教育イノベーションの先駆者による、将来を担う子供達への支援
第75回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2022.2.10 Thu
教育イノベーションの先駆者による、将来を担う子供達への支援<br/>第75回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2022112日、NPO法人 セサミワークショップ 日本代表の長岡学氏を招いて、「世界で一番長い道:セサミストリートが歩んだ教育イノベーションの歴史と今後の行方」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では長岡氏が、アメリカの幼児向けテレビ番組「セサミストリート」の誕生と歴史、セサミストリートが実践しているメディアを使った教育イノベーションや世界各地での活動内容などを詳しく紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

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「世界で一番長い道:セサミストリートが歩んだ教育イノベーションの歴史と今後の行方」

■日時:2022年1月12日(水)12時~13時

■講演:長岡 学氏
NPO法人セサミワークショップ 日本代表

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

長岡氏は約30分間の講演において、セサミストリートが52年前より行ってきたキャラクターとメディアを使った教育イノベーション、コンセプトの紹介、世界各地で行っている社会奉仕活動を通じたソーシャルイノベーション、また将来の教育イノベーションに向けて、セサミストリートの様にキャラクターやメディアがない場合、世界中の教育者がどのような活動が出来るかを、教育者グローバルネットワーク構築を目指す「Mangrove Education」の事例等をもって詳しく紹介した。主な内容は以下のとおり。

【長岡氏】

セサミストリートは、アメリカで1969年に始まった幼児向けテレビ番組です。以前にNHK で見たことがあるという方は、「色鮮やかなキャラクターたちがいっぱいいて、英語を喋っている」印象があると思います。

 

好奇心旺盛な赤いモンスター「エルモ」や、身長が250cmと大きいですが心優しい「ビッグバード」はじめ、個性があって魅力的な印象深いキャラクターがたくさん登場しています。

 

▲ スライド1・セサミストリートには、
色鮮やかで印象的なキャラクターが登場する

 

最近、ジュリアという4歳の女の子も登場しました(▲スライド2)。絵が上手で歌うことが大好き、自閉症の特性があるという設定のキャラクターです。実は、セサミワークショップは、厚生労働省や文部科学省、日本自閉症協会とタッグを組んで全国で自閉症啓発の活動をしています。

 

▲ スライド2・キャラクター「ジュリア」は
自閉症の特性がある4歳の女の子

 

1969年に誕生した当時のセサミストリートは、アメリカで人種差別や貧困問題などさまざまな社会的問題を抱えて学校に行けない子供達のために、123 ABC はもちろん、学校で教えないことも教える、テレビというメディアを使った教育イノベーションの先駆けでした。

 

1回放送のキャストは、キャラクターのほか様々な人種の人も登場し、多様なコミュニティーの中でストーリーが展開されていました。セサミストリートの創設者ジョン・ガンツ・クーニー氏は教育者であり、プロデューサー、リサーチャーでもあり、研究を重ねた上でセサミストリートを創りあげました。

 

▲ スライド3・セサミストリート第1回のキャスト(左)と、
創設者ジョン・ガンツ・クーニー氏(右下)

世界的な社会貢献活動を行う現在のセサミストリート さまざまな教育カリキュラムも提供中

セサミストリートは、テレビだけではなく世界各地で社会貢献型の活動もしています。例えばインドやアフガニスタンでは、女の子でもきちんと教育を受けられるための活動、シリアやイラク、ヨルダンでは難民支援もしています。南アフリカでは、キャラクターがHIVに感染しているという設定で、子供達に「HIVは、触っても感染しない」ことを教えています。

 

▲ スライド4・世界各地で、
さまざまな社会貢献活動を行っている

 

日本でも約35の小学校の総合学習で、「セサミストリートカリキュラム」として多様性とインクルージョンの授業が行われています。金銭教育のイベントでは、石戸さんにも登壇いただき、熊本の震災の後には、熊本の劇団の子供たちとのコラボレーションが実現しました。自閉症啓発活動においては、厚労省から毎年全国約8万箇所に、ニューヨークでデザインしたポスターやパンフレットが配布されています。 また、ヘルスケア分野として小児科に携わるクリニックや病院、薬局を通じて、セサミストリートが作った健康教育に関する教材を配信・配布しています。

