VRやネットを駆使して「未来の学校」を創る
第25回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2020.12.22 Tue
VRやネットを駆使して「未来の学校」を創る</br>第25回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は20201111日、S高等学校(20214月開校/設置認可申請中) の校長の吉村総一郎氏を招いて、「リアルとネットを融合した新しい学びへ ~ N高・S高の新たな挑戦」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、吉村氏が、N高等学校(既設)及びS高等学校(新設)の概要と、両校が2021年度から実施する新しい教育の内容について説明し、後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。

 

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「リアルとネットを融合した新しい学びへ

~ N高・S高の新たな挑戦」

■日時:20201111日(水) 12時~1255

■講演:吉村 総一郎氏
S高等学校 校長

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

吉村氏は、約30分間の講演において、まず2016年に開校したN高等学校および20214月に開校するS高等学校の概要を説明し、その後、S高等学校の開校に合わせて両校で新たに始める「普通科プレミアム」及び「オンライン通学コース」の概要と課外授業、コミュニティの外部展開について説明した。主な講演内容は以下のとおり。

N高等学校(以下N高)は、20164月に開校した通信制高校で、初年度に「ネットコース」、翌20174月に「通学コース」を開設いたしました。生徒数は、初年度の約1,500名から開校して5年目となる本年度は15,803名(202010月時点)と、日本で一番生徒数の多い高校となっており、うち約3,000名が通いながらネットで学ぶ「通学コース」、約13,000名がオンラインで学ぶ「ネットコース」に在籍しています。

 

 通学コースは、高校卒業資格を取得するために必要な科目を「N予備校」というアプリを使って学びながら、それ以外の時間をプロジェクト学習、プログラミング、英会話、中国語会話などの学習に使うというスタイルのコースで、北海道から九州まで全国19カ所にキャンパスを展開しています。

 

生徒のサポート体制にも力を入れています。教員及びティーチング・アシスタント(以下TA)数は生徒数の増加に合わせて随時増員しており、指導員1名あたりの生徒数は2020年現在27.3名と、設立時の半分以下に充実させています。

 

▲ スライド1・N高等学校の教員・TA数推移

 

特に、11で教える機会が多いことから優秀な大学生TAの育成に積極的に取り組んでいるほか、コロナ禍前からからリモートワーカーの採用にも力を入れており、現在は24名が勤務しています。地方在住でなかなか仕事が見つからない優秀なシングルマザーを多く採用して、活躍してもらえるのもネットの学校ならではで、これらの施策により、高品質なサービスを提供できていると考えています。

しかし、このペースで入学者数が増えると来年度は2万人を超えてしまいます。沖縄県の基準では、生徒は在学中に1度は本校でのスクーリングに参加する必要があります。N高本校が所在する沖縄県の伊計島は、ホテルの宿泊人数や教室数のキャパシティからこれ以上の人数を受け入れることができません。


 そこで新たに設立することになったのが、私が校長を務めるS高等学校(以下S高)です。Sには、SuperSpecialShineSpectacleといったさまざまな「S」を、生徒一人一人が見つけて自分だけのSを創れるように、という想いが込められており、多様な学びの中で生徒が自分にあった学びを徹底的に突き詰められることを重視したS高のスタイルを表しています。

N高とS高の「学びの内容」は基本的に同一で、唯一の違いは、原則2年次に参加する本校スクーリングの内容です。S高では、本校が位置する茨城県つくば市の「教育と研究に対してフォーカスを置いた都市」という特性を活かし、豊かな自然と最先端の科学技術に触れることで生徒の学びの意欲を喚起するようなスクーリングを企画しています。本校に行く必要がない1年次・3年時のスクーリングは、N高と同じ全国19カ所のキャンパスを利用できます。

 

▲ スライド2・N高・S高共通の通学キャンパス

VRを使った「新たな学び」を実践 2021年から始まる「普通化プレミアム」

 N高とS高では、20214月のS高開設に合わせて、私たちがずっと温めてきた新しい学び方「普通化プレミアム」を開始します。

 

