概要
超教育協会は2024年9月11日、Re学院 学長の津嘉山 晋弥氏を招いて、「発達障害・ギフテッドの通信制オンラインスクールRe学院の取り組み」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、津嘉山氏がRe学院の設立に至る背景やカリキュラムの特色などについて講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
>> 前半のレポートはこちら
「発達障害・ギフテッドの通信制オンラインスクールRe学院の取り組み」
■日時:2024年9月11日(水) 12時~12時55分
■講演:津嘉山 晋弥氏
Re学院 学長
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
発達障害やギフテッドの特性に応じた教育を「どこまでできるのか」に多くの質問
石戸:「最初の質問です。『これまで2,000人ほどの発達障害やギフテッドの子どもたちの個別指導をされてきたということですが、それを踏まえて特性に合わせた教育を受けた場合と受けなかった場合での教育効果はどのように変わってくるか。具体的な事例がありましたら、事例も踏まえてお話いただきたい』というものです。いかがでしょうか」
津嘉山氏:「例えば、中学受験を例にお話しします。通常、生徒たちは一般的なテクニックの習得と、テキストを渡されて数をこなすという学習をしますが、処理速度が遅いと、そういった学習が合わないことになります。そういう場合、最初から量が少ないようなテキストを選ぶ、もしくは今使っているテキストの中から難易度などで『やるべきところ』を絞るなどして、その子どもの処理速度で適応できる範囲に収めていきます。そういった学習をさせた結果、今まで全く届かなかった中学校に合格するといったことがあります」
石戸:「ASDやADHDのお子さんの特性に合わせた事例だと、他にどのようなものがありますか」
津嘉山氏:「例えば塾の授業だと、60分1コマになっていますが、集中力が続かない場合だと、60分の授業でも30分ごとに休憩を挟むような時間の配分にするような工夫をした事例があります。また、授業の最後の方に『先生に話したいことを話す時間』を設けて、そのために頑張るという動機付けをするとか、そういった特性に合わせた授業の組み方をした事例もあります」
石戸:「『現状の特別支援教育の問題点はどこにあると思うか』という質問がきています。これまでの取り組みを踏まえて、こういう改善をすると更によいということがありましたら、より救われる子が増えると思いますので教えてください」
津嘉山氏:「特別支援教育については、そもそも福祉の観点からプログラムが組まれていると私たちは考えています。つまり、やらせないことが前提になります。今できることの範囲だけをやらせていくという、英語でいうとモディフィケーションのやり方が特別支援教育です。一方で、私たちは教育の観点から、合理的配慮、アコモデーションという観点で教育に組んでいます。本人の能力のばらつきがあっても20%くらい負荷をかけて伸ばせるところは伸ばす、諦めるところは諦めるというようにメリハリをつけて、トレーニングをしていくという発想です。トレーニングして伸ばすという発想で特別支援教育も進んでいけばよいのではないかと考えています」
石戸:「講演の中でも触れられていたように、約29万人不登校児がいるのに対して、公的民間も含めて支援が不足している今、社会全体としてこういうことに取り組むとよいという提案がありましたら教えてください」
津嘉山氏:「ホームスクールを一般化することではないでしょうか。学校に行けないのであれば、家で学ぶというのが一般的になっていけば、そもそも解決すると思います」
石戸:「学習という視点では仰る通りと思いますが、やはり社会的に居場所があることによって、子どもたちを支援している家族も含めて救われる側面もあると思います。その子どもたちの家庭以外の居場所をどう確保することも大切だと思いますが、その点はいかがでしょうか」
津嘉山氏:「学校以外のコミュニティを作ってもよいのではないでしょうか。習い事とか放課後デイサービスでもよいですが、何かには所属しているお子さんが多いです。全くコミュニティがない引きこもりのような状態というのは少なくて、自分の所属意識が確認できる場がある子が実は多いので、それを無理やり作って増やしていくことに力を入れるよりは、もう少し実態に合わせて進めていった方が速度も速く進んでいくのではないかと思っています」
石戸:「調査データで出ているものと実感値が違うことはあるかと思いますが、津嘉山さんから見ると約29万人の不登校の子どもたちのほとんどは、何らかきちんと居場所を持っていると捉えていらっしゃるということですか」
津嘉山氏:「ほとんどと言うより『どちらかといえば』です。ただ、それでは不十分だと思います。保護者の方や本人が悩みながら探しているというのが実情ではないでしょうか」
