概要
超教育協会は2023年12月20日、FC今治高校立ち上げ準備室長(2024年4月里山校校長就任予定)兼(株)まちなかキャンパス 代表取締役の辻 正太氏を招いて、「共助の社会のキャプテンを育てる!FC今治高校の挑戦」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、辻氏がFC今治高校里山校の独自のカリキュラムや目指すところについて講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。
>> 後半のレポートはこちら
>> シンポジウム動画も公開中!Youtube動画
「共助の社会のキャプテンを育てる!FC今治高校の挑戦」
■日時:2023年12月20日 (水)12時~12時55分
■講演:辻 正太氏
FC今治高校立ち上げ準備室長
(2024年4月里山校校長就任予定)
兼(株)まちなかキャンパス 代表取締役
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
辻氏は、約30分の講演において、FC今治高校里山校の取り組みや目指すところについて話した。主な講演内容は以下のとおり。
FC今治というのは愛媛県今治市を拠点としたJ3のサッカーチームで、サッカー元日本代表監督の岡田 武史氏が2014年からオーナーになっています。このFC今治を中心に、2023年1月にオープンした今治里山スタジアムを拠点にした共助のコミュニティをつくるという地方創生のお話を聞いたときに非常に感銘を受けました。その時点では教育の話はなかったのですが、ここが学びの場になったらどれだけ素晴らしいだろうかと思い、「里山スタジアムが学校になったらとても面白いですね」と冗談半分で話したところ、よしやろうと動き出し、2023年1月にキックオフの会、4月に記者会見を行い学校の立ち上げを発表しました。
▲ スライド1・FC今治高校の立ち上げを発表
もともと、117年続いている学校法人今治明徳学園というところが母体ですが、リニューアルするかたちで進んでいます。明徳中学校、明徳高校、本校と分校、短大と4つあり、そのなかの矢田分校を里山校として完全にカリキュラムを入れ替える形で動き出しました。これからの時代を強く生き抜いていける人材を育成していくことを目指しています。
今、世界では砂漠で大雨が降ったり、国土の3分の1が水没してしまったりと異常気象が起きています。予測ができない、明日何が起きるか分からないという中で、地方の都市が中央に頼れないという時代が来るかもしれません。そこで、共助のコミュニティ、感情の共有ができるコミュニティとも呼んでいますが、今治市を中心とした共助のコミュニティをしっかりと作ってそのなかで衣食住が回るような環境を作りたいと考えています。
これは、今治市に限定した構想ではなく、Jリーグ60チーム、そして岡田氏が理事を務めるBリーグ56チームが、それぞれ各地域でコミュニティを作って、共助のコミットを作っていくと、もしかしたら日本が変わっていくかもしれないという仮説を持って取り組みを始めています。こうした中、各地域で共助のコミュニティのキャプテンを育成しようということで、岡田氏を学園長としてFC今治高校が立ち上がることになりました。
▲ スライド2・FC今治高校里山校の設立の背景
キャプテンシップを持つ人材を育てていきたい
FC今治高校の特徴は、とにかく「自分で徹底的に判断して選択してつくっていく学校」であるということです。制服も標準服として用意はしますが、私服でもOKです。校則も子どもたちが中心となって決めていきます。一番大事にしていきたいと思っているのが、夢中になれることを見つける、没頭できるものを見つけることです。そういう機会を3年間通して数々用意しています。我々はエポックメーカーと呼んでいますが、時代を動かしてきた人たちや、トップアスリート、アーティストなどさまざまな人たちと3年間通して対話をする習慣を作り、どこで自分の心が揺れるのかを感じてもらいながら、生涯かけて取り組みたいことに出会ってもらうことを目指しています。そして、敢えて想定外や板挟みとなること、修羅場、そういったものに向き合って決断する、乗り切るという瞬間を高校生活でたくさん作りたいと思っています。
理念についてお話すると長くなるので割愛しますが、「命をつなぐために生きることの本質を問い、実践する」ということで、これから子どもたち、孫たちにどうやって地球を繋いでいくのか、そういうことを本気で考え抜けるような人材を育てていきたいと考えています。敢えてリーダーシップではなく「キャプテンシップ」という言葉を使っているのですが、キャプテンシップというのは何か上から引っ張っていくというよりは、主体性を持って困難に立ち向かっていき、いろいろな人を巻き込みながら動いていける力です。そういう力を持った人材を育てていきたいです。地道にでも社会を変えていく、そんな人材が育てばよいと思っています。
▲ スライド3・目指しているキャプテンシップとは何か
カリキュラムとしては、踏み出して体験して感性を磨いて抽象化して探究するというサイクルをぐるぐる回していこうと考えています。
