動画やゲームを楽しみながら学べる教育コンテンツを提供
第46回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2021.6.25 Fri
動画やゲームを楽しみながら学べる教育コンテンツを提供<br>第46回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2021年5月12日、株式会社ラフ&ピースマザー 生沼 教行氏を招いて、「これからの時代に必要な力とは ~ラフ&ピース マザー 遊びと学びの教育プラットフォーム~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

前半では生沼氏が、同社の教育コンテンツ配信開発プラットフォーム「ラフ&ピース マザー」のサービス概要と提供中のコンテンツについて紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えて質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

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「これからの時代に必要な力とは ~ラフ&ピース マザー
遊びと学びの教育プラットフォーム~」

■日時:日時:2021年5月12日(水)12時~12時55分

■講演:生沼教行氏

株式会社ラフ&ピースマザー 代表取締役社長

■ファシリテーター:石戸奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた

超教育協会理事長の石戸奈々子

 

シンポジウムの後半では、ファシリテーターの石戸が参加者から寄せられた質問を紹介し、生沼氏が回答する質疑応答が行われた。

「学校との連携」や「授業で活用」など 今後の展開に多くの質問が

石戸:「講演の中で、芸人さんと一緒にワークショップを展開していることが紹介されていました。私もその現場で、芸人の方々の『子供たちを乗せるうまさ』に感銘を受けています。そのようなノウハウも、ファシリテーション手法として教育現場にも伝わると良いと考えます。

 

さて、早速ですが参加者からの質問です。『教育コンテンツのターゲット年齢幅を広く取れるのは効率的だと思います。一方で通常のエンタメ系コンテンツとの違いが分かりにくいように思います。どう考えて対策されていますか』というものです」

 

生沼氏:「教育コンテンツとして考えた場合は、例えば2年生と4年生で習うものはレベル感が違いますので、もっと細かく学年別に作らなければなりません。ただし、我々が作っているコンテンツは、大人が見ても学びになるような内容です。災害時の行動の仕方などでは、年齢は関係ありません。『逆上がりの仕方』は逆上がりができない2年生でも4年生でも見ていいし、速く走ることやサッカーのコツなど、もっと上手にできるようになりたい人が見るような内容が中心になっています。学習指導要綱に沿って『何年生向けのコンテンツ』という考え方では作っていません。

 

また、通常のエンタメ系コンテンツとの違いが分かりにくいという点については、学びへの感じ方は人によって異なりますので難しいと思います。例えば、歩いているときに 『空がなぜ青いのか』と考える人と、ただ空を見上げる人では、その時点でスタートが違います。

同様に、何かを学び取ろうという姿勢で見る人と、普通に楽しんで見る人では、得られるものが違ってくると思います。我々は子供たちに『こんなことを学んでほしい』という思いを込めてメッセージを発信しながら、コンテンツを提供しています」

 

石戸:「私自身も、日々の生活すべてが学びにあふれていると考えています。このプロジェクトの初期に、子供たちが面白く学ぶ、子供たちがやりたいことを応援する、社会全体の中で学ぶことを大事にしたいという話を何度かしました。そのようなエッセンスがしっかりと入っているコンテンツが多いと実感します。

 

他の質問をご紹介します。『学校との連携、授業での活用は想定されていますか』というものです。いかがでしょうか」

 

生沼氏:「現在のコンテンツをそのまま使っていただくことはかまいませんが、先生たちが授業に使いやすいように想定しては、作っていません。このプラットフォーム内でまずは、子どもたちが楽しみながら見られることを意図して制作しました。しかし実は、学校関係者やGIGAスクール構想に携わる政府の機関からも、学校教材としてのデジタルコンテンツを今後作るのでしょうか、というお問い合わせをたくさんいただいていますので、今後制作していきたいとは考えています」

 

石戸:「芸人さんが教えるプログラミングは、私も視聴していて、導入として非常に分かりやすいと感じました。学校現場でも活用できる要素があるのではないかと感じました。次は『お話に出ていた教育とマーケティングについて、具体的に教えてください』という質問です」

 

生沼氏:「我々は吉本興業とNTTが共同出資した企業ではあるのですが、どちらも教育に関してのプロフェッショナルというわけではありません。ですので、マーケティングの会社と協力をしてサービスの対象となる方々にアンケートを行い、ニーズに合わせたサービスの在り方を議論しながら提供させていただいています。

