オンライン教育に求められるのは「ビジョン」と「戦略」
第42回オンラインシンポ~米国大使館・超教育協会共催~レポート・前半

活動報告|レポート

2021.6.4 Fri
オンライン教育に求められるのは「ビジョン」と「戦略」<br>第42回オンラインシンポ~米国大使館・超教育協会共催~レポート・前半

概要

米国大使館と超教育協会は2021414日、Blackboard Inc. 北米高等教育(NAHE)学務担当アソシエイトVPのダーシー・W・ハーディ博士を招いて、「アメリカのオンライン教育の今とアフターコロナの学び」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、ダーシー氏がオンライン教育の導入にあたってのポイントや重要な考え方、アメリカにおけるオンライン教育の現状などを紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

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「アメリカのオンライン教育の今とアフターコロナの学び」

■日時:2021年4月14日(水)12時~12時55分

■講演:ダーシー・W・ハーディ氏

Blackboard Inc. 北米高等教育(NAHE
学務担当アソシエイトVP

■ファシリテーター:石戸奈々子
超教育協会理事長

 

ダーシー氏は、約30分間の講演において、オンライン教育における重要なポイントや考え方、そしてアメリカにおけるオンライン教育の現状について解説した。主な講演内容は以下のとおり。

 

単なるリモート教育とは異なる要素が「オンライン教育」には求められる

【ダーシー氏】

新型コロナウイルス感染症の拡大により、アメリカの多くの教育現場が、さまざまな問題を抱えています。オンライン教育が進展するにつれて、対面とオンラインとのハイブリッド型教育、または完全なオンライン教育にしても、質の高い教育を行うためには、テクノロジー以外のものが重要であることが、明らかになってきました。そこで、まずは、ハイクオリティなオンライン教育を実践するためには、何が必要なのかということをお話ししたいと思います。

 

私は1980年代に遠隔教育の活動を始め、その後、1996年にオンライン教育の活動に移行しました。ちょうどこの頃、アメリカではオンライン教育が始まった時期でもあり、その進化の過程を見てきました。そして現在、私は、Blackboardという教育テクノロジーの会社に所属し、アフターコロナを見据えてオンライン教育を考え始めています。

 

Blackboardでは、大学の総長やディレクター、オンライン教育を検討している学部長など、さまざまな関係者とともに、「オンライン教育に求められる要素」をマトリクスとしてまとめています。

 

▲ スライド1・オンライン教育に求められる要素をまとめたマトリクス

 

一般的にオンライン教育とは、マトリクス表の3つめにある「Technology Ecosystem」のことであると考えている人が多いと感じています。しかし、実際には、テクノロジーだけではなくさまざまな要素が必要です。クオリティの高い教育を実現するためには、マトリクスで示されている25のボックスの全てを満たす必要があるのです。

 

今回は、「テクノロジー+@」で何をすべきか、またはテクノロジー以前に何をすべきか、ということも詳しく解説します。25の要素を全て実行する必要はありませんが、ハイクオリティなデータ主導のオンライン教育を実現するためには、少なくとも25の要素を認識し、把握しておく必要があるということです。日本の教育現場においては、関係のない項目もあるかもしれません。こちらの内容は、北米向けのものであるということをご理解いただいたうえでご覧ください。

 

さて、アメリカではコロナ禍によって緊急でリモート教育が実施されました。ただし、それは私自身がオンライン教育として定義していたものとは異なる内容でした。本来であれば、教育設計および教職員のトレーニングなどがきちんと整備されたうえで、リモート教育を導入すべきと考えていました。しかし、教育現場の教職員は、コロナ禍によって数週間という短期間で学習の進め方を変えなければならなかったのです。アメリカの場合は、主にリモート教育に切り替えるということでした。

 

ここで重要なのが、リモート教育とオンライン教育の違いを明確にしておく、ということです。リモート教育というのは、Zoomなどを活用しながらリアルタイムで授業を進めていく方法です。いわば対面の授業をオンライン上で再現しようとする考え方といえるでしょう。そのため、教職員向けのトレーニングといえば、ツールの使い方を教わる程度で、オンラインならではの教え方や学習管理システムの使い方などのトレーニングは、ほとんど行われませんでした。また、学生向けのサポートについては、ある場合もあればない場合もありました。

 

これに対しオンライン教育は、リモート教育よりも戦略的で、データ主導の学習方法といえるでしょう。オンライン教育にはエコシステムが存在しますが、リモート教育のように必ずしも同時配信とは限りません。なぜならば、アメリカには社会人になった後もまた勉強したい、学位を取りたいという人が多く存在するためです。学習時間や学習をする場所に縛られることができないため、同時配信ではない形が理想的といえるのです。また、インタラクティブ(対話型・双方向型)な学習コースへの要望も多いため、学習管理システム「Blackboard」のようなソフトウェアを導入し、フルに活用しています。

 

