教育でブロックチェーンを活用する「5つのポイント」
第26回オンラインシンポ「ブロックチェーンの全体像と教育への応用」
レポート・前半

活動報告|レポート

2020.12.25 Fri
教育でブロックチェーンを活用する「5つのポイント」</br>第26回オンラインシンポ「ブロックチェーンの全体像と教育への応用」</br>レポート・前半

概要

超教育協会は2020年11月19日、Stake Technologies 株式会社 代表取締役渡辺創太氏を招いて、「ブロックチェーンの全体像と教育への応用」と題したオンラインシンポジウムを開催した。シンポジウムの前半では、渡辺氏が、まずブロックチェーンの概要および特徴について、続いて教育分野へのブロックチェーンの応用について説明し、後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子氏をファシリテータ-に質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

■日時:2020年11月19日(木) 12時~12時55分
■講演:渡辺 創太氏 Stake Technologies 株式会社 代表取締役
■ファシリテータ-:石戸 奈々子 超教育協会理事長

 

渡辺氏は、約40分間の講演において、ブロックチェーンの概要と特徴、教育分野への応用の状況について説明した。主な講演内容は以下のとおり。

 

【渡辺氏】

本日は大きく2つのテーマで説明したいと思います。

 

▲ スライド1・「教育」と「ブロックチェーン」

 

まず、ブロックチェーンに対する理解を深めていただく「ブロックチェーンの教育」、次に教育の領域でブロックチェーンがどう使えるのかという「教育とブロックチェーン」です。まず、「ブロックチェーンの教育」から説明いたします。

ブロックチェーンとはどういうものか

一口にブロックチェーンと言いますが、大きく「パブリック」ブロックチェーンと「コンソーシアム」ブロックチェーンに分けられます。パブリックブロックチェーンは、誰もが自由にアクセス可能なブロックチェーンです。透明性が高く、情報改ざんの可能性が極めて低いといったメリットがある一方、プライバシーに配慮するための技術的な実装が必要であったり処理性能がまだ低いことなどがデメリットになります。

 

一方、コンソーシアムブロックチェーンは、許可された人しかアクセスできないブロックチェーンです。情報ごとにアクセス権限を設定でき、利用者が限られるためトランザクション詰まりが発生しにくいメリットがありますが、そもそもブロックチェーンは不特定多数の利用者が情報共有するためのツールとして生まれたものなので、二者間/三者間での実証実験などは、ブロックチェーンの必要性そのものが議論になることがあります。

 


▲ スライド2・パブリック型とコンソーシアム型の2つのブロックチェーンの比較

 

ブロックチェーンにおいて、ぜひ覚えておいていただきたい重要な概念に「スマートコントラクト」があります。これは、「事象Aが発生したらBをする」というような契約(コード)を事前に定義しておき、その事象が発生したら自動的に契約が実行される、文字どおり「賢い契約」です。

 


▲ スライド3・定義した契約が自動実行される「スマートコントラクト」

 

例えば、「明日雨が振ったら私が10円もらう」と、「明日晴れたら私が10円支払う」というコードをブロックチェーンに組み込んで(デプロイ)しておきます。翌日、雨か晴れになれば契約が自動執行されて10円もらうか10円払うことになります。さらに、「朝の7時に気象庁のデータベースにアクセスして天気データを取得する」というコードも記しておけば、人間が介在せずに契約が自動実行されるので人的コストが削減できます。また、ブロックチェーンにデプロイされた契約は基本的に改ざんできないので、契約処理の確実性が担保されることもブロックチェーンのメリットです。ただ、気象庁のデータが本当に正しいのかどうかはブロックチェーン外で担保しなければいけません。

