「データ×AI」で地球規模の課題解決に挑む
第73回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2022.1.28 Fri
「データ×AI」で地球規模の課題解決に挑む<br/>第73回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は20211213日、慶應義塾大学 環境情報学部教授・ヤフー株式会社 CSOの安宅和人氏を招いて、「コロナ後のシン・ニホンについて」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では安宅氏が、コロナ禍という未曽有の状況において、改めて日本が世界で存在感を発揮するためには、「データ×AI」についての素養新たな基礎教養として育成することに加え、時代の局面と価値創造の変化を踏まえ、育てるべき人物像を「仕組みに乗り・回す側」から「仕掛け・創る側」に刷新することが必要であると説明。後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「コロナ後のシン・ニホンについて」

■日時:2021年12月13日(水)12時~12時55分

■講演:安宅 和人氏
慶應義塾大学 環境情報学部教授
ヤフー株式会社 CSO

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、ファシリテーターの石戸 奈々子が参加者からの質問を紹介し、安宅氏が回答する質疑応答が行われた。

 これからの産業界は「第3種人類」が牽引 教育も大きな改革が必要

石戸:「今の義務教育において変革すべきことは何だと思いますか。またどのように変えたら良いと思いますか」

 

安宅氏:「今はできてしまった社会を回す『マシン(機械)』として子どもたちを育成しているように感じます。作業を教えるのではなく、意味や目的を教えていくべきだと思います。

 

中学においても、学校の制服や大半の校則は、原則的に無くしたほうがよいと思ってます。私としては『人の道さえ守れるのであれば、自分らしさを大切に好きにやるべし』という感じですね。髪型は三種類とか、こういう行動はだめと羅列するような、まるで監獄にいるかのようなルールは不要です。それよりも人を傷つけたり、人に迷惑をかけたりしない、困った人、弱い人を助けるという、人としての共感力、愛であり、人格、チャームを育みつつも、才能と情熱を解き放ち、一人ひとりの「心のベクトル」を育成すべきです。

 

また、正常な価値観の有無や人間としての心の発達にも目を向けず、その上、自分らしさや自分の意志をまったく問われずに、義務教育ではない高校や大学に進学するのは大変にまずい話です。そのように育成した人間を社会のリーダー層にしてよいのかと思います。やはり人としての共感性とやさしさを持っていること、人の社会においてどういうことが大切かが肌身にしみて理解していること(社会における正しいsense of value)、その人なりに感じること・大切に思うことを最優先にして育てていくべきであり、基本はそこにあると思います。進学の前提として、高校や大学側は「自分の心のベクトル」、基本的な生命力の有無と内容をしっかりと見るようにしていくべきだと思います。そうすれば『自分を持っている人』を育てるように、あるいは自分で伸ばそうとみんなが意識し、取り組むでしょう。

 

Covid1000年に一度の震災、AI×データ時代の到来による産業の抜本再編など、20世紀までの感覚では理解できない変化が次々と生まれる時代ですから、スキル再生する仕組みも導入したほうが良く、小中学校でも何回も入り直せるようにするべきなのではないでしょうか。私も毎日、なにかを学んでいます。

 

この変化の激しさを鑑みれば、さらに、二、三年に1回は指導要領を見直したほうがよいと思います。さらに、教師が何もかも、これらの変化に対応できるとは思えないことを考えれば、オンライン講義を活用して、授業と宿題の役割を逆にした反転学習なども導入するべきでしょう。当然のことながら、最先端のことを教えられる人はあまりいません。これは彼らの能力の問題ではないのです。システムの問題です。

 

教育システムやその中の人をコンスタントに刷新・再生していかないと、言いかえれば、そのようなことが可能な仕組みを作り上げないと『既存の学校や教員はオワコンの巣』、つまり、みんなに飽きられて見向きもされなくなった『終わったコンテンツ』になりかねないでしょう。

 

まっとうな志を持つ多くの子どもたち、先生方、親御さんたちに、『現在はどのような時代でどのような変化が生まれているのか』『仕事とは、一体何か』『価値を創造することは何なのか』ということは早期に考えはじめていただいてもらったほうが、そして、くり返し多面的に考えることで、深い意味で理解していただいてもらったおいたほうがよいのではと思います」

 

