概要
超教育協会は2020年6月10日、ギリア株式会社 代表取締役社長 兼 CEOの清水亮氏を招いて、「アフターコロナ時代のAIと教育」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、清水氏がAIと教育における最新事情について紹介。後半では超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに、参加者からの質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。
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「アフターコロナ時代のAIと教育」
■日時:2020年6月10日(水)12時~13時
■講演:清水 亮氏 ギリア株式会社 代表取締役社長 兼 CEO
■ファシリテーター:石戸奈々子 超教育協会理事長
シンポジウムの後半では、清水氏への質疑応答が行われた。ここでは、参加者から寄せられた質問をファシリテーターの石戸が清水氏に確認するという形で実施された。
超教育協会理事長の石戸奈々子
教育現場へのAI導入の鍵は「面白がる」こと
石戸:「まず、トライグループとの取り組みについての質問がいくつかあります。テスト結果のお話しは、先生が教えるときのことだと思いますが、生徒側ではどのようにAIを活用できるのでしょうか」
清水氏:「トライ式AI学習診断は設問に対して『○』か『×』か『わからない』を選んでゲーム的にやっていきます。そうすると、『ここが苦手だ』とわかるようになります。生徒が自分で苦手なところを認識するのは難しいのですが、トライ式AI学習診断では、自分でも自覚してなかった苦手分野を把握できます」
石戸:「『AIは原因と結果だけ教えればいい』とのことでしたが、トライの例では、生徒の回答と正誤ですか。AIであれば少ないサンプル数にもかかわらず正しい結論に近づける理由を教えてください」
清水氏:「少ないサンプルで正しい結論に近づける理由ですが、トライはもともと個別指導ですので、細かい学力検査をしてきました。ただそれは年に複数回実施すると生徒の大きな負担になります。なので個別に、この生徒は全体的に英語の成績を上げたいから『英語だけ2時間かけてやりましょう』というテストをしていてそのデータがあったのです。このような過去の蓄積があるので、これが苦手な生徒はこっちも苦手なことが多いというような相関関係を見つけることができるようになります」
石戸:「AI教育の他社サービスが数学にしか導入できていないのに、トライが導入できている理由を教えてください」
清水氏:「そもそも他社サービスは海外製のものが多いらしいです。そのため、海外と日本で共通する科目が少なく、共通科目としてあるのが数学だと聞いています。国内企業ではここまで網羅的な取り組みをしている企業はなさそうです。
また、教育向けAIは、アルゴリズムから開発しなければいけませんので、難易度は決して低くはありません。AIは簡単だと申し上げましたけれども、それは『原理は簡単』ということ。未知のデータについて精度を高めて類推するには、技術や工夫が必要です。そこが、ギリアの教育向けAIと他社との異なる強みです」
石戸:「AIはたとえば、自由英作文や記述問題のようなものでも判断できるようになるのでしょうか」
清水氏:「世の中には、自然言語を使った質問と回答のようなタスクはたくさん存在しています。有名なのが、Facebook AI ResearchがやっているbAbIというプロジェクトで、『こういう文章があったら答えを当てなさい』と、AIには難しいとされてきた設問にも答えられるようになってきています。自然言語の翻訳が難しかったのができるようになってきているので、AI教育についても記述問題の採点に進化していく可能性はあります」
石戸:「ギリアのサービスでは、アセスメント(学力診断)を短時間に行うところでAIを活用しているということはわかりましたが、成績向上にAIが寄与したわけではないのですよね。また、アセスメントだけではなく他社でケースが多い最適出題制御に取り組む計画はありますか」
清水氏:「今後の展開については詳しく申し上げられないのですが、アセスメントで終わりだとは思っていません。最終的には、実際に成績向上にAIが寄与するようになればいいと思っています。ただし、アセスメントをきちんとやるだけで偏差値が劇的に上がったというのは評価できることで、生徒の可能性を広げることに寄与できていると考えています」
石戸:「レコメンドされて自分の弱点がわかり次に解くべき問題がわかるというのは効率的な学習につながります。その一方で、なぜ間違えたのか、自分はどこが弱いのか、どの順番で勉強すべきなのか、というプロセスを自分で考えること自体にも学びがあり、それを奪うことで言われたことだけをやっていくという姿勢になってしまわないかという点についてはどうお考えですか」
清水氏:「AIが教育に寄与するということをどういうように捉えるかということも問題だと思っています。もちろん、自分で何が悪いのか内省的に見つけ出せたらそれは素晴らしい学びです。ただ、それでは、偏差値が著しく低い生徒を救うことはできないのです。やはり、自分で見つけることのできない生徒をどうするかをケアするべきであって、もとから勉強ができる生徒はAIに頼らなければいい。AI教育は勉強について行けなくなった生徒を救いつつ、より高みを目指す生徒も救うということがポイントだと思います。今の教育システムの中でやるのであれば、それはより高度な悩み、贅沢な悩みなのでないでしょうか」
石戸:「近年、プログラミング教育としてロボット教材を導入している学校も多くありますが、そのロボット教材を学ぶことは有効だと思いますか」
清水氏:「子どもたちの興味を引きつけながら、わかりやすさを考えていく中で、ロボットをツールとしてプログラミングを教えていくことは悪くはないと思います。ただそこに物理的な制約がでてしまうので、教えられることが減ってしまうことは懸念されるでしょう」
石戸:「2025年にAIに関する基礎素養育成が本格化すると仮定して、現時点で教育関係者が身につけておくべきスキルや情報はなんだと思われますか」
清水氏:「やはり、AIを面白がるという感性じゃないでしょうか。プログラミングを面白がるのはけっこう難しく、AIのほうが面白がりやすいと思います。何も知らなくてもいいので(笑)。人間は何かを学ばなくてよく、AIに『これやってごらん』と命令すればいいわけです。」
最後に石戸氏の「今回はこれまでとはまったく異なる切り口で、次の教育を考えるきっかけになったのかなと思います。清水さん、本日はどうもありがとうございました。それから、ご視聴いただいた参加者の皆様もありがとうございました」という締めの言葉でシンポジウムは幕を閉じた。