⼀般社団法⼈超教育協会(東京都港区、理事長:石戸奈々子)は、産学官の対話を重ねてきた知見に基づき、今後10年を見据えた教育DX推進の基本的な方向性を示すものとして、以下を提言します。
(提言)教育DXの推進に向けた基本理念
超教育協会 データWG・著作権WG
前文
Society5.0の時代を迎え、教育のデジタル化(教育DX)は単なる手段の変化ではなく、学びの本質的な変革を伴う国家的課題を迅速に解決するためのソリューションとなっている。AI技術の急速な発展、データ利活用の進展、幼少期からのデジタル端末への接触、そして個人の権利意識の高まりという大きな環境変化の中で、日本の教育は新たな段階に入りつつある。
コーチングやチアアップといった新たな教育の役割や、専門性の高い最新の内容が学べるMOOC等のコンテンツが生まれる一方、現状では、技術と制度の不整合、関係者間の認識の相違、そして長期的なビジョンの不在により、教育DXの推進は停滞している。子どもたち一人ひとりに最適な学びを提供し、教師の負担を軽減しつつ専門性を育み、教育の質を継続的に向上させるためには、従来の枠に止まらないデジタルの利活用やAIとの協働を前提にした、すべての関係者が共有できる教育DXへの基本理念を確立する必要がある。
本基本理念(提言)は、超教育協会が産学官の対話を重ねてきた知見に基づき、今後10年を見据えた教育DX推進の基本的な方向性を示すものである。
また、本基本理念は、併せて公表される「教育を取り巻く技術・社会環境の変化と展望」での議論を反映したものであり、同時に公表される「教育データ利活用の推進に向けた緊急行動計画」については、本基本理念に基づく短期的課題を取りまとめたものとなる。
>> 同時公開「教育を取り巻く技術・社会環境の変化と展望」
>> 同時公開「教育データ利活用の推進に向けた緊急行動計画」
1.変化に適応する教育制度の柔軟化
技術の進化と社会の変化に対応するため、教育制度そのものの柔軟性を高める必要がある。データ基盤の整備は、個別最適化された学習の実現、学校段階を超えた学びの連続性の確保、そして生涯学習社会の基盤となるものである。
教育データの利活用を通じて、従来の学年制や学校種の枠組みにとらわれない、一人ひとりの学習進度と興味に応じた学びの実現を目指す。
ことに加速度的な情報や知識の更新が進むSociety5.0社会への対応のためには、既存の制度改正期間にかかわらず柔軟に見直しができる「アジャイル」な取り組みを推奨し、インセンティブやセーフガードを付与することで、マインドセットにおける不安を払拭することも必要と考える。
2.子ども中心の教育データエコシステムの構築
教育データは、子ども一人ひとりの学びと成長を支えるために存在する。データの生成、管理、活用のすべてにおいて、子どもの最善の利益を最優先とする原則を確立する。
個人の学習データは本人に帰属するものとし、その管理と利活用について本人(または保護者)が適切に関与できる仕組みを整備する。同時に、教育の質の向上のために必要なデータ分析と研究開発が、プライバシーに配慮しつつ適切に行われる環境を構築する。
3.公正で開かれた教育データ基盤の整備
教育データの利活用基盤は、特定の事業者に依存しない、中立的で開かれたものでなければならない。公正な競争を通じて、多様な事業者が質の高い教育サービスを提供できる環境を整備する。
国は、基礎的なデータ連携基盤の整備において主導的な役割を果たし、技術標準の策定と普及、相互運用性の確保に責任を持つ。同時に、地方自治体や学校が地域の実情に応じた選択ができる柔軟性を確保する。
4.著作権保護と質の高い教育コンテンツの持続的創出
デジタル教材の普及は、著作権者の正当な権利を保護しつつ、教育現場での円滑な利用を実現する新たな枠組みを必要とする。同時に、質の高い教育コンテンツが継続的に創出される環境を確保することが不可欠である。
教科書・教材のデジタル化に対応した補償金制度を整備し、著作権処理の簡素化と透明化を図る。教育現場が法的不安なく教材を活用できるよう明確なガイドラインを提供するとともに、コンテンツ制作者への適切な対価還元を通じて、持続的な創作活動と投資を促す仕組みを構築する。
5.産学官民の協働による持続的な発展
教育DXの推進は、行政、教育機関、産業界、そして市民社会のすべてが協働して初めて実現できる。それぞれの強みを活かし、相互の信頼に基づいた持続可能なエコシステムを構築する。
特に、教育現場と産業界の健全な関係を築くため、透明性の高い意思決定プロセスと、適切な役割分担の原則を確立する。
また、子どもの安全にもつながる産業界人材による最新のリテラシーに基づく初中等教育からの指導の実現に向け、必要な制度の改定も併せて行うことが望まれる。
6.国際的な調和と日本の独自性の両立
教育データの利活用においては、国際的な標準や規範との調和を図りつつ、日本の教育文化や価値観を反映した独自の制度設計を行う。
EUのAI規制や米国のEdTech動向を注視しつつ、プライバシー保護と教育効果の両立、公教育の理念の維持など、日本の強みを活かした制度を構築する。
7.社会的合意形成とリテラシーの向上
教育データの利活用に対する社会的な理解と信頼を醸成することは、すべての取組の基盤である。子ども、保護者、教師、そして社会全体が、教育データの意義とリスクを理解し、主体的に関わることができる環境を整備する。
データリテラシー教育を教育課程に位置づけるとともに、教育データの利活用状況について継続的な情報公開と対話の場を設ける。
むすび
本提言が示す方向性は、一朝一夕に実現できるものではない。しかし、この基本理念を関係者全体で共有し、それぞれの立場から着実に取組を進めることで、子どもたちにより良い学びの環境を提供し、日本の教育の持続的な発展を実現することができる。
超教育協会は、今後も産学官民の対話の場として、この理念の実現に向けた具体的な提案と実証を続けていく。

