概要
超教育協会は2021年2月24日、クラーク記念国際高等学校 秋葉原ITキャンパス長の土屋 正義氏を招いて、「クラーク国際が探求する『好き』を貫かせるための学校づくり。〜『好きこそものの上手なれ2.0』〜」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、土屋氏が、クラーク記念国際高校の「好き」にフォーカスした教育の歩みと、その新しい取り組みである『好きこそものの上手なれ2.0』に関するプレゼンテーションを行い、後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答を実施した。その模様を紹介する。
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「クラーク国際が探求する『好き』を貫かせるための
学校づくり。〜『好きこそものの上手なれ2.0』〜」
■日時:2021年2月24日(水) 12時~12時55分
■講演:土屋 正義氏
クラーク記念国際高等学校 秋葉原ITキャンパス長
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸奈々子
シンポジウムの後半では、ファシリテーターの石戸より参加者から寄せられた質問が紹介され、土屋氏が回答するかたちで質疑応答が行われた。
独自の教育スタイルに高い関心 入学方法と卒業後の進路にも質問が集まる
石戸:「講演の最後に『好きこそものの上手なれ2.0』の中身は『イメージからお察しいただければ』と言われましたが、全然『お察し』できなくて・・・、宇宙に関する授業を始めるということですか」
土屋氏:「これからは『宇宙』の時代ですし、宇宙関係のニュースも増えていますので、高校でも宇宙に関する授業ができれば面白いと感じているところです。将来的にはコースまで作って、専門的に学ぶ子供が出てきたらいいな、とは思っています」
石戸:「実際に宇宙飛行士の方とつながりながら授業ができれば楽しそうですね。早速いくつか質問が来ています。『企業とつながる授業とは具体的にどのようなことをしていますか』という質問です」
土屋氏:「一例を挙げると、食品関係の企業とのコラボレーションでは、高校生が商品の企画を行い、企業が実際に商品化し、その販売活動を共同でやっていく、というようなことを行っています。
本校の教職員は『こういうのをやりたい』という思いが強く、さまざまな企業に自らアポを取り付け『一緒にどうですか』と提案に行くことも多いですね。連携企業は、全国のキャンパス合計で100社近くになると思います」
石戸:「次の質問は、『生徒募集はどのような方法で行っていますか。素晴らしい取り組みを、中学生や保護者にどのように伝えているのか気になります』というものです」
土屋氏:「募集活動自体は結構口コミに負うところも多いと思いますが、出願は『学校説明会に参加すること』を必須条件としています。従来の学校とは異なることをやっていきますので、本校の教育方針を理解し、賛同いただける方に入学していただきたいからです。入試も一般的な学科試験のほか、作文や面接にも比重を置いていて、高校生活の3年間で『このカリキュラムのこれに力を入れたい』と本気で言える子供に入学してもらえるような形をとっています」
石戸:「次は、『入試にはどのような特色がありますか。合否判定において力点を置いているところはどのようなところでしょうか』という質問です」
土屋氏:「人物重視ということが挙げられます。『この分野で頑張りたい』と思うことは大前提として、ただ『これをやりたい』ではなく『やりたいから頑張る』ところを入試で見せてほしいのです。それで、学力試験の国語・数学・英語の3科目については、事前に過去問題を渡すなどしっかりと受験対策をしてもらい、相談会でも、『高校で好きなことをやりたいなら今は受験勉強をしっかりやる』という心構えを持って入試に向かうように指導しています。入試自体は比較的オーソドックスなものです」
石戸:「続いて『高大連携授業などもされていらっしゃいますか』という質問です」
土屋氏:「実施しています。例えば、東京キャンパスで歌やダンスの舞台を作る『パフォーマンスコース』では、ある音楽大学と連携して授業を受けさせてもらったり、プログラミング分野で、ある大学のカリキュラムを一緒に取り組ませてもらったりしています」
石戸:「クラーク記念国際高等学校は、いわば『従来の通信制の枠を破るものと思います。これまでの通信制は、もはや時代からかけ離れてしまっているのでしょうか』という質問です」
土屋氏:「本校が誕生する以前の通信制に求められていた役割は、働きながら高卒資格を取得したい人々の『働かざるを得ない』時代背景に応えるものでした。今は、そういった理由よりも『自分がどうありたいか』を、真剣に考えている子供たちに選ばれる存在へと、役割が変わってきていると感じます」
石戸:「一般の高校も今は変革期にあって、一人一人の個性や好きなことを伸ばす方向にシフトしようとしています。そういう意味でも『通信制の未来型』というだけではなく『教育の未来型』の提示も意識しているように感じますが、そのあたりはどうでしょうか」
土屋氏:「そのような気持ちは常に持っています」
石戸:「ありがとうございます。次は『入学時にやりたい分野が決まっていないと入試の時のアピールが弱いでしょうか。また、自分の好きなコースがなければ協働ではなく単独で進めることになりますか』という質問です」