 

▲ スライド5・日本でもセサミストリートの
キャラクターと共に教育、啓発、支援等を行っている

 

セサミストリートでは、SDGsも意識しながら子供達の視点でものを見ています。国や地域のニーズを把握し、難しい問題から目をそらさず、そして何かを作る時、作っている最中、作った後、視聴者や学校の授業の後は必ずリサーチをして、学びにつながっているのかを調べます。そしてキャラクター(マペット)を活用し、メディアを使うこと。教育目標を設定するときは、必ず地元の有識者の皆様に相談して、コラボレーションしています。

 

▲ スライド6・セサミストリートのアプローチ

 

それが現在、150カ国以上の国々や地域の15000万人の子供達に届けられています。ミッションは、すべての子供達が「かしこく、たくましく、やさしく」成長することを支援することです。

 

▲ スライド7・150カ国以上の国々や地域の
1億5000万人の子供達の成長を支援している

 

そして、52年かけて「世界で一番長い道」になりました。

 

▲ スライド8・「世界で一番長い道」セサミストリート

セサミストリートが考える教育イノベーション ブロックチェーンのコンセプトに着目

将来に向けて教育イノベーションを考えたとき、セサミストリートはどんなことをするか、どんなことができるのでしょうか。それを考えてみます。

 

狩猟の時代には「ウサギ」と「魚」を物々交換するようなことでモノの価値が決められてきました。その後にお金が登場し、クレジットカードになり、今ではスマホでビットコインやデジタルキャッシュなどで決済するようになりました。セサミストリートは、仮想通貨やブロックチェーンの技術を使って金融市場の分散化が進んでいることに着目しました。仮想通貨のビットコインでは、これまでは銀行や政府が保証してきたお金の価値が、ブロックチェーンによって分散化されることで周りとつながり、お互いを認識し合い、ビットコインの価値として認められていきます。

 

このブロックチェーンのコンセプトを教育に置きかえると、教育システムの分散化ができるのではないでしょうか。各々の価値観を認識し、多様性や公平性、インクルージョンの社会が実現できるのではないかと考えています。多様な価値を認識し、お互いを受け入れる。「みんな違ってよいのだ」ということを子供達に教え、伝えていきたいと思っています。

 

▲ スライド9・ブロックチェーンのコンセプトを
教育に活用することで教育の分散化が可能に

セサミストリートのストーリーを使い「多様性」をどう学ぶのか

実験的なケーススタディをご紹介します。セサミストリートのストーリーを見たり読んだりしながら、「必要なものや欲しいもの」を考え、ディスカッションをしたり、ベン図や黒板、ワークシートに描いたりして意見交換をするケースです。これを東南アジア圏の教員研修、もう一つは日本の小学校の授業で行いました。

 

▲ スライド10・大人と子供両方に行った
「必要なものやほしいものを考える」ケーススタディ

 

具体的には次に示すような内容です。まず、エルモのお母さんが、近所の女の子たちに、「今日は海水浴に行くので、お家から海に持っていきたいものを持ってきてください」と伝えました。すると、子供たちは、花、クマのぬいぐるみを持ってきたり、雨合羽を着てきた子や三輪車に乗ってきた子もいました。お母さんは困って、「私ならパラソルや水筒を持っていくんだけど」と言ったところ、子供たちは考え直して、水筒や浮き輪やパラソル、バケツやスコップを持ってきました。海では海水浴したり砂で遊んだり、自分たちがやりたいことをして楽しい1日を過ごすことができました。

 

東南アジアの教師の結果をご覧いただきます。必要なものは「水」が一番多かったです。欲しいものの中には「友達」が多く、これは一緒に行ったほうが楽しいだろうということだと思います。面白かったのが真ん中の「カップラーメン」です。お国柄なのか分かりませんが、東南アジアの教師の結果では、海に行くときには必要なものも、ほしいものもカップラーメンが多い、これは楽しいディスカッションにつながりました。

 

