できることからなんでも取り組む、できないことをできるようにする
第2回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2020.6.29 Mon
できることからなんでも取り組む、できないことをできるようにする</br>第2回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2020年5月26日、熊本市教育長の遠藤洋路氏を招いて、「熊本市のオンライン教育の取組」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では遠藤氏が、先生と子供たちとの双方向のコミュニケーションを重視したオンライン授業について具体的に紹介。後半では前回にオンラインシンポジウムを行った広島県教育長の平川理恵氏、および、超教育協会理事長の石戸奈々子を交え、参加者からの質疑応答を行った。その後半の模様を紹介する。

 

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「熊本市教育長に聞く~熊本市のオンライン教育の取組」
■日時:2020年5月26日(火)12時~13時
■講演:遠藤洋路氏 熊本市教育長
■ファシリテーター:石戸奈々子 超教育協会理事長

 

遠藤氏の講演に続いて後半では、講演内容に関連した質疑応答が行われた。ここでは、広島県教育長の平川理恵氏を交え、超教育協会理事長の石戸奈々子氏がファシリテーターを務めた。

 

▲ 写真・後半の質疑応答では
超教育協会理事長の石戸奈々子氏が
ファシリテーターを務めた

実現するための取組方法に多くの質問が寄せられる

石戸:「『やれることはすべてやる』という姿勢が表れた実践であると同時に、そのスピード感に感銘を受けました。

 

質問がいろいろと寄せられています。まず、なぜiPadを選んだのか、その理由を教えていただけますか。これに付随して私からも質問があります。セルラーにしたということで、(オンライン教育での)論点の一つである家庭におけるICT化にもつながっていますね。この観点からもiPadセルラーモデルにした理由を教えてください」

 

遠藤氏:「iPadを選んだ理由は、タブレットとして完成度が高かったからです。いろんな活動に使えますし、使いやすさもあります。小学校1年生から中学校3年生までの活動に十分対応できると思ったので選びました。子供たちに十分活用してもらうために、フィルタリングの制限はしていますけれども、機能の制限は極力なくしています。これが授業の改善につながると考えています。

 

セルラーモデルを選んだのは、以下の理由です。選定しはじめた3年前は熊本地震から1年後で、まだ市内でも壊れた建物を解体したり、新しい建物を建設したり、という時期でした。そのため、工事する時間が取れなかったのです。セルラーモデルでは工事は必要ないので、物理的・時間的にもよいだろうと考えました。加えて、家で活用することを最初から想定していたので、『学校の外で使える』ことも重視して選定しました」

 

石戸:「ありがとうございます。関連して、セキュリティを懸念する声もあったかと思います。教育委員会にどういうふうに働きかけたら実現できるのかについても、お伺いできればと思います」

 

遠藤氏:「セキュリティについては皆さん気にされますが、まずは子供たちが自己管理できるようにすること、これも教育だと考えています。学校のタブレットのセキュリティをいくら強化したとしても、(子供は)家のスマホを用いてセキュリティを気にしないで使うこともできるわけです。それなのに、わざわざ学校のタブレットで悪さをする必要はないでしょう。学校のタブレットはLTE(セルラーモデル)なので、どのサイトを見ているかがわかります。自分で管理してくださいと伝えたうえで、最低限のフィルタリング以外は各自に任せています。もし、問題があったら、個別に指導するということにして、一律での規制はしていません」

 

石戸:「みんなができないからやらないとかではなく、できることから取り組んでいく、そして試行錯誤して改善していくという姿勢が徹底されているのですね」

 

遠藤氏:「私たち行政の仕事は、『できないところ(できない家庭)をできるようにする』です。『みんなができないからやらない』というのは逆ですね。やらないということは、私たち全体が遅れる、という認識を持たないといけないとも思います」

 

石戸:「ICT活用が苦手な先生に対して、研修以外でサポートしたことはありますか、という質問も来ています」

 

遠藤氏:「ICT支援員の方々20人を組織して各学校を順番に回ってもらい、個別に教えてもらっています。学校を巡回しているときに『わからないことをなんでも聞いてください』と呼び掛けて、個人の相談にも応じてもらっています。また、教育センターも熱心に各学校に出向いて、手取り足取り教えています。各学校の利用状況をモニターしていて、例えばこの学校はロイロノートが使えていないとなったら、出向いてその使い方をサポートするといったことを実施しています」

 

石戸:「次にコンテンツに関する質問が来ています。コンテンツについて、教員だけで作ったのか、あるいは制作のプロが関わったのか、そのあたりはどうなんでしょう」

 

遠藤氏:「テレビの番組はテレビ局の人と一緒に作っていますので、演出等はテレビ局の人がやっています。10校ほどの各学校で実施しているユーチューブの動画については、それぞれの学校の先生方が作っています。双方向のやり取りに取り組んでください、子供と対話してください、とお願いしているなかで、『動画もやりたい』という学校が自主的にやっています」

 

石戸:「オンライン授業の成果についても質問が来ています。オンラインの方が理解度が高く、定着率も高いということでしょうか?という質問がありますがオンライン授業の成果はどうでしたか?」

 

遠藤氏:「6月1日から本格的に授業を再開しますので、その様子を見ないと、どの程度オンライン授業による学習が定着しているかはわからない状況です。(講演会が実施された5月下旬の)今、各学校に対して、どの程度オンライン授業で学習の定着ができているのかを把握してくださいとお願いしているところです。

