「人間+AI」で児童生徒が「自らの能力」を「自分で高めていく」
第158回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2024.8.23 Fri
「人間+AI」で児童生徒が「自らの能力」を「自分で高めていく」</br>第158回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2024522日、早稲田大学教職大学院・教授の田中 博之氏を招いて「AI時代に求められる教育とは~生成AIの実践事例を通して考える」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では田中氏が、小中高で生成AIを活用した先進的な授業の実践事例を紹介。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

AI時代に求められる教育とは~生成AIの実践事例を通して考える」

■日時:2024年5月22日(水)12時~12時55分

■講演:田中 博之氏
早稲田大学教職大学院・教授

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

田中氏は約30分の講演において、小中校での生成AIを活用した先進的な授業の実践事例を紹介し、授業で生成AIを活用するときの「メタ認知力」の重要性について説明した。

生成AIの進化は凄まじく、ChatGPTは大学の共同研究者と言っても良いほどの知識、知恵、情報を持っているといえるでしょう。そこで20237月頃から教育分野に応用できないかと研究に取り組み、小学校、中学校、高校の先生方と一緒に勉強してきました。生成AIは先生方の校務の作業効率向上にも使えますが、一方で学習の効果を高めるAIドリルといった練習問題の作成、児童生徒の創造力の向上にも使えます。企業から続々と新しいソフトウェアも出されており、現在はまさに学校教育におけるAI元年といえるのではないでしょうか。

 

▲ スライド1・AIを活用することで、
作業効率、学習効果、創造力の
向上が可能になる

 

これからの教育では、児童生徒が自らの課題解決や探究型の学習、プロジェクト型の学習に生成AIを使いこなしていくことが求められます。生成AIを活用することで育みたい資質や能力としては、問題解決力や論理的思考力、批判的思考力、総合表現力、創造力をはじめ、修正改善力やメタ認知力、知識活用力などがあります。

 

▲ スライド2・AI活用で
育てたい資質・能力

 

これらの資質・能力については、これまでも探究型学習やプロジェクト型学習を通じて子供たちが身に付けることができるように取り組んできましたが、生成AIAIを活用することでより効果的にこれらの資質・能力を育むことができると期待されています。

 

とくに生成AIには、テキスト、音声、画像、動画など複数の異なる情報源から情報を収集し、統合して処理する「マルチモーダル」な機能があります。言葉を生成するだけではなく音楽や動画などマルチメディアに対応して生成できるので総合表現力を育むには適しています。

 

それでは、具体的に教育の分野で生成AIをどう活用できるのでしょうか。まずは、教師の生成AIの活用について考えます。ChatGPTは最近「オムニ(GPT-4o)」にバージョンアップしたことで、さらに精度が上がり、試験問題や教材プリントの作成に有効に活用できるようになりました。生徒のレポートを判断基準表「ルーブリック」に基づいて評価することも得意です。探究的な学習や総合的な学習、課題研究プロジェクトで生徒たちに退出させたレポートの採点をしてくれるチャットボットは、どの先生も「欲しい」と言います。私たちの研究室でも今、作っておりますので、もうすぐお見せできると思います。

 

▲ スライド3・教師の仕事の
さまざまなシーンで生成AIを活用できる

 

児童生徒の活用では、例えば自分が作成したレポートを生成AIに評価してもらって修正するといった使い方もできますし、国語の物語作り、音楽の作曲、絵画の制作や鑑賞などにも活用できます。

 

▲ スライド4・児童生徒のAI活用イメージ。
広い範囲の学習支援に活用できる

 

ただし、児童生徒が生成AI活用するときには、すべてを生成AIに「丸投げ」してはいけません。昨年、読書感想文を生成AIにまるまる作成してもらったり、大学でのレポート作成を生成AIに完全にゆだねたりすることが問題になりました。丸投げは禁物ですが、子供たちの創作を助け、修正改善などを通してレベルアップしてくれるツールとして使うことは適切であると考えられます。そのことで児童生徒の個性や芸術性がより高まることも期待できます。これからの社会でも求められてくるものだと思います。

今後はこんな教育もアリなのでは。授業での先進的なAI活用例

世田谷区立瀬田小学校6年生で行われた取り組みをご紹介します。

 

