「好き」や「得意」を伸ばし、新たな価値を生み出す力を身につける
第35回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2021.3.19 Fri
「好き」や「得意」を伸ばし、新たな価値を生み出す力を身につける<br>第35回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2021224日、クラーク記念国際高等学校 秋葉原ITキャンパス長の土屋 正義氏を招いて、「クラーク国際が探求する『好き』を貫かせるための学校づくり。〜『好きこそものの上手なれ2.0』〜」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、土屋氏が、クラーク記念国際高校の「好き」にフォーカスした教育の歩みと、その新しい取り組みである「好きこそものの上手なれ2.0」に関するプレゼンテーションを行い、後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答を実施した。その模様を紹介する。

 

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「クラーク国際が探求する『好き』を貫かせるための
学校づくり。〜『好きこそものの上手なれ2.0』〜」

■日時:2021224日(水) 12時~1255

■講演:土屋 正義氏
クラーク記念国際高等学校 秋葉原ITキャンパス長

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

土屋氏は約30分間の講演において、「毎日通う通信制高校」というユニークな存在の同校が推進する「好き」に焦点を当てた教育活動について説明した。主な講演内容は以下のとおり。

 

クラーク記念国際高等学校は、1992年、「広域通信制高校」として日本で6校目、24年ぶりの認可を受けて開学しました。「Boys, Be Ambitious」で知られるクラーク博士の精神を受け継いだ高等学校としてクラーク家からも認可を頂いた教育機関です。

 

本校は、「通信制高校でありながら毎日通う全日型スタイル」を国内で初めて開発した全日型通信制教育のパイオニアです。現在、日本全国の拠点で1万人以上が学んでおり、これまでに約7万名の卒業生を輩出しました。校長は世界的冒険家の三浦雄一郎が務め、運営母体は学校法人創志学園です。

 

「毎日通う通信制教育」とはどういうものか。「通信制」は、あくまで就労しながら高卒資格を得るという人たちを想定した制度で、学校に通って勉強する時間を圧縮し、その分、家庭学習をしっかりやって、課題などを提出することで単位認定の一部とする仕組みです。

 

▲ スライド1・全日型通信制教育とは

 

私たちの「全日型通信」では、通信制の「就労として想定されている時間」に目をつけました。働いていなければここの時間が空いていますので、子供は毎日学校へ通い、自分の「好き」や「得意」を伸ばす時間に充てることができます。当然ですが、国の定める教育活動はすべて網羅しています。その上で、さまざまな授業スタイルを柔軟に取り入れており、従来の日本の学校教育以上のものが行えているのではないかと考えています。

 

なぜ本校は子供達の「好き」や「得意」にこだわっているのか。言い換えると、どんな生徒を育てたいのかについて説明します。多くの学校では、苦手科目の成績を伸ばそうと教育します。ただ子供達の気持ちはどうでしょうか。苦手なことは大人でもモチベーションが上がらないものです。勉強に対して、「やらなきゃいけないから」などという気持ちで打ち込んでもなかなか伸びていきません。そもそも苦手なのですからなおさらです。こういう教育を高校の3年間で受けた生徒は、平均的な能力の、横並びの人材になってしまいます。

開学以来、こだわり続けた「好き」や「得意」を伸ばす教育

一方、本校が開校以来こだわってきたのは、「好き」や「得意」を伸ばすことです。「君はこの科目が得意だね、人に負けないくらいもっとやってごらん」という指導です。それによって自分の好きや得意が伸びていくと、「他の人よりできるぞ」という感覚になってモチベーションが上がります。

 

しかし、得意をさらに伸ばすためには、実は苦手なところも伸ばさないといけないことがあります。好きなことばかりやっていると、「壁に突き当たる」のです。本校の教育で例を挙げると、ロボットのコースでは、ロボットを動かすために座標の考え方や摩擦の計算が必要になります。ロボットを学ぶためには「苦手」な数学や物理に目を向けないといけなくなるわけです。

 

そんなときでも、自分の「好き」を伸ばすというモチベーションがあれば、苦手な科目も「やらなければいけない」ではなく「頑張ろう」になります。それを狙っているのが本校の教育です。ここまで行くと、子供たちは「誰にも負けない」武器と自信を持った人材に育つのです。「平均的で横並びの人材」と、右グラフの「誰にも負けない武器と自信を持つ人材」。今の時代に重要視され、社会を勝ち抜いていけるのは後者だと、本校では考えてきました。

 

▲ スライド2・この時代を勝ち抜けるのはどちらの教育か?

