ICT教育で大切なのは「生きる力」に直結するスキルを身に着けること
第81回オンラインシンポ「次世代の教育を先導する『へき地・小規模校』のICT活用」
レポート・前半

活動報告|レポート

2022.4.15 Fri
ICT教育で大切なのは「生きる力」に直結するスキルを身に着けること<br/>第81回オンラインシンポ「次世代の教育を先導する『へき地・小規模校』のICT活用」<br/>レポート・前半

概要

超教育協会は202239日、和歌山大学教職大学院教授の豊田 充崇氏を招いて、「次世代の教育を先導する『へき地・小規模校』のICT活用」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では豊田氏が、和歌山県のへき地・小規模校で25年前から行われているICTを活用して将来を生きる力に直結する学びについて紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

「次世代の教育を先導する『へき地・小規模校』のICT活用」

■日時:2022年3月9日(水)12時~12時55分

■講演:豊田 充崇氏
和歌山大学教職大学院教授

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

豊田氏は約40分間の講演において、和歌山県のへき地・小規模校にて25年前から実施されているICTを活用した学びについて、小規模校同士をつないだ遠隔交流、複式学級でのデジタル教科書の活用法、ICTを活用して地域のPRに取り組むカリキュラムなどを中心に紹介した。主な内容は以下のとおり。

【豊田氏】

和歌山県は、県土の80パーセントが山地で、山間へき地の学校が多数あります。全体的には小規模校で、県庁所在地にも複式学級を持つ学校が4校あり増加中、人口減少に歯止めがかかりません。高速道路や東西移動の鉄道路線がなく、県内移動も極めて困難です。東京から新宮市までは、「時間距離」が最も長いと言われています。県内全域に小規模校が点在しており、小規模の下の「極小規模」の学校がほとんど、という状況です。

 

▲ スライド1・和歌山県内には、全校生徒
数名~数十名の極小~小規模校が多数ある

 

和歌山県では今から25年も前(1997年)に、NTT西日本のテレビ会議システムを導入して学校間交流を行い、紀美野町の山奥の学校で遠隔授業に取り組みました。その様子はCMとなって全国に放送された経緯があります。その後、学校同士をつなぐテレビ会議システムの利用が進み、GIGAスクール以前からもさまざまな用途に活用されてきました。

 

具体的な事例をスライドで提示していますが、これは小規模校4校を同時接続し、ビブリオバトルをしている様子です。ビブリオバトルとは、児童・生徒が読んで面白かった本を紹介して、聞いた人が読んでみたくなったかどうかを競うものです。極小規模の学校では校内でやっても面白くないということで、他の学校とつないで同時開催していました。

 

▲ スライド2・少人数ではつまらない
ビブリオバトルも他の学校と同時開催すれば楽しい

 

学校同士がお互いにオンラインで地域の情報交換をした例もあります。和歌山市と新宮市は、同じ県内ですが特急でも3時間かかります。コロナの影響で県外への修学旅行が取りやめになったため、同じ県内の北部の学校が南部へ、南部の学校が北部へ修学旅行することになり、行き先同士の学校がオンラインで情報交換しました。和歌山県の学校では、コロナ以前からの学校間交流ニーズが土台にあり、このようなことも当たり前のように行われています。

 

▲ スライド3・修学旅行を前に、行き先の
情報交換のプレゼンをオンラインで行っている

 

また、道徳の授業では学校同士を接続してオンラインでの意見交換が実施されています。道徳の授業は、価値観を共有し、価値観をぶつけながら進めるものですが、少人数ではそれができません。そこで、テレビ会議システムで学校同士をつなぎ、児童・生徒が多様な意見に触れることができるようにしています。

 

▲ スライド4・道徳の授業も他校と同時接続で
行うことで、
多様な意見に触れることができる

 

こうした取り組みは先進的な取り組みとして、メディアにもたびたび取り上げられてきました。古くは22年前の1999年に東京新聞で紹介されました。

 

▲ スライド5・1999年の東京新聞で、和歌山県の
山里の学校での先進的な授業の様子が紹介された

児童用SNSによる実証実験で社会性を身に着けていく子供たち

一方、学校同士をつなぐ取り組みだけではなく、2012年からは学校教育向け児童用SNSに関する実証実験もしています。大学の教育学部の学生に協力してもらい、学生と極小規模の学校の児童でバーチャル学級を作り日々の学習活動の交流のほか、他校ともバーチャル学級を作り学校管理下でどのような取り組みができるかを試しました。

 

▲ スライド6・2012年にはバーチャル学級と
児童用SNSの構築・運用の実証実験が行われた

 