▲ スライド5・世田谷区立瀬田小学校
6年生の図画工作科でのAI活用事例

 

図画工作科が専門の中根 誠一先生が、児童たちが「美しい絵とはどのような構成で成り立っているのか」、「どのように鑑賞すればいいのか」を考えながら、「自分たちが創った絵をお互いに鑑賞し合う」という授業で生成AIを活用しました。

 

図工の授業では、これまではゴッホやピカソの絵や著名な浮世絵や襖絵などを鑑賞することが多かったですが、この授業ではAdobeの生成AIFirefly」を使って児童が絵を創作し、お互いに鑑賞し合いました。Fireflyに「桜」や「川辺で」といったキーワードを入れると美しい春の絵を描いてくれるので、児童たちはさらに自分らしいキーワード、例えば「花火」や「ライトアップされた城」、「きらびやかな」といった形容詞も入れて自分らしい絵を創作していきます。「絵を描くのが苦手だから、図工は楽しいけど苦手」という意識を持つ児童も多いですが、生成AIを使うことで苦手意識が薄らぐようです。こうして生成AIを使うと児童が創作したとは言えないのかもしれませんが、これからの時代、「人間プラスAIの力で創作することも芸術、アート教育の一環である」という見方もあることを考えれば、こうした教育もきっと今後普及していくと思っています。

 

実際に絵を描くと34時間はかかりますし、うまく描けなくて挫折することもあるでしょう。しかし、生成AIを活用した授業では「できた、楽しい!」との歓声も聞こえながら、2時間の授業でどの子も最後までやり遂げました。カラープリンターで印刷すると子供たちは「出てきた、出てきた」と大騒ぎしながら、友達同士で相互評価をして鑑賞し合っていました。

 

こうした授業を専門用語では「造形的な要素を取り入れた鑑賞」と言い、美しい風景の色や形、造形的な良さに気づき鑑賞力を高めることがねらいです。生成AIとプリンターで出力された絵というデジタルとアナログの両方を楽しみながら、鑑賞力を高める新しい時代の新しいアート教育の可能性を示すことができたのではないかと思います。

 

次の事例は、神奈川県立光陵高等学校です。進学校で学習意欲も学力も高い生徒が集まる学校です。渡辺 研悟先生のクラスで、総合的な探究の時間での「一人一課題研究」に生成AIを活用しました。具体的には、研究における仮説を立てたり、資料を検索して選んだり、結論を練り上げたり、レポートを書いたりするのに、生成AIChatGPTを共同研究パートナーとして活用しました。とくに、レポートの推敲・改善には有効に活用できたようです。

 

▲ スライド6・神奈川県立光陵高等学校の
総合的な探究の時間でのAI活用事例

 

実際の授業で、40人分のレポートの修正や改善の指導を担任の先生が1人で行うのは難しいです。ChatGPTを活用することで、渡辺先生の分身が生徒一人ひとりにサブティーチャーとして付いたと考えるとよいと思います。

 

光陵高等学校では、どの学年も課題研究を行っています。1年生が2年生から課題研究のレポートを見せてもらい、課題や仮説の設定、調査、検証、まとめ・発表のプロセスを教えてもらい、それを参考にして自分たちの研究をさらにブラッシュアップするといった取り組みも実施しています。

 

▲ スライド7・1年生と2年生が協力しながら、
さらにレベルの高い研究を実践

 

レポートの書き方のコツ、パワーポイントプレゼンテーションのコツなどは、生成AIに聞いてもよいのですが、発表してくれた先輩にも聞けます。対面のコミュニケーションも大切にしているということです。

 

神奈川県では県立高校での生成AIの活用を認めています。生徒が一人ひとりアカウントを取得し、無料版のChatGPT3.5を利用しています。精度に限界はありますが、練習にはよいと思います。

 

一方、東京都では教育委員会の方針として、都立高校では授業等での使用は禁止です。しかし、パイロット校だけは利用OKです。一人ずつのアカウントでChatGPT4.0と同様の機能を利用できるそうです。今後、都立高校のパイロット校から新しい実践例が生まれてくると思います。

 

