概要
超教育協会は2020年6月10日、ギリア株式会社 代表取締役社長 兼 CEOの清水亮氏を招いて、「アフターコロナ時代のAIと教育」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、清水氏がAIと教育における最新事情について紹介。後半では超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに、参加者からの質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。
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「アフターコロナ時代のAIと教育」
■日時:2020年6月10日(水)12時~12時55分
■講演:清水 亮氏
ギリア株式会社 代表取締役社長 兼 CEO
■ファシリテーター:石戸奈々子
超教育協会理事長
清水氏は、約30分間の講演において、AIの原理は簡単だが、実際にAIを使って「体験しなければ学べない」ことと強調した。その主な講演内容は以下のとおり。
AI教育とは
「アフターコロナ時代のAIと教育」をテーマにお話しいたします。まず、ギリア株式会社は、各産業領域への持続的なAIサービスを提供しています。その一つとして、当社の株主でもあるトライグループが実施している学力診断にAIを活用しました。トライグループでは、過去に学力診断を実施した120万人分の学習進捗状況や苦手分野、合格率、偏差値などのデータを全て保存しています。それらをAIに学習させて、「学力診断にAIをうまく活用できないか」と考えてきました。
本来は1科目あたり2時間のテストを5科目。しかも、1科目あたり200問くらい解かなければならず、学力診断テストに10時間が必要です。これが、AIを活用することで、1科目あたり約20問と10分の1程度の設問数、時間にして約10分間で「この子はどこが苦手なのだろう?」などと推計することに成功しています。
1科目2時間のテストを10分で診断できるようになる。
しかも、例えば「マイナス(-)をどこまで理解しているか」、「絶対値をわかっているか」など、かなり細かいレベルまで診断できます。ここまで精査できると、きめ細かい教え方ができるようになります。
文系科目にも対応していますので効果的な受験勉強ができます。テストで実際に運用してみたところ、英語が苦手だったある生徒が、英語だけでなく全教科で軒並み成績がアップするなど、AI学習診断は非常に効果があることがわかりました。これについては、日経 xTECH EXPO AWARD 2019の「教育AI賞」を受賞し、現在はCMも放映しています。
内閣府の基本方針ではAI教育の取り組みが明記される
一方、大学の教育現場でもAIの活用が進められようとしています。内閣府が発表したAIの基本方針である「AI戦略 2019」では、高校からデータサイエンス分野の基礎となる教育をするということや、「文理を問わず、全ての大学・高専生(約 50 万人卒/年)が、課程にて初級レベルの数理・データサイエンス・AIを習得」という基本方針が決められています。
その中には、「多くの社会人(約 100 万人 13/年)が、基本的情報知識と、データサイエンス・AI等の実践的活用スキルを習得できる機会をあらゆる手段を用いて提供」という具体的な目標も掲げられています。つまり、データサイエンスおよびAIが今後、日本における基礎教養になっていくことを示しているのです。こうしたことを目指して政府は動き始めています。
ただし、こうした取り組みは決して簡単にはいきません。小中学校におけるプログラミング教育が2020年度からスタートしましたが、プログラミング教育とAI教育は似てはいるようで、じつは真逆のことです。また、「AI戦略 2019」には「データサイエンス・AI」と書いてありますが、データサイエンスもAIも異なる分野の学問です。数学と物理が一緒に書かれているようなものです。そこをかみ砕いて考えなければいけません。内閣府の方針に書かれているAIが意味することは、基本的にはディープラーニングのことです。だから、データサイエンスとセットで考えられています。
プログラミング教育とは真逆のAI教育
AIをディープラーニングと考えたとき、なぜAI教育とプログラミング教育が真逆になるかについてお話しします。まず、プログラミングとは「積み上げ」で教えていくものです。演えき的に、「AがあってBがおきたときにはCになれ」と順番にロジックを組み立てていくことを学ぶのがプログラミング教育です。ところが、AI教育はその反対です。「これが起きたときには、こうしてほしい」というのをAIに教え込んでいくものです。どんなロジックで考えるか、どんなロジックにもとづいて実行するかは関係ありません。
つまり、プログラム的な積み上げというのは、AIのための土台でしかなくて、プログラムの延長線上にAIがあるのではないのです。それでは、内閣府が学ばせようとしているAIとはどのようなものなのか。当社が開発した製品に深層学習ソフトウェア「Deep Analyzer」があります。このAIに画像分類をさせるには、魚の写真を見せたら「これは魚だよ」と教えていくだけです。たくさんの魚の画像をただAIに学習させて「分類しましょう」と指示するだけでいいのです。
