概要
超教育協会は2020年7月15日、京都市教育長の在田正秀氏を招いて、「京都市教育長に聞く~京都市のオンライン教育の取組」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では在田氏が、新型コロナウイルス感染症拡大による一斉休校期間中の京都市教育委員会の取組と、今後のオンライン教育拡充に向けたビジョンを紹介。後半は超教育協会理事長の石戸奈々子を交え、参加者からの質疑応答を実施した。その後半模様を紹介する。
>> 前半のレポートはこちら
>> シンポジウム動画も公開中!Youtube動画
「京都市教育長に聞く~京都市のオンライン教育の取組」
■日時:2020年7月15日(水)12時~12時55分
■講演:在田正秀氏
京都市教育長
■ファシリテーター:石戸奈々子
超教育協会理事長
シンポジウムの後半では、参加者から寄せられた質問をファシリテーターの石戸が在田氏にぶつけるという形で質疑応答が行われた。
超教育協会理事長の石戸奈々子
「一人一台」の環境整備で オンライン教育をさらに拡充
石戸:「テレビ局と新聞社との連携は、どのように実現したのでしょうか」
在田氏:「公立学校としては、全ての子ども届く手立てを考えなければいけませんでした。そんなときにテレビ局、新聞社、教育委員会が同じようなタイミングで、『集まって何かやりませんか』となり、そして、全ての子どもに届けるなら『放送が最も適しているのではないか』と意見がまとまりました。
また、ネット環境がない家庭の割合を調べたところ15%でした。公立学校を所管する立場の教育委員会としては、そういった家庭を置いて先に進むことはできない。それで『まずはすべての家庭に届く取組を』と、テレビ放送に決めました」
石戸:「以前から3団体での連携の枠組みがあったのでしょうか?また、新聞社や放送局は無償の協力だったのでしょうか」
在田氏:「3者同時連携の取組みはありませんでした。ただし、京都新聞には以前から、小学校での英語教育に関する記事を掲載していただいていましたし、KBS京都には毎年、小学校の駅伝大会などを特別番組で放送してもらうなど関係はあります。制作の予算は、放映権料などは全くなしで、実費のみでご協力いただきました」
石戸:「次の質問です。教科書に準拠した教材の構想や、全市共通の動画作成などで、著作権処理でご苦労があったのではと思います。どのように対応されたのでしょうか」
在田氏:「各教科書会社に個別の許諾のお願いも必要なことがあり、緊急事態宣言下でもあったことから、何度も連絡を試みてやっと許諾をいただいたところもあります。
個々の教員が授業で使うのなら問題ないのですが、教育委員会が配信するとなると大変でした。今後は、教育委員会による市地域の教育機会の確保という視点を踏まえて、著作権を幅広くフリーにしていただくといったことも課題になると考えています」
石戸:「外部からアクセスできないセキュリティの問題も、各自治体の課題です。今回、セキュリティを緊急解除されていますが、今後も継続していくのですか」
在田氏:「今後も継続します。今回、サーバーを増強する中で、これまでとは異なるセキュリティ対策を講じた上で、各家庭で視聴できる環境を整えていきたいと考えています」
石戸:「各自治体の教育委員会はICT導入への不慣れ、予算面で多くの課題があります。これだけの対応を実現できた理由はどこにあるのでしょうか」
在田氏:「国の調査によると、京都市の教職員はコンピュータを指導に活用できる比率が全国トップレベルだそうです。また京都市は早い段階から、教育委員会の中に情報教育や学校の取組を支援する組織がありますので、そのようなことも相まって、今回の取り組みがうまく進んだと思っています。
また、京都市は、東京に次いで私立学校が多い土地柄です。一斉休校の中で、私立のオンライン授業の取り組みがいろいろ報道されました。私学でできているのに市立校では全国でも5、6%ぐらいしか実施できていない、なんとかできることからやっていかなければならないという思いが非常に強く、教員の機運も高まったと思います」
石戸:「コンテンツに関する質問です。学習習慣がある子とない子で差が出たのではないかと思います。また低学年の子は、学び方からスタートしなければならない。具体的にどのようなコンテンツを作られたのでしょうか」
在田氏:「特別教育番組は、小学校6年生の社会科が最初の放送でした。憲法の3原則の話について、内容の解説ではなく教科書のどこに書いてある、こう調べたら分かりますよ、という形で投げかけました。15分しかないので、調べ方や学び方を教えるだけの内容です。算数でも理科でも、考え方や実験の仕方は示しますが、知識を教えることはしていません。もっと知りたいときは、教科書の何ページ以降を見てください、そういうコンテンツです」
石戸:「短縮授業や土曜日の活用方法について、もう少し教えてください」
在田氏:「京都市の取組では、土曜日の活用は、授業ではなく補習が中心です。基本的には平日の時間帯で7時間という授業時数を確保します。5分の短縮授業はこれまでも、家庭訪問週間のときなどに実践しています。教職員が必要なところをどう端的に教えるか、授業実践力を磨くためにも有効です」
石戸:「番組に対して、子どもたち、保護者からはどんな意見がありましたか」
在田氏:「番組については、『子供たちが真剣になって見ていました』と喜んでいただいているご意見も、ひと月60~80タイトルでは物足りないというご意見もありました。私立学校のようにオンライン授業を毎日して欲しいというご意見も多くありました。一人一台端末になれば実現できますので、準備をしています」
石戸:「オンライン授業で苦労したエピソードはありますか? 例えば参加に消極的な児童・生徒や家庭とのやり取り、教材作りなど、今後の参考になることがあればお聞きしたいです」
在田氏:「各家庭のオンライン環境を確認して、環境がない家庭には、事前にどういうフォローができるかがまず大切だと思いました。一方通行にならないように配慮しながら開始する必要があります。
低学年の子どもは長い時間じっとしていられないこともありますので、興味を引く話から入るとか、最初から授業ではなくランチミーティングなど、環境に慣れてから授業に入るなど、配慮が大切です。さまざまな学校の実践例を吸い上げて、共有する必要があると思います」
石戸:「今回の一連の取組を通じて、改めて課題に感じたこと、京都市としてのアフターコロナ教育のビジョンをお聞かせください」
在田氏:「一人一台端末の環境整備の見通しが立ちましたので、これを活用して家庭とも連携しながらオンライン教育に取り組んでいきます。学校では、子どもたちが共同で新しいものを作るとか、学校でしかできない学びをより磨き上げることに注力します。そしてアフターコロナ時代の新しい学びの形を作り上げていきたいと思います」
最後に石戸の「地域メディアとの連携の仕方など、全国の参考になるのではないかと思います」という締めの言葉でシンポジウムは幕を閉じた。