「遺伝子にスイッチを入れる」というのがキーワードですが、筋骨隆々なマッチョを育てたいということではなくて、本当の意味で真の強さを持っている、そんな子どもたちを野外体験などを通して育てたいと思っています。また、予測不能な時代、ロールモデルがない時代がきていると感じていて、その中でとにかくやってみる、エラーアンドラーンという言葉を使っていますが、失敗を恐れずやってみてそこから考える、そういう一歩踏み出せるような人材を育てたいです。また地球環境については、その道の第一人者に来てもらい、環境についてのレクチャーを受けながら、自分たちでどうアクションするかを3年間実践していきます。
講師陣として、先ほど説明したエポックメーカーをはじめ、たくさんの方々にご協力いただきます。
▲ スライド5・多様なエポックメーカーが講師に
これまで時代を動かしてきたような方々から、実際にまずテーマを与えていただいてそれについてしっかり考えたうえで、学校に来て直接対話して、それに対して自分がどうアクションするかプレゼンテーションするというサイクルを回していきます。ただ話を聞いて終わらないというところは徹底してやっていきたいです。彼らの話を聞いて、自分の心がどういう時に揺れるのかや、どういうことに自分の興味関心があるのかをたくさん感じてもらう、そんな機会をこの授業に限らず数々用意しています。
「遺伝子にスイッチを入れる」ために体験し挑戦し感性を磨く
もっとも大きな特長は、体験する授業が多いことです。そこには、文字や数字で表せないような身体知や感覚知が伴います。学校の定義や教師の定義もこれから変わってくると思いますが、そういった体験的なもの、実業的なものに力を入れていきます。AWE体験という言葉を使っていますが、答えの出ないことに耐える、持ちこたえる、動けば変わると信じるなど人間が伝えるのが難しい「力」を、この今治という土地をフル活用して、体験しながら身につけていってほしいと思っています。3年間かけて、全員でタスキをつないで、お遍路1,400キロを完成させることもやっていきます (こちら1期生から3期生までが、力を合わせて完成させます。たとえば1期生が450キロ、 2期生が500キロ、3期生が350キロといったような感じです)が、 毎週3時間こういう野外体験のプログラムが入っています。1年生はお遍路、2年生は雪山に挑むことも計画しています。実際にキャンプスキルや天気をどう読むかなど具体的なところも含めて学んでいくことができます。
また環境教育についてもかなり力を入れています。環境教育と野外教育が前期後期と半期ごとに入れ替わっていきます。一般社団法人Green Innovationと一緒にカリキュラムを組んでいます。岡田学園長がこちらの顧問をしていることもあって、地球環境問題の第一人者に来ていただいて深いところを学んだうえで、実際にフィールドワークに出て、その後自分たちがローカルでどうアクションするか発信するというのをやっていきます。
さらに、感性を磨くことも重視しています。多くの人の心を動かしてきたアスリートやアーティストの皆さんに、スポーツとアートの授業、つまり体育とか美術、音楽の授業に毎月一人ずつ来ていただいて、彼らから直接競技について学びます。それと合わせて、どんな思いでこれまで競技に取り組んできて、今何を思って社会をどうしていきたいと考えているかに触れながら、自分の心がどこに触れるか感じて夢中になれるものを見つけていきます。すでに30名ほどのエポックメーカーがこの学校の理念に賛同してお手伝いしてくれることになっています。
▲ スライド6・アスリートやアーティストと
対話して感性を磨く
野外体験など体験的な学びが多いと、ともするとつらかったな、面白かったなで終わりかねません。社会を変えていくためにどう使っていくかが大切です。そこで「具体と抽象」という本を書いている細谷 功先生に直接学校に来ていただいて、どう知性に変えるかのワークをやっていきます。先日、先生方のワークショップもやっていただいて、具体と抽象を行ったり来たりするとはどういうことだろうというのを学んでもらいました。
今治里山スタジアムをフィールドに週6時間以上、「探究」の授業を実施
全ての授業において、何でこれを学ぶのか、何のために学んでいるのかというのを大事にしていきたいと思っています。例えば社会の授業で1900何年にこういうことが起きましたと数字を覚えることには全く意味がないですが、一方でこういうことが起きてこういう風になってくると戦争が起きるとかそういう歴史の流れを知ることは大事だと思うので、こういう抽象化力の養成講座を通して全ての授業で何のためにこれを学んでいるのかという意識をしながらやっていきたいと思っています。
最後に一番の特徴が探究です。全ての学校でも総合的な探究の時間はありますが、多くの学校は週1時間です。我々は週6時間やります。今のところ予定では、火曜日と金曜日の午後3時間を学校から飛び出して探究する時間としています。その探究のフィールドになるのが今治里山スタジアムです。サッカーチームを運営しているFC今治の今治夢スポーツというところにも受け入れていただけるし、障害者の就労支援の施設、発達障害を持っている子の放課後支援のデイサービスをやっている団体もあります。1年生のうちはまずプロジェクトベースドラーニングという形で受けいれていただいて、その後2年生になったら自分が設定した3年間かけて取り組みたいこと、または生涯かけて取り組みたいことを見つけてもらって、それについて探究していくという流れです。
