オンラインでしかできない学びと、学校現場でしかできない学びのバランスが重要
第163回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2024.9.27 Fri
オンラインでしかできない学びと、学校現場でしかできない学びのバランスが重要<br>第163回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は、2024年731日、スクールエージェント株式会社 代表取締役 田中 善将氏を招いて、「教育における生成AI利用の本質~完全個別最適な探究へ~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、田中氏が生成AI、主にChat GPTの教育現場での活用状況について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

「教育における生成AI利用の本質~完全個別最適な探究へ~」

日時:2024年731(水) 12時~1255

講演:田中 善将氏
スクールエージェント株式会社 代表取締役 

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

田中氏は、約30分の講演において、教育現場における生成AI活用の取り組みについて話した。主な講演内容は以下のとおり。

スクールエージェントは、教育現場でのICT活用を促進するためのコンサルティングや検証などを含む各種サービスを提供しています。この2年間、Chat GPT 3.5登場した頃からは、教育現場での活用について取り組んできました。

 

その取り組みを通じて感じたことを、結論から言ってしまうと「オンライン上で完結する学びと学校現場でしかできない学びの違い」を理解すること、そこが重要であり、ポイントになると思っています。「潜在空間で完結する学び(知的探究)と学校現場でしか培えない学び(知的探究)の違いとは●●●●である。」というように、●●●●に入る言葉、この概念をしっかり持つということが、教育において重要ではないかと考えています。

▲ スライド1・オンラインで完結する学びと
学校現場でしかできない学びの違いとは

まずは従来教育強化」型で生成AIを使ってみる

それでは、代表的な生成AIについて確認していきます。まずはChat GPTです。Chat GPT、まさに最近、アップデートがあり、スマートフォン版のアプリでは、もうテキストを書かなくても音声でやり取りすることができます。言語設定を英語にすれば、授業で英会話の学習にも使えます。フィードバックもくれるので、先生が一人ひとりにフィードバックするのではなくて、生成AIを使って生徒たちが英語で話し、個別にフィードバックをもらえるようになります。GoogleGeminiでも同じように聞くことができます。他にも生成AIは数多くあり、とても便利になってきているので、皆さんもすでにお使いだと思います。

 

私たちが、なぜ生成AIを勉強した方がよいのかということをまとめると、全国の公立、私立の小中高、大学もそうなのかもしれませんが、圧倒的に教員が足りていない。優秀な先生が少ない、雇いづらいという問題があると思います。しかも、先生の業務が圧倒的に多いので、業務を減らしていかないと先生方が続かずに疲弊していってしまいます。子どもたちのためにと働いていても、なかなか捌ききれないという感じです。

 

このことは、今日のテーマでもある教育の「個別最適化」を考えたとき、優秀な先生の確保と個別最適な学びを同時に実現するには、生成AIが本質的な解決法になるだろうと私は予想しています。

 

具体的な活用方法を説明します。まだ生成AIに慣れていない、使ったことがないという先生方がマジョリティを占めていますので、開拓性と計算量という2軸で生成AIを捉え、従来教育で「使えるところから使ってみよう」という考えで始めるのがよいと思います。「従来教育強化型」での活用です。

▲ スライド2・生成AIの
教育における活用ビジョン

 

生成AIは計算機であり、データサイエンスの領域で非常に有効で有益なツールですが、全ての教育現場で使えるというわけではないと思います。いくつか事例をご紹介します。

 

実は、小学校1年生の私の娘の事例です。サイコロを作ったので、サイコロで出た面に一番多く彩られている色でポイントがもらえるゲームをしたいと言ってきたので、サイコロを振って記録して、何色が出たかなというのをやってみました。娘が設定したポイントがもらえたのですが、まだ1年生なので計算ができないのです。十回分のサイコロの結果のポイントを足し算するのがまだできなくて、「計算して」と言ってきました。そういった悩みを生成AIに相談したら、パイソンで計算してくれるコードを書いてくれます。ゲームを記録するだけで点数が出るというアプリケーションを作りしました。このように小学校や中学校の勉強の中で、データサイエンスの領域における数学の統計分野の考え方がすでに入り込んできています。これは、私たちが小学校、中学校の時にはなかった変化です。