神奈川県の渡辺先生は早稲田大学の優秀な修了生で、プロンプトの書き方や役割の設定、回答の条件、仮説検証や課題設定から検証の仕方など学び方を丁寧に教えています。授業で使ったスライドなどはクラウド上にアップされており、生徒たちは各自の端末でいつでも参照できます。

 

▲ スライド8・神奈川県立光陵高等学校
渡辺先生の授業の様子

 

特に課題研究はテーマ設定の仕方が大切です。テーマ設定は難しいので、生徒たちはChatGPTを使いながら自分が考えた仮説や課題研究テーマの診断・評価をしてもらって、改善しています。

生成AI活用の基本原則「初めは自分で考える」

生徒が課題研究テーマを選定するときに、ChatGPTの活用は有効なようです。ChatGPTは、生徒のテーマに対して「先行研究はありますか」、「探究的な要素を含んでいますか」など、先生がチェックするかのようにパートナーとして診断してくれます。それらを踏まえて、生徒は「テーマを練り直さなければいけない」、「先行研究がすでにあるなら、それをしっかりと読みこなそう」など、次の行動に移ります。しっかりとした課題解決力がある生徒が多く、論文の検索サイト「CiNii(サイニー)」なども使っていました。

 

ある生徒は音楽をテーマにしていました。一般にはわかりにくいような高度な内容について生成AIと対話しながら、課題や仮説、そして今後、計画すべき研究内容のサブ・テーマなどを深堀りしていました。

 

▲ スライド9・難易度の高い
研究テーマであっても、
生成AIは探究をサポート

 

生徒たちには一人一台端末がありますので、深堀した内容を友人と共有できます。生成AIを活用するうえでは、自分が認知・理解しているかを客観的に認知する「メタ認知」のプロセスがとても重要になります。メタ認知のプロセスを経ることで、ただ回答をコピペしているのではないこと、そして単に課題を片付けることやレポートの点数だけを追求するのではなく、AIとどのような対話を通じて、どのように改善しレベルアップしてきたかを自ら把握することができるようになります。そして、そのプロセスを友人と共有することで、自分で考え、成長していくことができるのです。

 

渡辺先生の授業では、学習評価のための学習履歴のシートを作成しているほか、毎時間、きちんと振り返りをしたり、それをさらに記録して中間評価をしたりしています。学習の終わりや週末に、評価をして改善課題を見つけることも大切です。そういったことをクラウドでできるようにしています。

 

生成AIの活用では、こうした「生成AIメタ認知レポート」を作成することがポイントになります。生成AIメタ認知レポートとは、自らがどのような課題解決プロセスを経て、パートナーとしてAIを使いこなして、自らの課題解決の支援をしてくれるように上手に使ったのかという報告書です。「丸投げではなく自ら修正して書き直しました、力がつきました」といった報告、「初発のレポートがレベルアップしたのには生成AIを賢く適切に使ったからです」といったビフォーアフターをレポートにしてもらいます。私も早稲田大学の授業で昨年度から行っています。

 

このメタ認知のプロセスをきちんと発表する取り組みも実践されているので紹介します。光陵高等学校の研究発表の最後には生成AIの活用についてメタ認知をして、生成AIをどう活用したかも発表するようにしていました。

▲ スライド10・生徒による
研究発表会の様子

 

クラウド上に振り返りなども書いています。丸投げしてもバレない場合もあるかもしれませんが、「丸投げで良いや」、「その場しのぎで良いや」とならないことが大切なのです。このようなレポートを書くことで、主体的に使いこなす力になっていくことを期待しています。

 

▲ スライド11・生成AIを活用したことを
メタ認知するためのレポートの例

 

AI活用の基本原則は、「丸投げ、剽窃禁止」です。初めは自分で考える。そして対話しながら振り返って修正していくことで、自らの創造力、分析力、表現力、メタ認知力、といった自己成長に生かしていく、この5段階のステップを踏まないといけません。

 

文部科学省のガイドラインでは、「最後は自分で責任を持ってレポートなり成果物を考える、活かす、出す」となっています。それには大賛成ですが、「初めから自分で考える」ステップも逃してはいけません。最初にここまで頑張って考えた仮説、課題、研究計画。それをChatGPTなど生成AIに入れて、修正改善してもらうようにしないといけないと思います。初めから丸投げして、それを修正するのでは、主体的な思考力や創造力はつきません。

