「学びを止めない」を実現するために今、必要なこと
第14回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2020.10.9 Fri
「学びを止めない」を実現するために今、必要なこと<br>第14回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2020年8月4日、Google for Education マーケティング統括部長 アジア太平洋地域のスチュアート・ミラー氏(以下、ミラー氏)と、奈良県域GIGAスクール構想推進協議会調整部会会長の谷正友氏を招いて、「Google for Education が創造する『学びの場』 ~ Chromebook が選ばれる理由~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、ミラー氏が「Google for Education 」の概要と活用事例を紹介。そして、谷氏が奈良県の共同調達の概要と奈良市のGIGAスクールへの取組みについて説明した。後半は、超教育協会理事長の石戸奈々子を交え、参加者からの質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

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「Google for Education が創造する『学びの場』
~ Chromebook が選ばれる理由~」
■日時:2020年8月4日(火)12時~12時55分
■講演:スチュアート・ミラー氏
Google for Education
マーケティング統括部長 アジア太平洋地域
■自治体登壇者:谷正友氏
奈良県域GIGAスクール構想推進協議会 調整部会会長
奈良市教育委員会事務局 教育部 学校教育課 情報教育係 係長
(奈良市教育情報セキュリティアドバイザー)
文部科学省 ICT活用教育アドバイザー委員
■ファシリテーター:石戸奈々子
超教育協会理事長

 

ミラー氏は約15分間の講演において、GIGAスクール構想に向けた取り組みとしても注目されている、Google の「Google for Education 」の概要と活用事例を紹介した。主な内容は以下のとおり。

「学びを止めない」ための 遠隔学習支援プログラム

▲ 写真・Google for Education マーケティング統括部長
アジア太平洋地域のスチュアート・ミラー氏。

 

【ミラー氏】
GIGAスクール構想、そして新型コロナウイルス感染症の拡大により、教育業界は新しいチャレンジに挑むことが求められています。目指すべきことは、「学びを支える、学びを止めない」ことです。児童・生徒のみならず大人の私達も学び続けなければなりません。そして、「学び方そのものが変わってきている」ことを理解しなくてはなりません。

 

Google は、GIGAスクール構想の実現と合わせて、新型コロナウイスル感染症拡大による休校中の学びを止めないために 2月末から「遠隔学習支援プログラム」を提供開始しました。

 

▲ スライド1・Google が提供する遠隔学習支援プログラム

 

3月より「Chromebook 」端末を無料で、各自治体や学校に貸出しています。

また「家から教えよう」というWebサイトや、ウェビナーを通じ Google for Education を活用した遠隔学習の方法を認定プログラムを修了したエキスパートの教師たち と一緒に学ぶ機会を提供しています。私が管轄するアジア太平洋地域だけでも、同 Web サイトを 14 か国 18 の言語で提供し、ウェビナーの動画は Youtube でも配信しています。また、学校が再開したことを受けて「家から教えよう」というサイト名を「これからの学び」に変更し、教師、学校、家庭向けのコンテンツを追加しました。「これからの学び」のURLは、https://teachfromanywhere.google/intl/ja/ です。

GIGAスクール構想に最適な 「Google GIGA School Package」

一方、GIGAスクール構想の実現を支援する取り組みとして、Google では「Google GIGA School Package 」を提供しています。無償提供しているクラウドベースのプラットフォーム「G Suite for Education 」と、Chromebook を活用してオンライン教育などを簡単に実現できる仕組みです。導入方法や授業での活用方法が学べる無料研修、「Kickstart Program 」も合わせて提供しています。

 

奈良県、仙台市、姫路市、札幌市、藤沢市、福岡市、横浜市、静岡市をはじめとした、たくさんの自治体にすでに Google GIGA School Package の導入を決定または検討いただいています。

 

▲ スライド2・「Google GIGA School Package 」の概要

 