 

しかし、この考え方に「待った」がかかります。私たちはこれまで、子供たちの「好き」を「得意」にして、自信を持って社会に飛び立てることに焦点を当ててきました。ただ最近は、「そういう人材が1人だけいてもしょうがない」という時代になってきています。これまでは国内の1億人を相手にしてきたのが、インターネットの普及で世界中の70億人を相手に仕事する機会があるかも知れません。

 

つまり、「好き」を誰にも負けない武器、すなわち「専門性」にしていくだけではなく、70億人の「異なる文化」や「異なる価値観」と共に何かを作り上げていく必要が生まれてきます。そのために私たちは、子供たちの「好き」に「多様性」と「協働性」を付加した「新たな価値を生み出す力」を身に付けさせなければいけないと考えています。

 


▲ スライド3・今後は「好きから得意へ」に新たな要素が求められる

 

これまでの本学の取り組みを「好きこそものの上手なれ1.0」とすれば、それに「新たな価値を生み出す力」に至るプロセスをプラスしたものが、本講演のサブテーマに挙げた「好きこそものの上手なれ2.0」とご理解いただければいいと思います。

「好きこそものの上手なれ1.0」では「和太鼓」や「古典芸能」のゼミも

「好き」を「得意」にする「好きこそものの上手なれ1.0」では、開校翌年の1993年から、全国に先駆けて産学連携の社会体験学習を実施してきました。学校の先生からだけではなく、「本物から教わる」、「現場に出て本物を見る」ことが、「好きのレベルをより上げていく大事な要素」という考えに基づくものです。

1995年には、今でこそ広く採り入れられている「総合的な学習の時間(総合学習)」を先取りした「ゼミ制度」を開講し、さらに1998年には、このゼミをよりパワーアップさせた「コース制」を新設しました。

 

ゼミでは、「和太鼓」や「古典芸能」から「鉄道」まで、バラエティに富んだラインアップが、学校の授業の一部として行われています。本当に好きなことは、「学校にいきたい」、「授業を受けたい」というモチベーションになりますし、授業を受ければ「好き」が「得意」になり、得意になればそれが「自信」になる。そういう流れをもたらすゼミ制度ですが、この制度は週1回の設定となっていました。

 

▲ スライド4・バラエティに富んだゼミ制度のラインアップ

 

そこで、この「好き」をさらにパワーアップさせようという目的で設定したのが週10時間の「コース制」です。これまで長い時間をかけて、国際・英語分野、IT/プログラミング、スポーツをはじめ、ダンス/演劇/音楽、アート/デザイン、保育/福祉/心理、動物、サイエンス、食物などの各分野、そして難関大学進学のための特別進学コース、キャリアプランニングのための総合進学コースなどさまざまなコースを開講してきました。

 


▲ スライド5・週10時間のコース制授業ラインアップ

 

もちろん、子供たちの「好き」を伸ばすコースは、時代を背景に次々と新しいものが生まれています。スポーツ分野では、最近eスポーツが追加されましたし、2021年度からは男子サッカーのコースも始まります。私がいる秋葉原ITキャンパスでは2021年度から映像クリエイトコースを始めます。動画による情報発信が今後のスタンダードになることを踏まえた、本校ならではの取り組みと言えると思います。

 

「好きなことに本気で取り組む」コース授業の結果の一つが、硬式野球部が創部3年目で成し遂げた甲子園大会出場です。まさに、「とことんやる」を実践したからこそ実現できた形です。

「好きこそものの上手なれ2.0」では さらに「多様性」と「協働性」も学ぶ

1.0」が子供達の「好き」や「得意」を伸ばすことに焦点を当てていたのに対し、「好きこそものの上手なれ2.0」は「多様性」や「協働性」を含めた「これからの時代」の好きや得意を目指す新たなチャレンジです。

 

本校がこうしたチャレンジを続ける背景には、近年ますます加速する社会の変化があります。社会が変わるということは、未来を生きる子供達の世界が変わるということです。学校だけが100年近く続く現行の教育制度のままでいいはずはありません。新たな2.0へ向けた動きは、実は開校25周年の頃から始まっています。その第一歩が、11台タブレットまたはノートパソコンを持つことで、今では全員がタブレットかノートパソコンを持つ環境が整っています。

 

このことが、当初の目的とは別の意味で効果的に機能したのが、コロナ禍のオンライン授業です。早くから端末を導入して、生徒も先生も使い方に慣れていたため、スムーズにオンラインに移行し、授業を継続することができました。現在も、登校する生徒とオンラインで参加する生徒の「ハイブリッド」スタイルで、密を避けながら授業をしています。

 

▲ スライド6・いち早く「1人1台タブレットPC」を実現

 

また、本学は「国際」高等学校としてオーストラリアへの留学制度も実施してきましたが、コロナで渡航が難しくなったので、現在は「オンライン留学」という形で継続しています。これに思わぬ効果がみられたのが、「オンラインは逃げられない」ということです。少人数、あるいは11でつながって授業を受けるため「もう自分が話さなければいけない」という環境が、実際に渡航して受ける授業よりも整ったという報告を受けています。もしかしたら、渡航型の留学以上に子供達は語学力を身につけられるのではないかと、オンライン留学への可能性にもちょっと期待しています。

 

2.0」の一環で「価値観を変える授業」も始まっています。これは「新しいものをいろいろ導入する」だけではなく、先生や生徒に価値観を変えていくことが求められるオリジナル授業で、本校では「キャリア学習」と呼んでいます。キャリア学習では、主体性・多様性・協働性・思考力・判断力・表現力という「6つのスキル」をテーマとして、グループワークを基本に考えて行く、年間を通した授業を開発しています。「2.0」では、バーチャル技術などを駆使したさまざまな「未来の授業」も実践しています。

