遠隔授業が不登校の子どもにどう影響をもたらしたか第11回オンラインシンポ「青森市教育長に聞く~不登校の子どもたちへの対応について」レポート・後半

活動報告|レポート

2020.9.18 Fri
遠隔授業が不登校の子どもにどう影響をもたらしたか第11回オンラインシンポ「青森市教育長に聞く~不登校の子どもたちへの対応について」レポート・後半

概要

 超教育協会は2020年7月22日、青森市教育長の成田一二三氏を招いて、「不登校の子どもたちへの対応について」と題したオンラインシンポジウムを開催した。シンポジウムの前半では、成田氏から、これまでに青森市が実施してきた不登校対策と、新型コロナ禍における遠隔授業体験を経た不登校児童・生徒の登校率の変化について紹介。後半では超教育協会理事長の石戸奈々子を交え、参加者からの質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。
 
>> 前半のレポートはこちら
 
「青森市教育長に聞く~不登校の子どもたちへの対応について」
■日時:2020年7月22日(水)12時~12時55分
■講演:成田一二三氏 青森市教育委員会教育長
■ファシリテーター:石戸奈々子 超教育協会理事長
 
 講演会の後半は、ファシリテーターの石戸奈々子が、参加者から寄せられた質問を成田氏にぶつけるかたちで行われた。
 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた超教育協会理事長の石戸奈々子

 

ポイントは対面授業とオンラインのバランス 先生の意識改革も必要

石戸:「はじめに、現在の青森市のICT環境の整備状況を教えてください。」
 
成田氏:「青森市の場合、各小・中学校へのパソコン配備台数は、最大でも『人数が最も多い学級の生徒数分』で、これを概算すると生徒9人に1台の割合になります。したがって、今回の遠隔授業で子どもたちが使ったパソコンの多くは、学校のものではなく各家庭のものです。
 
 また、今回、最も大きな問題だったのは通信速度です。これまでは100Mpbsの通信回線でもそれほど不自由していませんでしたが、遠隔授業を実施した段階ではもはや、『顔を見ながらの授業は難しい』という判断に至りました。そこで、全校にモバイルルーターを配備し、それによって遠隔授業がかなり円滑に行えるようになりました。
 
 夏休み中の7月27日から再開される遠隔授業に際しては、まず、『自宅にパソコンはあるがWi-Fi環境がない』という118人の子どもの家庭に、地元の企業の協力を得てモバイルルーターを配備しました。また、『通信環境は整っているがパソコンは兄弟姉妹共用で1人しか使えない』、あるいは『パソコンを両親が職場に持っていってしまう』という子どもには、青森市で約2000台所有しているノートパソコンのうち約800台を学校経由で各家庭に貸し出しております。これでもなお900人近くが登校して学校のパソコンで遠隔授業を受けることになりますが、62校に分散されますので、それほど『密』の状態にはならないと考えています」
 
石戸:「学校も再開しましたので、今後はオンラインと対面型の授業を組み合わせていくことになると思いますが、そのバランスはどのように考えていますか」
 
成田氏:「授業はオンラインと対面型の両方が必要と考えています。青森市は7月27日から8月7日までの2週間、小学5年生~中学3年生を対象に、休校で不足した授業時間を補うための遠隔授業を実施します。また、青森市では、いじめ対策として「夏休み明け直前から2学期開始直後までの2週間」に「気になる子どもへの面談を徹底してその変化を読み取る」ことを重視しています。夏休み後半の1週間は、子どもたちの顔を見てその状況を把握する必要があることから対面型授業を実施します。
 
 また、5月25日から再開した通常授業では、多くの学校で変化がありました。従来は、1組が「数学」なら2組は「国語」など、同じ時間帯の授業はクラスごとに異なりましたが、全学年同時に同じ教科の授業を行うようにしたのです。具体的には、遠隔授業のノウハウを使って、ある学級で授業している先生が各教室のモニター上にも登場します。中学校なら1教科に3~4人の先生がいますので、他の先生はいわゆるチームティーチングの『T2』の役割を担います。
 