 

とはいえ、やはりアンケートの結果と、サービスを開始してから実際にユーザの方々が取る行動は違うこともわかってきました。ですので、子供がスマートフォンを何に使っているか、放課後に何をしてどこに遊びに行っているのか、などなど、さまざまな角度でマーケティング調査を行います。また実際にサービスを触って、子どもたちにもっとこんな力を身に着けさせたい、もっとこんな仕様にしてほしい、こんなコンテンツを作ってほしい、といったさまざまなご意見をいただきながらサービスを改良していきたいと考えています」

 

石戸:「これまでの経緯をみても、とても丁寧にアンケートやインタビューをふまえたコンテンツ作りをされていると思います。デジタルコンテンツのプラットフォームということで、利用者のすべてのデータが取れることから、そのデータをどう活用してコンテンツ制作や子供たちの学習にフィードバックしていくかを期待したいです。

 

次の質問です。『子供向けのコンテンツを紹介していただきましたが、保護者がこれらコンテンツをどのように子供に利用させるかについて、教えていただけますか』というものです」

 

生沼氏:「これは非常に悩ましい部分でもあります。先ほど見ていただいたように、画面に関してはサムネイルという、明るく楽しいものをイメージして制作しています。これもアンケートを取りましたが、子どもは文字を読まずに見た目の楽しさだけでコンテンツを選びます。そこでまずは、子どもが押したくなるようなサムネイルにしています。小学2年生ぐらいより上になるとタイトルを読むようになるので、そこからはタイトル。小学校6年生ぐらいまでの利用者ですので、タイトルとサムネイルで興味を引くようにイメージして制作しています。

 

YouTubeなどでも、類似動画や好みに合わせた動画がどんどん表示されてくるようになりますが、今後はそれと同様にしたいのと同時に、お子さんが苦手で避けているような動画も、お子さんに自然に届けられるようなシステムも検討しています。親御さんが子供に見てほしいものを、子供が見ている画面の一番上に表示できる機能を作り、弱点を補完したいと考えておられる保護者の方のサポートになれたらいいなと考えています」

 

石戸:「次の質問です。『面白さで勝負しようとすると、普通のマンガやゲームの方が勝ってしまうように思います。どのような呼びかけで子どもたちを引き込みますか』ですが、いかがでしょう」

 

生沼氏:「大人の皆さんも、『あれをもっと勉強しておけばよかった』と思うことはたくさんあると思います。僕自身もそうで、なぜ勉強してこなかったのかと考えたのですが、自分に関係ないと思っていたからだと思います。世界や日本の歴史も、学校では、ただただ暗記させられるようなアプローチだったので、自分に関係がないと思って興味がなくなり、ただの『お勉強』になっていたのだと思います。勉強には『勉を強いる』、嫌なことをさせる意味も含まれています。これが英語だと、スタディー(Study)は、もともとラテン語の『熱中する』という意味、Studentも『熱中する人』という意味からきているそうです。学びに熱中してもらうためには、その学びをいかに自分事としてとらえられるか、が大事だと思っています。

 

何かを学ばせるときに、その子が好きな物、関係があるものを取り入れてあげることがきっかけになると考えています。例えば、『Taro is a good tennis player.』のような英文にしても、タローではなくその子が好きなキャラクターやアイドルタレントの名前にすることで、急に関心を持てるようになったりするものです。このように興味を持ってもらう工夫が必要だと思います。

 

それと、これはアンケートで分かったことですが、親御さんは、不適切なことは学びにならないと思っている傾向が強く、例えば雪合戦や騎馬戦といった映像は子どものいじめにつながる、という意見も多いです。しかし雪合戦を体験することで、顔に当てたら痛いことが分かり、人を傷つけてしまう、ひいては人を傷つけないための学びにつながります。親御さんが禁じるものが多ければ多いほど、子供は禁じられていないものに偏っていきますので、そういったところが漫画やゲームに負けてしまうところだと思います。ですので、不適切なレベルをこちらで勝手に決めて切り捨ててしまうことにならないように、意図を伝えて表現していきたいと考えています」

 

石戸:「子供たちが主体的に学べるようになるときに、熱中し面白く学ぶ、ということが生まれると思います。やりたいことを応援する、と先ほど申しあげましたが、多様なコンテンツがある中で、自分が好きなことに出会える場になってもらえるとうれしいなと思います。

 

