超教育協会設立シンポジウム レポート

活動報告|設立シンポ

2018.10.1 Mon
超教育協会設立シンポジウム レポート

概要

2018年5月29日、慶應義塾大学三田キャンパスにて超教育協会設立シンポジウムを行いました。当日は下記プロ グラムで進行し、超満員300名以上の方々にお越しいただきました。こちらのレポートでは、超教育会長小宮山宏 氏、野田聖子総務大臣からのご挨拶をご紹介します。

 

プログラム

 

1 超教育協会会長挨拶

小宮山宏 株式会社三菱総合研究所理事長、東京大学第28代総長

 

2 来賓挨拶

野田聖子 総務大臣

住田孝之 内閣府知的財産戦略推進事務局長/超教育協会オブザーバー

八山幸司 内閣官房IT総合戦略室参事官/超教育協会オブザーバー

 

3 基調講演

柳沢幸雄

開成中学校・高等学校校長、東京大学名誉教授、元ハーバード大学大学院教授/超教育協会評議員

 

4 団体活動紹介

石戸奈々子 超教育協会理事長

 

5 議論

杉山知之/デジタルハリウッド大学学長

安宅和人/ヤフー株式会社チーフストラテジーオフィサー

藤原洋 /超教育協会幹事

中村伊知哉 慶應義塾大学教授、DiTT専務理事/超教育協会幹事・理事

「超教育」をひもとく3つの視点

小宮山宏 株式会社三菱総合研究所理事長 東京大学第28代総長

どうも皆さんこんにちは。超教育協会というのが何だろうと、皆さん思い集まっていただいたのだろうと思いますが、会場の選定を誤りまして、少し小さい会場を選びすぎましてお断りをしたりして大変申し訳ございません。「超教育」というのをご理解いただくためには、3つの視点がございます。ひとつは「IT人材の育成」というキーワード。もうひとつは日本の特徴や有利な点から考える「超教育」。3つめは、「超教育社会」とはいったい何なのか?ということ。これら3つの視点を順番にご説明したいと思います。
 

ベースリテラシーとしてのIT

 

まず、 IT人材の育成です。これは言うまでもないのですが、いわゆる読み書きそろばん、国語・算数・理科・社会のように、ITはリテラシーのベースになっていきます。ところが、日本は、IT教育に関して後進国になってしまっています。学校外の、社会を見てもそうでしょう。世界では、再生可能エネルギーの普及が信じられないくらい高いのに、日本は遅れているなど、世界に比べて普及が劣っている、さまざまな点があります。ここらへんは実はみんな関係していて、ITはベースのリテラシーとなっていく必要があるんです。

 

そして、今は人生100年の時代とも言われていますが、リカレント教育が重要です。私は、これまでDiTT(デジタル教科書協議会)でずいぶん活動をしてきましたが、ようやく、国が動きはじめました。だが、これもまた完全に遅きに失している。この分野は、民間が引っ張っていかないと日本はどうしようもなくなってしまうと危惧しています。「民間主導でやっていこう」というのは、超教育において重要なポイントです。民間が主導して、ITの使える人材を育成していきましょう。これが超教育を考えるための、第一の視点です。

 

IT・AIを活用する余地をまだまだ持つ日本社会

 

第二の視点は、今の日本の特徴である、今、就職がものすごくいいことです。逆にいうと、今は労働力不足とも言われています。今は、15歳~64歳が労働生産人口とされていますが、実際、15歳から18歳というのは中学3年生から高校3年生や大学1年生。働いていないですよね。今の日本は、高等学校を卒業してすぐに働き始める人は昨年の場合、17パーセントしかいません。世界基準で労働力人口と言ったら、大体20歳以上です。私は今73歳ですが、まだまだやれます。私の友人たちに、ゴルフをやろうと誘ったら、「エベレストでトレッキングに行ってくるから帰ってからにしよう」と言われます。クラスメイトだから大体同じ年齢です。皆さんは、そういう人たちに年金を払っているわけです。つまり、今の社会の制度が間違っているのだと私は考えます。例えば、20歳~74歳が労働生産人口という社会に変えて、ITやAIを導入して生産性を上げていくことができれば、今議論している問題の相当部分が問題じゃなくなってしまいます。IT、AIをもっともっといれる余地があるというのは、他の国にもあまりない特徴で、ほとんど世界で類を見ない有利な点です。

 

人生100年時代は、「超教育社会」へ

 

