デジタルアーカイブは可能性が広がる「未来の教科書」 第19回オンラインシンポ「自発的な学びを育むデジタルアーカイブ」レポート・後半

活動報告|レポート

2020.11.6 Fri
デジタルアーカイブは可能性が広がる「未来の教科書」 第19回オンラインシンポ「自発的な学びを育むデジタルアーカイブ」レポート・後半

概要

 超教育協会は2020年9月23日、国立情報学研究所/東京大学/NPO法人連想出版の高野明彦氏を招いて、「自発的な学びを育むデジタルアーカイブ」と題したオンラインシンポジウムを開催した。シンポジウムの前半では高野氏が、日本における書籍、文化・芸術的資料のデジタル化と海外の動向について説明し、デジタルアーカイブの活用が自発的な学びにもたらす可能性を示した。後半は、超教育協会理事長の石戸奈々子を交えて参加者からの質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
 
>> 前半のレポートはこちら
  
「自発的な学びを育むデジタルアーカイブ」
■日時:2020年9月23日(水)12時~12時55分
■講演:高野明彦氏 国立情報学研究所/東京大学/NPO法人連想出版
■ファシリテーター:石戸奈々子 超教育協会理事長
 
 講演会の後半では、ファシリテーターの石戸より参加者から寄せられた質問が紹介され、高野氏が回答する質疑応答が行われた。
 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた超教育協会理事長の石戸奈々子

デジタルアーカイブの活用で生まれる 新たな「発見」や「気づき」が学びを変えていく

石戸:「文化の保存の観点でも重要なデジタルアーカイブについてお話しいただきました。海外でデジタルアーカイブを教育に利用している事例はあるのでしょうか」
  
高野氏:「デジタルアーカイブは、どの国でも大きなプロジェクトで、さまざまな応用の可能性は示され、その中には教育もあります。しかし、まだ模索中だと思います。教育への図書館の活用の幅が広がったり、これまで紙やフィルムなどの資料が活用対象だったのが、デジタル化されたことで新しいつながりが生まれたりといった教育への活用の可能性をアピールしている段階だと感じています。高校の高学年や大学での活用の話は聞きますが、大々的に活用されている例はまだあまりないと思います。
  
 ヨーロピアーナでは、『社会全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)するためのプラットフォームがデジタルアーカイブである』としています。私も同感です。例えば、読書環境のデジタル化を考えると、教育のための本だけではなく、漫画など必ずしも教育的でないものも対象になるでしょう。こうしたデジタルアーカイブを利用することで学校での教え方も変わると思います。教育用に用途を限定したデジタルアーカイブではなく、汎用的かつ本当に使えるツールや環境を作るほうが、むしろ教育への活用も進むのではないかと思います」
  
石戸:「海外では国を挙げてデジタルアーカイブに取り組んでいる印象がありますが、国の力の入れ方としては、日本は諸外国と比べてどのような状況ですか」
  
高野氏:「圧倒的に弱いですね。ヨーロッパは、特に政治的な意図もあってデジタルアーカイブに取り組んでいます。Googleがブックサーチやアートプロジェクトといったサービスを始めたことで、ヨーロッパには、これまで蓄積してきた書籍や美術品のリソースを全てデジタル化して持って行かれてしまうという恐怖感があります。フランスやドイツの国立図書館の館長が本を出版してまで「ヨーロッパの文化を守れ」と反対しているほどです。国家的な文化保護活動の一環として、デジタルアーカイブが進んできた背景があります。
  
 日本は、言ってみれば「Google もYahooも頑張って」といった雰囲気で、危機感がまるでないと感じています」
  
石戸:「視聴者からの質問です。海外の美術館や博物館との連携にはAPIを使っているようですが、その仕様は統一されているのでしょうか」
  
高野氏:「統一されていません。APIを使ったり、CSV形式でやりとりしたりとさまざまです。最も進んだシステムのところは、データベースのクエリに答える形に整備されています。Cultural Japanも、例えば『葛飾北斎が描いてタイトルに富士山が入っているもの』などをクエリとして書いて送ると、対象のものが全件、返されるという最も進んだシステムで作っています。
  
 ここまで進んでいない対象を含めて私たちが集めてきて、データを整備しているとご理解いただければよいと思います。個々の美術館博物館は、それぞれ自由にやりやすい形で発信しています」
  
石戸:「デジタルアーカイブの連携で問題となるのが、著作権など権利に関連する問題をどうクリアするかだと思います。Cultural Japan では39団体のデータベースを利用しているということでしたが、団体と連携の話し合いのようなことはしているのですか」
  
高野氏:「サイトが提供しているインターフェースの使用規約はもちろん確認していますが、その上で各団体にはお伺いや問い合わせを一切しない方針でやっています。ときどき抗議が来ることもありますが、私たちが行っていることは、『画像のサイト外での利用』ではなく『引用』です。
  
