログラムの費用を肩代わりする取り組みも実際に始まろうとしています。このように、SDGsの「教育の平等化」に根ざしたプロジェクトとして、教育の無償化まで見据えた形でC-Labプロジェクトは動いています。

 

ブロックチェーンを使って、このような形で個人の学習履歴を担保することには非常に意義深く、単なる「紙の修了証書のデジタル化」ではなく、デジタル化された学習履歴などの情報をあらゆるプラットフォームと連携させ、奨学金のディスカウントや、適切なキャリアパスなどにつなげていく「インフラ」と考えていただければと思います。

 

弊社ではすでに、ブロックチェーン証明書の発行サービスを提供しています。ブロックチェーン証明書、あるいは教育のDXに興味をお持ちの教育機関の方は、サンプルを無償で提供していますので、お声がけいただけたら幸いです。

 

 

>> 後半へ続く

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