「一人一台」の端末環境を整備し子どもたち全員に届く学習支援を
第10回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2020.9.11 Fri
「一人一台」の端末環境を整備し子どもたち全員に届く学習支援を<br>第10回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2020年7月15日、京都市教育長の在田正秀氏を招いて、「京都市教育長に聞く~京都市のオンライン教育の取組」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では在田氏が、新型コロナウイルス感染症拡大による一斉休校期間中の京都市教育委員会の取組と、今後のオンライン教育拡充に向けたビジョンを紹介。後半は超教育協会理事長の石戸奈々子を交え、参加者からの質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

>> シンポジウム動画も公開中!Youtube動画

 

「京都市教育長に聞く

~京都市のオンライン教育の取組」
■日時:2020年7月15日(水)12時~12時55分
■講演:在田正秀氏
京都市教育長
■ファシリテーター:石戸奈々子
超教育協会理事長

 

在田氏は約30分間の講演において、一斉休校期間中に京都市教育委員会が実施した特別教育番組の放映、新聞の紙面を活用した学習支援、今後のオンライン教育の拡充に向けた「一人一台」の端末環境の整備について説明した。主な講演内容は以下のとおり。

教育委員会・テレビ局・新聞社による インターネット環境に左右されない学習支援

新型コロナウイルス感染症拡大にともなう一斉休校中に京都市教育委員会(以下、教育委員会)が実施したこと、そして、その取り組みによって見えてきたインターネット環境に左右されない学習支援、Withコロナ時代に向けた教育環境の充実、子どもたち一人一人の学びの保障の重要性ついて説明します。

 

▲ スライド1・在田氏が示した
京都市教育委員会の取り組みの方向性

 

2020年2月27日夕方、政府から一斉休校が要請され、3月5日から一斉休校に入りました。その際、家庭事情により自宅学習ができない子どもたちを学校で預かる「特例預かり」も実施しました。3月の休校期間中は、小学校163校で1日平均約1万人を預かりました。本市の各学年の児童数は約1万人ですので、毎日1学年分の児童を預かったことになります。

 

一斉休校が長期に及ぶこととなり、子どもたちの学びをいかに保障するか、「待ったなし」の状況になってきました。そこで、教育委員会では、児童・生徒の学習機会の確保に向けて、KBS京都と京都新聞社と共同で、特別教育番組の制作に取り組みました。

 

▲ スライド2・「インターネット環境に左右されない
学習支援」として地元メディアと協業

 

じつは、教育委員会では3月から、子どもたち全員に届く学習支援の手立てはないかと、学習動画の配信などを検討していました。一方、テレビ局や新聞社では、保護者からの声もあって、メディアの立場で学習支援ができないかと検討しておられた。そうした背景もあって、三者で話し合い、インターネット環境がない家庭が一定数あることにも考慮して、特別教育番組の放映を決定しました。

子どもたちに「学び方を伝える」番組を 4月~5月で約140本を放映

特別教育番組の内容は、教育委員会の各教科の指導主事が、4月に学習予定だった教科書の1単元~2単元分の学習内容をダイジェストとしてまとめたものです。これをテレビ局に撮影してもらい計60本制作し、4月20日から30日の平日に放映しました。

 

5月には対象学年を小1から小3にも拡大し、計80本を放映しました。15分単位の短い内容で、知識を伝えるよりも、子どもたちが自分で学習できるよう学び方を伝えることを重視しました。これは新しい学習指導要領で重視される「主体的な学びを通じた深い学び」を意識したものです。

 

番組制作に加えて、各教科の指導主事が家庭学習用課題のスタンダードを作成し、各校からすべての児童・生徒に配布しました。5月はテレビの放映内容と連動させるなど、より効果的な家庭学習となるよう工夫しました。

 

放送スケジュールにも工夫しました。小学校低学年向けの番組は午前中の早い時間帯にし、学習の習慣づけも意識しました。約2万世帯がオンタイムで視聴しました。

 

▲ スライド3・特別教育番組の放映スケジュール

 

また、放送終了後には、児童・生徒対象の専用サイトで放映した内容と同じ動画を視聴できるようにもしました。この動画の総再生回数は約5万回にも達し、多くの子どもたちが家庭学習に活用しました。多くの教員も研修資料として活用したと聞いています。京都市以外も放送エリアでしたので、福井県の一部の市町村からも問い合わせがありました。もちろん近隣の各自治体で広く活用してもらえるようにしました。

子ども向け新聞の特別紙面でも学習支援 「オール京都」での取り組みだからこそ成し得た

一方、京都新聞社との協業では、毎週日曜日に発行している子ども向け新聞「ジュニアタイムズ」の4~6ページ程度を活用しました。特別紙面として、KBS京都で放映した教育番組の内容を繰り返し学習できるよう工夫したほか、ステイホーム中の各家庭で楽しく学習に取り組める内容としました。休校期間中に7回発刊され、毎回、京都市立学校の児童・生徒約9万人に無償配布してもらいました。大変にありがたいことでした。

 

紙面には、例えば家の中でできる親子体操や、学校給食を家で再現できるレシピも紹介しました。学習だけでなく多様な学びの機会を意識して制作しました。

 

▲ スライド4・京都新聞ジュニアタイムズ
特別紙面の内容

 

