概要
超教育協会は2020年10月19日、静岡聖光学院中学校・高等学校の平本直之氏と中村光揮氏を招いて、「リアル×オンラインの壁を限りなくゼロに 新たな教育の形を模索するための教室プロトタイプ~ 未来の教室プロジェクト」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では平本氏が、静岡聖光学院中学校・高等学校で実践したオンライン授業のためのICT環境の整え方と活用ポイント、同校でのリアルとオンラインの壁をなくす授業の実践について紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに、参加者からの質問をもとにした質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。
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「リアル×オンラインの壁を限りなくゼロに 新たな教育の形を模索するための教室プロトタイプ~ 未来の教室プロジェクト」
■日時:2020年10月19日(月)12時~12時55分
■講演:平本直之氏
静岡聖光学院中学校・高等学校
未来の教室プロジェクト 代表
■ファシリテーター:石戸奈々子
超教育協会理事長
平本氏は約30分間の講演において、静岡聖光学院中学校・高等学校がクラウドファウンディングで取り組んだ「未来の教室プロジェクト」、その一環としての「未来の教室プロトタイプ」の構築と今後の活用の可能性について紹介した。主な内容は以下のとおり。
▲ 写真・平本直之氏 静岡聖光学院中学校・高等学校 教員 未来の教室プロジェクト 代表
【平本氏】
静岡聖光学院は、静岡市の山の上、駿河湾と富士山が見える非常に景色のよいところにある、静岡県で唯一の中高一貫の男子校です。50年近くの歴史があるカトリックのミッションスクールで、生徒は460人前後、寮のある学校です。
▲ スライド1・静岡聖光学院は、中高一貫私立の男子校でカトリックのミッションスクール
本校では、「リアル×オンラインの壁を限りなくゼロに」する「未来の教室プロジェクト」に取り組んでいます。まずは、取り組みの基本となる未来の教室の「プロトタイプ」をどう作り上げたのか、その経緯を御説明します。
オンライン授業では、学び以上に 「人と人とのつながり」が大切になる
コロナウイルスの影響で緊急事態宣言と休校要請が出され、生徒たちの学びを継続することができるのか、本校のICT推進委員の教員たちで検討を重ねました。
(緊急事態宣言と休講要請が出された直後)3月2日からオンデマンド授業を実施しました。iTunesUを使って動画で課題を作り、生徒に配信し、取り組んでもらう形式です。さらに、Zoomでのホームルームを朝と1日の終わりに行いました。
▲ スライド2・オンデマンド授業と、Zoomを用いてのHRを行った
手探りの状態で悩みながらでしたが、進めていくうちに気づいたことがありました。教員たちは授業に重きをおいていたのですが、保護者にアンケート調査を実施したところ、「Zoomでのホームルームの満足度」が非常に高かったのです。保護者にとっても生徒にとっても、「友達と会える状態でやり取りできること」が重要なのだ、学び以上に「人と人とのつながりを大事にするべきなのだ」と気づかされました。
▲ スライド3・保護者へのアンケート調査を行ったところ、HRへの評価が高かった
そこで、生徒がオンラインで他の生徒とつながるようにするには、「教室をどのように変えて授業をしたらよいのか」を検討し、解決策を探しました。そして、その解決策は実は教員からではなく、本校の事務職員から提案されました。教員たちがオンライン授業への取組み方や生徒との接し方に悩んでいるときに、「カメラを常設したり、ディスプレイをうまく使ったりすれば、ストレスなく授業ができるのではないか」と提案してくれたのです。
そのアイデアを取り入れ、教室の天井にカメラを設置して授業を撮影してオンライン配信できるようにし、生徒達がオンラインで参加できる環境を整備しました。本校は中学1年生から高校3年生まで、各学年A組からC組まであり、全部で18学級あります。これら全ての学級の教室にカメラやディスプレイを設置し、オンラインでも授業に参加できるようにしています。教員、生徒、他校の先生方からもご意見を聞きながら、少しずつ改善しているところです。
「未来の教室プロジェクト」は、「リアル×オンラインの壁を限りなくゼロに」することを目指しています。予算を抑えつつ、教室で普段通りの授業ができる環境を整えたことで、リアルでもオンラインでも同じクオリティの授業が提供できるようになりました。
リアル×オンラインの壁を限りなくゼロにするために ICT機器の活用の3つのポイント