土屋氏:「やりたいことが決まっていない子供も受け入れていますが、興味を持つことは大事です。『これには少し興味がある』という程度で全く問題ありません。本校では、体験授業を頻繁に開催していますので、少しでもご興味があれば、体験授業を受けて『この道は自分に向いているかも』と思えれば、それでいいと思います。
一般的に多くの高校生が『やりたいことがわからない』中、本校では『これをやってみたい』という気持ちの子供が多くいます。ただ、どうしても『これ』というものがなければ総合進学コースを選んでいただき、キャンパスが持つ色々なコースの体験授業を選択して、その中から探してもらえればいいと思います。
それと、自分の好きなコースがない場合ですが、単独ではなく、基本的に協働になります。『チームで動く』ことを重視しているのがその理由です」
石戸:「次は『御校にはeスポーツコースがありますが、生徒たちに与える影響はどのようなものがありますか』という質問です。私も気になっています。実際に導入されてどのような効果や成果があったのか、教えていただければと思います」
土屋氏:「eスポーツは、対応を誤るとゲーム依存や昼夜逆転につながってしまう問題を内包していますから、導入にあたっては『そういう生徒を絶対に生み出さない』ことを一つの目標としてコースを立ち上げました。ゲームタイトルの選定でも、一人で黙々と進めるものよりも仲間とコミュニケーションを取りながら進めるものの方が、より教育的効果を生み出すと考えました。
実際に導入してみると、チームワークという観点で非常に高い教育的効果が見られ、特に『勝ちにこだわる』ことの大事さを感じました。リアルの運動部と同様、勝ちにこだわるからこそ、仲間同士で意見を交わし、戦略を必死に語り合い、良いところは良い、悪いところは悪いと互いを尊重しながら言い合えます。その結果として勝利を収めた時の喜びと仲間との連帯感は、eスポーツもリアルスポーツも同じです。しかも、その効果が運動神経の優劣にかかわらず経験できることは、大きな成果と考えています」
石戸:「次は、『多様なカリキュラムに対応する教員には、かなりの専門性やスキルが求められ、従来の教員養成では厳しいと思います。御校では、教員の研修に何か特別なことをされていますか』という質問です」
土屋氏:「教員研修については、授業力研修や学力試験を毎年実施しています。特に、自分の専門教科の学力試験は『不合格になると翌年は教壇に立てない』と言うほど厳しく、先生方も日々プレッシャーを受けながら研鑽しています。一方で、専門的な知識の収集には限界もあり、とくに専門分野の最新情報を生徒に教えるのは、教員では難しいとも思っています。そこで専門分野に関しては、その道で生計を立てている『プロ』の方をお呼びして行う授業を、結構取り入れたりしています」
石戸:「先生方には、プロの方々と一緒に授業をコーディネートする役割が求められるということですね。次の質問は、『好きを強みにできた経験やスキルはとても貴重だと思いますが、それを好きではない教科の学びにも応用するための教育的な仕掛けはありますか』というものです」
土屋氏:「好きなことをやっていると学びがどんどん深くなっていき、やがてどんな分野でも本質的なところに突き当ります。そういう時に日本の教育がすごいのは、それが国語・数学・理科・英語・社会などに結びついていくことです。講演で、ロボットの研究が数学の座標や、物理の摩擦につながる話をしましたが、他にも、例えば演劇などで台本を正確に読むことが国語力につながります。中途半端に学ぶとその分野だけで終わってしまうところを深く追求することで、他の科目の強化にもつながるということがわかってもらえるように心がけています」
石戸:「残り時間も少ないので、署名入りで投稿くださった質問を最後にしたいと思います。『クラス制度はありますか。あるとすればどのような制度化をされているのでしょうか』というものです」
土屋氏:「ホームルーム用のクラス、科目によっては習熟度別のクラスなど、授業は基本的にクラス単位です。コースの中にも、レベル別や分野別のクラスなどいくつものクラスを設定しています」
石戸:「ありがとうございます。まだ1分ありますので、最後にもう1問お願いします。『偏差値はいくつですか。また、生徒がクラークを選んでいる大きな理由を3つ教えてください』という質問です。学校を選ぶ理由は、その学校の特徴を端的に表すと思いますのでお答えいただきたく思います」
土屋氏:「まず、偏差値ですが、本校の場合『あってないようなもの』です。というのも、先に『人物重視の入試』と申し上げましたように『本当にこの教育を受けたい』と思っている子供達に入学してもらいたいからです。
本校が選ばれる理由を3つ挙げるとすれば、1つめは、『やりたいことがある』ことです。自分が好きなことを伸ばし、社会に結びつけられる何かに期待してくださっているということです。
2つめは、『自分のいろいろな変化に対応できる』ことでしょうか。毎日通うことをメインにしていますが、自分のライフワークの変化によって他のコースへも柔軟に対応することができます。
3つめは、『高校を卒業してからの道の広さ』でしょうか。大学進学を目指す場合、他校では3年間受験漬けモードになると思います。本校でも7割近くが大学に進学しますが、大学入試も多様化していますので、自分の『好き』や『得意』を活かして入試に勝とうという形を選べるところが、一つの魅力になっていると思います」
最後は、「新しい通信制高校、高校の在り方や可能性を感じることができました」という石戸の言葉でシンポジウムは幕を閉じた。