 

次は公立中学校の事例です。千葉県にある飯山満中学校では何回か研究授業が実施され、その中の事例です。特別支援学級での国語や美術での事例です。

▲ スライド3・飯山満中学校での
Chat GPTの活用事例

 

意気揚々と学んでいますが、先生たちも気持ちを込めて指導なさっている印象でした。一人ひとりに本当は横についていたいという思いがあるのですが、Chat GPTを一緒に使いながら国語の授業をしていました。内容は季節に合わせて適切な和歌を創り、季語を学ぶという授業だったのですが、子どもたちに対するフォローにChat GPTを活用すると、圧倒的に授業を進めやすくなるということで、特別支援学級でも使われ始めているという事例です。

 

美術の時間では、自分が作ったナップサックに付加価値をつけてプレゼンテーションをしようという授業でしたが、プレゼンテーションの内容をChat GPTと相談しながらグループで発表してみたという事例です。従来の教育の中でもすっと入って、使われ始めているということがおわかりいただけるでしょう。

Chat GPTで一人ひとりに合わせた個別最適な学びが可能

先に説明した開拓性と計算量という2軸のうち、子どもたちのアイデアを発散させていくようなChat GPTの使い方は開拓性を拡大していく方向ですが、計算量を増やす「学習支援深化型」での活用もあります。例えば「今から三平方の定理を学ぶための小テストを私に出してください。4択問題がよいなと思っています」とChat GPTに言います。すると、「直角三角形の一辺が3センチ、もう一辺が4センチのとき、斜辺の長さは何センチですか」という問題が出ます。1問目は正解しますが、2問目は敢えて間違えてみます。「問題の1Aが答えだと思います。問題の2はこれもAが答えだと思います」と言うと、問題1は正解で問題2は間違いですと出ます。出した答えに対してフィードバックをくれます。

 

問題を解いていく過程で「私にはこの問題は簡単すぎるので、三平方の定理を応用した何か難しい問題を出して」と言うと、難易度を上げた問題が出されます。難しい問題にチャレンジするときに、「問題の1番ですが私には難しいので少しでよいからヒントをください」と言うとヒントが出てきます。このように、それぞれのニーズに応じたやり取りをすることができます。こうして計算量を増やしていくと、だんだんと子どもたちの状態に合わせた学び方ができるようになってきます。もちろん既存のAI製品もこうした機能を実装していますが、Chat GPTはより一人ひとりにフィットしやすい印象です。これが小テストでの事例で、各学校で教科ごと、単元ごと、先生ごと、子どもたちのニーズごとに問題を出してくれます。

 

数学の事例をお見せしたのですが、中学の技術や高校の情報で教える「プログラミング」についてもChat GPTが得意とする領域です。教科書に書いてあることをみんなでなぞるような授業よりも、ゲームを作ってみようとか、アプリを作ってみようというところから入って授業するようにしています。今まで1学期かけて教えたことが、3週間くらいでクリアできてしまうようなスピード感で進んでいるということは、非常に大きな効果です。

 

高校情報1中で、例えば「相関図を作ろう」、「線形回帰をしてみよう」といった実習もしながら、子どもたちに勉強量と勉強時間を記録させ、テストの結果をデータとして取らせて、それらを個人情報が出ないような形にして分析すると、「このクラスの子どもたちはテストで何点取りたいと思ったときには、何分勉強しないといけないか」を予測できるようにもなり、そういうプログラミングにもチャレンジできています。非常に時間を有効活用できたという気がしています。

AIを使う使わないか」ではない社会問題を考えるにはフィールドワークこそ重要

データサイエンス、データ分析での活用事例をご紹介します。高校で企業とコラボレーションした「企業探求」の事例があります。

▲ スライド4・企業とコラボレーションした
企業探求の取り組み

 

企業に入り込み、マーケティング調査をするという授業の一環でしたが、子どもたちが集めてきた定性的なデータや定量的なデータをもとに、どういう切り口で分析したいかを先に決めて生成AIにアドバイスをもらいながら、アンケートを要約してもらったり、集計してもらったりします。