 この方式は、今後、コロナの第2波、第3波が来た時にも、学級による学習進度の差が生じないというメリットがあります。また、従来の授業は、1人の先生が1つの学級に責任を持ってすべて教える、言うなれば『抱え込む』形でしたが、今後は、複数の先生が担当を分け、1つのチームとして学年全体の子どもの学習に責任を持つように、学校システムを切り替えていく必要があると考えています。
 
石戸:「87.5%の家庭が遠隔授業に参加したということですが、どういう接続端末が使われていましたか。」
 
成田氏:「パソコン、タブレットのほか、スマホでの接続事例もありました。端末の種類に関する全家庭調査は実施していませんが。1校をサンプル調査した結果では、約25%がスマホ経由での参加でした。
 
 臨時休業期間中は、携帯電話の通信事業者側で通信容量を保障してくれる制度がありましたが、それでもスマホで参加する家庭には使用容量に制限があります。また、現在、120台ほどのモバイルルーターを借りて家庭に配布していますが、これも夏休み期間中までのものです。2学期以降これらの課題をどうするか、なかなか悩ましいところです」
 
石戸:「オンラインを導入することで、例えば通信料や端末の負担について保護者から不満の声などはなかったのでしょうか」
 
成田氏:「ないわけではありませんが、twitterなどの書き込みを見ても、多くの保護者には好評であったと思います。実際、5月22日時点で80%を大きく超えていた『家庭からの遠隔授業の参加率』も、現在はさらに上がっているようです。
 
 授業のほか、これまで保護者に来校してもらっていたPTA例会等の参加行事についても、多くの学校がオンラインで実施しております。保護者が帰宅してから参加できる夜間の開催によって若干参加率も上がっていて、その中で通信料や端末をどう負担するかという話も出ています。簡単に解決できないこともありますが、少なくとも端末については近々1人1台体制になりますので、今後は家庭に持ち帰って使うことも可能と考えています」
 
石戸:「遠隔授業に参加した不登校の子どもにスクールカウンセラーがヒアリングして得た4つの回答のなかで、『皆が登校しないので自分が登校しないことが負担にならない』や『周囲の子どもの目を気にしなくてもよい』は、オンラインならではの感想です。登校が再開すれば元に戻ってもおかしくないのに、結果的にそのまま登校できているのには、何か他の理由が考えられますか」
 
成田氏:「まだ登校再開から2カ月程なので、本当のところはよくわかりませんが、登校が長期間になれば、再び周囲の目が気になって登校できなくなることは十分考えられます。もしそうなっても遠隔授業に参加させることで再び学校に戻れるよう働きかける、そういう繰り返しの中でより良い方向に持っていきたいと思っています」
 
石戸:「先生の働き方改革に関して、組合などから『オンラインは教員の負担を増やす』とか『夏休み中のオンラインはやめてほしい』という訴えもあると聞いています。実際、先生方からどういう声が上がり、どう対処したのでしょうか」
 
成田氏:「『オンライン授業は負担』とか『オンラインをやめて登校日をもっと増やすように』という意見は確かに届いております。これは、多くの先生にとってオンライン授業が全く初めての取り組みであったために負担が大きかったことがあると思います。しかし、これから子どもたちが1人1台のパソコンで学んで行こうという時に、『先生の限界』を『子どもの限界』にしてはいけない、と思います。
 
 実は、今回の措置を受けて学校内で存在感を増しているのは、比較的若い先生です。これまでは、ある程度年配の先生の存在感が大きかったのですが、遠隔授業が始まってから若い先生の発言に重きが置かれるようになってきました。多くの先生が見ている前で授業を行う『チーム制』は、若い先生にとってある程度の緊張感があると思いますが、先輩の上手な授業を常に見学して学べる『研修』の側面もあります。オンラインを上手く使えば、集計や採点の時間削減にもなります。
 
石戸:「成田教育長のお話をうかがうと、ICTや新しいテクノロジーの利便性に対する理解が深く、積極的、前向きに活用していると感じられますが、一方で小中学校のパソコンが9人に1台しかないなど、青森市のICT整備の遅れとのギャップを感じます。これまでなかなか環境整備が進まなかった理由はどこにあるのでしょうか」
 
