概要
超教育協会は2021年4月28日、株式会社ジョリーグッドemou担当ビジネスプロデューサーの竹内 恭平氏を招いて、「社会実装が進む発達障がい支援教育におけるVR活用」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
前半では竹内氏が、同社が開発・提供する、VRによる発達障がい者向けの教育コンテンツ「emou(エモウ)」の詳細とサービス、具体的な導入事例などを紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。
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「社会実装が進む発達障がい支援教育におけるVR活用」
■日時:日時:2021年4月28日(水)12時~12時55分
■講演:竹内 恭平氏
株式会社ジョリーグッド emou担当ビジネスプロデューサー
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
竹内氏は約40分間の講演において、同社がVRとAIの技術を用いて開発した発達障がい者向けのソーシャルスキルトレーニング用コンテンツ「emou(エモウ)」のVRコンテンツの内容やサービス内容について動画を交えて説明。発達障がい支援機関や学校教育の現場での導入・活用事例も紹介した。
【竹内氏】
ジョリーグッドは、VRとAIの技術に強みを持って複数の業界に向けたソリューションサービスを提供している会社です。創業は2014年、現在注力しているサービスは「発達障がい者支援施設・病院・学校・家庭向け」「病院・教育機関・メーカー向け」「精神科・心療内科・患者向け」の3つです。
VRという言葉はみなさん聞いたことはあると思いますが、VRについては、まだまだ本当に興味がある人しか触れる機会がないと思います。ジョリーグッドでは、この最新技術を一般の人たちにも使っていただけるように、楽しさを感じていただけるサービスやコンテンツを作っていこうとの理念で活動しています。
▲ スライド1・同社の理念は、最新技術を
一般の人が使えるようなサービスにして提供すること
発達障がいの人たちに「学校や社会生活の予習ができる」サービスを
ジョリーグッドは現在、医療教育、発達障がい者のトレーニング、うつ病治療など、医療や福祉の業界に特化したサービス提供を主力事業としています。
▲ スライド2・医療と福祉の分野のVR制作を主力事業としている
サービス内容を簡単にご紹介すると、一つめは医療教育のVRサービスで、手術の疑似体験ができるものです。こちらを利用すると、医師の目線で特定の手術のイメージトレーニングができます。全国の病院で医師の方々に活用いただいています。
二つめは本日、ご紹介する発達障害向けのソーシャルスキルトレーニングを補助する教材です。わかりやすく説明すると「学校や社会生活の予習ができるサービス」です。
▲ スライド3・発達障がい支援のソーシャルスキル
トレーニングVR。150の機関に導入
三つめが、デジタル治療の開発です。いわゆる精神疾患の方々が、病院で医師と対面でセラピーを行うときの、セラピーの一部をVRで補完しようという取り組みです。2~3年後には病院で患者が、VRゴーグルを着けて治療を受けられるように、医学的なエビデンスに基づいて治療に役立てるようなサービスを目指して、現在、開発を進めています。このように弊社は、「生きる・生きがいを支援するVRサービス」の提供をミッションとしています。
VRで「他人の経験」を「自分の経験」に 教育活用のための4つのポイント
それでは、本日の本題の「emou」のサービスをご紹介させていただきます。まず、我々の考える「VR」とは、ただ映像を見るだけではなく場面の体験ができる、他人の経験を自分の経験として取り込むことができる装置であることです。これを前提にサービスを作っています。
▲ スライド4・VRは、見るだけでなく
「場面体験」できるテクノロジー
VRを教育に活用すると効果があるという研究結果はたくさん出ていますが、我々が考えるポイントは4つあります。
一つめが、「自分の目線で他人の経験ができる」こちらのスライドは、弊社の医療教育のサービスの一部ですが、チームで医療の取り組みを行っているときの、医師の目線と看護師の目線。同じ状況でも、立場や目線が変わると認識することは違う。VRでこれを再現することができますので、相手の立場に立って気づき学習することができます。
▲ スライド5・医療向けのトレーニングVRの例。
他者の目線で場面体験し、気づき・学習する
