概要
超教育協会は2020年7月22日、青森市教育長の成田一二三氏を招いて、「不登校の子どもたちへの対応について」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、成田氏から、これまでに青森市が実施してきた不登校対策と、新型コロナ禍における遠隔授業体験を経た不登校児童・生徒の登校率の変化について紹介。後半では超教育協会理事長の石戸奈々子を交え、参加者からの質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。
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「青森市教育長に聞く~不登校の子どもたちへの対応について」
■日時:2020年7月22日(水)12時~12時55分
■講演:成田一二三氏
青森市教育委員会教育長
■ファシリテーター:石戸奈々子
超教育協会理事長
成田氏は約30分間の講演において、休校期間中に実施した双方向型のオンライン授業(以下、遠隔授業)が不登校の子どもの授業への参加率を高め、通常授業の再開後もその状況が継続していることと、その結果を受けて青森市が取り組んでいる施策について説明した。主な講演内容は以下のとおり。
不登校の生徒・児童も含め、96.8%が遠隔授業に参加
青森市は青森県の中央部に位置し、人口約30万人を擁する県庁所在地です。小中学校は、青森市教育委員会が管轄する学校が、小学校43校、中学校19校の合計62校、他に私立の中学校が2校あります。
青森市のみならず日本全国の市町村において、不登校問題は避けて通れない重要課題と認識しています。青森市でも、20年以上にわたりさまざまな不登校対策に取り組んできましたが、なかなか目に見える成果を得られない状態が続いていました。
平成15年度から令和元年度までの青森市の不登校の発生率を示したグラフです。概ね中学校では3%前後、小・中学校合わせて約300人の不登校が発生しています。平成28年頃から、中学校では徐々に下がっている一方、小学校では逆に上がっており、さまざまな取り組みにもかかわらず、残念ながら著しい成果は数字には表れていません。
こうした中、新型コロナウイルスの影響で青森市も3月2日から5月10日まで一斉臨時休業を実施し、その後2週間の分散登校期間を経て、5月25日から通常登校を再開しました。ほぼ3カ月間、休みが続いた状態でしたので、この間に学習の遅れが生じないよう、「同時双方向型のオンライン指導」である「遠隔授業」を実施しました。
3月中旬に、ある中学校から「Zoomを使えば、健康観察や子どもとの会話など双方向コミュニケーションが取れる」と提案があり、そこで、この学校の中学2年生を対象に実施してみたところ、「ほぼ90%の家庭でオンライン通信が可能」という報告でした。それを受けて臨時休業期間中の3月下旬、小・中学校4校を推進校としてZoomを使ったオンライン授業を実施し、4月5日からこの4校で本格的にオンライン授業を開始しました。
市内の他の58校についても、4月5日から推進校4校に担当者を集めてオンライン授業の研修を行い、翌週から試行的に、そして4月20日から5月22日までの約1カ月間は62校全校で本格的に遠隔授業を実施しました。対象は小学校5年生~中学校3年生としましたが、一部の学校では、独自の工夫によって小学校1年生からオンライン授業を実施したり、1日に5~6時間の授業をしたり、さまざまな取り組みが行われました。
こうした取り組みでオンライン授業の参加率は高まっていきました。全校が遠隔授業に取り組み始めた4月20日時点では青森市では78.4%でしたが、最終日の5月22日には87.5%まで比率が高まっています。このほかに、9.3%の子どもが「家庭に通信環境がない」という理由で登校して遠隔授業を受けていましたので、5月22日時点では合計96.8%の子どもが遠隔授業に参加していたことになります。残りは3%余りですが、通常授業でも何らかの事情で欠席する子どもが多少はいますので、ほとんどの子どもが遠隔授業に参加していたととらえることができます。
中学校では不登校生徒の4分の3が遠隔授業には参加