ブロックチェーンはインターネットを「より良くする技術」

また、ブロックチェーンは、インターネットとよく比較されますが、私は、ブロックチェーンは「インターネットをより良くする技術」という理解を持っています。例えば、インターネットには価値を送受信するプロトコルが存在しませんでした。私たちがパワーポイントを送るときに実際にやっているのは手元でコピーを作成しそのコピーを相手に送信しています。これはパワーポイントだったら良いですが、実際にお金など価値のあるものを送信するには適していません。ブロックチェーンは価値のプロトコルだと言われることもありますが、Bitcoinがそうであるように今ではどの機関に依存することなくbitcoinを送受信できます。

 

インターネットでは、FacebookTwitterGoogleなど多くのサービスが無料で提供され、代わりに私たちからデータという新しい価値を大量に収集し、それを利用することでマネタイズしています。ところがこのことが最近、グローバルで大きな問題になっています。

 

例えば、Googleのサイトで航空券を予約したら、Instagramのサイトで航空券の広告が大量に表示されることがあります。InstagramFacebookのサービスでGoogleとは関係ないはずですが、検索情報はGoogleからFacebookに回っているようです。インターネットには、こういう情報に対するプライバシー、あるいはオーナーシップという考えが基本的に希薄です。これは教育のようなセンシティブな情報でも同様で、コロナ禍の影響もあり、今後、オンラインで学歴証明を受け取ったり、テストを受けたりする機会が増えると見込まれますが、学歴や点数などセンシティブな個人情報を、複数の大学や機関をまたいでどうやって共有するかが重要な議論になります。

 

これに対してブロックチェーンのような分散技術を用いると、既存のプラットフォームにロックインされないデータ管理ができる可能性があります。現在、多くのデータはGoogleのサービスであればGoogleFacebookのサービスであればFacebookで管理されていますが、11人が自分のデータを自分が作成した自分に紐付いたIDで管理できる可能性があります。自分でデータがある程度管理できるようになることで私たちが手に入れることができるのは検証可能性です。自分が何を払っておりその対価に何を受け取って誰が自分のデータにアクセスしておりどう使われているのかを個人が検証することができます。

 

10年ほど前、「Software is eating the world」という言葉が話題になりました。「ソフトウェアが世界を食べている」は、ソフトウェアが至るところで使われ始めている比喩ですが、最近は同様に、「Blockchain is eating~」と言われ始めています。

 

ブロックチェーンも広義にはソフトウェアに含まれますが、特に、スマートコントラクトによる契約執行を法律的にどう解釈すればいいのか(law)、トークンで成立するエコノミクスをどう設計すればいいのか(economics)、ブロックチェーンでどういうコラボレーションが成立するのか(how people collaborates)、などが今後の重要なトピックであり、日本でも最先端の議論が必要かなと思っています。

 


▲ スライド4・ブロックチェーンが法律・経済・コラボを飲み込む

教育でのブロックチェーン活用の鍵を握る 「DID」という概念

ここからは、実際に教育の現場においてブロックチェーンがどのような使われ方をされていくのかについて、「DID」という概念を中心に説明いたします。

 

「学歴証明」や、本シンポジウムでも取り上げられた「PoL(学習に応じたトークン発行)」の事例などがありますが、ユースケース自体を理解することはそれほど難しいことではありません。難しいのは、そういうユースケースを、ブロックチェーン上でどういうファンクションを使って実現するかという部分です。本日は、その部分を理解する一助として「DID」について説明します。

 

DIDは「Decentralized Identity」の略で、インターネット上のさまざまな規格の標準化を行うW3CWorld Wide Web評議会)で、これから標準化されようとしている規格です。イメージとしては、「did」で始まるURLに似た文字列で、eメールアドレスのDecentralizedバージョンとお考えいただければいいと思います。eメールアドレスに重複がないように、DIDも重複しないように設定されます。

 

▲ スライド5・ブロックチェーンで重要な「DID」とは

 

DIDeメールアドレスと大きく違うのは、所有権の帰属です。eメールアドレスは、お名前.comGoogleといった「ドメイン事業者」が管理・提供しているため、アドレスの提供元がつぶれると使えなくなってしまうリスクがあります。私たちは誰もが、自分のeメールアドレスを所持しているように見えますが、実際には使わせてもらっているだけです。