成田氏:「理由はいくつかありますが、最も大きいのは予算面の制約です。青森市は昨年度、2000台以上のパソコンを更新しましたが、パソコンは定期的な更新が必要なため、本市のような地方都市では相応の財源がなければなかなか導入に踏み切ることができません。
 
 今回、国の『GIGAスクール構想』の前倒し実施で補助金が出ますので、秋から『1人1台』に向けた取り組みを始めますが、本市の場合、2000台を更新した前年にも、『校務支援システム』の導入に伴い教員用パソコンを大量に導入していますので、そういう意味で今後も国の支援が欠かせないと考えています。
 
石戸:「端末の買い替えに関しては、今回整備したところも将来的には買い替え時期がやってきます。例えば、今回家庭の端末を使ったようにBYODを検討されるとか、現時点で何かお考えはありますか」
 
成田氏:「ご指摘のように買い替え時期が間もなく来ることは、青森県内40市町村の多くの教育長が共有しています。ついては、国には新規導入時だけで終わらず、将来の買い替え時期にも対応する手厚い支援が必要と訴えているところです」
 
石戸:「ネットワークが不十分だったとのことでしたが、今後通信回線を増強する具体的な計画はありますか。」
 
成田氏:「現在、通信環境、通信速度を向上させる工事に着手しています。まず、早い学校では来月中旬には、コンピューター室までの通信を高速化します。これは、通信速度を従来から10倍の1Gbpsに上げたうえで、これまで62校が1本の線でつながっていたものを5本に分けて、1本あたりの負担を減らす工事です。並行して、全教室でWi-Fiが使えるようにする工事も進めていて、今年度中には全ての教室でストレスを感じない速度でのICT利用が実現する予定です」
 
石戸:「ネットワーク環境に関して、先生からの提案でZoomを取り入れたということでしたが、セキュリティポリシーの問題でそういうツールが使えない自治体もあります。青森市でも何かネックがあってルールを変更したようなことはありましたか」
 
成田氏:「青森市のパソコンも、コンピューター室のルーターにしか接続できない設定など、必要ないところでは使えないセキュリティが施されていて、これでは家庭に持ち帰って使えません。セキュリティの手法に関しても、端末1台1台に設定するのか、クラウド上で一括管理するのかなど、さまざまな方法があります。
 
 いずれにせよ、セキュリティを強固にするほど使い方の柔軟性は損なわれます。私自身、明快な回答を持っているわけではありませんが、ある程度セキュリティを緩める方向に進めないと、なかなか発想豊かな使用法になって行かないと思っていて、この辺りは今後の重要な検討課題と考えています」
 
石戸:「予算に関する質問が2つ届いています。まず『予算がかかるのは当然ですが、誰ひとり取り残されない教育が必須であると考えています。教育に関するSDGsをどのように考えていますか』というもの。もう一つは『予算は大きな問題ですが、想定より低い予算で対応できるケースもあり、予算問題に集約されることには違和感があります。コスト面を含めたIT教育のコーディネーションが必要ではないでしょうか』というもの。ちょっと答えにくい質問かとも思いますが、予算に関して何かご意見はありますか」
 
成田氏:「私たちにとって最大の課題は予算面だったという印象は持っていて、そのために使う側、指導する側の教員の研修も十分には行えなかった、という思いがあります。OECDの試験でも『パソコンでの試験結果が比較的弱い』と評価されていますので、青森市の子どもたちも、ICTを使って問題を解決できるようにしていく必要があると思っています。今回、一番印象に残っている予算面の話をさせていただきましたが、もちろんそれが全てではなく、将来を踏まえた子どもたちの教育を、さまざま考えていく必要があると考えています」
 
 最後に石戸の「不登校問題は全国的に大きな課題です。そこにオンラインがどのように機能していくか。どういうオンライン教育を導入すれば、全ての子どもたちが取り残されずに学びを継続できるのか。成田教育長には、そんなヒントを数多くいただきました。今後も取り組みを続けられるなかで、また新しいデータが出てきたら全国に共有いただけますよう、よろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございました」という締めの言葉で後援会は幕を閉じた。

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