第7回オンラインシンポ「学習履歴データ活用の重要性について」レポート・後半

活動報告|レポート

2020.8.19 Wed
第7回オンラインシンポ「学習履歴データ活用の重要性について」レポート・後半

概要

超教育協会は2020年7月8日、九州大学副学長 安浦寛人氏を招いて、「学習履歴データ活用の重要性について」と題したオンラインシンポジウムを開催した。シンポジウムの前半では、九州大学が取り組んでいる学習履歴データ活用の重要性について紹介。後半では超教育協会理事長の石戸奈々子を交え、視聴者からの質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。
 
「学習履歴データ活用の重要性について」
■日時:2020年7月8日(水)12時~12時55分
■講演:安浦寛人氏 九州大学副学長、ファシリテーター:石戸奈々子 超教育協会理事長
 
>> 前半のレポートはこちら
 
 シンポジウムの後半では、参加者から寄せられた質問をファシリテーターの石戸が安浦氏にぶつけるという形で質疑応答が実施された。
 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた超教育協会理事長の石戸奈々子

非認知能力やクリティカルシンキングの評価など 教育データの活用で見えてきたものとは?

石戸:「視聴者からの質問の前にお伺いしたいことがあります。九州大学の『リアルタイム分析ツール』は学生からするとすべてモニタリングされている状況です。それに対して学生から抵抗を感じるという声はなかったのでしょうか」
 
安浦氏:「自分が今、教科書のどこを見ているか、どこにアンダーライン引いたのかということに対しての学生たちの抵抗感はありません。ただ、(我々は推奨してはいないのですが)学生たちの顔を画面に映し出して授業する教員もいます。それには非常に抵抗感を持つ学生が多かったです。『自分の部屋が覗かれている』という感覚になるようです」
 
石戸:「正解がある内容については理解度が学習履歴データベースから明らかにできそうですが、答えがない双方向的なディスカッションなどの学習履歴についてはどのように扱われているのでしょうか」
 
安浦氏:「これは非常に難しいことで、教員のスキルの問題だと考えています。内容を理解しているかどうかを考える教員もいれば、科目によっては発言が大事で、その発言がロジカルに成り立っていれば良いという教員もいます。例えば、仮説に誤りがあれば『それは間違っているよ』とフィードバックしてあげるといったことを、学習履歴として残していけます」
 
石戸:「学習データと学習履歴データの違いについて補足説明をお願いします」
 
安浦氏:「学習データは、講義や科目において、『できるところから集めていく』ものです。集めたデータを使って『科学的に教育を改善していく流れを作りましょう』というときには教育データや学習データという呼称になると考えています。
 
 一方、学習履歴データは、小中高大から社会人教育までの結果を総合化したものです。ある種の標準化が必要です。その標準化について、国レベルで議論して形成していくということが極めて重要です。
 
 例えば、A中学校とB中学校とでは異なる学習データを集めています。ただし、それでは社会全体として有効活用できるデータかどうかはわからない。標準化したデータの収集が必要です」
 
石戸:「学習者個人の特性に踏み込んだデータの取得、分析などもされているのでしょうか」
 
安浦氏:「ラーニングアナリティクスという研究分野ですが、そういう研究をしている教員もいます。とくに、障がい者の方々のデータは重要です。例えば、音声をテキスト化するツールでは100%正しくテキスト化できるわけではありません。聴覚障がい者の方に対して本当に内容が正しく伝わっているのかといったことを研究している教員もいます。その他にも、色を多く使用したスライドは色覚異常(色弱)の方には読めないということもあります。色覚異常(色弱)の方にも見やすい、ユニバーサルデザインのスライドを作成することを研究している教員もいます」
 
石戸:「テストでは評価できなかった非認知能力の到達目標をデータから把握することは可能でしょうか。あるいは、思考力や表現力、クリティカルシンキングなどのスキルを評価するにあたり、前後のデータ活用で見えるものはあるのでしょうか」
 
安浦氏:「非常に難しいことですね。それらは対面でもどこまでできるかということがわかっていない、尺度がない世界です。今後の重要な課題だと思います。
 
 ただ、ビッグデータだけで見えてくるものもあります。学生たちが就職活動をする際に書くエントリーシートがそうです。1回記入しただけでエントリーシートのデータを学生が『A社とB社とC社に送ってほしい』と望めば送付する仕組みを大手企業と連携しているサービス(履修データセンター)があります。しかし、文系学生の7割くらいがそれを使うようになると、『この先生は誰にでもAを与えている』『あの先生はSからBまで、厳しく評点を分散させている』ということがわかるようになります。そうすると企業によっては、『分散が大きい科目におけるA』と『誰でもAを付けている科目のA』とは異なるという判断をするようになります。Aの数が同じ学生でも、誰でもAをもらえる科目だけを取っている学生か、BもあるけれどもSもあり難しい講義も取っている学生のどちらを採用するのがいいのかの判断材料として企業も使っていたということがあります」
 
石戸:「成績の上位層と下位層で成績に寄与している学習の活動因子が異なる話がありましたが、具体的に教えてください。」
 
安浦氏:「もっともわかりやすいのは、教室の前側に座るか、後ろ側に座るかということ。やはり前側に座ると学生というのは先生と対話を求めており、アイコンタクトも多いです。意欲のある学生はアイコンタクトをしながら、『なるほど、なるほど』と頷きます。そうすると先生もアイコンタクトをしてくれる学生の顔色を見ながら授業をしていくということになりますから。小学校のように、1クラス30人とか40人程度の生徒であれば、常にまんべんなく見ることができると思いますが、100人以上の講義室であれば、前側と後ろ側とではまったく異なってきます」
 
石戸:「現時点で遠隔授業と対面授業とでどちらかに優位性は見られなかったということでした。今後、さらにデータを取り、授業改善をすることで遠隔授業のほうが高い効果が上げられる可能性もあると思います。今後の九州大学としては、対面授業とオンライン授業の比率を今後どのようにしていきますか」
 
安浦氏:「まだ正式に決定したわけではありませんが、遠隔授業は継続することになっています。対面授業をしても、授業を同時にオンラインで配信します。これは、障がい者対策にもなりますし、体調悪いときには『無理に出てこなくてもオンライン授業を受講したらいいよ』という形で活用していきます。
 
 それから、大教室の授業で後ろ側に座るよりは圧倒的にオンライン授業のほうが良いし集中できるという学生が多くいました。その点がオンライン授業を残すべきポイントになってくるかと思います」
 
石戸:「国内外問わず、データを活用した教育の良い事例があれば教えてください。」
 
安浦氏:「アメリカには、さまざまな大学がITを使って学生をどう育てるのかという議論をしている組織・団体(EDUCAUSE)が活発に活動しています。そういう意味では、アメリカの教育機関が今後、データ活用にどう取り組むのか、無視できないという気がします。世界各国にも同様の組織があり、日本ではAXIESが活動しています」
 
最後に石戸の「今後も超教育協会は、データ×教育の議論を継続していきます」」という締めの言葉で講演会は幕を閉じた。

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