 

これに対し、ブロックチェーン上で発行されるDIDは、ユーザーもしくはユーザーのデバイスの中に作成されるので、仮に企業や国が消えても残ります。ユーザー自身が管理できる「個人所有のID」ですので、ここに出身大学や履修した講座などの情報を紐付けることによって、個人情報を横断的に第三者に証明することができます。また、DIDに住所が紐付けられていれば、銀行口座を開設する時に求められる「住所を証明する書類」を、役所で発行してもらう必要がなくなります。複数の銀行で口座を開設する場合でも、口座分の証明書を発行してもらう代わりに、毎回DIDを提示するだけで事足りますのでユーザビリティの向上につながります。

 

DIDの教育への応用例では、ブロックチェーン(下の「Decentralized System」)で管理されるネットワーク上で、学生の卒業証明書を企業が就職採用でチェックするケースを想定しています。

 


▲ スライド6・ブロックチェーンのユースケース「卒業証明書の発行」

 

まず、大学(右下の「University」)がDIDフォーマットに則って発行した卒業証明書をブロックチェーンに「登録」し、学生のスマホ(中央の「User Agent」)に送ります(①)。この時点で学生(左中央の「Users」)は、自分のスマホ(User Agent)を使って、ブロックチェーン上で大学が証明書を発行している内容を検証でき(左側の「登録」)、証明書は自分だけがアクセスできるサーバやクラウドの「Identify Hub」で管理します(②)。学生が企業に卒業証明書を送ると、学生が提示してくる情報が正しいものかどうか、ブロックチェーンを参照することで判断できます(③)。

 

これまでは、ブロックチェーンという公共性の高い共通基盤がなかったので、学生が卒業証明書を提出しても、企業は学生を信用するか、さもなければ大学に問い合わせて確認する必要がありました。このため、人数に比例して問い合わせる企業側のコストは膨らみ、不正を働く余地もありました。しかし、あらゆる教育機関がDIDの仕組みに則ってブロックチェーン上に記録するようになれば、企業はその記録を参照するだけで正しい情報を確認できます。こういう仕組みが確立すれば、卒業証明書のみならず、マイナンバーカードの登録情報や、教育関連であれば在籍証明、さらには住居の賃貸契約など、さまざまな情報が紐付けて利便性を向上できるようになっていくと思います。

 

ただ、DIDの使い方には注意も必要です。ブロックチェーン上に登録したデータは基本的に公開性が高く、改ざんできません。これは、アップデートはできても変更はできないことを意味しますので、例えば個人宅の住所などは載せるべきではなく、何を載せて何を載せないかの判断が非常に重要になります。

 

このようにDIDは、学生の卒業証明書などに活用できると考えていますが、最近、ベトナムの教育省が学士の卒業証明書をブロックチェーン上で登録するという報道がありました。2021年までに実用レベルに持っていく予定ということです。同様の実証実験は、日本でも慶応大学などが行っていますが、こちらは国レベルなのでより大規模と思われます。

 

こういう仕組みは将来的にあらゆるサービスに広げられる可能性がありますが、企業が主体になるとどうしても収益性が重視されてしまいます。特に、インフラなど公共性が高いサービスも紐付けるようなIDを作るなら、国やNPOなど公共性が高い機関が標準化を主導することが望ましいと考えます。

 

また、学習記録をトラックして、学習に応じて独自のトークン「PoL」を付与する事例もあります。運営主体のtechtec様が以前に本シンポジウムで講演されていますのでここでは詳しく触れませんが、学習記録が改ざんできない形でパブリック性が高いところに保存されますので、学習履歴をほかの全く違うサービスに応用することも今後可能になってくると思われます。

 

また、学習することで付与される独自トークンが、イーサリアムブロックチェーン上で発行されるトークンであれば、イーサリアム上の他のサービスともインタラクティブに使用することができます。