今治里山スタジアムには、愛媛FCとの伊予決戦のときには5,000人以上が集まりました。おじいさん、おばあさんも最前列で観戦しています。
▲ スライド7・今治里山スタジアムでのサッカー観戦の様子
ただホームゲームは年間に20試合くらいしかありません。今治里山スタジアムは1年365日人が集う心のよりどころになる場所にしようというコンセプトでやっていて、そのコンセプトに共感して私もここに携わることになりました。ここに集う色々な方々と高校生が日ごろから関わりながら、プロスポーツにも関わるし、色んな社会福祉にも関わるということで、とにかく地域にどんどん入っていくことをやっていきます。スタジアム以外にも地元のタオル業者、造船会社、その他の地場産業と連携しながら、そこに高校生がどんどん入っていきます。
▲ スライド8・地域の地場産業に高校生が入って学ぶ
午前中は座学で学び午後は「学校を飛び出して」学ぶ
時間割については、これはあくまでイメージですが、午前中にいわゆる座学をして、午後からは学校を飛び出していきます。「ヒューマンディベロップメント」とあるのが野外体験にあてる時間になります。
もちろん基礎学力というものを重視していないわけではないので、午前中の授業もしっかりやっていきますが、基本的には個別最適な学びということで、学び方を含めて自分たちで選んでいけるようなカリキュラムになっています。というのも、本校では、入試で学力試験は一切やらないことにしたからです。これはかなり大きな決断でした。入ってくる生徒がいわゆる偏差値ではかなりばらつきがある状態で、そもそも一斉授業が成り立たない状況なので、個別最適な学びにしています。
個別といっても一人でやるのではなく、どう学ぶかを選んでもらいながらみんなで学び合っていくということを計画しています。多くの学校で104単位とりますが、文部科学省では74単位が最低の卒業ラインです。できるだけそこに近づける形で、余白をどう作るかということを考えています。なので逆に言うと、東京大学を受けるので何科目何教科必要のような場合は、選択科目でしっかり取っていかないと対応できないという形にはなりますが、あまりそこに重きを置いてはいません。
卒業後の進路としては、説明会をたくさんやっていると、結局どこの大学に入れてくれるのですかという質問がきてしまうのですが、我々としては大学へ行くことが全てではないと思っています。就職だったり起業だったり、在学中の起業などもあったらよいと思っています。大学は私立の5割から6割が総合型選抜で、国公立も3割目標ということで動いています。FC今治高校では、3年間君はどうしたいのか、社会をどうしたいのか問われ続け、自分の言葉で語れる高校生が育っていくと思うので、結果的にはこの大学入試とも相性はよいのかなと思っています。ただ総合型選抜を受けるためにこの授業をやるというよりは、大学で学びたいと思えば学べばよいと思うし、もし行きたいのなら全力でサポートします。
▲ スライド10・大学進学を目指す人には
全力でサポートする
寮についてですが、新築で建設していて、2024年3月10日ごろ完成予定です。一般的な寮と違って完全に個室です。それぞれがどう学びどう生きていくかというところを自分できちんと決められて、自立した生活ができるように個室にしています。特徴は、寮には2年生までしか在籍できないことで、3年生からは寮を飛び出して自分で生きていってもらいます。例えば空き家はたくさんあるので、1、2年生のうちにみんなで協力して空き家を改修してシェアハウスにして住むとか、高齢者が大きな家に一人で暮らしているところがたくさんあるので、そういったところに居候してそこから通うなど選択肢はあります。もちろん一人暮らしをしてもよいです。とにかく寮を飛び出さなければいけないので、1、2年生のうちにしっかり地域と関係性を作らないと生きていけません。里親制度みたいなものも、これから整備していきたいです。自立して、主体的にどう生きていくかをさまざまな形で実践していこうとしています。
ヒストリック・キャプテンシップ養成講座には、さまざまなアスリートやアーティストが関わってくれることになっています。
▲ スライド11・さまざまなジャンルから
ヒストリック・キャプテンシップ講座に参加
またこれ以外にも編集力養成講座や金融リテラシー養成講座もあります。金融リテラシー養成講座では、高校生が作ったプロダクトだったり農業体験で作ったものを流通させていくときに、共感資本通貨を流通させて地域で循環していく、ありがとうがぐるぐる回っていく、そんなことを準備しようとしています。探究のゼミの受け入れ先としては、地元の企業だったり、東京に本社があるけれど今治に工場があって廃棄野菜を使ったフードロスのプロジェクトをやっている会社など色々なところが手を挙げてくれているので、もしご興味あれば相談させていただけると嬉しいです。
>> 後半へ続く