概要
超教育協会は2020年5月26日、熊本市教育長の遠藤洋路氏を招いて、「熊本市のオンライン教育の取組」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では遠藤氏が、先生と子供たちとの双方向のコミュニケーションを重視したオンライン授業について具体的に紹介。後半では前回にオンライン講演を行った広島県教育長の平川理恵氏、および、超教育協会理事長の石戸奈々子を交え、参加者からの質疑応答を行った。前半の模様を紹介する。
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「熊本市教育長に聞く~熊本市のオンライン教育の取組」
■日時:2020年5月26日(火)12時~13時
■講演:遠藤洋路氏
熊本市教育長
■ファシリテーター:石戸奈々子
超教育協会理事長
全国に影響を与えるような先進的な取組をされている教育長にそのお話を聞くシリーズの第2回として、熊本市教育長の遠藤洋路氏が講演をした(第1回は、広島県教育長の平川理恵氏が講演)。前回の講演と同様、遠藤氏が約30分オンライン教育の取組について講演をし、続く30分でその内容に対する参加者からの質疑応答を実施した。
遠藤氏の主な講演内容を以下に示す。
ICT導入の目的を重視して研修を実施
今日は、熊本市のオンライン教育の取組ということでお話をさせていただきます。
ここでは、4つのトピックを用意しています。
「1 熊本市の(休校前の)教育ICT整備」
「2 休校とオンライン授業の開始」
「3 オンライン授業のモデルと学校の取組」
「4 これから」
です。
取組における4つのトピック
まず、「1 熊本市の(休校前の)教育ICT整備」を説明します。
熊本市ではiPadのセルラーモデルを3人に1台の体制で、3年間かけて整備していきます。教職員および特別支援学級については、ともに1人1台体制で導入を進めてきました。この導入にあたっては研修を重視しており、すべての教員に研修を実施しています。また、管理職や各学校の情報化推進チームを対象にした研修もそれぞれ実施しています。
このように何段階もの研修をすることで、円滑に導入できるよう進めてきました。それぞれの学校においては、「推進リーダー」「サブリーダー」「推進メンバー」といったチームを編成して取り組んでもらっています。さらには、熊本大学とかNTTドコモとか、外部の専門機関にも役割を担っていただき、教育委員会といっしょに産学官連携で推進しています。
研修で強調しているのはICT導入の目的です。「主体的・対話的で深い学び」のための授業改善である、教員が(ICTを)使うのではなく、子供が使うことで、子供たちが授業の主役になるということを研修で伝えてきました。
休校中は「子供たちとつながるためにできることはなんでもする」
次に「2 休校とオンライン授業の開始」についてです。
休校前にまず、いくつか学校を選んでオンライン授業の検証を行うなどの準備をしてきました。そのため、全国一斉休業となったときに、すぐに対応できたと思います。3月中の休校では、すべての小学校(5年生、92校)と中学校(2年生、8校)でタブレット端末(iPad)を用いた持ち帰り授業を開始しています。
4月にはすべての家庭のネット環境調査を行い、4月半ばからは全部の小中学校でオンライン授業を開始できました。ネット環境調査ではだいたい3分の1のご家庭でネット環境がないということがわかりましたので、ちょうど3人に1台あったタブレットを貸し出して授業を受けてもらうことにしました。
オンラインの授業そのもの以外にもいくつか取り組んだことがあります。例えば、NHKや民放4局に協力いただいて、テレビ番組でも授業の動画を放送しました。また、可能な学校ではユーチューブでの動画配信にも取り組んでいます。それから、学校のホームページでの情報発信も行っています。
さらには、ライン(LINE)を使った悩み相談事業も実施しています。コンスタントに1日30~40件ほどの相談がきたという状況です。このラインでの相談で特徴的だった機能が「みんなに相談」という友達同士で相談できる(利用者が利用者に相談できる)というもので、同じ悩みを持つ当事者からアドバイスがもらえるようにしました。友達同士の助け合いができたと思っています。
このほか、学校の図書利用カードで(私立の)電子図書館を利用できるようにする、博物館をユーチューブなどで利用できるようにする、など、子供たちとつながるためにできることはなんでもするという姿勢で取り組んできました。
5段階のスモールステップでオンライン化に取り組む
続いて、「3 オンライン授業のモデルと学校の取組」についてです。オンライン授業を実際にどのようにして進めてきたかを説明します。
まず、取組方です。先生が一方的に伝えるのではなく、双方向のやり取り、コミュニケーションとなるようにしています。実際にどうやるのを示したのが上のスライドです。スモールステップごとの5段階に分けて、1つずつ着実に取り組む形で進めました。
ステップ1は健康観察ということで、文字によるやりとりです。ステップ2は文字に加えて写真でもやり取りができる、そしてステップ3は先生からの課題の提示と子供からの学習したものの提示ができるというもの(例えば、自己紹介を動画に撮って今日の15時までにロイロノートの提出箱に提出してください、あるいは、課題をロイロノートのカードにまとめて提出してください、など)です。このステップ3から「学習」になっています。
続くステップ4は子供同士の学び合いができる(回答を共有して学びを深める)、そしてステップ5は子供たちが発表できる(例えば、英語の授業で学習したことを動画コンテンツにまとめてZoomで発表する)、というようになっています。
このように、スモールステップで取り組んでいます。どの学校も(5ステップを)全部できたというわけではありませんが、できることをやるというように着実に取り組んでいます。保護者からは、「自宅でタブレットが使えて、先生や友達の顔が見られることで、子供に張り合いがあるようです」などの感想が寄せられています。
オンライン授業の取組において、その実績を調べてみて興味深かったのは、日ごろの授業でできていなかったことは、オンライン授業でもできなかったということです。例えば中学校ではステップ3止まりのところが多かったのですが、その理由は通常の授業でも学び合いはあまりできていなかったためのようです。オンライン授業に取り組むことで、日ごろの授業の課題が浮き彫りになったとも言えるのではないか、と思います。
このように休校中にオンライン授業からは以下の事柄が実感できました。
・「できるところからやる」ことが全体のレベルアップにつながる
・オンライン授業には不登校の子供も参加しやすい
・日ごろの授業のやり方がオンライン授業にも反映される
・ICT活用が進んでいる学校ほど、家庭でのタブレット利用に関する問題が少ない
・「学校で授業する意味(学校でしかできないことは何だろう)」をより深く考えるようになる
・(子供も先生も)自ら考え行動する力が問われる(そうせざるを得なかった)
1人1台のiPad整備を遅くても2021年2月までに実施へ
こうした取組を生かして「4 これから」どうするかですが、まず1人1台のiPad整備を遅くても2021年2月までに実施する予定です。また、子供たちの学びについて、学校での授業においても、オンライン授業においても、いずれも改善していきます。
先生に対しては、在宅勤務やオンライン研修ができるようにしていきますし、学校行事やプレゼン発表会でのオンライン活用もICTによりスムーズに実現できるようになるのではと考えています。
オンライン授業の取組では、デジタルか?アナログか?、紙か?コンピュータか?、教室での授業か?オンライン授業か?、といった二択ではなく、やはり両方が大切なんだと認識し、それぞれに取り組んでいくことになると思います。登校とオンラインの組み合わせ(ハイブリッド)ということでは、学校でも自宅でも授業が可能ということで、欠席・不登校といった概念自体が変わると思います。今後も災害等で学校に来られない事態になったとしても、柔軟に(オンラインに)切り替えられる体制ができるのではないかと考えています。
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