【期間限定公開2024年10月18日まで】生成AIでリベラルアーツの学びは100倍、楽しくなる
第164回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2024.10.4 Fri
【期間限定公開2024年10月18日まで】生成AIでリベラルアーツの学びは100倍、楽しくなる<br>第164回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2024年87日、株式会社エクサウィザーズ Chief AI Innovatorの石山 洸氏を招いて、「生成AIによる新たな学びと、教育分野での可能性」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、石山氏が生成AIを活用したリベラルアーツの新しい学びについて講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子氏をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

「生成AIによる新たな学びと、教育分野での可能性」

日時:2024年87(水) 12時~1255

講演:石山 洸氏
株式会社エクサウィザーズ Chief AI Innovator

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

石山氏は、約30分の講演において、生成AIを活用した新たな学びの取り組みについて話した。主な講演内容は以下のとおり。

生成AIによる新たな学びと教育分野の可能性について、まずは音楽の授業を例にご説明します。従来、音楽の授業では、児童生徒が課題の楽曲を伴走に合わせて歌うなどの内容での指導がされていましたが、生成AIを活用すると「(新たな)楽器そのものを生成する」ことも可能になります。そうなると「音はなぜ鳴るのか」といった視点でプログラミングをさせるといった新たなかたちの音楽の授業ができるようになります。音の大きさや音の高さ、音質がどうやって決まってくるのかまで考えると、周波数についての理解も必要です。その延長線上で、三角関数を教えることもできるようになるなど、これまでの授業が「より深い授業」になっていくと感じています。

 

また、あらかじめ決まった楽曲を演奏したり合唱したりするだけではなく、生成AIを使いながら自分で作曲することもできるようになります。楽譜も生成できるので「楽譜のデータ構造はなぜこうなっているのか」、「生成AIで作曲すると楽曲のデータ構造は従来とどう変わるのか」といったことを考える授業、生成AIと児童生徒が一緒に演奏する授業なども可能になります。

 

実は、ChatGPT登場した頃、ChatGPTを使って作曲をしましたが、「演奏してください」と指示すると「できません」という状況でした。そこで、音を鳴らすソフトウェア、つまり演奏するソフトウェアをChatGPTと一緒に作り上げたこともあります。作曲した楽曲の楽譜を「もう少しジャズ風にアレンジしてください」と指示すると、その通りに修正してくれます。大規模言語モデルが過去の作曲家についてのさまざまな情報を知っているので、例えば、まずは著名な作曲家に似せた曲調で作曲してもらい、それをまったく別の作曲家の曲調のように変換させることもできます。その意味では生成AIを活用していくと、音楽の楽譜のデータ構造も変わっていくと考えられます。

生成AIの活用でリベラルアーツの学びはどう変わるのか

このように音楽の授業で生成AI活用すると可能性が次々に広がっていきます。そこで、現在は、リベラルアーツの領域で生成AI活用した学びについての可能性を探っています。リベラルアーツでの学びとは、これまでは「本を読んで教養を得る」というのが一般的でした。私は仏教が好きなので、例えば「般若心経の色即是空の概念を知りたい」となると、般若心経を読んで色即是空とはどういう意味なのだろうと考える、あるいは解説書を読んでみるというのがこれまでの学びでした。それが、生成AIを使うと、例えば「般若心経を宮沢 賢治風の詩にしてください」、「ミスチル(Mr.Children)風の歌にしてください」、ライ麦畑でつかまえての「サリンジャー風の英語の小説にしてください」、「ダ・ヴィンチ・コード風の映画にしてください」などとできるようになります。

 

あるいは「数式で般若心経を表現するとどうなりますか」など、多角的に生成したものも確認できるので、それらを全て考え合わせていくことで「色即是空とはこういうことだったのか」と広い視点で理解できるようになるでしょう。この方法論は量産できるので、般若心経が終わったら法華経や華厳経を考えてみようというように広げていけるのです。

▲ スライド1・般若心経を生成AIで楽しく学ぶ

 