石戸:「大学受験が変わらないと初等中等教育が変わらない、就職活動が変わらないと大学教育は変わらない、社会が求める人材像、社会の求めている人が変わらない限りは教育も変わらないという側面もあるのではないかと思います。企業側が今後どのように変化する可能性があるのか、その変化を早めるためにどんな手を打てるのか、安宅さんが取り組んでいること、もしくは考えていることについて教えてください」

 

安宅氏:「産業界は今、3つに分かれています。いわゆるオールドエコノミーと、デジタルで完結するインターネット業界などのニューエコノミー、そして最後がテスラやUberOneWebのようなリアルな世界をサイバー技術で刷新していく企業です。彼らのことを第3種人類と言ってるのですが、これからの社会の変容と新しい価値創造の中心はほぼ第3種人類とこれを支える産業であることは間違いないと思います。

 

ニューエコノミーは既になかば成熟しており、オールドエコノミーは衰退過程にあるわけですから、産業界はニューエコノミー側で元々生まれた力と、人類と地球の共存に向かうべき流れをテコに、第3種人類と新たなインフラに置き換わっていく過程にあるということです。

 

3種人類の産業的な特徴は、今までの産業区分が機能してないことです。基本的にはデジタルの力で産業の壁が溶けて、全く新しい形に生まれ変わっていっています。例えば私の大好きなものであるカメラや写真の世界。私は相変わらずカメラ(専用機)でも相当量撮影をしていますが、そんな人は世の中全体で見れば明らかに少数派で、枚数ベースで見れば99%以上の写真はスマートフォンで撮られています。

 

現在、スマホで撮影された写真はGoogle Photoなどのクラウド上にアップロードされ、InstagramなどのSNSでシェアされるのが普通です。でも、わずか15年前まではカメラで撮って、フィルムに焼き付けてプリントすることが当たり前だったのです。世界的に見たら何兆円もの規模の産業でした。

 

先程述べたテスラが、産業の壁を超え、モビリティだけでなく、エネルギー業界を変えていっているのも同じです。この変化がデジタルの力なのです。デジタルの力を使い、境界を越えて世界が変わっていく過程におり、そちら側に加わろうと思うと、今ここで話したようなデジタルに馴染みがあり、ある意味『妄想』ができて、さまざまなことができる人こそが鍵になることは自明です。

 

今はこのように世界的に理想の職場が次々と生まれてきていますので、そこに入ろうと思うと、あえて言わなくても子どもたち自身で『今の教育だけではダメだ』『これだけをやっていては面白い職場にも行けず、サバイブ出来ない、未来も作れない』と気づき始めます。そこでオールドエコノミーや日本を脱出し始めていくということになるのではないかと思います。そのため、変わらない企業群の採用のありかたはそれほど気にしなくてよく、新しい側、変わる側に目を向けるべきです。そうこうしているうちに、変わらない企業は相当量淘汰されてしまうのではないでしょうか」

 

石戸:「ありがとうございます。視聴している皆さまは教育業界を何とか刷新していきたいと考えていらっしゃる方が多いです。ぜひ、みなさんに最後に一言メッセージをいただければと思います」

 

安宅氏:「これから先の二、三十年の間にでもパンデミックはさらに発生すると思いますし、いくつかのディザスターも襲来すると思います。そういった意味では今は幕末的です。幕末はものすごい天災が多いのと同時に疫病も非常に多かった時代でした。そして、体制が転換しました。

 

実は黒船はドミノを倒す最後の衝撃であって、天災とパンデミックで揺らぎきっていたのです。そういう意味では、いまの日本もついにティッピングポイントが近づいているという見解です。そのため私は希望に満ちています。日本はいったん底に落ちるかもしれませんけど、そこからは上がる一方だと思います。

 

今はそのような新しい世界に向かっているという前提で人を育てていくことがとても大事です。今までのレールの多くは世界的に無くなるか、激変する時代に進んでいるわけですが、そういう意味ではガラガラポンの時代が到来しようとしています。状況的に人類全体がこれほど不連続的なしんどい局面に追い込められたのは久しくなかったのではないでしょうか。でも大丈夫ですよ。氷河期ですら人類は滅びませんでしたので」

 

最後は石戸の「ありがとうございます。氷河期以来の1万年ぶりの大変化で、レールはすべて壊れるけれども未来は明るいと、その未来をどうしていくのかは私たち1人ひとりの意思次第ということですね」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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