なぜ、多くの自治体が教育現場で、Chromebook の活用を選択しているのでしょうか。それは、 Chromebook が、教育現場での利用に適した共有可能な端末だからです。文房具のように簡単に使え、クラウドベースなので端末の共有も可能です。軽くて強く、すぐに起動します。バッテリーも長く持ちます。シンプルで使いやすく、セキュリティ面でも様々な機能を搭載し、安全にお使いいただける端末です。

 

▲ スライド3・Chromebook が教育現場で選ばれる理由

 

また、「G Suite for Education 」は無償のツールキットです。児童・生徒の主体的・対話的な学びの実現にも、そして教員の働き方改革にも最適です。
休校によって利用者が増えている「Google Classroom 」や「Google Meet 」も「G Suite for Education 」のツールの一部です。

 

「G Suite for Education 」の特長は、学校全体でリアルタイムに共同作業ができることです。ドキュメント上で、教師同士、児童・生徒同士で他の人の意見を交わし、その意見をもとに一緒に何かを作り上げる協働学習も可能です。学びが、より対話的になり、理解が深まります。

 

▲ スライド4・時間や場所を問わず、
教師同士や児童・生徒同士で共同利用できる
「G Suite for Education 」

「Google for Education 」が 世界各国で選ばれている理由

「Google for Education 」は、日本のみならず世界各国で選んでいただいています。その理由は大きく分けて4つあると、私達は考えています。まずは、管理が簡単であること。去年、第三者の研究機関である IDC が、日本を含め世界各国の Google for Education を利用している学校で研究調査を Google からの委託で行いました。Google for Education を利用したことで、管理にかかる時間そのものが、平均59%減ったとの結果が出ています。( 2019 IDC による白書 )

 

2つめは、手頃な価格です。同じ調査で、他の端末やソフトと比較して Chromebook を使うと総合的なコストが平均57%削減できたとの結果も同調査で明らかになりました。Google for Education は無料無制限でデータをお使いいただけますし、Chromebook はオールインワンの端末で、ソフトやサービスの追加購入、追加のウイルス対策ソフトが必要ないため、コストパフォーマンスが良いのです。

 

3つめは高い汎用性です。クラウドで、アカウントベースで利用できますので、いつでもどこでも使えて、1 つの端末を複数の児童生徒で共有することも可能です。

 

そして、4つめは、高い効果です。学校全体で児童生徒の成績が上がった、授業がより主体的・対話的になった、教員の時間やコストを削減できたといった効果が報告されています。

 

▲ スライド5・「Google for Education 」が選ばれる理由

 

私にとって何よりも印象的なのは、数字では測れない効果です。教師の方々から「児童・生徒の目の輝きが違う」、「積極的に学習に取り組んでいる」、「勉強がすごく楽しくなった」といった話をよく伺います。例えば、東京都町田市立町田第五小学校では、校長先生から「5年生6年生はほぼ毎日使っており、その効果を実感している」、先生から「これからは情報活用が基盤となって新しい学びが展開するのではないか」といった感想をいただいています。また、児童からも「一つの班の(4人)でスライドをまとめていくと、1人でやるより速くできる」「難しいより楽しいほうが大きい」
といった声を聞くことができました。

 

Google では、2020年8月12日に,Google for Education のグローバル・オンラインイベント「The Anywhere School」を開催しました。世界中の教育指導者や教師、児童・生徒、学生から、学び方が各国でどう変わってきているかを発表いただきました。

 

日本のセッションでは、衆議院議員で「GIGAスクール構想」にも尽力されています牧島かれん氏より日本の取り組みと今後の学びについて特別講演を、奈良市の奈良県域GIGAスクール構想推進協議会調整部会会長の谷正友氏、東京都町田市立町田第五小学校の先生および児童のみなさまにもお話をいただきました。ウェブサイトから登録をしていただければ録画を視聴できますので、ぜひご覧ください。

 

