長期入院で学校に行けない子供たちに遠隔「体験」学習を
第47回オンラインシンポ「誰一人取り残さない教育の実現に向けて 5G・VR等の先端技術を活用した遠隔校外学習プロジェクト」
レポート・後半

活動報告|レポート

2021.7.2 Fri
長期入院で学校に行けない子供たちに遠隔「体験」学習を<br>第47回オンラインシンポ「誰一人取り残さない教育の実現に向けて 5G・VR等の先端技術を活用した遠隔校外学習プロジェクト」<br>レポート・後半

概要

超教育協会は2021年519日、関西学院大学教育学部 教授の丹羽 登氏、富士通株式会社 IOWN/6Gプラットフォーム開発室の笛田 航一氏とデザインセンターの杉妻 謙氏を招いて、「誰一人取り残さない教育の実現に向けて 5GVR等の先端技術を活用した遠隔校外学習プロジェクト」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

前半では、まず富士通の笛田氏と杉妻氏がプロジェクトの背景と遠隔校外学習における5GVRの活用について説明し、関西学院大学の丹羽氏が水中ドローンを使った体験授業の様子を紹介した。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「誰一人取り残さない教育の実現に向けて 5GVR等の先端技術を活用した遠隔校外学習プロジェクト」

■日時:日時:2021年5月19日(水)12時~12時55分

■講演:

丹羽 登氏 関西学院大学教育学部 教授

笛田 航一氏 富士通株式会社 IOWN/6Gプラットフォーム開発室

杉妻 謙氏  富士通株式会社 デザインセンター

■ファシリテーター:石戸 奈々子 超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた

超教育協会理事長の石戸奈々子

 

シンポジウムの後半では、ファシリテーターの石戸より参加者からの質問が紹介され、3名の登壇者が回答するかたちで質疑応答が実施された。

 

全国の長期入院している子供たちに体験させたい 今後の取り組みについて多くの質問

石戸:「子供たちの喜びの笑顔が思い浮かびます。素晴らしい取り組みだと思います。早速ですが、質問がきています。『学校側のルーターがLTEルーターですが、映像受信のボトルネットになることはないのでしょうか』というものです」

 

笛田氏:5Gはまだそれほど普及していませんでしたので、学校側はLTEルーターでした。映像は、時間帯によってリハーサル中など乱れることもありましたが、おおむね子供たちや先生方からも『キレイな画像が見られました』との感想をいただけましたので、成功したと言えるのではないかと思います」

 

石戸:「次の質問です。全国で長期入院している子供たちにも、展開していただきたいという願いからだと思いますが、『これをサステナブルにどう運用していくかの視点で、費用負担はどうなっていますか』『今後のビジネスモデルは、どのように考えていますか』、それと日本財団のお話がありましたが、『支援連携についてもう少し詳しく教えていただけますか』というものです」

 

丹羽氏:「この取り組みは、富士通との共同研究でしたので、学校側の費用はかかっていません。しかし、これを実用化するとなると、今後は学校側にも負担が発生することになると思います。その費用をいかに抑えるか、それと、学校が持っているネットワーク回線をどのように活用していくかが課題です。昨年からの新型コロナ感染症対策で、学校の回線がかなり増強されてきていますので、従来の回線ではできなかったことが、できるようになってくると考えています。また、もし回線の問題がある場合は、ルーターを一時的に借りる必要も出てくると思います」

 

杉妻氏:「支援体制については、今回のプロジェクトは、VRのヘッドマウンドディスプレイを装着して、実際にパイロットになったように、水中ドローンを遠隔操作するというものですが、これに日本財団の『バーチャルオーシャンプロジェクト』の技術支援をいただいています」

 

丹羽氏:「私の方では他の大学と協力して、水中ドローンや空中ドローンの遠隔操作がどの程度までできるか、試みているところです。また水族館からも、このあとにいくつかの特別支援学校と連携しながら、今後のサービスの提供の検討を試みていると聞いています。実証実験をきっかけに形を変えながら広げていきたいと、みなさんそれぞれ動き始めているところだと思います」

 

石戸:「次は少し違う視点の質問です。『VRで水中ドローンを遠隔操作する際に、コックピットの映像を提示する効果について教えてください。人の感じ方が変化するのでしょうか』というものです」

 

丹羽氏:「水中ドローンには、前向きのカメラが一つついていますが、ドローンが向きを変えない限り映像は動きません。今回はそれにプラスして、全天球カメラを設置して、子供たちが首を振って前後左右上下、自由に見たいものを見られるようにしました。きっと水槽の大きさ、天井の高さ、深さなどを感じながらコックピットにいる感覚で、操縦してもらえたと思います」

 

石戸:「私からの質問です。5Gの教育分野への活用で、今回はどんな議論を経てこのプロジェクトに落ち着いたのでしょうか。例えば、丹羽先生の専門分野で実施したいという想いがあったところに富士通さんの技術がマッチしたのか、それとも富士通さんの5Gの技術を応用してどんなことができるのかを考えることが起点だったのか。いかがでしょうか」

 

杉妻氏:2019年当時は、5Gの商用がまだ始まっていませんでしたので、富士通としては5Gを活用した有効なリファレンスモデルを作るという、テクノロジーセクターとしての大きな課題がありました。一方で、富士通のパーパスもあり、ビジネス以外の社会課題のところでの、5Gの活用をしての価値提供を考えていたところでした。