それから3つ目の、いよいよ、「超教育社会」というのは何か?という話です。今の学校制度は人生が50年や60年で終わる時代にできたものです。実は、最初に定年制度が生まれたのが昭和25年頃で、定年は50歳でした。ところが、当時の平均寿命は50歳にもいっていなかったんです。戦争の影響というのもありますが。何しろ1900年の世界の平均寿命は31歳ですからね。その後、平均寿命がどんどん伸びてきて、今世界の平均寿命は72歳です。日本だけが特殊というわけではなく、みんな長生きできるようになってきました。

 

そして、人生100年時代。今年生まれた子どもたちは、ますます長生きをすると言われています。そんな時代にありえないじゃないですか。小学校に入り、大学を卒業するまで勉強し、その後はずっと同じ企業で働く。そんなこと、今の学生は考えていない。ではどうするか?途中で仕事を変えたくなったらどこかで勉強して、またチャレンジする。学校教育だけで不十分であれば、塾に行き、水泳を習い、プログラミングの勉強をする。こういったことは既に行われていますね。そういう時代に、ITは本当に便利なツールなのです。ITをフル活用できれば、たとえば過疎地の問題も減るでしょう。小学生にだって中学生にだって大学生にだって、それこそ僕らのような年代の人間にとっても、勉強する手段としてのITが、とても有効なわけなんですよ。

 

これからの生き方、社会はどうなるでしょうか?これからずっと、生まれてから死ぬまで、生きている間は何らかの勉強をしながら過ごすことになるのです。これが、超教育社会。なんでそんな勉強したいの?得するから?そうではないでしょう。われわれは、知りたいのですよ。「分かった」と思うことは、人生の喜びでも最大のもののひとつです。「この人のことを好きになった」というのもそうですが、「分かった」という感覚を得るためにわたしたちは人間をやっています。ファウストだってそうだった。好奇心のために魂を売ってしまったというのがファウストのテーマです。だから、学ぶということ自体が目的になるのです。そのためのツールとして私たちはITを持っています。

 

IT人材を広げていきましょう。そのために日本は本当は有利な状況にあります。超教育社会とは、生まれてから高齢者まで含めて、みんなが勉強し続けられる社会です。そのための教育が必要です。それをつくっていくことが、超教育協会の本当の役割だろうというのが、会長としての私の意見です。ぜひ課題先進国の日本として、超教育、そして超教育社会をつくることで世界を引っ張っていきたいと思っておりますので、ぜひ一緒にやりましょう。

 

来賓挨拶

野田聖子 総務大臣

課題先進国日本だからこそ、最大限のICTの活用を

皆さんこんにちは。ご紹介頂きました野田聖子でございます。今、小宮山先生から様々なお話を聞きまして嬉しく思うとともに、ICTの普及が日本は遅すぎることを改めて感じておりました。これからは人口減少が待ったなしで進みます。私はこれを、静かなる・見えざる誘致と呼んでいます。今まで日本人が経験したことがないような、大きな負荷がかかっているこの国にとって、唯一課題解決のためのフォースとして立ち向かうことができるのが、ICTなのではないかと思っているのです。

 

昨日、日中韓通信大臣会合というものを12年ぶりに行いました。中国の苗(びょう)大臣と、韓国の兪(ユ)長官と、非常に仲良く和気あいあいと会合に取り組むことができ、中身の濃い話をさせて頂きました。そこでわかったことは、やはりアジアの国々が抱えている問題は共通で、やはり人口減少と高齢化が、とても深刻な問題です。

 

世界でも、日本が10年、20年近く先駆けて人口減少と高齢化という課題に直面していきます。その課題を乗り越えるためにICTを最大限活用するチャレンジを始める必要がある、という議論を交わしました。とりわけ中国は人口が多いです。日本は1億、中国は10数億の人口を抱えています。高齢化をそのままほったらかしにしておくと相当な負荷がかかってしまいます。そういうなかで何ができるのかといったら、ICTの力だということを再認識しました。今、日中韓、それぞれの国が取り組んでいるのが、AI、IoT、それから5Gです。そして、それらをしっかり進めていくための頼みとしてのサイバーセキュリティ。今、総務省ではそれらの技術を「観覧車」に見立てています。しっかりした土台としてのサイバーセキュリティがあった上で、AI、4K、8k、IoT、5Gをしっかりと取り込んでいくことができます。

 

ICT人材育成は急務

 

会合でのフリートークで、私から悩みを抱えていると話しました。それは、人材についてです。今の私たちは、ご先祖様の不断の努力によるストックを食べて生きていると感じます。これから未来、50年後の日本に私たちが何を残すことができるでしょうか?人口減少などによりどんどん人材が枯渇していく中で、ましてはICT人材のほとんど育っていない社会で、何を残せるでしょうか?