▲ スライド3・2021年4月にスタートする「普通化プレミアム」

 

最大の特徴は、VR(バーチャルリアリティ)を教育に取り入れたことで、Facebookの最新型VRゴーグル「Oculus Quest 2」を使用した授業を受けることができます。


 VR2016年頃にかなり話題になり、N高でも入学式に取り入れたりしましたが、リアルなアプリケーションはあまり登場してきませんでした。しかし、その後の4年間でVR機器の低価格化が大きく進むと共に、画質やコンテンツのクオリティも比較にならないほど進化しました。Oculus Quest 2は、スマホなどで見られる簡易的なVRとは全く異なる、実際にその場所にいるのと区別がつかないほどの高い臨場感を実現しています。

 

VRを授業で活用することで360度の全視界が学習空間になり、VR空間上に用意されたさまざまなアイテムやガジェットを活用して学びを深めることができます。

 

▲ スライド4・VR空間で受けられる多彩な授業

 

「実際のもの」に近い3Dのアイテムやガジェットが、2D画像とは比較にならない再現力で脳を刺激し、記憶の定着力を大きく高めるほか、同級生とボイスチャットでコミュニケーションを取りながら学べる新しい学びも考えています。PCやスマホの小さい画面での学びとは全く異なる、目や耳、立ち上がったり座ったりする動作など「体全体」で学ぶ新しい学びが「普通科プレミアム」です。

 

普通科プレミアムでどういうことが実現できるのか、以下の紹介動画を御覧ください。

 

普通科プレミアムの試みについて具体的に説明いたします。

VRは、オンライン教育の「独学の弱点」を克服しようとする試みでもあります。まず、VRの世界は視覚と聴覚、それに座ったり立ったりといった体感を全て「固定」しますので、非常に勉強に集中できます。また、VR空間では世界初の「タイムシフトアバター」機能により、友達や同級生が学んでいる様子が非同期のコミュニケーションで再生されますので、皆で一緒に勉強している感覚を持つことができます。さらに、従来型の動画教材とVR教材という2つの学習方法のシームレスな切り替え機能や、高校生が身につけたいと思いつつ、ちょっと悩ましいとも感じている「コミュニケーションスキル」を磨ける対話型教材を用意していることなど、真に実用的な「VR学習プラットフォーム」が実現できたのではないかと考えています。

 

また、コミュニケーションスキルについては、対話練習、英会話練習、面接シミュレーションなどをレベル別に体験できるVRのオリジナルプログラムを用意しています。

 

▲ スライド5・コミュニケーションスキルを
身につけるオリジナルプログラム

 

さらに、学習と共に心身の育成も高校教育の重要な要素ですので、株式会社カスタムキャストのアプリでなりたい自分のアバターを作り、学校の友達や先生、TAとのコミュニケーションを深めたり、VRのゲームを利用した健康的な体作りもできたりするなど、多くの企画を進めています。

 

新たに始める「普通化プレミアム」と、映像視聴をベースとする従来からの「普通化スタンダード」の違いはVR学習の有無だけで、履修できる必修授業や課外授業は同一です。

 

▲ スライド6・普通科「プレミアム」と
「スタンダード」の違い

 

「プレミアム」で使うVR機器は、入学時に無償で貸与し、卒業時に無償譲渡いたします。学費は、「プレミアム」が「スタンダード」と比べて年間12万円ほど高くなりますが、就学支援金制度の利用により、年収590万円以下の家庭なら「スタンダード」とほぼ同額に抑えることができます。


「距離に捉われずネットに集い、仲間とともに学ぶ」をコンセプトに 
「オンライン通学コース」もスタート


普通科プレミアムと共に、N高とS高で来年度から開始するのが「オンライン通学コース」です。これは、N高で従来から実施してきた「ネットコース」と「通学コース」の中間に位置するコースで、「距離に捉われずネットに集い、仲間とともに学ぶコミュニティ」をコンセプトに、ZoomSlackG SuiteAdobe Creative CloudなどのITツールで他の生徒やTAとディスカッションやグループワークを行いながら学んでいくコースです。