 

また、富士通は従来からインクルーシブ教育の合理的配慮を、テクノロジーでどう実現するかといったことにも取り組んでいまして、次の取り組みは、と考えたときに『教育』のテーマが挙がりました。そして、病弱教育とテクノロジーを活用した、特別支援教育の専門家である丹羽先生と重なる部分の領域で、ご一緒させていただいた背景があります。

 

重要なポイントとしては、現場がどんな課題を持っているかです。今回は、現場の先生方にもご協力いただいて、何を解決していけばよいのかを考え、普段、病院にいる子供たちには行けない、行ったことがないところに行きたい、そこでテクノロジーを使った遠隔校外学習として『水族館』で実現した流れです」

 

丹羽氏:「私たちは学校現場の方々と、ネットワークの活用方法の検討をしていました。実際に大阪と東京を5Gで結んで360度の映像を配信し、先生方の研究授業を行いました。100200人の方が参加すると、見たいところはみなさんそれぞれ違いますが、5Gでなら、一つの回線に集中して同じものを大人数が、それぞれ好きなように見ることも可能になります。

 

例えば授業参観でも、保護者が見たいのは自分の子供ですので、みなさん別々の角度からの映像が見たいのです。今後はそのような用途にも、広げていけるのではないかと、報告の中で書かせていただいています」

 

石戸:「これからの展開をお話しいただきましたが、富士通さんからも5Gを活用した今後の教育の提案について、ビジョンをお伺いできますか。5Gには超高速、超低遅延、多数の同時接続が可能と3つの特長があると思いますが、どの特長により注目するとよいのでしょうか」

 

笛田氏:「大学の敷地内を丸ごとローカル5Gで結び、大学内のネットワークをスムーズにしたり実験に活用したりすることには既に使われています。GIGAスクール構想で一人一台パソコンを持つようになりますので、同時多接続で教室の映像を見る場合は、回線は太くなければいけないと思います」

 

石戸:「私も教育分野では、多数同時接続の部分に5Gの特長をより生かせるのではないかと思っています。いろんな学校をつないで学芸会や運動会を行うなど、次の活用法にも期待したいと思います。

 

ちょっとマイナス面の質問もご紹介します。『VR酔いはなかったですか』や『360度の視界ということで、浮遊している感覚の怖さを感じることはなかったのでしょうか』『病弱教育となると知覚過敏や機能的な病気で、VRを使えない子供もいたのではないでしょうか』など、どんな反応であったのか、対策したのであればどう対策して、どう有効であったか教えていただけますか」

 

丹羽氏:「病気の種類によって参加できない子もいると聞きました。全ての方にとって有効ではないと思います。VRゴーグルは、確かに長い時間使うと具合が悪くなることもありますが、同じ映像をタブレットで見ることもできますので、VRゴーグルを装着できない子や酔いやすい子には、タブレットを使ってもらうことで解決できます」

 

石戸:「今回は入院中の子供を優先して、新しい体験を提供したい趣旨だったと思いますが、今後、通常の学校に提供する可能性はありますか。コロナ禍では、VRの修学旅行のサービスも生まれるなど、ニーズは高まっていると思います。展望があれば教えていただければと思います」

 

丹羽氏:「次のステップとしては、VR/ARを使った校外学習を企画していて、実際にゼミ生に水中ドローンの操作の練習をさせる、遠隔での検証も行っております。特別支援学校、知的障害がある子供たち、小・中学校の通常の学級にいる子供たちにも広げたいので、協力していただける学校と連携し協力し合いながら広げていけたらと思っています」

 

石戸:「続いての質問です。『VR映像において、教室の壁に水槽内の映像を投影することは可能なのでしょうか』というものです。4つの壁に映像が投影されて、水族館の中に入り込んだような体験をすることは可能なのか、可能性は考えていらっしゃるのかということだと思います」

 

丹羽氏:「私達も実験を行っているところですが、今後はそのような取り組みも可能なのではないかと思います」

 

石戸:「最後の質問です。『VRの体験は、実際にはできないこともあると思いますが、そのギャップに関しては、どのようにお考えでしょうか』というものです。VRだからこそできる体験を伝える、外に出られないからこそVRで本物の体験を伝える、両面あると思いますが、留意した点があれば教えていただけますか」

 

丹羽氏:VRだけでなく、私達が普段見聞きするテレビやビデオの映像が教育に活用されるようになってからも、かなり変わったと思います。例えばエジプトのピラミッド、私達は実際には見たことはなくても知っていますよね。バーチャルの世界を基にして、現実の世界も知れるし、現実との違いを認識していくことも重要であると考えます。実体験は重要ですが、私達の世界を広げるためには、バーチャルの世界から入っていく必要がある部分も、あると思います。Society5.0にもありますが、仮想現実を現実社会とどう融合させていくのか、このあたりを考えていくための一つの示唆になっているとも思います」

 

最後は、石戸の「リアルの体験ができればそれに越したことはないですが、例えば世界中の美術館に行くことはできませんから、リアルに準ずる体験ができれば素晴らしいと思いますし、その先に5GVRならではの体験の構築も興味深いです。今後も5GVRの教育への活用に期待したいと思います」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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