▲ スライド6・オンラインイベント
「The Anywhere School」の開催概要

オンラインイベント「The Anywhere School」

共同調達の実現に向けて考えた 4つのポイント

続いて谷氏より、奈良県の共同調達の概要と奈良市のGIGAスクール構想への取組が紹介された。主な内容は以下のとおり。

 

▲ 写真・奈良県域GIGAスクール構想推進協議会調整部会
会長の谷正友氏

 

【谷氏】
奈良市では、2019年の文部科学省の概算要求の時点からGIGAスクールに関わるICT環境整備の検討を始めていました。また、奈良県では、文部科学省の統合型校務支援システム導入実証研究事業から、各市町村共同の取組として、3年前から検討してきた経緯があります。

 

GIGAスクール構想については、国から説明があった12月23日の翌日には県内の全教育長が集まり、タブレット端末などの共同調達への取組みを始めました。参加自治体は8割を超え、児童・生徒の97%にタブレット端末を配置できるように共同調達ができたことになります。

 

共同調達したタブレット端末のOSの割合は、 Chromebook が96%、iPadが4%、Windowsが0%です。いい意味で、奈良県内の環境が統一された状況です。

 

▲ スライド7・奈良県の共同調達規模

 

共同調達の実施は「なかなか難しい」という声が全国の自治体から聞こえてきますが、奈良県では、共同調達に取り組む前に、GIGAスクール構想に向けて取り組むための「大切なこと」を考えました。そして、「奈良県内の学校に通う全ての児童生徒に、住んでいる地域や学校の規模、家庭環境にも関係なく、最新の質の高い学習環境を提供すること」、「子どもが自分で学べる環境を作ること」を基本としました。県内の約40の自治体で共通してこの意識を持ちながら、議論を重ねて出た答えが共同調達だったのです。

 

共同調達実現に向けた考え方のポイントは4つあります。まずは、徹底的にクラウドを活用し、端末にはソフトを入れない。2つめは、子どもが自由に学べるように、安心・安全に使える環境をしっかり管理する。3つめは、次の「スタンダード」として「個人所有」を考える。4つめは、3年後や5年後には普及が進みインフラのひとつとなることを見据えながら、「1人1アカウント」を実現し、どのような状況であっても学びを継続できる環境をつくるということです。

 

▲ スライド8・共同調達実現に向けた考え方

端末の選定の比較表など 共同調達の情報を公開

次に具体的な取り組みの経緯を説明します。奈良県では新型コロナ感染症拡大の影響だけではなく、災害時などの急な休校のときでも学びを継続できる環境を提供するために奈良県域GIGAスクール構想推進協議会(以下、協議会)を作りました。県や市町村の教育長、行政、有識者、大学教授にも入っていただき、教育委員会と行政が一体となった組織を作り、予算的なバックアップや具体的な実現方法について議論を重ねました。

 

協議会の調整部会では、3OSに関して議論、ヒアリング、資料の比較などを実施し、各OSのメリットやデメリットを明確にし、比較表としてまとめました。

 

▲ スライド9・3OSに関する調整部会の検討結果

 

この3OSの比較表は奈良県立教育研究所のWebサイトで公開しています。重点4観点と詳細48観点、いいことも悪いことも書いています。これから検討される自治体の担当者の方には、共同調達のプロポーザルの質問などにぜひ使っていただければと思います。

端末とあわせて ネットワーク環境も整備

実は、共同調達の実施で困ったのは、「県域共同調達をすると、端末の納品が遅くなる」という声があることでした。文部科学省が目指す8月や年度内の納入ができないというのです。この声がたくさん聞こえてきましたが、そんなことはありませんでした。奈良県の実例をご紹介します。

 

奈良県での各自治体への端末納品時期は、7月に1自治体で奈良市は8月の予定です。そして11月までに各市町村に順次、納入されます。納入後の準備に数週間~1カ月かかりますが、年度内どころか年内には奈良県の各自治体にGIGAスクールの環境が整います。