試しに、般若心経を宮沢 賢治風の詩にしてみると、「星の流れる夜空の下、全ての存在は空であり、その本質は空っぽ」と始まります。「既知もなく未知もなく」と続いて、最後に「この真理を認識し、心の中で唱える言葉」と出てきます。「ゲートゲートパラゲート」です。般若心経を読んでいるだけよりも、宮沢 賢治風の詩にしてみると少し違った角度で理解することができます。

 

次はミスチル風の歌にしてくださいと指示しました。

▲ スライド2・生成AIが作成した
ミスターチルドレン風の般若心経

 

「全てのものは空のように無常で形なきもの」といったフレーズは、本当に歌詞としてありそうですね。このように、もともとの般若心経の概念にあまり興味がなかったとしても、好きなアーティストのフィルターをかけて対象の概念を変換することで興味を持ちやすくなるようになり、理解しやすくなるといった側面も出てくるかと思います。

 

そこからもう少し発展しまして、実際にサリンジャー風の小説にして、「モンクス・アンド・ザ・シティ」というタイトルで私のブログで連載しました。それをさらに日本語に訳すと、「ニューヨークの友だちから『K』と呼ばれていた空海は、悟りを求めてこの街にやってきたわけではない。悟りはすでに高野山で見つけていた。しかし、人生の絶え間ないダンスの本質を求め、そびえ立つ鋼鉄の巨人や広々とした街路がある都市のリズミカルなうなり声に、彼は引き込まれた」となりました。日本語でもこのように生成できるのが、とても興味深いです。

 

ただし、こうした般若心経や色即是空の解釈は正しいのかどうかも気になります。ここは、いわば「ハルシネーションとイノベーションの瀬戸際」ともいえます。

▲ スライド3・サリンジャー風の
小説にした般若心経

生成AI活用して要素理論を導き出す

次に「モンクス・アンド・ザ・シティ」の流れで、ダ・ヴィンチ・コード風の物語も作ってみようということで、華厳経をテーマに「コズミック・コード」というタイトルで、華厳経シリーズを生成してみました。

▲ スライド4・ダ・ヴィンチ・コード風の
小説にした華厳経

 

「冷たい夜のスタンフォード大学、天文学者アダム・ウェイバリーは新しい天体観測技術で得られたデータを眺めていた。その中に、予期しない星雲の形成があった。これは仏教の経典『華厳経』に描かれた『網の中の宝玉』と酷似していた」といった書き出しです。ストーリーとしては、メトロポリタン美術館で曼荼羅の研究をしているエマ・レクランというキュレーターと出会って、二人が一緒に古代のアジアの仁をめぐる旅に出発するのですが、なぜか秘密結社に襲われるといった展開です。

 

ダ・ヴィンチ・コードにそっくりなストーリー展開ですが、生成されたものを読んでいくと、「本当にコズミック・コードという数式自体があるのではないか」と思えるようになってきました。華厳経と法華経と般若心経の中の要素を整理していくと、「物質集合Oを任意の部分集合O1と精神集合EからOへの任意の写像Fに対して、FE1)=01となるようなEのある部分集合E1が存在する」ということを言っているのではないかと気がついたのです。

 

ここに到達するまでは、複数生成したものを言語化していって、さらに数式に要約するという作業をしたのですが、この数式を今度は生成AI入力して、「この式が成り立つための最も緩やかな条件を教えてください」と尋ねると、「この関数Fが数学的に全射という特徴を持っていることになります」と出てきました。全射です。「精神から物質への写像は全射だったのか」ということです。それが見つかったのです。全射について軽く触れておかないと消化不良になるのでお伝えします。

▲ スライド5・全射の定義

 

全射とは、自分が実現したい物質世界、すなわち未来(のようなもの)があったときに、実際にその世界をリアルに作るための精神の集合が、必ず存在するようするにある物質を作ろうと思ったときには、それを実現するための精神(のようなもの)が必ず存在しているというのが全射の概念です。

 