 

2020年には東京オリンピック・パラリンピックが行われます。だいたいどの都市もそうですが、開催の年にあわせてサイバー攻撃のターゲットとなります。切り抜けるためには、防御だけではなく抑止ができる人材であるホワイトハッカーが必要です。そのようなサイバーセキュリティのトップガンと呼ばれる人材がこの国にはいないのです。他国の皆様の力も借りてどうにか2020年を切り抜けていかなきゃならないのですが、日本ではホワイトハッカーという人材自体さえ、まだまだ認知が広がっていません。

 

人材については予定外のディスカッションだったため、今後できることについてはまた新たなセッションを設けようということになりました。できれば小学校のうちから国際的な人材交流を行いたいですね。ICTは年齢不詳です。大学を出たからといって、良いICT人材とは限りません。今までの日本の常識と違うことをやり遂げていくためには、既存の団体だけではやりきれません。そうした中で、超教育協会が果たすべき役割は当たり前のように大切なことと思っています。

 

今までの「学問」や「教育」を超える、ICTのポテンシャル

 

最後に私の息子の話をしたいと思います。私の息子は、右半身麻痺という身体障害と、知的障害と、呼吸器障害の3つの障害を持っています。心臓が弱いので、呼吸器をつけています。でも今、頑張って生きていて、特別支援学校に通っています。知的障害ですから字も書けませんし、数字も書けませんし、絵も描けません。7歳ですが、普通の小学生ができることはほとんどできません。言語障害もあるので、会話もままなりません。

 

でも唯一彼が大好きなのが、スマートフォンなんです。これが不思議で、知的障害だからよく分からないだろうと思っていたのですが、実は親のやっていることを盗み見して、使い方を覚えていたんです。先日、親の知らぬ間に、息子に、ある技術革新がありました。ついに、私のスマートフォンからインターネット通販でブラウンの髭剃りを買ってくれたのです。アルコールが入っているので返品不可、という3万円もする代物で、夫もひげが薄いものですから宝の持ち腐れみたいになっています。

 

「いやー、こんなことができるようになったんだね」と夫と驚いていた矢先、今月はまたもや思わぬことが起こりました。先日、息子が夫のゴルフの練習に連れてってもらいました。とても楽しかったようで、「ゴルフ、ゴルフ」なんて本人もよく言っていたのですが、そんなある日、またインターネット通販でダンボール箱が届きました。箱を開けてみてびっくり。今度は子供用のゴルフ道具が届いていたのです。つまりICT機器と一緒にいる限り、障害を持った子供にも、生活の中でさまざまなコントロールができるということがわかったのです。これは一体なんなのだろうと、そんな不思議な毎日を過ごしています。

 

この間は、あるゲームを買いました。忙しいのでなかなか触れなかったのですが、箱から出して充電だけはしていました。10日くらい経った朝、突然、ゲームの音楽が聞こえてきたのです。あれ、なんだろう?と思うと、左手だけしか動かせない息子が、片手で操作をしてゲームで遊んでいたんです。これにもとても驚きました。ここまで来ると本当に、ICTの醍醐味というのはあるのではないかと。今までの「学問」や「教育」ではない何かがICTにはあって、そして今までは役にに立たないと言われていた人たちも何かがきっかけで価値をもたらすことができるのではないかなと。ささやかな我が家のエピソードなんですが、そんなことを考えました。

 

このままでは日本は会社でいうところの倒産です。でもまだ私たちには残された力があります。それは、何十年も頑張ろうといいながら力を入れてもらえなかったICTです。2020年には5Gが実用化していく中で、しっかりと花咲かせていくことが大切です。ただ技術ではなくてそれをオペレートしていく人、有能な人たちをしっかりと今までにない既存の教育の中でつくりげていくことが、日本の生き残る唯一の道ではないかなと考えています。ぜひこだわりを捨てて、そして、新しい日本をつくっていただける皆さんであって頂きたいということを最後に申し上げてご挨拶とさせて頂きます。

基調講演

柳沢幸雄氏 開成高等学校・中学校校長、東京大学名誉教授

ただいまご紹介いただきました柳沢です。10分から15分で1時間の内容を話します。私は中学高校の、中等教育の現場におりますので、若者たちがこれから生きていく社会、それがどういうものなのか、かいつまんでお話をしたいと思います。