また、いろんな芸人さんがコロナ禍にYouTube動画をアップされて、アクセス数もすごく伸びていると聞きます。人を楽しませるプロがどのように学びのコンテンツを作っていくのかも非常に興味深く、どのような要素を入れると人が楽しみながら学ぶことができるのか、そのノウハウも整理できると面白いなと思います。

 

それでは次の質問です。『動画やアプリで遊びながら育まれた好奇心や学びへの熱を、発展させたり継続して学べたりするようなサービスの展開は、考えていらっしゃいますか。また、継続的な学びへの考えをお伺いしたいです』というものです」

 

生沼氏:「現在は、何かを続けてやらせるというよりは、好奇心のきっかけをつかむ入口のコンテンツが中心です。しかしサービスを始めたところ、継続へのご意向は非常に多いと感じています。継続して学んで得意分野を伸ばす、資格とまでは言いませんが、作品を完成させたり、何か結果を出したりする取り組みを体験したいという声もいただいています。継続的な学びのコンテンツも、今後制作していきたいと思っております」

 

石戸:「関心を持ったことを深めること、もしくは他の領域に広げていくこと、その両方が展開できると良いと思います。次は、『身に着いた力を可視化することは難しいと思いますが、子供の興味がある分野を可視化するという視点は面白いと思います。親に向けた、子供の成長を可視化する工夫や取り組みはありますか』という質問です」

 

生沼氏:「はい。それを今後導入していきたいと思っています。『何かになりました』よりも『こんな体験をしました』が、第一フェーズだと考えています。子供たちがどんな動画に触れ、その動画ではどんな発信がされていたかは、現在可視化できるようになっています。ただ熱中度については、再生時間や再生回数を基に算定していますが、実は動画は流していたけれど見ていなかった、ということもあり得ます。

 

どこまで実現できるかはこれからですが、例えばタブレットのカメラから、目線の集中度や笑った量なども探知ができるAIの開発が進んでいます。今後、子供たちが何に触れてどう成長したか、親御さんに伝えられる仕組み、そして親御さんが『このように育てたい』と思ったときにこんなコンテンツを推薦できる、といった仕組みは、開発しようと検討しています」

 

石戸:「非認知能力の育み方なども含め、データの取り方や活用の仕方も、このラフ&ピース マザーからモデルを作って提示して頂けると、教育業界にとってもありがたいのではないかと思います。

 

続いてですが『海外向けと日本向けのコンテンツに違いはあるのでしょうか。今後、海外展開していくにあたり、国内外で差別化していることや、気を付けていることがあれば教えてください』という質問です」

 

生沼氏:「海外向けの細かなマーケティング調査はこれから行っていきますが、当然、日本のまま持って行くことはないと思っています。我々の想像を超えて日本のコンテンツがそのまま受け入れられる、というようなことも起こるかもしれませんが、基本的には文化も社会背景も違いますし、前提として日本固有の知識がないと楽しめない、といったコンテンツも存在しますので、海外に持っていくときには通用するかしないかを意識しながらローカライズして持って行きたいと思っています。

 

オンライン教室のサービスは、日本の教室を海外の方に、例えば同時通訳や翻訳ツールを使って受けていただくことも可能性としては考えてはいますが、せっかく入っていただいたのに楽しめないこともあると思います。時差の問題もあります。これに関しては、現地の教育機関や民間サービスと連携して、現地でのオンライン教室に我々のシステムをお貸しして運営していただくことなど検討していきたいと思っています」

 

石戸:「最後に『今後コンテンツを増やしていくこと以外に考えている取り組みはありますか』という質問がきています」

 

生沼氏:「我々が始めたのはWebサービスになりますが、今後は子供たちの楽しみが、学びにつながるようなことをさまざまなところで作っていきたいと思っています。イベントを開催したり、知育グッズを開発したり、塾みたいな施設を作るとか、さまざまな取り組みを検討していきたいと思っています。皆さんからもぜひ『こういうものがあったらいいのに』とご意見をいただければ、検討していきたいと思います。

 

皆さんにも『マザー』の一員になっていただき、皆で育んでいけるサービスになればよいと思っております。ぜひご協力のほどよろしくお願いいたします」

 

最後は、石戸の「今、教育変革の波がきています。そのような中で新しい技術をフル活用しながら、先端的な学びのあり方を構築し、様々なロールモデルを示していってくれることを期待します」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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