石戸:「『近年、不登校の子どもたちが急激に増えているなか、実際に運営していて、世の中の意識の変化や子どもたち自体の変化をどのように感じていらっしゃいますか』という質問です」
津嘉山氏:「コロナがあってから、無理に学校に行かなくてもよいというような考え方の保護者が増えているのではないかと思います。それ自体は悪くないと思います」
石戸:「これまでだと、不登校になったとき、子どもも保護者も罪悪感のようなものを感じて苦しんでいたこともあったと思います。社会がそれに対して寛容になることで生きやすくなる側面はあるのかと思います。そういう認識がコロナ以降広がったということでしょうか」
津嘉山氏:「そう思います。もっと言うと、その一歩立ち止まる勇気やきっかけがあると思うので、一歩立ち止まってなぜ不登校になったのだろうということに、向き合う人が増えた気がします。発達検査を受けてみたり、実際にどういう状況だったかをきちんとヒアリングしてみたりすると、原因が浮き彫りになってくるので、今までのように型に押し込んでいくだけのやり方からは脱却しつつあるのではないかと感じています」
石戸:「進路に関する質問もきています。先ほど大学進学ができる通信制高校という話があったゆえの質問だと思いますが、『Re学院で高校卒業資格を取得後、大学進学以外にどのような道を考えているのか』というものです。特性に合った進路先という視点でいうと、どういう進路に進む子どもたちが多いのか教えてください」
津嘉山氏:「特性とひと口に言っても幅が広いので、ある程度、限定してお話しします。人とのコミュニケーションがそんなに上手ではない子ども、もしくはそれがトラブルに繋がってしまう可能性がある子どもについては、やはり一人で完結できるような仕事を選んでいくケースが多いです。例えばエンジニアとかプログラマーもそうですし、小説家を目指しているお子さんもいます。そういった自分一人である程度、完結できて、人との接点はあっても少ない仕事を選んでいく子どもが多いです」
石戸:「『ギフテッドや発達障害の子どもたちにどの程度までカスタマイズされた教育が提供されていくのかが気になっています』という質問です。いかがでしょうか」
津嘉山氏:「Re学院では必ず面談をしますし、WISC検査を受けている子どもがほとんどです。WISC検査を受けると、言語理解という言葉の能力、知覚推理という論理的な思考能力、ワーキングメモリーという情報処理の能力、処理速度という作業能力の4つの観点でこれが弱い、これが強いという弱みや強みがわかってきます。それらを分析して学習指導を提案書の形にまとめて提出し、納得してもらってから指導するという方針をとっています」
石戸:「分析に基づいてしっかり個別最適化された学びのスタイルを提供しているということですが、提供する側である教員の差配に関する質問が複数きています。『通信制の学校によってはサポートする教員の配置が少なくて、なかなか十分なサポートを得られず不安を感じる保護者もいるという声もあります。Re学院ではどのように教員や専門的な支援を行う職員を配置してサポートしていくのか、そしてそのための教員職員の採用の仕方、研修の仕方についてどのように取り組まれるのか』というものです」
津嘉山氏:「採用はそれほどこだわっていません。特別支援教育の経験があるといっても、社内で一から研修していく内容のほうが重要と考えています。基本的な指導の方針や、特性ごとの対応の仕方、コミュニケーションなど研修をしてから現場に出られるようにしています」
石戸:「『実際にどのような教材を使っていますか』という質問です。既存の市販の教材で使っているものがありましたら教えてください。また学校独自で作成されている場合、どのようなものを作成されているかについて教えてください」
津嘉山氏:「教材は一般的なものを使っていきます。逆に使わないものは決まっていて、ほとんどの場合、いわゆるドリル式の計算や漢字書き取りをやるようなスタイルのものを使う機会はほとんどないです。処理速度が低い子が多くて、そういうやり方が合わないのです」
石戸:「既存の教材を使いながら、伴走してくれる先生がうまく子どもたちに寄り添って、指導していく形ということですね」
津嘉山氏:「はい。学校でも塾でも受験でも、普通の教材がベースになってテストが作られていくので、それの処理の仕方が上手いか下手かが成績に繋がっていきます。その処理の仕方が独特なのが特性のある子どもなので、その特性に合わせてどう理解していけばよいかというのを細かく教えていくかたちです」
石戸:「『突出した才能がある子どもたちに対して、どのような支援をされているか具体的に教えていただきたい』という質問がきています」
津嘉山氏:「2E型の子どものフォローはやはり難しくて、得意なものはどんどん進めていけるのでそこは簡単ですが、得意と不得意の差が激しすぎて苦手なところのフォローは、普通の発達障害の指導よりもきめ細やかにしていかないと進まないという感じです。環境づくりも含めて保護者の協力も必要になってくるかと思います」