 

「オンライン通学コース」は、「通学コース」と同じように時間の枠組みがしっかり決まっていて、クラス学習を週3日行う「ベーシッククラス」と週1日行う「ライトクラス」があります。家にいながら、学校に通っているような、しっかりした時間割の元で学習できるのがオンライン通学コースの魅力です。

 

▲スライド7・オンライン通学コースのカリキュラム

 

学習内容は、プロジェクトベースドラーニング(以下PBL)、21世紀型学習、プログラミング、英語など、「通学コース」で学ぶ科目を、ZoomSlackを活用してリモートでも学べるようになっています(ベーシッククラスの場合)。教室での授業よりもグループディスカッションや11のコーチングを重視し、実践的なカリキュラムで双方向・少人数・グループワーク・アウトプット型のさまざまなカリキュラムを運営しています。

 

これにプラスする形の個別サポートも、一人一人の学びと成長をサポートするためのコーチングを充実させたものになっています。毎月どういったことをしたいのか、どういったことを学んでいきたいのか、どんな学習計画を建てるべきなのか、一人一人の学習状況とか理解度に合わせながらTAや担任の先生がしっかりコーチングしていく仕組みになっていて、疑問点を自由に質問できる「ネット学習室」も用意されています。

 

▲ スライド8・充実したコーチングを
受けられる個別サポート

 

一般の高校生にも「学びを公開」 目指すはテクノロジーを駆使した「未来の学校」

来年度から実施される新しい学びで最後にご紹介するのは、「豪華講師陣によるオリジナル制作の課外授業」です。

 

▲ スライド9・充実した課外授業カリキュラム

 

N高ではすでに、オンラインで多様な課外授業のカリキュラムを提供しています。例えば、学問系ではレベル別の大学受験科目、小学復習・中学復習、英語、中国語など、プログラミング系ではコンピューターサイエンス、Webプログラミング、スマホアプリ、機械学習、さらに汎用人工知能やWebデザインなど、エンタメ・クリエイティブ系ではライトノベル、イラスト、コミック、声優、DTM、ゲームプログラミングなど、さまざまなジャンルで映像・テキスト教材を用意しています。

 

ここに来年度から、「豪華講師陣によるオリジナル制作の課外授業」が加わります。船橋洋一氏(英語)、江川達也氏(古文)、竹中平蔵氏(公民)、加藤文元氏(数学)、津田大介氏(ネットリテラシー)、伊藤直也氏(プロ用プログラミング)、小沼竜太氏(ゲームマーケティング)など、それぞれの分野で著名な講師陣による特別授業で、すでに一部公開しているものもありますが、来年、さらに充実させていくことになっています。

 

▲ スライド10・各分野の専門家による特別授業を実施

 

さらに来年度からは、N高で実施してきた学びを一般の高校生にも開放します。例えば「起業部」では、高校生の起業を学園が金銭的・人的支援を行うことでサポートしており、すでに5社が登記を終えて起業しています。この度、N高の規模が随分大きくなってきたこともあり、「起業部」のほか、高校の範囲を超えて数理科学を追究する「数理コミュニティ」、文系・理系を問わず学術定期な研究を応援する「研究部」を全国すべての高校生にオープンにし、活動を金銭的・人的に支援していくことになりました。

 

▲ スライド11・一般の高校生にも
開放されるN高・S高の学び

 

ここまでご紹介させていただきましたように、角川ドワンゴ学園では、S高の開校に合わせて来年度から非常に多くの試みを行います。N高及びS高では、今後も未来の学校を目指してアップデートを続け、ネットを駆使した挑戦を続けていきますので、今後とも私たちのチャレンジを見届けていただければと思います。ありがとうございました。

 

>> 後半へ続く

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