研究開発のコラボレーションのかたちを変える「GITCOIN(ギットコイン)」

今後、ブロックチェーンを使って、人との関わり方や働き方がどう変わっていくかの一例として、開発者向けのプロダクト、GITCOIN(ギットコイン)を紹介します。

 


▲ スライド7・ブロックチェーンのユースケース「開発コラボ」

 

 GITCOINの仕組みは、次のようになります。まず、プロジェクトを実施する側(スライド7で右側の建物の絵)が、「こういうコードを実装して欲しい」「こういうUIを作って欲しい」といった要望を出し(work)、対価として10万円分のトークンをロック(Deposit)します。スマートコントラクトは、ブロックチェーン(Decentralized System)上で動いています。委託者のアドレスにいくら入っているかもわかるので、透明性が高く、この時点で10万円があることを誰でも検証できます。

 

この要望に対して、開発者(写真左の「Users」)が応募(Apply)し、承認されたら独自に実装して提出(Submit)します。その実装をプロジェクトが認めたら、スマートコントラクトにロックされていた10万円がユーザーに支払われます(Payout)。

 

これにより、コラボレーションのやり方が大きく変わります。まず、従来は困難だった開発者と発注者(プロジェクト)とのマッチングが容易になり、開発時間の短縮やコスト削減につながります。さらに、従来、開発者の立場は脆弱で、発注者の状況を確認できませんでしたが、スマートコントラクトのデポジットにより、発注者側に支払う気があるか、資金を準備できているかを事前に検証可能です。そして、ボタン1クリックでこの支払が完了することで、オペレーションコストも短縮されます。

教育分野でブロックチェーンを「活かす」 5つのポイント

  最後に、ブロックチェーンに関して、私たちがこれまでの実証実験などを通して学んできた5つのポイントを、皆様とシェアして終わりたいと思います。

 


▲ スライド8・ブロックチェーンを活かす「5つのポイント」

 

1つめは、「非中央集権化」ではなく、「分権化」の方向性が大事、ということです。本来、Decentralizationを辞書で引けば「分権化」が出てくるのですが、日本では数年前から「非中央集権化」と訳される事例が多くなっていて、「ブロックチェーンで国家や機関は必要なくなる」という誤解の元になっていると思います。実際には、今ある明らかに信頼できる機関が必要なケースと、資金を動かすのに第三者機関は必要ないケースの両方があり、将来的には、中央集権的なポイントと、分権的、分散的なポイントのハイブリッドになると思っています。

 

2つめは、ブロックチェーンの「本当のメリット」にこだわらないと、「ブロックチェーンは必要なのか」の議論になってしまうということで、その中で大事なキーワードが、他人との「時間の合意」です。自分の所属するデータベースと相手のデータベースで時間軸がずれているケースはよくありますが、ブロックチェーンのような公共のレイヤーを使うことで、「事象Aは事象Bより前に発生した」という事実を全参加者が合意できます。これはブロックチェーンを語る上で結構ミソになります。

 

3つめは、「台帳」という観点において「存続し続けること」が非常に重要であること、4つめは、「検証可能性」が鍵になるということです。学生・生徒・教員などの利用者が、自分の情報について「誰が見ているのか」や「どう使われているのか」を検証できることが、ブロックチェーンの普及を左右する最大のポイントになると思っています。

 

そして5つめに、上記のポイントをうまく使えば、ブロックチェーンは「取引」と「信頼」のあり方を変える技術になる、ということです。これは実は新しい話ではなく、2008年に発表された、ブロックチェーンの起源と言われるBitcoinの論文を言語解析してみると、すでに「block」や「chain」に混じって「transaction(取引)」や「trust(信頼)」が多く使われており、個人的にもそういう思いを強くしています。

 

最後の方は少し走り気味になりましたが、ブロックチェーンとはいかなるものかという解釈と、DIDなど教育での活用事例を紹介させていただきました。

 

 

>> 後半へ続く

おすすめ記事

他カテゴリーを見る