このスライドの例は、児童用SNSで極小規模校の「鍋給食」の情報を発信しているところです。私が「鍋給食なんて聞いたことがない」と反応すると、子供たちは「えっ、他の学校では鍋給食がないのですか」と驚いていました。外部との交流がないと、自分たちがユニークであることにも気づけないものです。

 

▲ スライド7・SNSで発信された「鍋給食」の様子

 

また、SNSを活用して地域について発信する新聞を作る取り組みもしました。5年生1人、6年生2人の極小規模の学校で、「新聞など作っても誰が読むのか、どう作ってよいか分からない」から始まりましたが、大学生がアドバイスしたり褒めたりすると意欲が出てきて、完成させることができました。やはり、外部との交流は刺激となるのです。新聞を読んでのコメントをフィードバックすることや、新聞作成のスキルを認めてあげると、子供たちのモチベーションにつながることが実証されています。

 

また、このとき担任の先生は、「SNSというメディアの特性を大人以上に理解し、普段の会話の口調とは異なる丁寧な言葉で書き込んでいる。子供たちはネットで社会性を学んで成長している」と、言ってくれました。ネットは学校の管理下を離れた学習活動だからこそ、社会の中でちゃんとしなければならないという思いが働いたと思います。

 

このような取り組みは、GIGAスクールによってどこの学校でもできるようになってきています。しかし、学校教育にSNSを利用するといった発想は、やはりリスクが大きく、不適切な写真を撮ることを心配してカメラ機能をOFFにするなど、SNSの特性を充分に知る機会にはなっていないことも多いと思います。それに対し、小規模学校であれば、少人数だからこそ目が届き、しっかりとした指導で発信力を鍛えていけているのだと思います。

プログラミング教育では社会のために役立つことを考え、学ぶ

和歌山県はICT教育を強力に推進しています。中でもプログラミング教育に力を入れており、小中高の一環したプログラム教育のカリキュラムを作っています。

 

ここでの事例は、和歌山県は日本一の柿の産地なのですが、町をPRする町公認アプリとして柿をテーマに児童・生徒たちがゲームプログラムを作るものです。教員が基本プログラムを教えて、あとは生徒たちがアレンジしていく取り組みです。

 

このゲームは、1度遊ぶと紀美野町の特産品である柿と山椒と、最終ステージでは星空、の3つが紀美野町の特徴として「刷り込まれる」(笑)ことになっています。授業で町のPRパンフレットやポスター、CMも作りましたが、それらと異なる絶大なPR効果があります。

 

▲ スライド8・プログラミング教育カリキュラムとして、
町の特産をPRするゲームを制作した

 

和歌山県のかつらぎ町では、社会貢献プログラムのコンテストを実施しました。ある生徒のプレゼンテーションでは、「Pepperが園児の相手をする」ことで「保育士さんに余裕が生まれる」、「過酷というイメージを払拭」、「待機児童が減る」といったことが説明されました。プログラミング技術を手に入れた子供たちが、社会のために役立つことを考え、学んだ事例です。これらの取り組みは、少人数だからこそできる手厚い指導の賜物だと思います。

 

▲ スライド9・和歌山県のかつらぎ町で行われた、
社会貢献プログラムのコンテストの様子

学習者用デジタル教科書が必須の複式学級 学習サポート機能が先生の代わりに

小規模校では、都市部とは異なるかたちでICTが活用されています。例えば、複式学級では、後ろと前に黒板を設置し、片側は5年生、もう一方は6年生で分けています。担任の先生が6年生を指導している間、5年生は先生がいなくても自分たちで学習します。少人数でガイド役を決めて、自分たちで進めていく「ガイド学習」のかたちです。

 

このガイド学習で重要となるのが「(学習者用)デジタル教科書」です。未だに紙の教科書がよいとか、目が悪くなるといった議論がされている中、小規模校の複式学級では、デジタル教科書が必須です。

 

▲ スライド10・一つの教室で
異なる学年や授業で学ぶ複式学級では、
デジタル教科書が必須

 

5年生は教科書に基づいた授業、6年生では町のPRポスターを作る授業をするといったかたちです。授業の終盤に5年生が6年生に自分たちの考えを確かめると、去年学んだ6年生から、「うん、そういうとらえ方でいいんじゃないの」とアドバイスをもらえます。町の清流のPRポスターを作った6年生は、5年生にポスターで伝えたいことが伝わるかどうか感想を聞くことができます。

 

▲ スライド11・複式学級では、
異なる学年の児童が
学習成果を共有することもできる

 

デジタル教科書は、ヒントを与えてくれたり、音声で朗読があったり、先生がいなくても自分で学習していけるサポート機能があります。ICTによって効率的に授業が進められることで、異学年交流もごく自然に実現しています。