二つめは、「希少な場面を再現して、360度空間、体験を教材にできる」ことです。例えば、介護の研修のトラブル対応に活用した事例では、「現実では遭遇しにくい」けれども、「いざというときには適切な対応をする必要がある」重要な場面を、VRであればいつでもどこでも何回でも、繰り返し学習することができます。
▲ スライド6・発生することは稀だが
知っておく必要があることを体験し、繰り返し学習する
三つめは、従来の学習手法と比べて、速度が早かったり記憶に残りやすかったりすることです。これもいろいろな切り口でデータが出ていますが、講義を受けたり文章を読んだりする学習方法よりも、体験として物事を学ぶと、記憶に残りやすいです。
▲ スライド7・従来の学習方法と比較すると、
「体験」による学習効果は何倍も高い
また、自ら体験したことをグループ討論したり、誰かに伝えたりすることによって、体験を通して主体的な学びを得ることができます。これが4つめのポイントです。
▲ スライド8・VRで体験したことを討論すると、
より「主体的な学び」を得られる
VRで「場面体験」ができる ソーシャルスキルトレーニングに特化した「emou」
これらVRのメリットを活かして作ったサービスが、場面体験ができる教材「emou」です。ソーシャルスキルトレーニングを行うための教材として提供しています。コミュニケーションが苦手な方が、特定の状況に陥ったときにどんな行動をするか、自分の行動にどんな傾向があるかの気づきを得るために、VRの世界で体験学習をするサービスです。
▲ スライド9・emouは、発達障がい支援の
ソーシャルスキルトレーニングに特化したVR教材
ソーシャルスキルトレーニングとは、認知行動療法の一つである対人関係を中心とした社会生活や日常生活の「技能」の訓練です。子供の場合は学校、大人の場合は職場など、日常生活の場面を使ってトレーニングをします。
▲ スライド10・emouのコンテンツは、
社会生活や日常生活での技能を訓練する手法
「emou」なら安心して失敗できる空間で練習を重ね成功体験へとつなげられる
ソーシャルスキルトレーニングは、発達障がい支援の教育機関や福祉施設、医療機関などで行われていますが、現場で支援される方の経験やスキルがバラバラであるため、VRで補助できないかということが着想でした。
我々の調査では、教育機関や福祉施設の現場の人たちから、「絵や文字を使って『こういう場面に陥ったら、あなたはどうしたらいいと思いますか』と説明しても、わかりにくい」という課題が寄せられました。「普段から顔を合わせている先生に急に言われても、発達障がいのある人たちは、なかなかピンと来ないようだ」、「トレーニングへの参加に消極的である」などのコメントもありました。
そこで、我々の技術を使って解決できないかと、VRで環境を再現してしまうことを考えました。支援・指導される方と教育を受ける方、両方が同じ認識の元でトレーニングできることになります。
▲ スライド11・絵や文字での説明は分かりづらい。
「場面」を体験すれば認識も早い
「emou」を活用すれば、安心して失敗できる空間で練習を重ね、成功体験へとつなげ、楽しみながら将来な必要なスキルを獲得できます。どんぐり発達クリニック 院長の宮尾 益知先生からは、「バーチャルリアリティで見ることによって失敗も許される、何回も繰り返し見ることによって、実際にはどういうシチュエーションなのかを理解することができるようになると思います」というお言葉をいただています。
VRで体験することによって、場面をそのまま理解することができて、素早く自分ごととして認識でき、意見を言えてディスカッションが円滑になる効果などもあります。VR/MRを用いた学習は特に、自閉症やADHDの人達ほど効果があるという報告も出ています。
「トラブル対応」「面接・自己紹介」「先生視点」 3タイプのVRコンテンツを100種類以上提供
emouに含まれるサービス内容を具体的にご紹介します。まず、VRコンテンツです。社会生活のさまざまな場面を切り取ったVRコンテンツを100種類以上提供しています。どんどん増やしていく予定です。小学生向け、中高生向け、成人以降と、年齢層を分けていて、これらを状況に応じて活用いただきます。小学生が職業訓練のために大人向けのコンテンツを使うなど、年齢にとらわれない活用例も増えています。
▲ スライド12・VRコンテンツとして、
100以上の豊富なプログラムが用意されている
支援や教育の現場で活用するときにコンテンツの内容の流れを確認してもらうための進行マニュアル、授業のひな形もご用意しています。
▲ スライド13・emouのサービスは、
VRコンテンツと進行マニュアルのセットで提供される
