先駆的なオンライン学習で実績を上げた公立学校
第62回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2021.10.22 Fri
先駆的なオンライン学習で実績を上げた公立学校<br>第62回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は、2021915日、つくば市立みどりの学園義務教育学校の校長を務める毛利 靖氏を招いて、「つくば市立みどりの学園の先進的ICT教育の実践~開校3年目でeラーニングアワード受賞」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

前半は毛利氏が同校で進めてきた教育へのICT導入の取り組みについて解説。後半には、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。

 

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「つくば市立みどりの学園の先進的ICT教育の実践

~開校3年目でeラーニングアワード受賞

日時:2021年9月15日 (水)12時~12時55分

講演:毛利 靖氏
つくば市立みどりの学園義務教育学校  校長

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

毛利氏は約30分の講演において、2018年に開校した「公立校ながらもICT先進校」として知られるみどりの学園義務教育学校(以下、みどりの学園)が進めている取り組みや成果について説明した。その主な講演内容は以下のとおり。

 

 

【毛利氏】

みどりの学園は2018年に開校した小中一貫校です。2020年には、一般社団法人日本オンライン教育産業協会が主催する日本e-Learning大賞で文部科学大臣賞を受賞しました。そのときの本校の紹介ビデオでは、「みどりの学園は普通の公立学校」と説明しています。ビデオの内容に沿って本校を紹介すると、まず、開校1目に全ての学級でプログラミング学習を行い、小学校1年生からロボットを使った英語学習も実施しました。大型掲示装置やデジタル教科書を使った楽しくわかる授業、問題解決学習でのアクティブラーニングやプレゼンテーションにも力を入れています。開校2年目には、SDGsについて学ぶ授業やSTEAM教育も実施しています。

 

開校1年目には、当時の柴山 昌彦文部科学大臣、開校2年目には萩生田 光一文部科学大臣が来校しました。2020年度には、新型コロナウイルスのため学校が休校になりましたが、休校の日からオンライン学習を実施。普通の公立学校でもICTをここまで活用できると示したのがみどりの学園だと考えています。

 

▲ スライド1・みどりの学園の概要

 

みどりの学園が開校わずか1年目でICTをフル活用できた理由とは

みどりの学園は、普通の公立学校でICTに長けている先生が集まっているわけではないのに、「なぜICT活用が実現できたのか」について考えてみました。データサイエンティストで株式会社ZENTech取締役である石井 遼介氏の著書「心理的安全性の作り方」を読んだところ、あてはまる項目がありました。

 

正解のないこれからの時代に必要なのは、「進んで挑戦し失敗や実践から学ぶ」こと、「変化を感じ工夫や創造することができる」こと、「率直な対話」、「適材適所」、「先生へのサポート」、「未来を作ろう」という気持ちなどです。これらを大切に考えてICT教育に取り組み、実践したことで、開校1年目で全職員全教科でのICT活用が実現できたと考えます。

 

▲ スライド2・みどりの学園で
ICT活用が実現できた理由

 

新型コロナウイルス感染症の影響で、2021年は92日から休校しましたが、全校生徒1,600が同時に自宅などからアクセスすることになるので、データを軽くするにはどうしたらよいかについて、先生方がみんな集まって話し合いをして解決しました。

 

また、オンライン授業は先生が教えるだけの授業になりがちです。そこで、理科の実験などを取り入れるなど、内容も先生方で話し合って工夫をしています。すすんで挑戦し、工夫や創造することを重視した取り組みの一例です。

 

▲ スライド3・オンラインで
理科の実験を行っている様子

 

さらに、「進んで挑戦し失敗や実践から学ぶ」こと、「変化を感じ工夫や創造することができる」こと、「率直な対話」、「適材適所」、「先生へのサポート」、「未来を作ろう」という気持ちを持って先生方がICT教育に取り組んだことで、先生方のICT利用度も向上しました。国語を例にとると、開校時は週に1回使うか使わないかくらいでしたが、開校1年で毎日使うようになりました。

 

▲ スライド4・教師のICT活用度の変化

 

みどりの学園では、開校1年目からプログラミング授業を実施しています。開校時は小学校担任20人のうちプログラミング経験者はわずか2名でしたが、開校1年間で小学校の担任全員がプログラミングの授業ができるようになりました。これも、「進んで挑戦し失敗や実践から学ぶ」こと、「変化を感じ工夫や創造することができる」こと、「率直な対話」、「適材適所」、「先生へのサポート」、「未来を作ろう」という気持ちで取り組んだことによるものです。

 

▲ スライド5・開校1年で小学校の
全担任がプログラミング授業を実践

 2040年代に活躍する今の子どもたちに必要なスキルを考える

子どもたちへのアンケート結果を見ると、電子黒板の授業はよくわかるとか、PCの授業は楽しいというのと同時に、勉強ができるようになったという子が9割いることに手ごたえを感じました。

 

▲ スライド6・ICT活用に関する
児童生徒へのアンケート結果

 

学力テストの経年変化を見ると、年々学力が向上しているのがわかります。開校時は平均が県平均を下回っていましたが、3年後には、県平均プラス3%以上がほとんどの学年で達成できました。

