一斉休校中のオンライン教育の実施に向け保護者有志がどう動いたか
第12回オンラインシンポ「保護者の声~オンライン教育の重要性について」レポート・前半

プロジェクト活動|レポート

2020.9.25 Fri

概要

 超教育協会は2020年7月27日、東京都の「中央区立小中学校オンライン教育を考える有志の会」の平井美和氏と、「世田谷公教育におけるICT利活用を考える会」代表の吉澤卓氏を招いて、「保護者の声~オンライン教育の重要性について」と題したオンラインシンポジウムを開催した。前半では平井氏と吉澤氏が、一斉休校中の保護者有志の取組みについて紹介。後半は超教育協会理事長の石戸奈々子を交え、参加者からの質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。
 
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第12回オンラインシンポ「保護者の声~オンライン教育の重要性について」
■日時:2020年7月27日(月)12:00~12:55
■講演:吉澤卓 氏(世田谷公教育におけるICT利活用を考える会 代表)
    平井美和 氏(中央区立小中学校オンライン教育を考える有志の会)
■ファシリテーター:石戸奈々子 超教育協会理事長
 
 平井氏は、約15分間の講演において、4月に中央区の公立小中学校校の保護者に対して実施したアンケート調査と、その結果を踏まえての中央区への提言を紹介した。主な講演内容は以下のとおり。

アンケート結果をまとめた資料を作成 オンライン教育実施方法も提言

▲ 「中央区立小中学校オンライン教育を考える有志の会」の平井美和氏

 
【平井氏】
  中央区では、2月末に区立小中学校の一斉休校が始まり、3月は1日だけ登校し終業、4月に各学校のホームページに休校期間中の家庭学習についての通知が出ました。5月には、各週の課題がPDFで掲載されるようになり、子どもたちはそれに取組みました。そんな状況の中で、オンラインメディアで23区のオンライン授業導入状況を示す記事が掲載され、「中央区はオンライン授業の予定なし」との記事が出たため、多くの保護者が危機感を持ちました。そうした中、「中央区立小中学校オンライン教育を考える有志の会」(以下、有志の会)が任意で立ち上がり、区内の保護者が休校下で何に困り、どのような要望があるのかを探るためのアンケートを実施しました。
 
 アンケートは4月23日から5月6日に実施しました。小学生の保護者1567名、中学生は179名から回答が集まり、オンライン教育に賛成かどうかについては95.1%が賛成という結果でした。賛成する保護者が大多数を占めたこと、アンケート開始からわずか3日で1300件以上もの回答が集まるという、関心の高さにも驚きでした。
 

▲ スライド・アンケート調査では、95%以上の保護者がオンライン教育の導入に賛成という結果になった

 
 アンケート調査では、ほとんどの家庭にインターネット接続環境があり、7割強の家庭にパソコンやタブレットがあることも分かりました。
  
 さらに、オンライン教育の内容やアイデアについて、自由記載で回答してもらったところ、「双方向のオンライン学習の実施」や「スピード重視でできるところから取り組んでほしい」、また、他の区などでMicrosoft TeamsやGoogleクラスルームを使った取組みが実施されつつあるタイミングでしたので、「小学生では朝の会や授業の配信など学習リズムの維持と、先生・友達とのつながりの確保」を求める意見が多く出てきました。中央区に対して早急な対応を求める声も非常に多くありました。
 

▲ スライド・自由記載で寄せられた意見

 
 有志の会では、各自治体のオンライン教育への取り組みを調べを進める中で、先進自治体との差異が非常に高い状況が分かったため、アンケート結果とともに、各自治体の取り組みにかかる資料を作り、中央区に説明しました。
 

▲ スライド・各自治体の取り組みを調査、資料にまとめて区に提出

 
 あわせて、有志の会で、具体的にオンライン教育を実施していくための方法の提言をまとめました。他の自治体の取組も参考にしましたが、まずは「学校から子どもたちにメールなどで声がけをしてほしい」「オンラインホームルームを開催してほしい」、それから「オンライン授業」というように、段階的に進め、子供たちの学びを止めないでほしいという提言を行いました。
 