本日ご参加いただいている皆さんに、VRゴーグルを装着するとどんな映像が見えるのか、少しご紹介したいと思います。小学生向けの「内緒の理解」の場面では、特定の場面に遭遇したときにどんな行動を取るか、どんな選択をするか、教育を受ける方が自ら選択する、または指導者の方が選んで、話を分岐させて授業を進めていくことができます。
▲ スライド14・(動画より)「内緒にしてね」の
約束を理解できるか、選択肢を選ぶ仕組み
自分で発話するタイプのコンテンツもあります。例えば、採用面接で自己紹介をする場面です。VRの面接体験は、本番ほどではないですが現実に近い体験として、けっこう緊張します。
別の軸で、面接官の立場になった時にどんな世界が見えるかの体験VRもあります。自分の服装の乱れが他人に与える印象などイメージしにくいものを、他人の経験をすることで気づくためのコンテンツです。学校現場で、就職面接の練習に活用されている例もあります。
▲スライド15・(動画より)就労期向け「面接」のVRを
学校で授業に活用している様子
emouのVRコンテンツのタイプをまとめると、選択肢でストーリーが分岐してトラブル対応するもの、緊張する場面を体験したり発音の練習をしたりするもの、他人の体験をする客観視のコンテンツの3種類になります。
▲ スライド16・対応の選択肢があるもの、
発話練習になるもの、客観視するものの3種類
学校教育現場でのemou活用例 自己紹介の練習やソーシャルスキルトレーニングに
emouを使って指導する方が、結果を振り返って次回以降の指導に活用するための機能をご紹介します。管理機能「マイページ」では、誰がいつどんなコンテンツを体験したか記録し、担当指導者の考察などコメントを残すことができます。利用者の視線の動きも記録でき、再生して確認することもできますemouはアプリで、利用するときにはVRゴーグルを装着して、テレビのリモコンで操作するようなイメージでiPadを操作して再生、早送り、一時停止などを行います。書き込みをして指示を行うこともできます。操作できるゴーグルは最大10台です。
当初は指導する側と指導を受ける側、同じ空間内で使うことを想定していたのですが、コロナになって学校や支援施設に行けない状況になったことで、遠隔で利用されるケースが増えました。リアルで集まって支援するにもなかなか難しいのに、画面越しだと伝達できる情報が限られるのでもっと難しい、というお話をいただくようになったため、遠隔操作できる機能も開発しました。
現場の方からは、遠隔でVRを分かりやすく提供できると、個別と集団、両方のメリットを得られるとの感想をいただいています。例えばたくさん人がいると集中できなかったり意見を出しにくかったりしたものが、Zoomで個別面談だと解消できることや、ディスカッションしやすくなる利点があるとの感想もいただいています。
さまざまな学校から、お問い合わせいただいていますが、本日は千葉県市川市立新浜小学校の事例を動画でご紹介します。こちらの学校はもともとソーシャルスキルトレーニングの授業を行っていたのですが、体験性が乏しいというお悩みからemouを使っていただきました。
▲ スライド17・千葉県市川市立新浜小学校で、
ソーシャルスキルトレーニングにemouが活用されている
ゴーグルをかければ、視聴ではなく体験になる。自己紹介をする、聞く体験の回数を重ねるにしたがって、子供たちが成長していくのが分かります。
▲ スライド18・(動画より)
千葉県市川市立新浜小学校で利用されたVRの様子
新浜小学校では、視線のデータを使った効果検証も行いました。学校の先生と学区内の福祉施設の職員の方によると、子供たちのコミュニケーション力の改善が見られたとの結果が出ています。VR体験後は、子供たちにもデータ検証によるフィードバックを行って次の授業を行う、それによって子供たちの変化も解釈できる、との感想もいただいています。
▲ スライド19・文科省成果報告会で発表、事例を広く公開した
この事例をご提供したことで、たくさんの学校機関の方からご興味をいただきました。この2年間で、150以上の施設学校で導入が進みました。福祉だけでなく教育現場でのご利用も増えています。教材としての価値は今回の検証で認識できましたので、今後も学校の事例も増やしながら、現場で活用しやすいサービスに改善していきたいです。
この先端技術をより分かりやすく楽しさを感じる形で、子供たちやこのテクノロジーを必要とされている方に届けばいいと、そんな思いで改善を続けていきます。子供たちの自己肯定感を育むことで、生きづらさの解消につながればと考えています。
活用事例は、emouのホームページからもご覧いただけます。また当社には医師も在籍していて、専門家の観点からの発達障がい支援や特性理解のためのセミナーや、VRコンテンツを具体的にどのように教育に活用するかなどのウェビナーも開催しています。ご興味ある方はぜひご参加ください。
>> 後半へ続く