遠隔授業の実施中、各学校からはほぼ毎日、その日に実施した教科数、時間数、対象の学年などの報告を受けていました。その中で入ってきたのが、令和元年度末の段階で学校が「不登校」と認識していた子どものうちかなりの数が、遠隔授業に参加しているという報告です。中学校では不登校の生徒の74.6%が遠隔授業に参加していました。しかも、この74.6%の生徒について、通常登校が再開された5月25日以降を2週間追跡したところ、92.5%の生徒が登校していることがわかりました。
この「92.5%」という数字は、私も報告を受けた時、にわかに信じられない思いを持ちました。不登校の子どもは、春先は登校できていても次第に登校しなくなる傾向があります。この92.5%もいずれ下がって行くだろうと考えたのです。
そこで、遠隔授業に「参加した」子どもの登校率がどのくらい維持されているか、1週間ごとに調べました。92.5%の登校率が翌週には84.2%に下がりましたが、夏休み直前の7月17日までの推移をみると、その後の下がり幅はあまり大きくありません。私たちの誰もが「これは例年とは少し違う」という思いを持ちました。
次に、遠隔授業に参加した・しないにかかわらず、昨年度末に不登校ととらえていた子どもの登校率の推移について調べたのが【スライド5】のグラフです。こちらも、当初の81.4%から翌週は10%ほど下がった後はほぼ横ばいの状況が続いています。
昨年度(令和元年度)の不登校の子どもの登校率を、今年度のデータと重ねて比較もしました。今年度は1週間ごと、昨年度はひと月ごとに集計していましたが、夏休み直前の中学校の登校率では、昨年度の約40%に対し今年度は約70%と約30ポイント高いことがわかりました。
昨年度の登校率は最終的に小学校、中学校とも約20%まで下がってしまっています。今年度はこれを何とか70~80%の水準のまま維持できれば、と取り組んでいるところです。
遠隔授業の参加理由は「周囲の子どもの目を気にしなくてもよい」から
今年、このような高い登校率が維持されているのはなぜなのか。スクールカウンセラーを介して、遠隔授業に参加し、現在も登校している子どもに聞き取りを行いました。その結果、まずは「登校しないのが自分だけでないことで少し気持ちが楽になった」という声がありました。
次に「新しい学習形態に興味を持った」こと。そして、最も多くの子どもが話したのが、「周囲の子どもの目を気にしなくてもよい」ことでした。さらに、聞き取ったカウンセラーが強調していたのが、「これらの子どもは決して勉強が嫌いではない」ことです。このような子どもの気持ちに、遠隔授業がちょうどフィットしたのかなと考えています。
過去3年間の不登校の要因を分類した結果では、「友人関係をめぐる問題」がありました。おそらく、ここに該当する子どもたちは上述の「勉強が嫌いではない」、「新しい学習形態に興味がある」、「周囲の子どもの目を気にしなくてもよい」の3項目に該当し、そのことが登校意欲を刺激したと考えております。
スクールカウンセラーや担任との面談もオンラインで
このような調査結果を受けて、すでに次のような取り組みを始めています。まず、これまで主に学校で行ってきた「スクールカウンセラーとの面談」を、可能ならその前段階としてオンラインで行うこと。これは、臨床心理士会の協力のもと、先日ガイドラインを作成したところです。
次に、「学級担任との面談」を、家庭訪問や学校以外にオンラインでも実施することを検討しています。さらに、夏休み中に再び実施する「遠隔授業」のみならず、「通常授業」のオンライン配信も実現することで、子どもたちが参加しやすい授業環境の整備を目指しています。
最後になりますが、不登校とされる子どもの80%以上が登校を始めたとはいえ、まだ取り残されている子どもは40人ほどいて、学校が遠隔授業の働きかけを続けています。彼らのうち、遠隔授業の取り組みに参加した6人ほどは登校を始めていると報告を受けておりますが、残りの子どもについては、まだ、遠隔授業に参加する段階に至っていません。ひとりひとりの子どもの対応についてはなかなか簡単にはいかないな、という印象を持っているところです。
>> 後半へ続く