仏教の世界の中では、般若心経を唱えるように自力で救済を求めるという考え方も、他力本願もありますが、実は「自力と他力の関係性がどうなっているのか」がよく分からないということで、千年くらい論争が続いています。それを、生成AIが導き出した体系で捉え直してみると、精神から物質への集合が全射であるから、いかなる未来も実現できるという即身成仏の立場にも立っているということが分かってきます。生成AIを活用したことによって、千年もの間の仏教における自力と他力の理論が抽象的に、ある意味で統合されたかたち、空海と親鸞と道元の理論が生成AIよって統合されたかたちになります。

 

そして、ここで私の現在の取り組みについて少し触れます。一休さんという漫画のモデルとなった一休宗純は、今で言うところの、かなりファンキーな人物だったらしく、幼少の頃から「精神から物質への集合が全射だと考えるのは簡単だ」と言ったり、「もしこの世に仏様が本当にいるのだったら、僕が川に身を投げても必ず救ってくれるはずだ」と何回も川に身を投げたりしたそうです。そして残した言葉が「仏界に入りやすく、魔界に入り難し」。この魔界という概念をうまく文学にしたのが川端 康成で、ノーベル文学賞を取った時のスピーチの中でも「私の文学作品は魔界文学である」という話と、一休宗純の話をされています。精神から物質の集合が全射であるということを、抽象度の高い数学でアプローチし、要素論理をうまく使いながら、一休宗純の世界と川端 康成的な世界を先ほどの親鸞と空海と道元の議論にさらに統合できないかといったことに、現在取り組んでいます。

潜在的に望んでいる未来を生成AI引き起こす」ことが可能に

次に、生成AI「なぜウェルビーイングが向上していくのか」をひもといていきます。自分がやりたくないことを生成AIで自動化できるとか、自分の能力だけではできなかったことを生成AIで実現できるようになるといったことがありますが、さらに重要なのが、自分が潜在的に望んでいる未来を「生成AIで引き起こす」という側面です。そこには、いわゆる計画的偶発性理論があると思いますが、これまでは「スーパーマンのような人でないと偶発しない」というのが問題でした。ところが生成AIを使うとみながスーパーマンになれますので、生成していけばさまざまなことが偶発することになります。これを「生成的偶発性理論」と呼んでいます。生成AIを活用すれば、こうしたことを引き起こせるのがとても面白いと思っています。

 

生成AIを活用した学びは、まさに探究学習です。仏教、日本史、国語で川端 康成の魔界の話、サリンジャーで英語、数学の話があって、ミスチルの音楽、ウェルビーイングを測定する保健体育に関連する内容も関わってくる、総合的な探究学習です。生成AIを使うと、生成物が画像や楽曲になったり、英語や日本語になったりとマルチモーダルで、さまざまな教科の要素をうまく含みながら探究していくことができるのが面白いのです。

▲ スライド6・生成AIの活用は
探究学習になっている

 

こうした一連の取り組みをブログなどで発信していたら、大正大学から取材がきて仏教タイムズに載りました。それを読んだ高野山の先生が、AIについて講義してくださいということで講義をさせていただきました。すると、フォーブスや日経新聞が「現代の空海」と書いてくださるようになって、結局、NTTと高野山とエクサウィザーズの三者で高野山メタバースの研究開発をやっています。最初はフィクションを生成していても、そのフィクションからノンフィクションの取り組みが生成されていくのが、生成的偶発性理論の興味深いところです。

 

こうした取り組みを「知の深化」、「知の探索」、「知の爆発」という視点で見ていくと、生成AIを活用することで最初は業務が効率化され「知の深化」が進みます。その後、般若心経をミスチル風にしたように生成AIで探索する時間があり、この最も重要な探索の時間を経て最終的には超仏教のような体系、高野山メタバースのような実務に還元されていきます。この探索の時間が非常に重要で、「生成AIでミスチル風に歌っていて石山さん楽しそうですね」などと言われますが、楽しむことも探索では極めて重要で、そういう時間を教育としてどうやってこれから作っていくのか、そこがとても大切になってきます。