▲ スライド・オンライン教育実施方法の提言

 
 さらに、中央区教育委員会事務局の皆様が施策を実施する際の参考資料となるべく、政策提言を含めた資料も作成しました。
 

▲ スライド・ネットを活用した学習支援の方策

 
 オンラインで活用できる無償サービスも紹介し、ぜひ活用していただきたいという提案もしました。
 

▲ スライド・オンラインで活用できる無償サービスの紹介

 
 また、家庭でパソコンやタブレット端末などを利用できない児童・生徒や、通信環境が整っていない家庭への支援策としては、「学童保育にて提供する」、「学校の端末で対応する」、「PTAの協力を得て、端末を貸し出す仕組みを作る」といったことも提案しました。
 

▲ スライド・児童生徒の端末と通信環境の整備についての提案

 
 そして、この提言の直後に中央区では、オンライン教育の環境調査を実施し、5月中に各学校に対し「週1回はオンライン朝会を開くように」との通達が出され、実施されました。

「学びを止めない」ために PTAと一体となった取り組みを

 こうした取組を踏まえて、有志の会では中央区のオンライン教育は進むと期待していました。5月上旬に区と対話した際、区としては「まず、端末の整備を優先し、9月末までに対応する」という回答でした。区が課題としていた端末がない家庭へのサポートは、「PTAの協力を得て進めていける」提案もさせていただいていました。
 
 そうした中でも、中央区としては、端末の全員配備、小中学校のWi-Fi環境の整備について時間を要している状況が漏れ聞こえてきており、コロナ第二波、第三波、災害時の「子供の学びの継続」に引き続き不安の残る状況となっています。
 
 有志の会では、学校の取り組みをサポートしていくべく、PTA等でも一緒にオンライン教育の推進を支援できないかとも考えています。今後の様々な災害・感染症等に備え、子供たちの学びを止めないことが最も大事なことであり、保護者としてどう協力できるかをしっかり考えていきたいと思っています。
 
 平井氏に続いて、吉澤氏が約15分の講演で、世田谷区の学校教育におけるICT利活用の問題点などを紹介した。主な講演内容は以下のとおり。
 

▲ 「世田谷公教育におけるICT利活用を考える会」代表の吉澤卓氏

 
【吉澤氏】
 私たち「世田谷公教育におけるICT利活用を考える会」(以下、ICT利活用を考える会)でもアンケートを実施しました。以前から、世田谷区のICT利活用には課題があるとの認識でしたので、アンケートのタイトルは「オンライン教育」から少し広げて「公教育のICT利活用」としました。
 
 回答数は1521名、うち保護者は1287名。「公教育のICT利活用に賛成か反対か」との質問には99.6%が賛成、新型コロナウイルスの影響を超えて利活用が進むことを望む声がほとんどでした。
 
 このアンケートのあとの7月25日、世田谷区の教育長、教育指導主事、教育総務課長、小学校と中学校の先生をゲストに迎えて、オンラインミーティングを開催しました。アンケート回答者70名ほどにも参加していただきました。ミーティングのタイトルは、「ICTのCは”コミュニケーション”のC!」としました。オンライン学習をテーマにしたミーティングとなると、コンテンツが重視されがちですが、もっと視野を広げて学校運営の中でのコミュニケーションを大切に考えようという思いを込めました。

公教育においては学習面にとどまらない ICT利活用の可能性がある

 こうした取り組みで明らかになったのは、世田谷区だけではなく、全国の公教育の現場はたいてい同じだと思いますが、学校の職員室には電話が2本しかない、電話もろくにかけられないという実態でした。この件については並行して教育委員会が、こうした状況を打開するために、小中学校にスマートフォンを数台ずつ配布したことで若干ですが改善されました。
 
 子どもたちへの端末の貸し出しとモバイルルーター貸出は、学年限定で実施されていました。また、教師が活用するためのモバイルルータも貸し出しされたいたようです。なお、各家庭のオンライン環境の調査は教育委員会が5月に実施し、世田谷区では、携帯もスマ-トフォンも含めて何らかの端末を用意して、なんらかインターネットにつなげられる家庭が99.96%との結果が出ていました。
 