石戸:「その突出したところをどんどん進めていくということに関しても、やはり突出しているだけに難しさもあるかと思いますが、そこに関してはどのようなフォローをされているのですか」
津嘉山氏:「例えば、言語理解が突出しているとします。これは2E型に当たりますが、言語の力が得意なので、国語はどんどん進んでいくという良さもありますが、突出しているものには裏表があり、言語の力がそれだけ高いと考え方が主観的になりやすい傾向があります。客観視があまりできなくて、自分の実力や能力に見合わないことを口にしてしまい、結局できないということが結構起きるので、その辺は鵜呑みにせずに客観的に現実を見て、どのように進めていくかを決めています」
石戸:「それは指導サポートにスキルが必要かと感じますが、それを皆さんができているのは素晴らしいですね」
津嘉山氏:「Re学院は沖縄にあるので、先生は琉球大学の医学部生出身が中心です。東大出身や大手の進学塾出身の先生もいて、優秀な人を集めています。彼らに発達の見方、どういう観点で見ていくかというのをマニュアルで教えて、あとは実地で教えていくというやり方で人を育てています」
石戸:「例えばギフテッドの中には、学校ではなかなか扱わないような領域で才能を発揮したり、探究したりしているような子どもたちもいると思いますが、そういう子たちのサポートもされていますか」
津嘉山氏:「やっています。2E型の子どもが多いので、全科目的に先に進むというケースは少ないです。数学だけは小学校高学年でもう高校分野まで行っていて、他は学年相当というかたちが多いです」
石戸:「このような質問がきています。『先ほど中学受験をするお子さんも多いという話でしたが、入学後に適応できず不登校になってしまう、高校に進学する段階で肩を叩かれる高校中退などのお子さんはいないのでしょうか。大学入学後につまずくケースもあると聞きます。追いかけてフォローされているのか、またどのくらいそのケースがあるのか教えてください』というものです」
津嘉山氏:「大学入学までは追いかけていないですが、中学高校に入った後くらいは相談に来たり、こちらから最近どうですかと声を掛けたりはしています。特性を考えずに、ただ表面的な魅力に子どもが引かれて入学したら、通い続けるのが辛くなったということはありました。そもそも私立に関しては、合理的配慮はある程度行ってくれますが、公立に比べてレベルも高いですし、学習の内容も難しくて課題も多い学校もたくさんあります。なので、ある程度対応できるように準備をして入らないと、先ほどの質問者の方が仰ったような状況にはなります。準備がきちんとできていれば、それほど困ることは少ないのではないかと思います」
石戸:「同じ視聴者から追加で、『私立中学や高校の合理的配慮の交渉の支援もしているのですか』という質問がきています」
津嘉山氏:「はい、しています。例えばWISCなどを受けて、その書面はもらえますが、それに書かれていることは専門的で、具体的ではないことがあります。もう少し噛み砕いたら使えるのにというところを少し補足して書面にまとめて、保護者に渡すという支援もしています」
石戸:「このような質問もきています。『特性に合ったさまざまな配慮をしていると思いますが、それでもやはり合わない子どもはいないのか、そういう時にどういった支援をしているのか』というものです」
津嘉山氏:「合わないものは合わないので、それは仕方ないことだと思っています。支援してもらいたいと思って来て、それで合わないですと言われたら、それは無理に引き止めても仕方ないことですから、力が足りなかったかな、なぜ合わなかったのかな、もう少しこうできたかなと反省の材料にはしますが、そこまでです」
石戸:「全ての子が合うわけではないから、それぞれに合った場所をどう見つけるかが大切というお考えということですね」
津嘉山氏:「我々も絶対的なものとは思っていません。保護者の方が選べる道具のひとつだと思っているので、それが役に立つ道具と思うか役に立たない道具と思うかは相手次第の部分があります。多くの方に役に立つと思ってもらえるようなかたちにはしていますが、やはり難しい場合もあります」
石戸:「『学校の持つ集団の価値をどのようにお考えでしょうか』という質問です」
津嘉山氏:「仕事を選べばそこまで集団に参加しなくてよいという側面もありつつも、やはり多くは社会に出て集団に参加しないといけないので、先を考えると集団に参加する価値はあると思います。ただ、コミュニケーションや集団参加のスキルが磨かれる機会が今の世の中には減っていると思います。兄弟が少なかったり核家族だったりと。なので、今まで自然に獲得できたことをきちんと教えてあげないとできない子どもが増えています。ただ、先ほども言いましたがこれは結晶性機能といってやればできるようになる能力です。きちんと勉強して身に着け、集団に参加してもらいたいと思います」