 

このように、奈良県ではタブレット端末を県域共同調達で調達しました。一方、各学校のネットワークの整備は各自治体が行います。奈良市では4月に学校休業期間中の家庭オンライン学習の支援で、Wi-Fiルータの貸出を開始しました。奈良市のネットワークはセンター集約で、ツリー型になっています。この末端部分がボトルネックになりがちでしたので、4月~6月にこれまでの10倍の10Gbpsの帯域に変更しました。今度、インターネットとの接続部分は、1Gbpsの帯域保障から20倍の20Gbpsの帯域確保に変更し、すべての端末が1Mbps程度の接続速度を得られるようにしていきます。これで子どもたちの11インチ程度の画面で、動画視聴が可能になるだろうと考えています。

 

小中学校の校内のネットワークは国の補助事業を活用して整備します。学校の規模によっては5日から2週間程度の作業がかかりますが、7月から2021年3月までに順次、整備し稼動させていく計画です。

▲ スライド10・インフラ環境整備の予定内容とスケジュール

 

また、GIGAスクールの取組みでよく議論になるのが、個人情報保護条例との関係です。「個人情報保護条例があるから、クラウドは使えない」とよく言われます。しかし適切に審議会に諮問審議すれば通れる道です。奈良市では先月2回目の個人情報保護審議会が開催され、前向きな議論をいただけたときいております。近々、良い方向の答申が出ると思います。国では「クラウド・バイ・デフォルト」とずっと前から言われていますし、各自治体でも充分対応できると思います。

低学年の子どもが端末を使えるのか アンケートで見えてきた可能性とは

今回の奈良県での取り組みのように、ICT機器を小学1年生から中学3年生まで一気に整備しようとすると「低学年の子どもが端末を使えるのか」と、よく言われます。令和2年6月から8月にかけて、奈良県立教育研究所教育情報化推進部の小崎誠二氏が実施したアンケート調査(奈良市・生駒市・大和郡山市・橿原市在住の就学前の5歳児、小学校1年生、2年生209名を対象)をもとにお話しします。

 

5~7歳児を対象にした調査では、「文字が概ね読めますか」の設問に、2年生になると7割以上の子どもが読めることがわかりました。「10日間使ってみてiPadとChromebook どっちが好きですか」の設問では、5歳児は半々でしたが、年齢が進むにつれて「Chromebook が好き」と答えた児童が多くなりました。

 

「子どもたちがパスワードを決められるわけがない」という声もよくあります。やはり自分一人で決めるのは難しい傾向があります。一方で、保護者や教師、誰かと一緒に考えて、自分で忘れないパスワードを決めることは、1年生でも2年生でもできるということも分かりました。

 

その他にも、音声認識ができること、故障や電池切れでは「電源が入らないときには電池がない」と認識できること、充電すればいいことも、2年生になれば十分理解していることが分かりました。

 

また、自分でログインできることもわかり、「家庭でのオンライン学習は、必ずしも保護者が横につく必要がない」ということが推察されます。最初のレクチャーさえしっかりできれば可能になるのではないでしょうか。

 

さらに、プログラミングを学べる教育ツールのScratchも最初に使い方を教えれば、あとは自分たちで使えるということが分かりました。このアンケートの結果から、大人のほんの少しの頑張りで、子どもたちはどんどん新しい世界に入っていくのではないか、そんな思いを感じているところです。

 

▲ スライド11・アンケート調査では、子どもたちが新しい学びに慣れていく可能性が見えてきた

 

奈良県では、ようやく端末とネットワークと整備について目処がつきました。これがスタートラインで、GIGAスクール構想は、これからが始まりです。GIGAスクールは「あれもこれもやってみよう」の積み重ねと繰り返しです。教師にとっても一番やりがいを感じられて、学びの形がどんどん変わっていくのではないかと思います。

 

>> 後半へ続く

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