概要
超教育協会は2022年8月3日、高知県教育委員会事務局 教育政策課 武市 正人氏を招いて、「全国初!独自学習支援プラットフォームでデータを一元化 個別最適な学びの実現へ ~ 高知県」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では武市氏が、高知県の公立の小・中・高校で導入・活用されている独自開発の学習支援プラットフォーム「高知家まなびばこ」とスタスタディログを活用した個別最適な学びの実現に向けた取り組みを紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。
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「全国初!独自学習支援プラットフォームでデータを一元化 個別最適な学びの実現へ ~ 高知県」
■日時:2022年8月3日(水)12時~12時55分
■講演:武市 正人氏
高知県教育委員会事務局 教育政策課
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
武市氏は約30分間の講演において、高知県教育委員会が独自に開発し、県内の公立学校に導入した学習支援プラットフォーム「高知家まなびばこ」を活用した「個別最適な学び」について紹介した。主な内容は以下のとおり。
【武市氏】
高知県では、独自の学習支援プラットフォームを開発・導入して児童・生徒の教育・学習データを一元管理し、個別最適な学びを実現する取り組みを実践しています。インターネットを利用して多様なリソースで調べ学習を実現したり、文書やプレゼンテーション資料の作成、動画教材の視聴、習熟度に応じたオンラインドリルを利用したりすることで、多様な教育の可能性を引き出していきたいと考えています。
こうした取り組みの実践には、「スタディログ」の活用が大切です。クラウド上に問題や演習、テストの結果などを蓄積し、児童・生徒それぞれの状況やつまずきに応じた指導の改善により、個別最適化が実現できれば、学習定着度に応じた指導はもとより、子どもたちの頑張りや伸びを評価していくことが可能になります。
▲ スライド1・高知県が目指す、
インターネットを利用した「個別最適な学び」の姿
令和2年度からは全国の動向と同様に、県の教育方針を定める教育大綱の基本方針に「デジタル社会に向けた教育の推進」を位置づけました。先端技術の活用による学びの個別最適化」と、さらに将来先端技術を用いて新しい知識や技術の発見を目指す「創造性を育む教育の充実」を掲げて、教育委員会と学校が一丸となって進めています。
小学校から高校までスタディログの「連続性」が個別最適な学びの実現には不可欠
それでは、学習支援プラットフォーム「高知家まなびばこ」を開発・導入した経緯を説明します。高知県はGoogle for Educationのパートナー自治体となり、Googleの協力を得ながら、GIGAスクール構想の実現に向けて独自の学習支援プラットフォームの開発と運用に取り組んできました。昨年度までに高校も含めた県内公立学校で「1人1台端末」の環境が整いました。このタブレット端末は、97%以上がGoogleのChromebookです。
そこでGoogleのアカウントを全児童生徒と教員に配布し、同一のドメイン(メールアドレスの「@」以降が全員同じ)で運用しています。小学校から高校まで同じIDで運用することで、学習データ、スタディログの連続性を確保する仕組みです。
▲ スライド2・Googleの協力も得て
独自の学習支援プラットフォーム開発、運用している
タブレット端末の導入とGoogleアカウントの配布で、調べ学習でのインターネット活用、教職員による資料作成やアンケートの実施、Web会議などはできるようにはなりましたが、高知県が目指す「スタディログを活用した個別最適な学びの実現」には、まだ至りませんでした。
民間の学習アプリの活用も検討しましたが、課題としては3つ考えられました。まずは、個人や学級単位などで自由に学習アプリを選び導入できるようにしてしまうと、組織としてスタディログを活用しにくく、個別最適化された学び、教員の授業改善に役立てることが難しいこと。学年や学校を越えたスタディログの引き継ぎも困難になります。次に対面授業との関連付けの問題として、学習アプリで教員にとって普段なじみのないテーマが出ると、授業と学びの連動性に支障が出るのではないかということ。3つめは、運用コストの負担です。市町村や学校に任せると財政力によって活用できる学習アプリに差違がでます。利用者個人に費用を転嫁した場合は、経済的負担にもなります。
このような課題を踏まえ、高知県では、既に作成していた問題集をデジタル化し、まずは「皆が使えるもの」を揃えました。そしてダッシュボード機能や自動採点機能を備えた独自の学習支援プラットフォームを構築する選択肢をとりました。
▲ スライド3・高知県が独自学習支援
プラットフォームを構築するに至った経緯
自分の学年だけでなく以前の学年に戻ることも先の学年に進んで学ぶこともできる
「高知家まなびばこ」を活用すれば、児童・生徒は自分の学年の教材だけでなく、以前の学年に戻って学習することも先の学年を覗いてみることもできます。小学校3年生が「高知家まなびばこ」を利用した場合を例に機能を紹介します。タブレット端末の画面で小学校3年生をクリックすると国語、算数、理科、と教科が並び、例えば「算数」を開くと授業動画の一覧が表示されます。ここで以前の学年や先の学年の授業動画も閲覧できます。
▲ スライド4・学年別教科別の授業動画が
掲載されており、別学年の教材も自由に視聴できる
単元テストも掲載されているので、自分でテストに回答して答えのチェックまでできます。
▲ スライド5・Googleフォームを活用した
単元テストも用意されている