番組や紙面の制作は時間との勝負でしたが、多くの皆様のご協力をいただき、行政だけでは成し得ない、まさに「オール京都」で対応できたと感じています。

ネットを活用した学習支援では 教員と児童のランチミーティングも実施

インターネット環境に左右されない学習支援を展開する一方、ネットを活用した学習支援の必要性も高まってきました。そこで、4月からは各学校でネットを活用した学習支援にも積極的に取り組みました。具体的には各学校で、オンライン会議システムのZoomミーティング(以下、Zoom)やYouTubeを活用できるように整備しました。

 

▲ スライド5・ネットを活用した学習支援

 

各学校で多くの教員がまさに奮闘し、理科の実験動画、学習課題のプリントの解説動画など、工夫をこらした、児童・生徒の学びが深まる動画をZoomやYouTubeで配信しました。

 

また、保護者の仕事の関係で孤食になりがちな児童と教員が、Zoomで対面しながらお昼ごはんを一緒に食べるランチミーティングも実践しました。感染リスクの関係で家庭訪問が難しい中、児童の様子も確認することもでき、大きな有用性を感じることができました。

GIGAスクール環境を加速度的に整備 10万2000台の端末で「一人一台」を実現

次にネットの活用促進も含めたWithコロナ時代の教育環境の充実について説明します。京都市では、GIGAスクール構想の実現と、新型コロナウイルス感染症の第2波、第3波を見据えたオンライン学習環境の整備に取り組んでいます。具体的には、進学を控え重点的に対応すべき小学校6年生と中学校3年生を対象にWi-fi端末を約2万台、ネット環境がない家庭向けのLTE端末を約1万5000台、9月末までに各学校に順次配備します。まさに、GIGAスクール環境の加速度的な整備です。

 

▲ スライド6・GIGAスクール環境を
加速度的に整備する

 

さらに、小学校6年生・中学校3年生以外の学年や教職員用、予備機器分である6万7000台、合計10万2000台を令和2年度中に整備する予定です。これにより、通常時には児童・生徒「一人一台」の端末を活用して授業をすること、また長期の休校時に児童生徒に貸し出すことも可能になります。

▲ スライド7・児童・生徒に「一人一台」の
環境を整える

 

また、GIGAスクール環境の整備と合わせて人的な体制強化も図ります。学習指導員を全校に2~3名配置するほか、新しい生活様式にもとづく学校運営、例えば教室のこまめな消毒など、教員のサポート体制強化のために校務支援員を市内全校に配置します。さらに、文科省が措置する加配教員を活用し、本市独自の中学校3年生での30人学級に加え、小学校6年生での少人数指導等キメ細かい学習指導を実施します。

 

一方、教育委員会におけるオンライン環境の整備も喫緊の課題です。現在、運用しているシステムでは、教職員以外が外部からアクセスできないこと、また容量の問題で各学校からの動画配信に対応ができなくなってきています。

 

そこで、外部サーバーを新たに導入し、強靭な動画配信システムを構築します。サーバー容量を現行の4倍の1000ギガバイトに増強し、動画の同時視聴可能人数を無制限とし、今後、各校がオンライン授業を円滑に実施できるようにします。また、教職員以外の外部からのアクセスも可能とし、家庭学習に役立つコンテンツを一元的に提供できるようにします。

 

▲ スライド8・人的体制強化と
オンラインでの教育環境の整備に取り組む

子どもたちの学びを保障 短縮授業で授業時数を確保

2カ月間もの一斉休校を経験したことで、今後の教育課程の在り方について、弾力的な対応が重要であることもわかりました。京都市では、授業1コマの時間を5分短縮したうえで、7コマ授業を週1~3回、子どもたちの負担に配慮しながら実施する考えです。授業時間の短縮により生まれた時間を活用し、個々の児童・生徒に応じた補習や土曜学習も実施します。授業時数を確保し、各学年で履修すべき内容は今年度中に履修するようにします。

 

新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から学校行事の厳選重点化も図ります。夏休みなどは10日程度短縮し、7月中の本来夏休みであった期間は午前中授業を実施して授業時数を確保する予定です。

第2波、第3波を見据えて 新しい生活様式での新しい学び方とは

京都市立学校の教職員のコロナウイルス感染は、6月の教育活動再開以降(7/14時点)、確認されていません。しかし今後は何が起こるか分からない。学校ごと、学年や学級単位など限定的な休校も想定されます。そのときの学習保障をどうするのか、「学びをつなぐ・学びをとめない」ことも新たな課題です。

 

そこで、教育委員会内に休校時のオンライン授業サポートチームを各課横断的に組織し、例えばテレビで放映した特別教育番組のような、全市共通のコンテンツ制作に取り組みます。

 

▲ スライド9・「学びをとめない」ためには
緊急時の支援体制の構築も不可欠

 

また、双方向型のオンライン授業の実現に向け、Zoomの段階的活用も積極的に進めていきます。例えば、密を避けるために学級を3分割した際、教員が同じ授業を3回実施するのではなく、1回の授業をZoomで同時中継するなど、新しい生活様式の中での新しい学び方を実践しています。

 

▲ スライド10・Zoomの段階的活用で
双方向型オンライン授業にも取り組む

 

京都市の教育理念は「一人一人の子供を徹底的に大切にする」です。学校と教育委員会一体となって、子どもたち一人一人の学びを保障していきます。一人一人の子どもが自己の可能性を最大限に広げることができる社会を実現したい、それに教育が大きな役割を果たすことができるよう、今後も努力を進めていきたいと考えています。

 

▲ スライド11・京都市の教育理念

 

 

>> 後半に続く

おすすめ記事

他カテゴリーを見る