概要
超教育協会は2020年9月2日、株式会社COMPASS創業者 神野元基氏を招いて、「キュビナで授業時間が半分に! COMPASS今後の展望」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、神野氏がAI型教材「Qubena(キュビナ)」の概要と中学校での活用事例について紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸奈々子を交え、参加者からの質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。
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「キュビナで授業時間が半分に! COMPASS今後の展望」
■日時:2020年9月2日(水)12時~12時55分
■講演:神野元基氏 株式会社COMPASS創業者
■ファシリテーター:石戸奈々子 超教育協会理事長
神野氏は約20分間の講演において、AI型教材「Qubena(キュビナ)」の紹介と、中学校での実証事業でカリキュラムの習得に要する授業時数を半分に短縮できたこと、そして新たに創出された時間で実施した「STEAM授業」の例を紹介した。主な内容は以下のとおり。
当社は、Qubenaという個別最適化したAI型教材の開発から普及促進、現場に導入していくための支援までを手がけています。Qubenaは、タブレット端末で使う手書きタイプの教材です(スライド1)。これまで学校でやってきた勉強をタブレット端末の画面上でできます。例えば、数学でコンパスや定規を使う、グラフを描くといったこともタブレットの画面上でできます。
また、イラストやアニメーション、スライドが豊富に盛り込まれていて、Qubenaを活用することで児童・生徒は新しい知識や考え方、概念に対する理解を深めることができます。
さらに、児童・生徒がどんな解き方をしたか、どの問題を何秒ぐらいかけて解いたかによって、何を理解し何を理解していないのかを自動判別します。間違えた場合には理解していない箇所を学び直す、すでに理解している場合にはさらに問題の難易度を上げるといった調整を自動で行い、児童・生徒の一人ひとりに個別最適化された学びを提供します。
Qubenaでは、児童・生徒の学習時間や到達度など学習に関する様々なデータを取得できます。先生方には、こうしたデータを見るための「Qubena Manager(キュビナマネージャー)」(スライド3)も提供しています。
一人ひとりの学習時間や到達度などのデータを確認できる
Qubena Managerでは、どの児童・生徒が宿題をどこまで終えたか、1問を解くのにどのくらい時間がかかったか、正答率はどの程度かといったことをひと目で確認できます。
これまでの学校教育では、知識や技能の習得については集団指導で進められてきました。当社では、こうした知識、技能の習得については、テクノロジーを活用することで、児童・生徒一人ひとりに合わせた教育を実践できると考えています。
その一方で、児童・生徒たちの学びへの態度やモチベーションの維持は、コンピュータやテクノロジーが及ぶところではない。テクノロジーでできるところはテクノロジーを活用し、人間にしかできないところに人の力を集中する、そう考えて、このような教材を作り普及に尽力しています。現在、小学校から高校までの算数数学と、中学と高校の英語をリリースしており、2021年4月に小学校中学校5教科の内容をさらに充実させていく予定です。
Qubenaを活用した「未来の教室] 目指すはカリキュラムを「半分の時間」で習得する
さて、Qubenaを活用した教育を学校現場に適用するとどうなるのか。当社が、千代田区麹町中学校、経済産業省と共同で実施した「未来の教室」実証事業をご紹介します。
この実証事業は2018年度に実施されました。Qubenaを活用することで2学期と3学期のカリキュラムを「半分の時間」で終わらせ、空いた時間で次の学年に進む準備、もしくは対話的で主体的な「STEAM(スティーム)教育」の実践にあててみるという取り組みです。
AI型教材を活用した授業は、「しーん」とした教室で児童や生徒が黙々とタブレットに向かって勉強していると想像されると思いますが、全くそんなことはありません。むしろ、すごく騒々しくなります。普通の授業では先生が一方的に話しているとき、理解できないところがあっても、先生の話を遮って質問するようなことはできません。友達に聞くこともできません。
