登校時間も時間割も担任の先生も「生徒が決める」
第49回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2021.7.16 Fri
登校時間も時間割も担任の先生も「生徒が決める」<br>第49回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2021年6月2日、岐阜市教育長の水川 和彦氏を招いて、「『学校らしくない学校』目指す-岐阜市立草潤中学校の挑戦-」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

前半では、水川氏が今年4月に開校した公立の不登校特例校である岐阜市立草潤中学校の開校までの経緯と一般的な学校との相違点、開校後の生徒の様子、草潤中学校への期待を紹介。後半は、草潤中学校 校長の井上 博詞氏も加わり、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

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「『学校らしくない学校』目指す岐阜市立草潤中学校の挑戦

■日時:2021年6月2日(水)12時~12時55分

■講演:水川 和彦氏 岐阜市教育長

■ファシリテーター:石戸 奈々子 超教育協会理事長

 

シンポジウムの後半では、草潤中学校 校長の井上 博詞氏も加わり、ファシリテーターの石戸 奈々子が参加者からの質問を紹介し、水上氏と井上氏が回答するかたちで質疑応答が実施された。

 

▲ 写真2・岐阜市立草潤中学校 校長の井上 博詞氏

成績の評価方法や生徒の選抜方法への質問が多数

石戸:「今日のお話は、まさに学校に行きたくても行けない、学びたいのに学べないと悩んでいる子供たちにとって、希望の光だと思います。すでに、たくさんの質問がきています。まずは市議会議員の方からです。『不登校状態にある場合、高校進学の際に内申書(調査書)が課題になると思います。草潤中学校では、どのような扱いになるのですか』という質問です」

 

井上氏:「内申書の前に、生徒や保護者に学習の評価を伝える教育通信、通知表がありますが、本校は40人の生徒に40通りの通知表を考えています。通常の学校のように5段階の評定をしてほしいという生徒・保護者もいますし、今は学び直しだから通常の評定ではなく、どのような学習をしたかが分かるような評価にしてほしい、というご希望もあります。5月に1回目の2者・3者懇談を行い、7月末までにどのような評価をしてほしいかを考えてもらっています。その希望に沿った前期の評価を10月に出す予定です。

 

最終的に学習指導要領では、年間770時間の中で全ての教科の評定を出し、その上で一人ひとりの進路先に応じて、調査書を作成することを考えています。草潤中学校に来たからこのような進路は不可能、ということはない対応をしたいと思っています」

 

石戸:「非常に手厚い評価方法をお考えなのですね。素晴らしいと感じました。次は、『草潤中学校を作ろうと言い出したのは、具体的にどこで、誰の発案ですか』という質問です。確かに、これほど進歩的な学校は、どなたの発案だったのでしょうか」

 

井上氏:「最初は、前教育長である早川 三根夫氏の発想です。先ほど水川教育長から詳しい説明がありましたが、平成28年に閉校した校舎の活用法の検討中に、教育機会確保法が施行されたことで、教育委員会として不登校特例校の設立が視野に入りました。そこから方向を定めてこの2年間で細かな準備を進め、開校に至りました」

 

石戸:「続いての質問です。『特別支援学級で不登校児の支援がないことが問題になっています。草潤中学校には特別支援学級の不登校児も登校していますか』というものです」

 

井上氏:「草潤中学校は特別支援学級ではない通常の学級です。しかし、本校には発達障がいなどの生徒もいます。特別支援学級のように、一人ひとりへの配慮が十分に行えないことについては、事前に個別面談会などで保護者の方に説明しています」

 

石戸:「次は『不登校になった原因を取り除く活動は行っていますか』という質問です。『もしくは、そうしなくても草潤中学校の教育課程を経れば通常の社会に戻れる力が身に付くということでしょうか』という質問とセットです。いかがでしょうか」

 

井上氏:「昨年度の岐阜市の中学校の不登校生徒は466名です。草潤中学校は、そのうちほんの1割にしか対応していないことになります。40人の不登校の要因は本当に一人ひとりさまざまで、大きくは人間関係での不安、学校というシステムへの不適応が多いと感じています。そこで、これまでの学校のシステムを全く排除した『学校らしくない学校』を作ることで、要因を取り除くことができるのではと考えました。『今のあなたのままをそのまま受け入れるよ』という姿勢を示すことで、不登校で苦しんできた心を少し癒せるのではないか、その成果が、この45月に多くの生徒が登校していることにあらわれていると思います」

 

水川氏:「生徒たちは学校が安心できる学び舎なら行きたいと願っています。それが、草潤中学校の出席の状況から見えました。人間関係の要因を取り除くことだけでなく、学校教育そのものの制度、例えば時間割が決められていたり期末テストがあったり、そこを少し変えてあげるとものすごく学びやすくなる、これらの発見は教育長として大きいと感じています」

 

石戸:「続いては、『どんな観点で生徒を選んだのでしょうか』という質問が複数の視聴者からきています。当初は不登校のために作っていたものが、教育カリキュラムが素晴らしいと評判になると、教育熱心な保護者が積極的にそちらを選び、本当に問題を抱える子が行けないといった話も聞かれます。実際にどのような観点で生徒を選んだかについて、伺えればと思います」

 

井上氏:「本校を希望したのは基本的に不登校を経験した子たちで、令和2年度にほぼ全欠の子も約8%いました。一番多かったのは、放課後登校や別室登校でしか登校できなかったものの不登校とは判断されない30日以下の生徒で37%でした。

 