石戸:「不登校の子が増えている、発達障害の子が増えているとも言われています。もちろん発達障害という言葉の認知が広がるに従って発達障害と認識できる子どもが増えているという側面もあるという指摘もありますが、一方でやはり絶対数として増えているという意見もあります。いずれにせよ、やはり特性のある子どもたちがいて、不登校の子どもたちが増えているという課題があるなかで、これから学校はどのように変わっていくべきとお考えでしょうか」
津嘉山氏:「典型的な例でいうと、東京都は特別支援学級を設けるよりも普通級に特別支援教育を導入しています。一方、大阪府は真逆で、支援を受けるにはいったん特別支援学級に在籍してくださいというのが主流です。これは分断教育になってしまうので、あまり良くないと思います。大阪の場合は一応普通級にも参加できるので、そういう意味では配慮してくれていると思いますが、私は特性の重さにもよりますが、できるだけ普通級に在籍しながらフォローしていくという形が望ましいのではないかと思います」
石戸:「保護者の方から『学校は嫌いだけれど今は一応行けています。どこまで頑張らせるべきか、もう行かなくていいよと言うべきか悩んでいます』というご相談です。保護者からの相談も多いと思いますが、どういう言葉をかけていますか」
津嘉山氏:「何が行きたくない理由かによるのではないでしょうか。小学生でしたら、たぶん漢字ドリルや計算ドリルの宿題が嫌なはずです。能力が高めである子どもであれば、なぜわかっているのに繰り返し宿題でやらなくてはいけないのかということが負担になっているでしょう。これが理由であれば、そのことを合理的配慮で相談した方が良いと思います。それ以外の、例えば雑音がうるさいとか刺激で疲れてしまうなどであれば、無理に学校に行かせる必要はないのではと思います。相談できることか、変えられないことかを仕分けしてから判断した方が良いですね」
石戸:「『保護者とのコミュニケーションをどのようにしているか』という質問がきています。子どもたちも苦しんでいるけれど、保護者も苦しんでいたり悩んだりしていると思います。保護者からどういった相談が多く、保護者の方々とどのようなコミュニケーションをとっているかについて教えてください」
津嘉山氏:「まず3カ月に1回は定期面談を行っています。相談されることは、学習の進捗もそうですが、やはり学校との付き合い方に関する相談が多いです。宿題が辛い、先生が理解してくれないなどです。そういった時には、WISCに補足をして学校の先生がわかりやすいようにして『もう1回相談に行きましょう』とアドバイスをしたり、『宿題が負担になっているので中身を具体的に見直してもらいましょう』といったりと、こういったアドバイスが多いですね。宿題をやらないというのは学校は受け入れてくれないので、やるけれど自由学習にしてもらうなど、具体的な提案としてアドバイスすることが多いです。やはり学校との付き合い方が皆さん悩まれているところだと思います」
石戸:「さきほどの保護者の方へのコメントだと思いますが、『学校は命をかけたり、傷つくことが分かっていて、無理していく場所ではないですね』というコメントをいただきましたので、紹介させていただきます。
体制についても質問がきています。『生徒1人に対して何人くらいの教員や職員を配置しているのか』というものです。他のフリースクールにも参考になると思うので、教えていただければと思います」
津嘉山氏:「今は1クラス10人から多くても15人くらいです。先生2人体制です」
石戸:「なかなか支援が行き届いていない子どもたちに対する解決法として、ホームスクーリングが広がることが一番よいのではないかという話がありました。それを踏まえての質問だと思いますが、『ホームスクールがなかなか実施できない家庭ではどのように学びを進めていけばよいでしょうか』という質問がきています。共稼ぎの家庭も増えていて、やりたくてもできないというご家庭もあると思います。そういう時にどのようなアドバイスをされていますか」
津嘉山氏:「うちの場合は家庭でやる子しか相談がこないので、なかなかそこのアドバイスは難しいかもしれません。ホームスクーリングは、家庭教師やオンラインで学習することを指しているので、保護者がやるのは難しいです。何か公的な支援でもよいですが、きちんと家で学べるような制度が整うのが理想だとは思います」
石戸:「最後に、今後の展望や不登校で苦しんでいるご家庭への応援のメッセージ、学校教育の変化に向けてのメッセージなどをお願いします」
津嘉山氏:「まずは、Re学院を大きくしていくことが目標になります。このサービスが広がることが社会への貢献に繋がると思いますので、それを目指して尽力していきます」
最後は石戸の「一人でも多くの子どもたちが学びを止めることなく、そして幸せに日々の生活が送れるような環境が作られることを願っています」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。