学年ごとの教材の他に、全学年共通の教材もあります。「高知これ単」は英単語の勉強ができるものです。「みらいスイッチ」は就職に関する授業です。防災教育やプログラミングなどの教材もあります。
▲ スライド6・全学年共通教材は、
英語、プログラミング、
防災教育、就職に関するものなど
「高知家まなびばこ」は、体育の授業にも活用できます。「体力・運動能力向上プログラム」は、さまざまな運動の動画で、120本ほど掲載しています。体育の授業で教員がタブレット端末を使い、動き方のポイントを動画で説明することもできますし、最近は児童・生徒が自分のタブレット端末でお互いを撮影しあいながら、お手本の動画と比較して「ここが違う、ここが上手」と対話しながら授業を受けることもできます。
▲ スライド7・最近追加した「体力・運動能力向上」動画。
対面の体育の授業にも活用できる
「個別最適な学び」に活用できるだけでなく児童・生徒の心のケアにつながる機能も
「高知家まなびばこ」には、授業で活用できる機能だけではなく、いじめ、不登校などに関連して児童・生徒の心のケアにつながる機能も盛り込んでいます。トップページのいちばん見やすいところには「こども電話」を用意し、いじめられている、いじめを見た、学校に行きたくないといったときに電話相談ができる窓口へのリンクを掲載しています。
▲ スライド8・いじめ、不登校に関連することなど、
悩み相談ができる電話番号も掲載している
「きもちメーター」は、児童生徒が今日の体調や気分を入力していくものです。Googleフォームで体温、体調や気分を選択肢から選び、必須ではありませんが理由を入力する欄もあります。送信されたものは自動集計され、教員が見ることができます。
▲ スライド9・「きもちメーター」で
児童生徒が入力した内容を集計、教員が確認できる
教員の画面(画面の数字はデモ用です)では、体調がよい子はどれぐらいいるかなどを確認できます。コメントを一つひとつ確認することもできますが、忙しい先生方が要注意コメントを見逃すと困りますので、「相談」や「けんか」などのキーワードがあったコメントは自動的に抽出されて左側に表示されるようになっています。
▲ スライド10・注意が必要なコメントは
見逃さないように自動でピックアップされ表示される
「高知家まなびばこ」の運用は令和3年4月から始まり、きもちメーターは令和3年7月から始めて約1年経過したところです。
「高知家まなびばこ」に学習eポータル機能を持たせ分散するスタディログを効率的に管理
高知県が目指している「高知家まなびばこ」の今後の展開についてお話します。
昨年度、文部科学省が開発したCBT(Computer Based Testing)システム「メクビットMEXCBT」が公開されました。メクビットには、国や地方自治体などが作成した教材やデジタルドリルなどの学習ツールなどが格納されていて、全国の一部小中学校ではそれらを授業に活用しているほか、将来的には全国学力・学習状況調査をMEXCBTを活用して実施するとされています。文部科学省は、このメクビットにアクセスするには、「学習eポータル」を経由する必要があり、今後は民間事業者の各種デジタルツールも同様に「学習eポータル」経由でアクセスできるようになるとしています。
現在、3~4つの民間事業者が学習eポータルのサービスを提供し、メクビットを利用する各自治体はこれらの学習eポータルを利用しています。高知県としては、児童・生徒、教員にとっての最適な学習環境を考えたときには、まずは学習eポータルで「スタディログのサマリー」を確認できるようにして、より詳細を確認したいときには、メクビットやそれぞれの学習ツールのデータを確認するという仕組みにするのが効率的であると考えます。
▲ スライド11・高知県のスタディログ活用の考え方
分散するスタディログを学習eポータルで要約する
高知県が目指している個別最適な学びを実現する新しい学習スタイルでは、こうした機能を備えた学習eポータルが根幹になると考えています。そのため、「高知家まなびばこ」に学習eポータル機能を持たせるという、全国自治体で初の取り組みを進めていきます。
こうした環境を作るため、「高知家まなびばこ」には今後、さまざまな機能を追加していきたいと考えています。
▲ スライド12・画面内の濃い青のところが
今後追加していきたい機能
学校からは、学習eポータル機能を備えた「高知家まなびばこ」を経由して、各種デジタルツールやメクビットにアクセスするようになります。児童・生徒は、個人のダッシュボードで自身の学習状況を確認できます。教員は生徒個人の情報だけでなく、学級、学年、学校のデータの状況を確認して指導改善につなげられます。さらに、今後必要に応じて校務支援システムとのデータ連携も考えています。
最後に「高知家まなびばこ」の、現在開発中のダッシュボードのドラフト版をご紹介します。こちらは高知県の高校で導入している、すららネット社のドリルと連携した画面です。
▲ スライド13・「高知家まなびばこ」で得た
データを集計して一覧にしたダッシュボード
例えば「数学」の詳細を見ると、すららネット社で定義した学習分類やユニットに従った総学習時間、ドリルの正答数、正答率などを確認できます。「高知家まなびばこ」のトップページから、できる限り少ないクリック数でデータが見られる設計を行い、教員や児童生徒が日常的にデータを確認しながら、指導方法を調整したり、自身の学習方法を調整したりと、データ活用できる環境を整えていきます。
高知県のスタディログを含めた教育に関するデータ活用の将来像としては、ライフログも含めた分析や活用を考えていますが、第一歩目としては現在紙などで保有しているデータを集めることが重要です。そうした段階を経て、将来AIの活用などといった議論に進んでいけると考えています。
▲ スライド14・高知県の学習支援
プラットフォームにおけるデータ活用の将来像
>> 後半へ続く