 

また、和歌山県日置中学校では、中学生がインスタグラムで町の情報を発信しています。日置中学校は、教室から出て5秒で砂浜、教室の窓からも黒潮の絶景が見られる学校です。学校でインスタグラムのアカウントを持ち、町の良さを多くの人に知ってほしいと、生徒が町の情報発信をしています。最近、町をPRするグッズをつくるためのクラウドファンディングも始めました。目標金額10万円でしたが、もう46万円、多くの人々が賛同してくれています。

 

この取り組みが成功した背景には、生徒数が少なく、教員の目が届くことがあります。通常はSNSの危険性を情報モラル教育で教えるところ、この学校は逆で、先にSNS本来の使い方である有効性を教えています。よいイメージを持った状態で情報発信における注意点留意点を学び、否定的なコメントがあったときにもそれらにどう対応していくか、「そんなひどい体験をしたら、自分は書こうと思わないですよね」というように体験的に学んでいくのだと思います。

 

▲ スライド12・SNSの利点から教え、
利用しながら悪いことへの対処も
体験的に学んでいくやり方

 

このように、へき地・小規模校では、学習効果や想定されるリスク以前に、最新テクノロジーを経験することがまず大切です。リモート授業の経験自体が学びになり、リモート授業で学べると思えれば、遠隔授業を提供している高校や大学に進学していくことも可能になります。オンデマンドコンテンツで学べることに自信を持てれば、都市部に行かなくても、SNSを情報発信の必須手段として利用しながら、地域に貢献しながら学べるようになるのです。

 

▲ スライド13・へき地・小規模校では
以下の学習経験や発想自体が必須事項

 

ここまでの小規模校の取り組みをあらためて考えると、「必要は発明の母」ということが言えるでしょう。都市部ではデジタル教科書導入の議論がなされていますが、へき地校では間接指導に効果的で、先生がいない指導時間に効果があることから「必要なもの」、必須なものです。Web会議システムは、リモート授業をする・しないに関係なく、学校間を繋ぐために必須です。プログラミング教育は、「プログラミング的思考の育成」といった理由だけではなく、地域振興・活性化のための人材育成、「将来に役立つ」ことから必要なのです。和歌山県教育委員会やきのくにICT教育Webサイトにおいて、企業振興課からも「将来の県内産業を支える優秀なICT人材の育成を目指します」とコメントされており、とてもすっきりした考え方になっています。子供たちの情報発信のスキルは、学校のWebサイトで、観光ガイドブックにはない子供目線の情報として役立つかもしれません。これからも増えていくと思います。

 

▲ スライド14・ICTが必要であったことで
都市部とは異なる活用方法が生み出され、
成果も出ている

へき地・小規模校の子供たちはICTで「生きる力」を身に着けている

学校教育法の義務教育の目標の3つめには「我が国と郷土の現状と歴史について正しい理解に導き~」と書かれてあります。GIGAスクールでは学習効果がどうかと議論になりますが、郷土を愛する態度を養うことが義務教育の目標の3つ目で、5番に国語、6番目に算数となっています。この字面どおりに捉えるとすれば、郷土愛を育むことは学力を身につけることよりも重要なのだということにもなると思います。

 

▲ スライド15・義務教育の目標としては、
学力よりも郷土愛を育むことが重要視されている

 

へき地・小規模校の子供たちは、ICTを使いこなすことで将来に向けて生きる力に直結するスキルを身に着けていることになります。そのことをもっとPRしていけたらと思います。今までは、産業のあるところに人が集まるイメージでしたが、ICTによって地域ニーズを汲み取りつつ高度な教育を行う学校ができれば、人が集まります。地理的不利をネットで解消し、ICTスキルをしっかり身につけられ、そして何よりも郷土愛を育てる地域学習が連動している学校に通わせたいといったニーズは必ずあると思います。都市部ではできない、特色のある授業を小規模校では実践できるのです。

 

和歌山の山間へき地では、保護者の方で「試験で得点できるだけの学力」を強く求めていない方もおられます。現実問題として、「ペーパー学力」が高くなると都市部へ行ってしまうかもしれないことも理由です。それよりも地域を育てる者たちを育成してほしいというニーズがあります。和歌山県では、IT企業を町に誘致して、地元で採用する取り組みも行われています。こういった社会情勢に合わせて、これからは、学校の経営のあり方も変化が加速していくと思います。

 

▲ スライド16・地域を育てる者たちを育成したい
地域のニーズにあった教育は、産業誘致による
地域の活性化などにもつながっている

 

>> 後半へ続く

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