このように、アルゴリズムを必要とせず、アノテーション(テキストや音声、画像などあらゆる形態のデータにタグを付ける作業)さえあれば画像をたくさん学習させて分類できるようになるのがAIで、とにかく原因と結果だけ教えると自分で学習していきます。内閣府が基本方針で示しているAIもこうしたものです。
AIは「とにかく使ってみて」、手数をかけて学ぶ
内閣府では、このレベルのAIを「とりあえず使ってくれ」と言っているのです。AIを「道具としてどう使うか」ではなく、「とにかく使ってくれ」ということなのです。AIの専門家ではない先生や生徒が使ってみることで、AI活用の新たな発見、新たな活用法などのアイデアが生まれてくるかもしれません。そこに対する期待も大きいと考えられます。
とはいえ、AIに使うためのPCはすごく高価です。エントリーモデルでも1台40万円弱で、大学で使用するAIは200万円を超えてしまいます。学生の人数分用意するのは難しいので、私たちが提案しているのは、既存のWindowsやMacを端末として利用して、1台のAIを共有しブラウザで使用するかたちです。4GPUを搭載したAIを1台導入し、20人規模で利用できる環境を142万6000円から導入できます。
ただし、AIを学ぶのに気をつけておかなくてはいけないことは、実際にAIに触れてみて、実際に問題を解かせるなど「手数」をかけていかなくて学べないということ。つまり,体験的に学んでいくものなのです。プログラミングは、慣れてくると頭の中で書けるようになるものですが、AIを学ぶには手数が必要になります。「どんな仮説を立てて、どんな学習をAIにさせたらうまくいったのか」という体験をどれだけ積んだか、どれだけ試したかが大切なのです。このことについては、「AI戦略 2019」を推進する当事者の方々も理解していないと思ったので、この機会でお話しさせていただきました。
とにかく、教育の現場でAIを学習するには手数がかかるのです。数年前に新潟県長岡市で現地の中学生にAIを教える試みを2日間、実施しました。そのとき興味深かったのが、「好きなものを学習させていいよ」と伝えると、「ポケモンを分類できるのか」、「自分でも知らないポケモンを見たら正確に分類できるのか」と試しだしたのです。大人ではこういったテーマは思いつきません。
東京で小学生を対象にAIについて教えたときも「レタスとキャベツと白菜を分類できるか」と取り組んだ子どもがいました。こうしたちょっとした興味、好奇心、「やってみよう!」という勢いでスタートしてみて、そこから何かが生まれるのだと思っています。
AIとは一般的には、すごく複雑で難しくて高度すぎるものだと思われていますが、原理は簡単ですし、「体験しなければ学べない」という非常に希有な教材でもあるのです。
AIを通じて「仮説」と「検証」を体験的に学ぶ
そして、昨今、コロナウイルス感染症の拡大もあって、「大学にキャンパスは必要なのか」、「わざわざ大学に行かないと学べないこととは何か」など、多くの人が悩み始めています。その視点では、AIを学ぶには環境や設備、つまりファシリティが必要です。AIについては、とにかく使ってみて、手数をかけてみて、体験的に学ぶ必要があり、さらに「ファシリティがある場所に行ってまなびましょう」というのが、一つの考え方になります。
たしかに大学の授業は、ディスカッションがない授業も多いのですが、AIを学ぶには相手が「正体不明」なので、物理実験のように「なんで、これではうまくいかないのだ」、「どうしてこうしたらうまくいったのか」といった発見がとても大切になります。
その事例として、新潟県長岡市でAIの授業をしたとき、生徒に自分の好きな画像を100枚集めてもらい、それをAIに分類させて正誤を判定しました。すると、あるチームだけ正解率が100%に近かったのです。そんなわけはないと、調べてみたら、ある女子生徒がアイドルグループの画像を4万枚もAIに学習させていました。そのチームでは、他の生徒が学ばせた画像が200枚だけだったので、AIにしてみたら、「どんな画像でも女子生徒が持ってきた画像と答えると正解率が非常に高くなる」のです。
そこで、女子生徒が持ってきた画像を4万枚から100枚にまで減らしたところ、正解率が下がり、「正しい結果」となりました。このようにAIは「間違えがないように」と自分で学習してしまうのですが、そのことは理屈では理解できても、この授業のように体験してみないことには学べないのです。このことはAIを学ぶ上で大切なことです。
AIを体験的に学習していくと「こうしたほうが良くなる」ということが、わかるようになってきます。つまり、「仮説の組み立て」と「検証」という、これからの人材に必要とされることを、AIを学ぶことを通じて体験的に身につけていけるようになると考えています。
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