 

こうした活用の中でも学校でしかできない体験というのが多くあると感じています。例えば、社会問題を生成AIと一緒に考えて解決策を子どもたちと練ってみました。ただ、ほとんどの子どもは、日本から出たことがありません。このことは、やはり社会問題を考えるうえで大きく影響します。課題がある現場に行ったことがない子がほとんどなので、どれだけ数字、データを分析してみても、研究するところまでは全然、辿り着かないという感じです。探究と呼ぶにはまだまだ浅い。前段階の状況です。私自身、海外で学校を作ったこともありますが、圧倒的な貧困やどうしようもない社会の未成熟に触れると、もっと意思を持って学ぼうとする意欲が湧いてくるものです。その意味ではメタ認知は、やはり学校でしかできない体験であり、重要です。国内でも地方に行く、社会問題が起きている現場に足を運び、触れてみるというフィールドワークこそが重要だということにも気づきました。SDGsを授業で扱っても、平和すぎて当事者意識を持つ体験に飢えているというのが日本の学校の実態で、こうしたことが生成AI使うか使わないかに関わらず、課題として存在しています。

 

その他にも学校での避難訓練をテーマにデータ分析をした事例もあります。避難訓練は全学校で実施しますが、教室から廊下に出て階段に行くまで何秒かかるかといったシミュレーションをしてみました。

 

▲ スライド5・Chat GPTによる
避難訓練のシミュレーション

 

普通のプログラミングの授業では、ここまではできません。教えなくてはいけないことが多すぎるのです。そこで、どのように実施したかを説明します。まずは何秒刻みで微分するかを設定して、教室から出るときの一歩の歩幅は何メートルか、何個のステップでシミュレーションするかというのを子どもたちがそれぞれ計測して設定します。足のサイズや、避難するときに前の人と何メートル離れるかといった設定をして、時間方程式を立てて実行させると、教室の中から何秒で外に出られるかが再生ボタン付きでできるようになるというシミュレーションです。Chat GPTに相談しながらコードを理解したり、組上げたり修正したりすることにチャレンジしています。なかなかリアリティのあるシミュレーションで、しかも全国どこでもできます。子どもたちも実際に避難してみて、かかった時間とこのシミュレーションでやってみた避難の時間とを比べてみて、どのくらい差分があるのか見て、差分が生まれた理由の考察をするとプログラムの実用性を評価できます。とても楽しい授業でした。学校の中で実際にシミュレーションもやってみたという実例です。

 

このシミュレーションを応用して、タイタニックの乗客名簿のデータをChat GPTと一緒に前処理して、予測モデルを形成することもできます。簡単に結論を示すと、女性が生き残りやすく、かつ高いチケットを買った人ほど残りやすいというものでした。あと家族連れの方が生き残りやすいという結論に辿り着くのですが、実際に宿題で映画を観るように伝えて、このデータで出た生存予測モデルとその映画の情景を見比べさせて、どのくらいリアリティがあるのかを考察させました。これもChat GPTがないと絶対に無理です。このような高度なことを理解することは、従来の授業だけでは難しいと感じています。

生成AI答えをもらうものではなくアイデアを磨くためのもの

情報2という科目では、架空のクラスを用意して、生成AIを活用して「今から、架空のクラス20人分の子どもたちのペルソナを準備してください。10人ずつ男女に分かれたクラスです。まずは個性を設定してください」と言うと、架空のクラスのデータを生成し始めます。

▲ スライド6・生成AIが生成した
架空のクラスメートのデータ

 

そして、「このクラスで文化祭の革新的な出し物をひとつ決めたいと思います。それぞれのペルソナに応じた会話が起きると思いますが、その会話を出し物が決まるまでの会話のプロセスをシミュレーションしてください」と言うと、それぞれの個性に応じた会話をし始めます。

 

▲ スライド7・生成AIによる
クラスメートの会話のシミュレーション

 

会話をある程度まとめていくと、その会話をもとにこのクラスの人間関係をネットワーク図で表してみようとか、「ペルソナを変えてみて、ちょっと偏った性格の子を作ってみたときにネットワーク図がどう変わるのかを確認してみよう」というようにノードの集まり具合や集積具合がどう変わるのかという実験をすることもできます。