 

30年後のことを考えてみましょう。30年というのは、ちょうど一世代ですね。我々が教えている子供たちは30年後、親の年代になります。大人になった子供たちが生きる世界に日本がどれだけ繁栄を維持できているか?彼らがどういう活躍ができるか?それが重要なわけです。

 

ですが、30年後どうなっているかは誰にも分かりません。しかしながら、分かることもあります。それは30年前です。30年前の様子は、歴史の本を紐解けば分かります。そして、この30年間の間にどれだけ変化を遂げたのか、スケールは少し分かるかもしれません。さらにそこから、現在の趨勢から30年後を予測することも出来るかもしれません。

 

まずは第一に30年前を思い出してみましょう。

 

主な出来事を挙げてみます。ドラクエが出ました。青函トンネルが開通しました。東京ドームが完成しました、瀬戸大橋が完成しました。竹下総理大臣がふるさと創生資金で1億円を加えました。本当にイケイケどんどんの時代だったのです。

 

イケイケどんどんの時代。この時代の象徴の一つはジュリアナ東京ですね。ここで踊っていた今の親たちは、まさか”失われた30年”がくるとは誰も予想していなかったわけです。このように30年先は分からないのです。

 

では、30年後を少し正確に予測するために現代の趨勢を見てみますと、”多様化”です。在留外国人の数は非常に増えております。中国人が多かったのですが、最近はベトナム人も増えています。終戦直後から比べて、非常に在留外国人の数が増えております。コンビニに行けば、日本語の教育が非常に行き届いている応対をしてくれるわけです。

 

多様化していく社会のもう一つは、海外に出ていく日本人。これが非常に多いです。不思議なことに女性の方が数が多いですね。このように日本は、日本の中から多様化が起きているわけです。じゃあ、このように多様化した社会のなかで、30年後の仕事や社会はどうなるのか?未来の詳細は常に未知です。未知の世界を生き抜ける力を養える教育、これを今の中高生、あるいは小学生、また大学生に施していかねばいけない。

 

では、そういう日本の教育を受けた若者たちはどういう自己認識を持っているのか?内閣府の調査があります。平成26年度版の子ども・若者白書では内閣府が実施した日本を含めた七つの国(日本、韓国、アメリカ、英国、ドイツ、フランス、スウェーデン)の13~29歳の若者を対象としたインターネットを利用した意識調査です。

 

この中に「私は、自分自身に満足している」という質問があり、答えは4択です。「そう思う」「どちらかといえばそう思う」「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」これを選んでもらっているわけです。ちなみに、ちょっとみなさんに聞いてみましょう。ここの会場で「私は、自分自身に満足している」、あるいは「そう思う」「どちらかといえばそう思う」とお思いの方、手を挙げて下さい。(会場に質問)さすが、ここは今まで私がこの質問をした中で肯定的な意見が一番多いですね。大概3割ぐらいです。

 

じゃあ二つ目の質問。自信についてです。「自分には長所があると感じている」4択です。「自分には長所がある」と感じていらっしゃる方、手を挙げてください。(会場に質問)

 

おお、多いですね。では、13歳から29歳までの日本の若者はどう考えたのでしょうか?自己肯定感をもっているのは45.8%です。比較をした韓国が71.5%、アメリカが86.0%、に比べてもはるかに低いです。自信については、自己肯定感より自信のほうが若干高かったですが、それでも日本は68.9%しか自分に対して自信を持っていません。対するアメリカは実に93%です。これが今の中学生たちが世に出たときに対峙する相手なわけです。国際比較をした結果、日本の若者の自己肯定感は最も低い。これをもう少し解析してみますと、年齢別に分けます。一番低くなるのが20歳~24歳。どういう年代かというと教育機関を終えて社会に出るとき。その時の自己肯定感は40%を割っています。中学時代からどんどん下がっていって、そして、就活をするころに一番低くなり、就職が少し決まると安定するかもしれないので、自己肯定感が少し増す。自信に関しても全く同じことです。その原因は一体何なのか。これが、高大連携ということが今一所懸命に言われていますが、私はそれ以上に重要なことは大学と社会との連携です。そこをきちんと考えていかないと勢いの良い若者が社会を担っていけないのです。20歳~24歳の年齢帯は教育機関を終えて社会に巣立つ年齢。日本の若者の自己肯定感が低いのは、多くの場合大人の自己肯定感が低いから。20年後、30年後、若者たちは多様化した社会で自己肯定感に溢れ、強い自信を持った世界の若者と協力し、競争しながら人生を生きていく。国の内外における国際化が起きている。だから本人の好き嫌いにかかわらず、文化、歴史、行動形態の多様な人々と子どもたちは人間関係をつくらざるを得ない。これは今若者が直面している現実です。