日本の小学校3年生の結果では、必要なものに「宿題」が入っていることが興味深く感じました。欲しいものの中に「時間」とあるのは驚きましたが、納得できました。大切なのは真ん中の重なっているところです。「ゲーム」「お金」「スマホ」は、ディスカッションで盛り上がりました。大人からすると海でゲームなんかしないほうがよいと思ってしまいますが、そこがセサミストリートの授業のよいところで、否定せずになぜゲームやスマホが要るのか、海でお金をどうするのかを問いかけて、ディスカッションを促します。

 

▲ スライド11・日本の小学校3年生の
授業で行った結果のベン図

 

このような授業を、小学生向けに72コマ、いろいろなトピックを用意しています。

 

コロナが始まった頃、一斉休校の前後ぐらいには、大阪の吹田市でアメリカ大使館の支援を受けてリサーチをする機会がありました。早稲田大学人間科学部人間科学学術院教授で教育心理学者の井上 典之教授のもと、「思いやりのあるお金の使い方」のストーリーを使って、学校の教室の授業とオンラインの授業両方で試すことができました。子供達の発言内容は、パイチャートに結果としてまとめました。子供達は、正解も間違いもない質問をされて、答えを発表することによって、パイチャートが色鮮やかになります。自分たちの意見が反映されて、多様性を持った社会やコミュニティーになっていることを理解できたでしょう。

 

▲ スライド12・子供達のメッセージも
社会コミュニティーを作る大切な要素となる

セサミストリートは今の時代に「なぜ」「どんなこと」を「どうやるのか」

セサミストリートの取り組みにおいて、「全ての子供たちに公平に平等に良質な教育を提供する」、そして「楽しい学びのコンテンツを、キャラクターたちを使って提供する」ことも変わっていません。それでは、今の時代にこれらの取り組みを「どうやるのか」。セサミストリートのようなキャラクターがいる場合はよいのですが、ない場合はどうすればよいのか、考えなければならないと思います。プロックチェーンのコンセプトをベースにしながら、「なぜやるのか」「何をやるのか」「次のステップは何か」を改めて考えてみます。

 

これらを具体的に考えるには、別プロジェクト「Mangrove Education(マングローブ・エデュケーション)」を引き合いに考えるとわかりやすいと思います。「良質の教育へのアクセスを、世界中の子供たちに提供する」、これが「なぜ(WHY)」の理由です。そして、「Mangrove Education(マングローブ・エデュケーション)」で「何をするのか(WHAT)」、これもセサミストリートと同じです。先生方のトレーニング、リソース、教材の提供は、セサミストリートのキャラクターがあろうがなかろうが、しなくてはいけないことだと考えています。

 

▲ スライド13・Mangrove Educationの
考え方もセサミストリートと同じ

 

「どうやって」について、Mangrove Educationは、世界中の教師をつないでみてはどうかと考えています。オンラインでしかできていませんが、週に1回インドネシア、カンボジア、ウズベキスタン、台湾、中国、そしてヨーロッパ、アメリカから先生たちが集まって教えるテクニックを共有し合い、さまざまな意見交換をする研修を実施しています。

 

ここがポイントで、研修を受けた先生が子供達に教えていき、また次の週に戻ってきてその結果を発表することで、新しい教育テクニックを共有しています。

 

▲ スライド14・毎週世界の教師がつながって
教育に関する研修と意見交換を行っている

 

この考え方は、教育が軸となり、教育が分散化し、分散化したところが繋がっていくブロックチェーンのコンセプトと同様だと感じています。

 

▲ スライド15・ブロックチーンのように分散化して、
分散化したところがつながるようにしたい

 

マングローブはご存知のとおり、水の上と水の下にそれぞれシステムを持っている素晴らしい植物です。そのマングローブの枝の先や根の元は子供達で、子供達にエネルギーとして教えを提供するのが先生の役割です。先生がマングローブの中心にあって、ブロックチェーンのように世界中でつながることができたら、セサミストリートが考えていることが実現するのではないかと思っています。

 

▲ スライド16・ブロックチェーンを
マングローブになぞらえて、ミッションを実現していきたい

 

>> 後半へ続く

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