 

とはいえデータサイエンスについては、男子は好きですが、若干、「女子受け」しないので、身近な現象と繋げる工夫もしています。具体的には、アロマオイルをクラスに買い与えて、アロマの効果が睡眠アプリや主観的な分析でどれぐらい変化があるのかを追っています。みんなで寝る前にレモンの匂いを嗅いで、その次の週にデータを集計してみます。次はまた違うグレープフルーツの匂いを嗅いで寝てみようということで、1週間で匂いを変えてデータを取っている最中です。それが睡眠の質や感情の変化にどれぐらい影響を及ぼすのかということをモデリングして、今度はこういう効果が欲しいと聞いた時に、あなたにぴったりなアロマはこれですよと回答を返すようなAIを作ってみようということで、みんなで試しています。勉強するだけでなくて、身近な例に繋げる探究というのが始まっているという感じです。

 

Chat GPTを例にたくさん紹介してきましたが、子どもたちも生成AIを用いて答えをもらうのではなくて、自分のアイデアを磨いていくものだということに薄々感づき始めているという状況です。皆さん思い出してください。学生の頃、先生に与えられた課題ばかりやってきたと思いますが、今も変わっていない学校がたくさんあります。子どもたちは誰かに与えられた課題はつまらないと感じるのです。だから、自分で問いを見つけるのが大事になってくるのですが、この問いを見つけるときにも例えば先行研究レビューをやっています。どのようなテーマでもよいということにして、子どもたちにニュースなどを読ませたり論文を読んでもらったりして、先生方では絶対教えられない宇宙の概念などを先行研究していきます。私たちではこんなのはフィードバックできないわけです。論文と論文の要約や分析、論文と論文の間の違いや共通項をちゃんと探し出して、最後は自分で課題を設定していくところまで進んでいきます。こういうところも、Chat GPTがあるからこそ辿り着けると思っています。

オンラインでしかできない学びと学校現場でしかできない学びを再構築すべき

問いベースの探究や総合学習をやろうとすると、そこには大きな壁があります。それは、先生一人で40人を相手にしていることです。つまり自由に学んでよいと言うと、40人が40人それぞれの方向に進むので、時間内では捌ききれないのです。そこをChat GPTと一緒に進めます。当然、間違った情報も返してきたり曖昧な情報を返してきたりするのですが、そこに関しては私たちがしっかりファクトチェックをしていきます。情報源が信頼できるのか、最新なのか、複数の情報源が一致しているのか、専門家はどのように言っていて、その専門家と企業の利害関係はどうなのか、データはちゃんとエビデンスが担保できているか、そういったことを子どもたちと一緒に考えていきます。

 

生成AIは、2016年くらいまではレベルが高くはなかったのですが、多言語モデルではもう間もなく人類の一番賢い人の脳の能力を超えるだろうと言われています。弁護士と医者の資格を同時に取るような知能が現在、無料で使える、有料にするともっと手厚く使えるという状況です。2025年には18ビリオンに到達するモバイルデバイスの数ですが、このデバイスそれぞれで人工知能にアクセスできるというパラダイムにおいて、教育が人間中心の教育から計算機を使うことが当たり前の教育になっていきます。探究すること、研究することも計算機を中心になっていくというように予想しつつあって、教育のイズムが変わりつつあるというところです。これはもはやパラダイム変化の、さらにその上にあることだなと思っています。

 

教員としては、児童生徒に何ができるだろうかという問いが今、目の前にあります。改めて理念を公開して、潜在空間でオンラインでできる学びというのは学校で再現する必要があるのかということです。これはパワーワードとして聞こえてしまうかもしれませんが、我々はよくよく考えて、オンラインでしかできない学びと、学校現場でしかできないフィールドワークのバランスを再構築しないといけません。今の時間割でこのまま行ってよいのか。もうみんな気づいています。そこに向かっていくということを、教員の皆さんと一緒に考えていて、そんなワークショップを届けています。

 

>> 後半へ続く

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