 私たちは、我々のサーバーに画像をコピー(キャッシュ)していないし、我々のサーバーから画像を配信もしていません。Cultural Japanの利用者が、各美術館や博物館のオリジナルのデータにアクセスしているだけなのです。それがもし問題になるのであれば、各美術館や博物館が、その利用者からのアクセスをブロックすれば良いのです。
  
 一方、国立国会図書館が運用するジャパンサーチでは、連携している20以上の団体や組織とすべて契約を交わしています」
  
石戸:「教育関係者から質問です。『一般利用者や専門家向けのように感じられたのですが、今後、児童・生徒が利用することを意識した機能やサービスの追加は計画されていますか』とのことですが、いかがでしょう」
  
高野氏:「ユーザーインターフェースをジュニア版などにする予定はありません。ただし、『あつ森対応』はかなり子ども向けにしました。Nintendo Switchのゲーム『あつまれ どうぶつの森』に画像を取り込めるようにした機能で、メトロポリタン美術館も対応するなど世界的に流行りました。私たちのサイトでも操作方法を説明しています。先生方に読んでいただいて、この中から『みんなでやってみよう』という指導はあってもいいかもしれないですね」
  

▲ スライド9・「あつまれ どうぶつの森」に浮世絵や絵画などの画像を取り込める機能もある

  
石戸:「続いても教育関係の質問です。『デジタル教科書のアプリで、直接、Cultural Japanから画像データを収集、掲示できるのでしょうか』という質問です。ライセンスに関しては、各データのルールに従うということですよね」
  
高野氏:「そうです。作品のページでは画像の右側に画像利用に関するライセンス情報を表示していますので、探し出したものを実際に教室で使ったり、切り貼りして別のものにしたりしていいのか確認できます。例えば、『商用利用は不可』、『○○で許可を取れば利用可能』、『許可を取る必要なく自由に使える』など、内容が異なります。自由に利用できるものだけに限定して検索することもできます。学校の先生やデジタル教材を作る方が、利用場面に合わせて取捨選択していただくのがよいと思います」
  

▲ スライド10・画面の左側にライセンスに関する情報が表示されている

  
石戸:「コンテンツ収集の基準についての質問です。『将来のためにどんなコンテンツを残すのか、どのような基準で選択されていますか』、『精密に作れば作るほどコストはかかる、それがどう使われるのか、を考えるとジレンマはないですか?』いかがでしょうか」
  
高野氏:「今日ご紹介したサービス全体を通じてですが、私たちは『何をデジタル化するか』について、一切関与していません。既にデジタル化されて世の中で利用可能な状態のものを総覧できるようにしているのです。どの美術品をデジタル化するかどうかという選定は、それぞれの美術館や博物館、組織、研究所がそれぞれのミッションに合わせて判断すべきことだと思います。
  
 私たちの活動の基本にあるのは、『こんなものがこんなところに』という驚きを味わい、つながりに気づいてもらうことです。そんな驚きの発見の例を紹介させてください。国絵図です。これは江戸時代のいわば『税金マップ』です。江戸幕府由来の資料は日本の国立公文書館に所蔵されているのですが、同じものの下絵がなんと、スタンフォード大学の図書館に流出しています。
  
 スタンフォード大学の図書館ではどんな資料なのか知らないまま、『大きくてきれいだからデジタル化した』と言っていつもIIIFなどのデモンストレーションに使っていました。一方、国立公文書館の人はスタンフォード大学に下絵があることを知らないと思います。しかし、たまたま2つの地図の存在に気づいた素人の私が、並べて比較したら、『幕府の絵図では丸山村の新田が記されていないが、下絵には新田があった、当時の文献と合っている』ということを「発見」しました。
  
 こんなこともこのサービスがあるからこそ気づけたことで。こうした発見があったり、それをもとにさらに活用が広がったりと期待できるのと思います」
  

▲ スライド11・国絵図 国立古文書館所蔵(左)とスタンフォード大学図書館所蔵(右)

  
石戸:「国やミュージアムを超えて検索ができる、利便性の高いサービスだと感じます。他の国で、同様のサービスを提供しているところはあるのでしょうか」
  
高野氏:「あまりないのでよく驚かれます。バラバラに発信されているものですので、なかなか難しいのではないでしょうか。ヨーロピアーナは3000ほどの美術館の情報を集約するだけにとどまっています。
  
 Cultural Japanで表示するデータは、世界中の美術館博物館のサイトで『Japan』や『Japanese』と検索して集めてきたものです。同じ仕組みを使って異なるテーマで検索し、データを集めてみるのも面白いでしょう。また、日本語のメタデータにも英訳をつけると、海外の人が日本のものを探すときに役に立つと思います。
  
 ただし、日本文化に限定してしまうと興味を持つ人が限られますので、もっと普遍性があるテーマでサービスを提供し、世界中の人たちに利用してもらうことも考えたいと思います」
  
 最後に石戸の「デジタルアーカイブについて、ぜひ学校での利活用が進み、自発的な学びにつながるといいと感じました。ありがとうございました」という締めの言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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