ところが、Qubenaを活用した授業では、誰かが「先生、分かりません」と言っても、周りの生徒の進捗には影響しません。生徒一人ひとりの理解に応じて最適化されたかたちで学習を進められるので、通常の2倍のスピードで授業を進めることも可能です。
また、「先生、分かりません」という発言を聞いて、生徒同士の教え合いも始まります。教える生徒にとってはアウトプットにもなり、自然に対話的で主体的なクラスになっていきます。
また、Qubena Managerを使い、先生は児童・生徒の進捗をリアルタイムで把握でき、進捗が遅れている生徒に声掛けができます。
中学1年の数学でカリキュラムの習得時間を 62時間から34時間に短縮
実証事業では、Qubenaの活用で授業時間を短縮できるという効果が明らかになりました。中学校1年生の数学では、従来、2学期と3学期に62時間を使いカリキュラムを終えていましたが、34時間に短縮できました。そして、創出した28時間分の新たな時間のうち、18時間を次年度の学習準備に、10時間をSTEAM教育にあてることができました。
カリキュラムを習得するための時間を短縮できるという効果は、すべての学年で同様にあらわれ、3年生では創出できた時間を受験勉強にあてることができました。
また、実証事業ではカリキュラムを終える時間だけでなく、教育的効果、成績にどれだけ影響があったのかも検証しました。麹町中学校は当時数学のクラスは全学年、「発展クラス」と「基礎クラス」に分かれていましたので、共通のテストを比較することで基礎クラスがどれだけ発展クラスに追いつけたのかを調べました。
偏差値による検証では、例えば中学1年生の数学の「比例と反比例」では基礎クラスが偏差値で「5」くらい追いつけました。一方、3年生の「関数」の単元では、むしろ偏差値が開く結果にもなりました。
数学では、生徒の学年が進むごとに分からない単元がどんどん増える傾向があります。中学校3年生でも、1年生や小学校の単元まで戻らないとなかなか概念を理解できない。どこかでつまずいている生徒が多い結果、偏差値差の縮小効果に学年で差が出たのだと考えられます。こうした結果を踏まえると、数学こそ「教育の個別最適化」を早期に実施すべき教科であると言えるのではないかと思います。
新しく創出された時間で 学びを実社会で活用するSTEAM教育を実践
次に、新たに創出された時間で行った「STEAM教育」についてご紹介します。習ったばかりの数学の知識が、3Dプリンタやロボット、ドローンなどの最先端技術のどこに活用されているのかを学ぶため、まずは、生徒たちはドローンを操作して、どのくらいの精度で動くのかを体感しました。
その上で、例えば配送業は今後ドローンに変わっていくはずといった意見を出し合い、「今、変わらないのは技術的な課題ではなく法制度の問題である」といったことを考えられるようになりました。数学を勉強している意味合いがを理解でき、未来を見つめるきっかけになったと思います。
STEAM授業には、2学期3学期の約10時間、9コマ強の時間を使いました。当初は当社主導で進めていたのですが、だんだん先生方が積極的になり、最後はすべて先生にお任せしました。
2019年には英語の実証事業も追加 GIGAスクール構想に合わせQubenaの普及を促進
2019年度には、数学だけでなく英語でもQubenaを活用した実証事業を実施しました。今回の実証では、文法演習や単語など部分的に活用したため、授業時数の短縮効果は数学に比べると少なくなっています。それでも、2~3割の授業時数の短縮効果がありました。
コロナ禍において、Qubenaへのお問い合わせを多くいただき、普及もかなり進んでいます。利用自治体数は100以上、学校数にすると750校、利用者数は20万人を超えています。ただし、GIGAスクール構想にあるように「一人一台」、タブレット端末を活用できる環境が整うのは、2020年12月頃で本当の意味で教育改革が行われるのは来年度になると思っています。それに向けて、私達には何ができるだろうと毎日、必死に考えているのが今の状況です。
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