▲ スライド2・オンライン教育とリモート教育の違い

オンライン教育の制度設計で大切なのは「ビジョンと戦略」

では次に、先ほどのマトリクス表に戻って説明します。左側にある部分は制度設計のことを指しています。教育現場で活躍されている皆さんは、それぞれが所属されている組織の計画をご覧になったことがあると思います。アメリカのほとんどの教育機関や組織も戦略的な計画をもっていますが、オンライン用の戦略的計画をもっているところは少ないのです。

 

▲ スライド3・オンライン教育の制度設計

 

オンライン向けの戦略的計画を立てるうえで重要なのは、「ビジョン」と「戦略」です。ビジョンというのは、オンライン教育を実行するうえで、組織として私たちが23年後にどこに向かいたいのか、ということです。もし、ビジョンが策定されていない組織があれば、リーダーはその重要性を理解しビジョンを策定することが必要です。ビジョンがあるからこそ、戦略を立てることができます。戦略というのは、どうやってビジョンに到達するのか、ということです。

 

2020年6月に「Blackboard」に関するブログを書きました。その内容が、ビジョンの重要性および戦略の重要性です。以下のチェックリストは、Blackboardのメンバーがブログ用として作成したものです。以下のチェックリストを確認することで、アフターコロナに何をすべきなのかが理解できると思います。テクノロジーはカギとなる存在であり、もちろん重要ではありますが、テクノロジー以外にもさまざまな要素があり、テクノロジーと同じくらいに重要です。

 

▲ スライド4・アフターコロナのオンライン教育に

求められる要素のチェックリスト

授業をオンラインで本当に配信できるのか 制度やルールを準備することが重要

次に、再び先ほどのマトリクス表での学業に関する実践という項目を見ていきたいと思います。ここで重要なポイントの1つ目は、組織における制度やルールの準備の度合いです。すなわち、授業をオンラインで本当に配信できるのか、という点です。

 

具体的には、リーダーや教員がオンライン教育について同意しているのか、学校スタッフの側もオンライン教育の準備ができているのかが重要であり、全員が同じ方向を向いていなければなりません。

 

▲ スライド5・学業に関する実践

 

また、これに加えて、インストラクショナルデザインコースの開発も重要です。先ほども紹介した通り、オンライン教育とリモート教育の違いは、最低限理解する必要があるでしょう。

 

現時点でアメリカにおける問題は、数多くの遠隔教育のコースがあるということです。「リモート教育も悪いものではなかった」「オンラインでこれからも教え続けたい」という意見をもつ教員も多いですが、私たちはオンライン教育の定義をもとにして、質の高い教育を実現しようと考えています。

 

コロナ禍によって、今後オンラインにシフトしていく動きが活発化していますが、そのためには教員に対する教育とサポートが必要です。アメリカではコロナ禍の最初の頃、オンライン教育に対して非常に苦慮していました。というのも、教員がテクノロジーを使って教える方法や、学習コンテンツをオンラインに対応させることが分からなかったためです。今後、このような事態に再び陥り、教育が滞らないようにするためにも、きちんと設計したコースはもちろん、教員に対する教育およびサポートも不可欠といえるでしょう。

「テクノロジー」「採用」「学生たちにとっての成功」がTechnology Ecosystem」を構成する

ここで、冒頭に触れた「Technology Ecosystem」について説明します。これは、「テクノロジー」、「採用」、「生徒たちの成功」で構成されるエコシステムです。

 

皆さんの機関や組織では、これから教育に関するテクノロジーを活用する機会も増えてくると思います。そのようなとき、さまざまなシステムを調整・連携していく必要があります。このような仕組みこそが「Technology Ecosystem」だといえます。

 

まず、「テクノロジー」についてですが、教員ごとに異なるシステムやテクノロジーを使うということではいけません。エコシステムを構築することで、教育現場はテクノロジーを最大限に活用し、さらに拡張できるというわけです。テクノロジーを必ずしも全員が活用しなければならない、というわけではありませんが、少なくとも「どのようなテクノロジーが活用できるか」ということは、全員が理解しておくことが求められます。

 

次に、「採用」に関してですが、アメリカでは採用の競争が極めて激しい状況にあります。そのため、教員および学校スタッフの採用は、オンライン教育における上記のマトリクスの中でも重要な要素であり、欠かせないものといえるでしょう。

 

最後にある「生徒たちの成功」という要素についてですが、これは一言で表すと「対面による授業と同様に、オンラインでも学生ときちんと対峙しなければならない」という内容です。

「質の高い」オンライン教育のために 「標準的な指標」を整備する必要性

ここまで、オンライン教育を実現するためには、ビジョンと戦略が極めて重要であることを繰り返し紹介してきました。質の高いオンライン教育を実現するにあたっては、標準的な指標のようなものがなければいけません。それを考える時には、以下のスライドにあるリンクをご覧いただければと思います。

 

▲ スライド6・オンライン教育の参考になるツールの紹介

 

こちらはBlackboardの模範的なコースのルーブリックとよばれるもので、無料でダウンロードし活用いただけます。これを全て導入する必要はありませんが、オンライン教育のコースが一定の質のレベルに達しているかどうかを確認する際には役立つでしょう。

 

>> 後半へ続く

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