 

▲ スライド7・ほとんどの学年で
学力が年々向上している

 

もうひとつ、先生方の意識を変えていくことも重要です。日本の先生はとても優秀で、子どもたちのために何でもやってあげたいという気持ちがとても強いといえるでしょう。子どもたちがしっかりと知識を身につけようと、毎日一生懸命にノートをとったりドリルをやったりしていると、子どもたちはプログラミングやコンピュータについて学び、工夫する時間がなくなってしまうこともあります。

 

そんなときには、これから子どもたちが成長し2040年代に活躍するようになることを想像してくださいと話し合います。子どもたちにとっては、知識ももちろんですが、21世紀型スキルとでも呼ぶ能力が必要となります。教育もそちらへシフトしませんかと話し合うと、先生たちにも納得してもらえます。向上心のない人なんていないので、先生方はもっと誇りを持って働きましょうや、学校の中で仲間を褒め合うようにしています。

 

▲ スライド8・開校1年目で
ICT活用が実現できたのは先生の力も

オンライン学習が「できた学校」と「できなかった学校」の違いとは

みどりの学園のグランドデザインでは、「21世紀型スキル・社会力」「伝える英語教育」「世界最先端ICT教育」「SDGs持続可能社会の実現」「問題解決STEAM教育」「幼保小中高大連携接続」を掲げています。開校1年目は5人に1台しかコンピュータがない状況でしたが、ICTが不可欠なカリキュラムを掲げました。

 

▲ スライド9・みどりの学園の
グランドデザイン

 

これまでは学校が国や県や市を向いていれば、そこから達しがきてそれを授業すればよかったのですが、コロナがあって変わりました。国も県も初めてのことで予測がつかないので、学校が主体的にみんなで考えながら先に手を打っていくことが大事だと思います。

 

▲ スライド10・これからは学校が
自治体と連携して主体的に動くことが大事

 

オンライン学習ができた学校とできなかった学校がありますが、なぜできなかったのか聞くと設備が整ってないから、できる人がいないから、教育委員会から指示がないから、親からクレームがくると嫌だからという答えが返ってきます。それは言い訳に過ぎません。一方でできている学校に聞くと、できるところから何でもやってみようという精神が根付いています。保護者に理解してもらいながら、とにかくまずやってみることが重要です。

 

▲ スライド11・オンライン学習が
できた学校とできない学校の違い

休校時にはオンライン学習動画を500本以上作成

みどりの学園の休校時のオンライン学習をどのように実施したか。まずオンライン学習動画を500本以上作成しました。ホームページのアクセスは116,000。開校4年目で85万アクセス達成しています。

 

あとはAIドリルを1年生から9年生まで作って、いつでもどこでもどんな学習もできるようにしました。去年は11台端末がまだなかったので、家庭で父親のパソコンなどを使ってやっていた児童もいます。先生がしゃべっているだけではつまらなくなるので、子どもたちが課題を書き込んでそれを一覧にして話し合ったりなど、インタラクティブなオンライン学習を実践しています。

 

6年生は総合学習の時間でSDGsの学習をしていて、プログラミングで世界を救おうという授業を行っています。災害時にマイクロビットを使って生存確認するや、ドローンで何かを届けるや、人命救助プログラムなどを作っています。またマインクラフトを使った、未来の環境に優しい街づくりなども行っています。1年生は、タブレットを使って校庭にある春の色を探すという授業をしました。自分で見つけた春の色を友だちに紹介するという授業です。3年生では、俳句や短歌の作者の気持ちや、自分の感想などをプログラミングにして発表しています。2年生の図工では、児童から「あ、そうか」という言葉が出ています。先生から教わって「あ、そうか」と言うのではなく、友だちと学習しながら、自分自身で気づくのが素晴らしいと思います。

 

▲ スライド12・自分で「あ、そうか」と
気づく瞬間がある

 

7年生では、11台タブレットを持って、21組でプレゼンテーションをやっています。最初は30秒も話せなかった生徒でも、続けていると2分以上話せるようになってきます。電子黒板しかなかったら、1人ずつ話をして他の人は聞いているしかないですが、21組でできるところが重要です。

 

保護者のフォローも大切です。保護者もオンライン学習は初めてのことなので、回線が止まったらどうしようなど不安を持っています。そこを安心させてあげるのが大事です。今年も、低学年の保護者からオンラインに入れないと電話がかかってきましたが、これで欠席にもならないし成績が下がるわけでもないので大丈夫ですと言うと安心してくれます。

 

なぜ、開校1年目で全職員全教科のICT活用が実現できたのかもう一度振り返ります。よく校長先生は孤独だと言われますが、そうではありません。リーダーシップは必要ですが、ただ独断的に決めるのではなく、校長先生も悩みを相談すると、先生方も協力してくれます。文科省が誰ひとり取り残さない教育と言っていますが、それは教員も同じということです。

 

▲ スライド13・開校1年目で
ICT活用が実現できた理由

 

>> 後半へ続く

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