▲ スライド7・教育において知の探索が重要

 

企業では、生成AIで既存のプロンプトに穴埋めすると業務が効率化するということで、穴埋め問題を解くのに生成AIを活用しているに過ぎないようです。既存のプロンプトの穴埋めではなく、自分の頭で考えて新規のプロンプトを作ることが重要です。そこで、実験をしました。

 

ある日本の大企業の入社3年目の社会人とのワークショップで、「ピザが好きな採用候補者Xさんを魅了するようなピザを生成して、採用できるようにしてください」という課題を出したら、ほとんどの人がユニークなピザを生成できます。ところが、ピザではなく「ある採用候補者X2さんの自己紹介をもとに、X2さんを魅了するようなプレゼントを生成して、採用できるようにしてください」とすると50%くらいの人しかできません。

 

さらに採用という目的をなくして、「採用候補者X3さんのウェルビーイングが向上するものをプレゼントしてください」とると10%くらいの人しかユニークで面白いものを生成できなくなってしまうのです。もっと進めて「X4さんはあなた自身です。自分のウェルビーイングを向上させるためのものを生成してください」という課題を出すと、もう誰も面白いものを生成できなくなります。

 

いわゆる偏差値教育、大企業の中で言われたことしかやってはいけないという教育を受けてきているので、新しいプロンプトが打てないのです。自由度が高い時に何も生成できないという問題があり、そういった部分の教育を変えていかなくてはならないのです。その意味で、般若心経をミスチル風に変えるというような探索の時間をどう作っていくかが重要になってきます。

自ら問いを立ててオリジナルプロンプトを作成する力を伸ばす

生成AIの活用では、なぜ探索の時間、探索の思考が重要なのかを説明します。横軸が生成AIの活用スコープで縦軸がビジネスインパクトです。

▲ スライド8・生成AIの活用スコープが
狭いとROIが出ない

 

初期検討の段階で、つまり既存の検討スコープの範囲では面白いアイデアが全くなく、ROIの分岐点より下のアイデアしか出てこないのです。そこで一回、般若心経をミスチル風にというような探索をすると検討スコープが広がります。その中で手堅いアプローチから始めて、先ほどお話をしたように超仏教に取り組んだら、最後には高野山メタバースの取り組みに発展したように繋がっていきます。狭い思考から広い思考に転換させることがとても重要なのです。

 

ここまで生成的偶発性理論の話をしました。横軸がアウトプットの価値で縦軸が頻度とした場合、今までのアウトプットの平均はプラス3からマイナス3くらいの間にあったのですが、生成AIを使うとプラス17からマイナス17までの間では考えられるようになります。17を出した瞬間に人生が変わります。これは重要で、生成AIの進化のスピードは不確実でかつアウトプットされるものも確率過程を伴っているので不確実で、プロブレムサイドもソリューションサイドも不確実で、それをフィットさせるという、不確実なものと不確実なものを突き合わせるという業務内容に現代が変わってきています。

 

目には目を、歯には歯を、分散には分散をということで、生成AIを使いながら不確実な世界の中でアウトプットを生み出していかなくてはいけないというのが、デフォルトの働き方になっていきます。なのでそれに対応した教育になっていくのが重要です。即興的な偶発性を伸ばすような教育がこれから重要になっていきます。2024年4月からはドコモgaccoのチーフAIオフィサーも兼務しておりまして、そういった能力を鍛えるAIプロンプト思考、自ら問いを立ててオリジナルプロンプトを作る力を育んでいきます。当然リベラルアーツを混ぜていきます。さらにプラスアルファで、新規のプロンプト、オリジナリティの高いものを作れるようになった能力を持った人材が地方に出向き、地域の社会課題を解決するというビジネスプログラムを作って実践しています。こうした取り組みも今後、重要性が高まっていくと考えています。

 

>> 後半へ続く

おすすめ記事

他カテゴリーを見る