本校は首都圏からの生徒もおり、コロナウイルス感染が心配なのでオンラインで受けさせてもらいたいという保護者、生徒もいます。現在は98%の生徒がリアル授業、そこに一部オンラインの生徒がいる状況です。
実際にどのような形でオンラインとリアルの授業をしているのか、カメラやディスプレイの具体的な使い方をご紹介します。
まずは、教室の天井にカメラを設置し、板書やプロジェクターで投影するスクリーンの全体を撮影できるようにしました。リモコンでズームイン/アウトをしたり左右に動かしたりできます。授業中は、生徒に見やすいように、教員がリモコンを操作します。
▲ スライド4・ 天井カメラで板書での説明やスクリーンなどを撮影
次に、黒板の横にディスプレイと小型カメラをつけました。当初は、天井にカメラを設置していただけなので、オンラインの生徒には教員しか見えませんでした。現在は、リアルで授業に参加する生徒も、オンラインで授業に参加する生徒もいるので、オンラインの生徒にも教室全体の様子が分かるようにしています。あわせて、オンラインの生徒が発表するときやグループワークのときに、オンラインの他の生徒にも教室の様子が分かるようにし、教室からもオンラインの生徒の様子が見られるようにしています。
▲ スライド5・黒板横にディスプレイと小型カメラを設置し、オンラインの生徒も教室の様子が分かるように工夫している
また、Zoomの画面共有機能で動画や映像資料を見せると、音がぶれたりZoomがうまく機能しなくなったりすることがあります。本校では、もともと設置されていて授業にも使っていたプロジェクターとスクリーンを活用して、Zoomの画面共有機能を使わずにAppleTVで動画や資料を直接、オンラインの生徒に送るようにしています。
▲ スライド6・スクリーンの映像や資料を直接に生徒に見せている
リアルとオンラインの壁を限りなくゼロにするためのICT機器の活用のポイントをまとめると、まずは「教員の授業の様子や板書の説明が見えるようにすること」、次が「オンラインの生徒にも教室の様子が見えるようにすること」、そして「スクリーンの映像を直接見せること」の3つです。
さて、オンラインで授業について、東京に実家があり、風邪で学校に来られない生徒にインタビューを行いました。本校では学校に来られない生徒に対し、オンライン授業ではなく自宅学習ができるようにもしていますが、その生徒は、「自宅学習だと勉強が止まるような気がして、友達と同じように進まないと不利に感じる」「オンライン授業は自宅学習よりも効率が上がると考えた」ということです。
友達とのコミュニケーションについては、「教室の友達とは、LINEメッセージを送ったり声をかけて話したりしている」「休み時間は、スクリーンに向かって手を振るなどしてコミュニケーションを取っている」「みんなが体調を心配してくれる、みんなの顔が見えると安心する」という感想でした。
新たな学びのスタイルへ 未来の教室プロトタイプの可能性
もともとはコロナウイルスの影響で、休校に対応するために始まった「未来の教室プロジェクト」でしたが、そのプロトタイプは「こんなことにも使える」という可能性を秘めています。そこで、新たな実践例をご紹介します。
まず、台風などの自然災害で学校に来られない生徒も、オンラインでリアルと変わらない授業を受けられます。実際9月にこの環境を作ってから台風が3回ほどありました。登校する生徒がいる一方、自宅でオンラインで受けたいという生徒もいました。柔軟に対応できました。
▲ スライド7・台風時、休校の決定を迷うようなときにもオンライン授業できれば柔軟に対応できる
また、普段リアルで接することが難しい企業や海外との距離がぐっと縮まります。例えば、外部の企業やアメリカにいる大学教授の方とオンラインでつないで授業に参加してもらうことも行っています。
▲ スライド8・学校とは関連が薄かった一般企業や、海外在住の教授などにも授業に参加してもらえる
国内外の他の学校とつながることもできます。海外の提携校などとのグローバルな交流機会が実際、増えています。日本国内の他の学校の教室とつながることもできるでしょう。可能性は広がります。
▲ スライド9・タイの学校の生徒たちとオンラインでつないで交流した例
さらには心身の不調で登校が難しい生徒にも、今後オンラインで授業を受けられるようになります。今まではリアルな空間での学校生活だけでしたが、今後は学校以外の空間も大切にすることができるなど、さまざまな可能性を秘めているのではないかと思います。
▲ スライド10・オンライン授業の環境ができることで、学校以外の空間ともつながることができる
未来の教室のプロトタイプを実践し始めて2か月ほど経ちましたが、改善点の提案など教員の声も聞き、いろいろな方とお話をしながら進めています。今日聞いて興味を持っていただいた方や個別にご質問がある方、また実際の教室をご覧になりたい方も、本校に来ていただいたり、Zoomでおつなぎしたりしてお伝えすることもできます。ぜひお声かけいただければと思います。
>> 後半へ続く