 

▲ スライド7・バーチャルを活用した未来の体育授業

 

秋葉原ITキャンパスで実践した「バーチャル体育授業」では、画面の中でリアルとデジタルを融合させるAR(拡張現実)技術を駆使して実証実験をしました。


導入したHoloBreakは、子供たちが持っているスマホの画面に現れる的に向かってスマホをタップし、球を飛ばして当てるシューティングゲームに近いものです。これを体育の授業に導入したところ、子供たちが実に楽しんで走り回ります。写真右は走っているところですが、実際には他の子から狙われるとスマホに通知が届くので、しゃがんだり、ジャンプしたり、走ったりとものすごく体を動かすことになります。


体育の授業で、ただ「走りなさい」だと「えーっ」となる子供もいますが、ゲームという要素をプラスすることで、誰もが楽しんで体力作りができるようになります。もしかすると体育だけではなく、休み時間も含めたいろいろな場面に可能性を広げることができる、ちょっとした未来の形を試してみることができました。

 

もう一つ、バーチャルを活用した未来の形として、高田馬場の東京キャンパスで導入したバーチャル理科実験室「Labster」があります。これは、3Dゴーグルを付けることにより、理科の実験を目の前で実際に行っているように体験できるものです。

 

このシステムを使うことで、高価で大掛かりな実験設備がなくても学習効果の高い実験を行うことができますが、もう一つ、リスクを回避できることも大きなメリットです。理科の実験には失敗が付き物ですし、なかには爆発の危険を伴うものもありますが、リアルの世界ではないので安心して実験を行えます。

 

▲ スライド8・バーチャルを活用した未来の理科実験室

 

しかも、バーチャルとはいえ画面上での再現度はかなりリアルなもので、子供たちは本当に実験を行っている感覚になれます。また、Labsterの実験はいつでもどこでも行えますので、「実験を宿題に出す」というリアルの授業ではできない、新たな形の学習形態を導入することもできました。

 

2.0」では、eスポーツにも挑戦しました。eスポーツは国内でもようやく理解され始めたところですが、本校が秋葉原ITキャンパスにeスポーツを導入した2018年当時はまだ風当たりも強く「eスポーツで教育?」という状況でした。しかし、世界に目を向けるとすでに教育界でeスポーツが広く導入されていて、eスポーツ学部を持つ大学もありましたので、本校でもいち早く導入しました。先日、こちらに登壇されたNASEF(北米教育eスポーツ連盟)の内藤裕志様とも何度かお話しさせていただいていて、この4月からは全国のキャンパスでのeスポーツコースや部活動の展開を考えています。

 

eスポーツには大きな可能性があります。本校でこだわって採用しているゲームはチーム戦のものですが、実際にやってみるとイメージはリアルの運動部そのもの。サッカー部や野球部と同じように「チームワーク」を重視し、仲間と一緒に「勝ち」にこだわっていく中にいろいろな学びがあることもわかってきました。しかも、運動神経に自信がなく「体育は苦手」という子供でも、eスポーツで運動部と同じような効果が得られますので、これからも導入を推進していきたいと思っています。

 

2.0」では、学習スタイルの変革も目指しています。その核となるのは、学習ソフトやアプリなど「EdTech」を活用した3つの新しい手法で、これには「先生の役割」を変革していく可能性も含まれています。

 

▲ スライド9・EdTechで変革する学習スタイル

 

1.場所、時間にとらわれない学習」、「2.コーチング担任が個別サポート」とあるように、先生は「教えること」の専門家ではなく、オンライン教育を通じて子供たちと、11で学習を進めていく「コーチ」的な役割が求められるような時代が来るかも知れません。また、「3.チーム学習で非認知能力を育成」とありますように、リアル対面教育では、グループワークにおける「ファシリテーター」の役割も求められていく可能性もあります。


本校ではこれらを踏まえ、この4月から新たな教育の未来形「CLARK SMART」をスタートし、「学び方が変わる、先生も変わる」を確立していきたいと考えています。

 


▲ スライド10・2021年4月に開講する「CLARK NEXT」

 

CLARK NEXTは、この未来の教育に、クラークのこだわりである「好き」という要素を付加した新時代のキャンパスです。東京都板橋区に10階建ての新キャンパス「CLARK NEXT TOKYO」をオープンすると共に、私が在職する秋葉原ITキャンパスも、「CLARK NEXT AKIHABARA」にパワーアップします。本校の生徒は通信制高校としては珍しく7割近くが大学に進学し、国公立を含めたいわゆる「難関校」へ進む子供たちも出てきています。教育の中身も主要5教科だけをがっちりやるのではなく、「好き」や「得意」にもこだわっていて、しかもこういった結果が出せているところは、他校と違う特色ではないかと感じています。

 

最後に、本講演でお話しした「2.0」に続く次なるステージ「好きこそものの上手なれ3.0」も動き出しています。まだ内容を公言できませんので、私の頭の中のイメージをお見せします。「次はこれをやりたい」というところでお察しください。

 


▲ スライド11・次なるステージ「3.0」で目指すものは?

 

>> 後半へ続く

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