 

現時点では、ステップ5まで行けているところでは学習の定着、(オンライン学習という)スタイルの定着はできていると思いますが、そこまで行っていないところでは厳しいのかなと考えています。また、学年とか家庭とかで差が出てくることもあると思いますから、それをしっかり把握したうえで解決していくのがこれからかなと考えています」

 

石戸:「オンライン授業を行ったことで見えてきた『本質的なこと』とはなんでしょうか、という質問も来ています」

 

遠藤氏:「『本質的なこと』ということでは、まず授業って何なの、ということですよね。登校する学校での授業の良さということでは、子供同士の相互作用、先生と子供の相互作用がより発揮しやすいという面があると思います。周りに人がいる状態の方がやりやすい活動があるということです。

 

一方、家で1人で取り組む方が集中できる、自分のペースで学習できるという活動もあると思います。これらを見極めることで、学校での授業の役割がよりわかりやすくなる、課題も浮き彫りになると思います」

 

石戸:「オンライン授業ということでは、学習の定着を含めて、さまざまな評価の仕方があると思いますが、どういう評価軸を考えていますか」

 

遠藤氏:「学習の定着についてはオンラインですごく評価がしやすくて、例えばドリルがどこまで進んだか1人ひとりわかりますし、みんなの発表を一覧で見ることができるので各自どこまで理解しているかということは評価しやすいと思います。

 

一方、自分で自立的・主体的に学んで行動する、というところの評価の基準を数値化するのは難しいと感じています。これについては、登校したときにオンラインで難しかったことを振り返ってフォローできると思いますので、次にオンラインでやるときにはよりよい形で先生が対応できるのかなと考えています。

 

また、オンライン授業では、不登校の子供の参加があったということが報告されています。学校に行くのは大変だけどオンラインなら対面で授業を受けられた、という子供がいました」

 

石戸:「熊本市の取組のどこを真似れば、スピード感を持ってここまでできるのかという質問が来ています。これについてはいかかでしょう」

 

遠藤氏:「休校になる前から、何のためにICTを導入するのか、その目的は何なのかを、徹底的に伝えてきたので、その延長線上で(休校時のオンライン授業が)自然に実現できたのかなと考えています。また、先ほども少し述べたように、『全国で一斉に休校します』という前から熊本市は準備をしてきました。前から準備をしてきていたので、気持ちのうえで違ったのかなとも思います。

 

口幅ったいですが、教育委員会はこうやって運営するんだというメッセージをあえて発信することで、同様の活動を県や国全体に広めてほしいと考えています。一つのモデルとしてあえてこんなふうに(文科省との付き合い方とか、教育委員会での意思決定の仕方とか、などを)やっていますとオープンに示すことで、日本全体の教育行政が少しでもよくなればと思うのです」

 

石戸:「最後に、今後学校が再開したあとの運営方針について教えてください。オンライン授業を継続するのか、今後の学校の在り方はどう変わるのか、についてお話ください」

 

遠藤氏:「オンライン授業はこれからも継続したいと思います。特に学校に来られない状況の子供とか、今回のようにみんなが学校に来られない場合に必要でしょう。また、1人ひとりの学び方にあった学び方という選択肢の一つとして、オンライン授業が有効である場合も多々あると思います」

 

石戸:「いままで以上に多様な学びが提供できるということですね。平川さん、前回にお話しいただいた広島とは違う面もあったかと思いますが、どのように思われましたか」

 

平川氏:「大変勉強になりました。一つ質問です。個別にタブレットをモニタリングされているとおっしゃっていましたが、各学校が活用のステップに従ってどのようにモニタリングされているのかを教えていただけますか」

 

▲ 写真・広島県教育長の平川理恵氏

 

遠藤氏:「各学校の通信量とか、どのアプリを使っているかなどは教育センターで一括してわかります。どの学校で、どのアプリを何時間使っている、というのが全部グラフでわかります。同時に、各学校にアンケートを実施したりもしています。データで一括して把握するのと、学校ごとにアンケートで調べるのの、両方を行っています。

 

また、各端末の利用状況もわかりますから、ずっとユーチューブを見ているといった場合には、個別に指導するといったこともあります」

 

平川氏:「広島県でもLTEを導入した学校があるのですが、データ使用量は平均で4Gバイトでした。今は7Gバイト上限のLTEでやっているのですが、なかにはずっとニコ動(ニコニコ動画)を見ている子供がいて、30Gバイトとかいっていしまう場合もあります。LTEを導入されているということで大変参考になりました」

 

遠藤氏:「データ使用量が多い子供は例外で、全体的には意外と少ないというのが現状です。全体としては問題がない、問題があれば個別に指導する、という形で対応できていますので、やはり全体を見据えて使いやすいように導入するという方針が大事だと思います。

 

繰り返しになりますが、『できることからやる』、『できないことをできるようにする』、『先生方の邪魔をしない』、というのが教育委員会の役割だと思います。なので、やりたいという方は、声を上げていただければ思います。皆さん、一緒に頑張りましょう」

 

質疑応答は、最後に遠藤氏が熊本市の取組の方針を改めて強調しつつ、ともに進めていこうという呼びかけで終了した。

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