選抜の判断は本当に難しかったのですが、大きなポイントは4点です。まず草潤中学校の支援の必要度。この子にはまだ他の支援や選択肢もあり得ると考えられる場合は、より最適な方法を提案しました。2つめは、草潤中学校のシステムや状況を理解したうえで、こんな自分でありたいという目的意識や意思を持っている子供です。保護者の強い思いだけではないこと。3つめは、こちらからの投げかけを受け入れて反応してくれる子供。この視点は大事で、いくらこちらが投げかけても受け入れてくれない場合は成果を上げることも難しいです。4つめは保護者の理解や協力を得られるかということ。それらで総合的に判断しました」

 

石戸:「本当に困っていて、何か出口を探している子たちに対して手を差し伸べている、ということですね。次の質問に移ります。『各自治体は、不登校の受け皿として適応指導教室を設置していますが、適応指導教室に不登校になってしまうこともあると聞きます。草潤中学校と適応指導教室との違いは何でしょうか』という質問です。関連して、『心身の安定には保護者との関係が重要ですが、連携をどうしていますか』という質問もきています。子供たちのサポートにスクールソーシャルワーカーの協力を得ているなど、どのような体制で取り組んでいるのか、もう少し詳しくお伺いできればと思います」

 

井上氏:「まず、不登校児童生徒のための市の施設である、自立支援教室については、エールぎふが4か所に設けていてそこへ通っていた生徒もいますし、継続して相談している生徒もいます。下校時にフリースクールに寄る生徒もいます。草潤中学校はあくまでも選択肢の一つであって、他の支援とも協力・連携しながらやっていきたいと思っています。

 

保護者との連携ですが、学校説明会や個別面談で、保護者の方には通常の学校以上に連携が必要であることをお願いしています。本校には9人の担任の先生がいて、1人で2~6人の子供を担任しています。5月に決まった個別担任が、保護者と頻繁に連絡を取りながら連携を深めています。カウンセラーなどについては、常駐ではありませんが、県費と市費両方のスクールカウンセラーに来ていただいています。

 

もうひとつ、草潤中学校の特徴として『心の学校医』を新たに設けました。昨年の160名のすべての個別面談や転入学生徒検討会にも入っていただいた小児精神科医の先生に、常時生徒たちを見たり、教員にアドバイスをいただいたりしていることも特徴です」

 

石戸:「『最後のデータで欠席していた6人の生徒はどのような状況ですか。また卒業後の子供たちの進路のイメージはどうでしょうか』という質問です。さきほど、どんな進路を望んでも対応できるようにしたいとありましたが、今お持ちのイメージがあれば教えていただければと思います」

 

井上氏:「毎日、平均すると7割が登校していて、登校していない3割のうち7割はオンライン授業に参加しています。残りの3割、2~3人の欠席は毎日いて、心の休養を取りたい子たちです。進路の目標はデリケートな問題で、慎重に考えています。中学校3年生との面談は何度もしていますが、進路の話題はまだ時期ではないと考えて、今はまだ出さないようにしています。保護者の方のご要望は聞いていて、一番多くは通信制高校等を目指していますが、全日制の高校を考えている生徒も3分の1程度います」

 

石戸:「心身の安全・安心が一番とおっしゃっていたとおり、欠席中もセルフコントロールの時間と捉えている、どのタイミングで未来のことを話すかも、心の安定のために慎重に考えていらっしゃるのですね。一方でこのような質問もきています。『こうしたコンセプトになじむ生徒が進学したくなるような、高校もあるとよいのではないか思いますが、高校の設置も検討されていますか』というものです。いかがでしょうか」

 

水川氏:「私は県教委に長く勤めていたので、岐阜県の小中高650校ぐらいの7割ぐらいに訪問していますが、通信制、定時制の高校に訪問すると『えっ、あなた本当に中学時代不登校だったの?』という生徒がたくさんいて感動します。環境が変われば子供たちは変わりますから、学びのスタイルを子供たちに合わせていく教育は、どんどん展開されるべきでしょうし、草潤中学校が成果を上げていくと新しいタイプの高校もできていくのではないかと思います。県の教育委員会へは積極的に働きかけて、さらに広がるようにしていきたいです」

 

石戸:「最後に2つの質問です。教職員に対する理念の共有方法、ときに傷ついているかもしれない子供たちへ対応するためにどのような教職員を採用し、もしくは、研修をしているのかという『質の担保』の質問です。もう1つの質問が『市として、草潤中学校が実践していることを通常校に転用する動きはあるのでしょうか』という、今後の展開に関するものです」

 

井上氏:「教職員は、草潤中学校への勤務を希望した人員です。令和2年11月に市内の教職員全員に調査を行い、希望した教職員には、学校説明会や見学会のときにボランティアで参加してもらいました。不登校の子たちへの思い、接し方なども見て、また入学式前に心の学校医による研修を受けて配置しました。

 

2つめの質問ですが、草潤中学校の授業のやり方は他校でもできる可能性は十分あると思います。授業内容はすべて生配信をしていて、それを教室で受けている子もいれば、映像を見ながら別室で学習している子も、自宅でオンライン学習している子もいます。一般の学校でも、別室登校している子たちに、同様の授業を提供できる可能性は十分あると思います。草潤中学校の考え方を各学校に紹介して、別室登校のあり方等について見直す提案も進めているところです」

 

水川氏:「岐阜市には70校の小・中・特別支援学校がありますが、このノウハウを他校にも転用していくことによって、誰一人取り残されない教育になればよいと思っています」

 

最後は、石戸の「ぜひ草潤中学校のノウハウを岐阜市だけにとどめすに、全国の学校に届けていただき、全国の本当に困っている子たちに、学校での学びを取り戻す機会を提供していただきたいと思います」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

 

▲ 写真3・ファシリテーターを務めた

超教育協会理事長の石戸奈々子

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