 

そこで私は同じ質問を開成生に聞いてみました。「自分自身に満足していますか?(自己肯定感を尋ねる)」「自分に長所があると思いますか?(自信について尋ねる)」中学1年生から高校3年生に聞きました。これがその結果です。中学1年生は約10パーセントの300人が自己肯定感を強く持っています。そして約半数が自己肯定感をまあまあ持っています。自信についても46.1パーセントの生徒が長所を持っていると思う、39.7パーセントの生徒がまあまあ長所を持っていると思うという結果で、つまり約85パーセントが自信を持っています。

 

竹村健一はよく「日本の常識は世界の非常識」と言っていましたけど、開成生の自己肯定感については世界と同じようなレベルにいる、つまり世界の常識にあっている人材が育っていることが言えると思います。自信についてはアメリカ人よりも強いというのがわかります。
ではこの自己肯定感と自信の源泉がどこにあるか?キーワードは「楽しさ」です。自己肯定感や自信のある彼らは、自主的行動、自律的行動で得た達成感があります。与えられたものではなく、自分で自主的に選んだ事柄を自分で考え、困難に遭遇しても、自律的に活動して困難を乗り越え、成果に到達することができた。どんな小さな成果であっても本人たちが選んで達成したことは自信にもなるし自己肯定感を強めることにもなる。楽しい時間が自主性、自律性をはぐくむ。なぜなら、楽しければ積極的にものを考え、行動することができるのです。

 

開成では6月と11月に毎年同じアンケート「学校は楽しいですか?」を取っています。6月ということは、中学1年生は入学してから2か月たったときですね。中学1年生は約98パーセントが楽しいと答えています。高校2年生になっても97パーセントが楽しいと答えていて、開成中学高校6年間、ずっと同じような感じで楽しんでいるわけです。ただ高3になると若干楽しいと答える人が減ります。それは受験勉強が始まるからですね。6月の時点で楽しくないと答えた生徒に対して教員は積極的にコンタクトをとります。そうするとたいていまあまあ楽しいに変わってくるんですね。一方、まあまあ楽しいと6月に答えていた生徒が喧嘩でもしたのでしょう、あまり楽しくないと答えたりする、こういった循環を半年ごとに繰り返していきます。では、生徒たちが楽しいと感じるのはどういった条件なのでしょうか。それは居場所、自分が受け入れられる場所があるということ。その場所が大きくわけて3つあります。

 

まず「授業」では、特に数学オリンピックで世界一とるような生徒もいますから、そういった生徒は授業が楽しいでしょう。そしてそこで自分流の学問の新しい学び方を身につける。

 

そして「部活」です。開成は70の部活があります。決してしごきはありません。部活はいくつ入ってもいいですし、入らなくてもいいです。自分の個性をはぐくむことができます。さらに「学校行事」です。これによって合意形成のプロセスを学ぶことができます。たとえば運動会。2100人全員が関わるイベントです。そこでいろんな意見がでてきます。「運動会を廃止しろ!」という生徒もでてきます。そういうのを全部含みこんで1つにまとめあげていく、合意形成の社会性を身につけていく。そのためには1学期に非常に注意深くオリエンテーションの時期に馴染むように学校行事を配置しています。

 

中等教育では友人関係によって学ぶというのが非常に重要です。親でもない教師でもない、自分が選んだ「師」を選んで、それは自分と馬が合って、自分のロールモデルになりうる、そういう先輩を捕まえることができれば、自分の人生やキャリアプランが明確に見えてくる。そのためには先輩が後輩に優しく面倒見が良いというのが非常に重要。面倒見の良い先輩というのは個性を育てる上で非常に重要であるとともに、特に中等教育の段階では、教わった経験、それと共に教えた経験というのは、子どもを非常に成長させる。ですからこの6年間の中で、先輩は教えることに(特に高校生になるとより一層)夢中になります。

 

最後になります。自主性・自立性のもとで自己肯定感、自信にあふれた若者を日本は必要としております。どうもご清聴ありがとうございました。

 

おすすめ記事

他カテゴリーを見る