 教育現場でのオンライン活用の事例は7月25日のミーティングでお話いただきました。そのミーティング開催準備の過程で、オンライン教育が進まない背景が明らかになりました。それは、個人情報保護条例の「オンライン結合」の制限です。
 
 公立の小中学校ではインターネットに接続できる端末が校長室にしか設置されていないというのが一般的です。私たちが普通に使えるZoomやMicrosoft Teamsも、まずインターネット接続が前提ですので、職員室の先生たちの机上のパソコンからは利用できません。それにもまして、この条例は新しいクラウドサービスなどを運用する際には、かならず個人情報保護条例の審議会に具申することが通例となっていました。まずは、ここを変えないと何もできません。
教育委員会もそのことは認識していていますが、条例を変えて行くこと自体は教育委員会から動くことは難しいため、世田谷では区議会においてもこの条例の改正を行うよう働きかけが始まっています。なお、6月30日には審議会が開催され、現在使用したいサービスの利用については審議会を通過しました。今後、いろいろな活用を柔軟に行うためには、条例へのアプローチが必要、というのは他の自治体でも同様と思います。
 
 端末の整備に関しては、6月に区議会で補正予算が通りました。世田谷区は23区内で最も子どもが多いので、台数を揃えるのは年度内かかるそうですが、1人1端末、予算28億円で4万8千人分を確保できる見通しです。また、回線の増強も可能な範囲で行うということでした。そして、これはまだ確定事項ではありませんが、小中学校と家庭で自由に使えることを前提に整備を進めているようです。
 
 こうした取り組みを通じて、公教育において学習面にとどまらないICT利活用の範囲があることが明らかになってきました。
 

▲ スライド・学習面にとどまらない公教育ICT利活用の範囲

 
 今後、ICT利活用を考える会では、保護者たちと状況を把握したうえでさらにやり方を検討や提案をしていきたいと思います。保護者がしっかりと変化の奉公を認識していることが、小中学校にとっても最も健全なアプローチになるだろうと思っています。私たちが間に入って、教育現場の取組みを保護者に伝えるお手伝いをし、どんなことが必要なのかを一緒に考えていく第一歩として7月25日のミーティングでは、教育長や先生方から発信していただきました。今後もYouTubeなどを活用し、広く拡散させていきたいと思います。

保護者が公教育におけるICT利活用の バックボーンとなることが大切

 こうした取り組みから、今後、考えていかなければならないことをまとめました。
 

▲ スライド・公教育ICT利活用を促進するにあたっての課題や考え方をまとめた

 
 ICT環境が全く整っていない小中学校の先生方に、ICTの利活用を求めるのは酷なことだと思います。そこで、まずは先生方がインターネットにフルアクセスできる環境を認めることが重要です。個人情報保護に関する問題では、情報を預けている側の私たちもその問題を認識し、可能なところはオープンにしていくべきだと思います。各自治体が個人情報保護条例を改正しなければ、ICTを十分利活用した教育は実現できません。
  
 繰り返しになりますが、ICT利活用による小中学校の変化を、保護者や地域が受け止める必要があります。とくに、端末が学校から家庭へ持ち帰られることが望ましいわけですが、保護者側がその家庭での活用や管理をしっかり歩調をあわせなければなりません。また、新型コロナウイルス感染症拡大による現在の状況に先駆けてICT利活用の実践を積み上げてきた小中学校などの好事例をどう水平展開していくかも検討すべきことです。インターネット上にある優れたコンテンツを使い回すことを現場の先生方がどう受け入れるか、先生方のメンタルモデルがどうやったら変わっていくかも考えていく必要があるでしょう。
 
 ただし、ICTによってコミュニケーションが変わると、懸念も増えます。保護者からの学校への意見も多くなるかもしれません。しかし、ツールが導入されることで、必要なコミュニケーションが取りやすくなるとポジティブに考えていくことが大切です。
 
 最後にICTをベースに学習が進むと問題になるのが、目への負担や運動不足といった身体への負担です。しかし、例えばマッチで火をつけるときには火傷に注意し、カッターを使うときにはケガに注意します。それと同じように考えていくべきでしょう。
 
>> 後半へ続く

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