 

▲ スライド12・AI活用の基本原則。
「初めは自分で考える」

一人一台の生成AI英作文を添削・指導するチューターに

最後にもう一つ、中学校の英語のクラスで、ChatGPTを個人教授役のチューターとした例を紹介します。中学校は教師1人で40人分を3クラスぐらい受け持ちますから、毎学期全員分のレポートでは、採点するのが精一杯でアドバイスはできないと思います。そこで授業中、ChatGPTに生徒たちの英作文の修正アドバイスをくれるチューターになってもらおうという試みです。「Custom Instructions(カスタム指示)」の一括指示設定機能を活用しました。

 

▲ スライド13・ChatGPTの
「Custom Instructions(カスタム指示)」
機能を
効果的に活用した例

 

こちらは早稲田大学との共同研究で、愛知県尾張旭市旭中学校(当時)の彦田 泰輔先生に、有料版のChatGPT4.0を使って授業をしていただきました。1学年7クラスほどある大きな学校で、全校や学年でのリテラシー教育は難しかったため、英語の授業のはじめの10分ほどで、文科省のガイドラインに従って適切な例などを説明しました。その後、どの教科書にも入っているプロジェクト型単元でスピーチやプレゼン、ライティングを通してしっかりとした表現力を育てるというレベルの高い単元に生成AIを活用していただきました。

 

紹介する事例は、10年後の自分に向けて、夢を実現しているのかどうかの手紙を英語で書き、それをChatGPTに修正してもらうというひねりの入った授業です。

 

ChatGPTはまず、英文の文法的な誤りや綴りの誤りを指摘してくれます。カスタム指示機能では、「教育的な観点で外せないことを外していたらアドバイスする」としました。夢を実現したかどうかを聞き忘れていた場合「夢について聞いていませんね。あなたは夢を実現していますか」という指摘をし、英文例も示します。「これを入れて書き膨らませてはどうですか」と、丁寧なアドバイスをもらえます。今は文字でのアドバイスですが、これはそのうち音声になるでしょう。

 

生徒にはルーブリック(判断基準表)を渡し、ChatGPTの回答とルーブリック表を見ながら、より良い英文レターになるように修正していきます。もちろん生徒同士の対面のアドバイスも大切にして、ChatGPTに丸投げはしません。内容的に2時間連続の授業で、間にリテラシー教育を入れてから、2時間目にはより内容を練っていきます。生徒は宿題で英文を書いてきます。実際には5時間ぐらいの単元ですので、ゆっくりやってもよいですが、彦田先生は時間を短めにして、一人一台端末で授業を進めています。

 

▲ スライド14・一人一台端末で、
ChatGPTと対話を進める生徒の様子

 

「こういう書き方をしたいときに、日本語ではこうだけど英語ではどういうの」など、ChatGPTは自由に質問をしてもどんどんいろんなことを教えてくれます。難しい回答をすることもありますので、それについては、カスタム指示機能で、「日本の中学1年生13歳くらい、英語のレベルは低いので、優しい英語で教えて」という指示をしています。

 

このように、カスタム指示機能をうまく使えば、AIは英作文の改善チューターになってくれます。生徒の集中力も爆上がりでした。実証的には研究していませんが、いろいろな作文のビフォーアフターを見た先生からは、「自分一人で教えていた時は、推敲や修正改善はなかなかできなかったけれど、ChatGPTが入ってくれるおかげで生徒たちの英作文力が上がってきています」といったコメントもいただいています。

 

▲ スライド15・生成AIと
対話をしながら修正を加えていき、
内容を深めることができる

 

これからも、各教科・領域で色々な実践事例を積み上げてまいります。皆さんと協働的な研究等ができればと思っています。情報提供もさせていただければと思います。

 

▲ スライド16・各教科・領域での
生成AI活用イメージの一覧

 

私が昨年出版した本にはChatGPTの活用例をたくさん出しておりますし、また端末の使い方などの実践事例集も出しています。実践的な研究者として今後も皆さんと交流させていただきたいと考えています。

 

>> 後半へ続く

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