超教育協会は2025年3月12日、株式会社JTB  PMYアカデミープロジェクト代表の大谷 信喜氏を招いて、「企業活動と全国の中学校・高校の授業をメタバースでつなぐ社会体験学習プラットフォーム『Potential Meets You Academy（PMY Academy）』と題したオンラインシンポジウムを開催した。

シンポジウムの前半では、大谷氏がメタバース空間の中で生徒が企業活動を学んで探究学習につなげていく取り組み「PMYアカデミー」について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

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「企業活動と全国の中学校・高校の授業をメタバースでつなぐ社会体験学習プラットフォーム『Potential Meets You Academy（PMY Academy）』」

■日時：2025年3月12日（水） 12時～12時55分

■講演：大谷 信喜氏
株式会社JTB 　PMYアカデミープロジェクト代表 

■ファシリテーター：石戸 奈々子
超教育協会理事長

大谷氏は約30分の講演において、4月から正式にスタートしたPMYアカデミーの取り組みについて話した。主な講演内容は以下のとおり。

▲　写真1・株式会社JTB  
PMYアカデミープロジェクト代表の大谷氏

大谷氏：PMYアカデミーは、企業と全国の中学校と高校をメタバースでつなぐ社会体験学習プラットフォームです。さまざまな学校の先生方にアドバイザーになっていただいて学習プログラムを作っています。そのアドバイザーでもある慶應義塾大学 名誉教授の河添 健氏からいただいた推薦のお言葉を紹介します。

▲　スライド1・PMYアカデミーアドバイザーの
慶應義塾大学 名誉教授
河添 健氏からのメッセージ

河添氏からのメッセージ：
「河添です。縁があってこの商品の開発に携わっております。高校においては探究の時間が組み込まれ、教育界が大きく変動しています。それにともない高校の現場では混乱もあり、先生方も非常に苦労されていると聞いています。私も退職後3年ほど中高一貫校の校長をしましたが、毎日のように探究学習のコマーシャルが来ました。商品開発が進んでいるのは分かりますが、それら全てを高校の教育現場、中学の教育現場に導入するわけにはいきません。やはり選択する必要があります。そういった中で注目したのがこのPMYという教材です。

そもそも探究学習は、横断的、総合的な従来の知識型学習とは違った、問題発見に結びつくような主体的な学習を目指すもので、生徒一人ひとりに寄り添っていくことが最も大事だと思います。しかし、これを一人の先生がやるのはなかなか大変です。クラスの生徒一人ひとりを見守り、かつ一人ひとりに課題を与えるのはとても難しく、どうすればよいか先生方も悩まれていると思います。そんな中、登場したのがこの教材です。仮想空間を作って生徒がアバターを利用し、いわば会社訪問をする内容です。一人ひとりが『一人旅』に出て、日本の社会を見て回るという仕組みです。生徒一人ひとりが、それぞれのゴールに向かって学習できるのが特徴です。

使い方は多様で、個人で自由に会社を訪問してもよいですし、クラス全員で同じ企業を訪問し、同じテーマで探究学習を実施してもかまいません。ただし、本当の意味での探究となれば、生徒一人ひとりが自分の将来を見つめて、『こういう会社を見てみたい』、『こうした製品がどうやってできているのかを知りたい』といった興味を持って取り組むのが良いと思います。とはいえ、先生方はやはり教えたいし、クラスをまとめたいと思うでしょう。それに対応できるように学習指導ガイダンスもつけています。質疑応答や課題のヒントとして活用していただければ、とても面白いのではないかと思います。

ぜひ先生方も生徒と一緒に仮想空間に入って、日本の企業がどういった努力をしているのか、特にSDGsやCSRなど新しい経済的な側面を日本の企業はどう捉えているかを学んでください。大人が見ても勉強になります。先生方も一緒に入って、一緒に学習していけば、とても良い授業ができるのではないかと思います。そのようなことを想い、今回、推薦させていただきました」

大谷氏：河添氏からの推薦メッセージでした。

それでは、プログラムの内容を説明します。PMYの開発のきっかけは東京2020パラリンピックです。コロナ禍で修学旅行や課外授業、部活の大会が中止になっていく中で、子供たちに色々な体験機会を提供しようとパラリンピックのパートナー企業に声をかけました。オリンピアンやパラリンピアンと連携して交流会や障害者スポーツの体験会などを開催しました。そのときに、「企業に協賛をいただき、学校には無償で提供する」というサービスモデルを立案・実施したのです。その後、さまざまな企業からこのモデルを継続的なオリンピック・パラリンピックのレガシーにしていきたいというご意見をいただき、モデルを活かした新しい取り組みということでPMYの開発がスタートしたのです。企業の方々が学校を訪問して授業や講義をする、あるいは学校側が企業を訪問するようにリアルで取り組むのが良いのでしょうが、やはりさまざまな制約があります。そこで、「メタバース空間に学校を作ってみたらどうか」と考え、そこからさらに「メタバース空間にさまざまな企業がパビリオンを出展して、生徒たちはアバターになってこの空間を回遊し、企業活動を学ぶ」というアイデアへと発展していきました。ハリーポッターのホグワーツのような世界観の空間を作り、生徒たちはアバターになってこの空間の中を回遊するのです。

▲　スライド2・PMYアカデミーの
キャンパス風景

PMYは、メタバース空間上のひとつの建物を企業にまるごと一棟、お貸しして、その中に色々な学習素材が用意されるという構成です。日本と世界をリードする企業が学習素材として、より良い未来社会を実現するために取り組む企業活動を紹介しますが、何でもよいわけではありません。基本はサステナブルな企業活動をメインテーマにしており、前後に企業の理念や創業者の思い、ヒストリーなども伝えつつ、「どういった社会課題」に対して「どういった取り組み」をしているのかについて学べるプログラムを作り、それを仮想空間の中に用意しています。地域や場所、時間にとらわれずに最新の企業活動を無償で学べるこれまでにない学習サービスです。先述の通り、企業に協賛いただいて、学校には無償提供するというビジネスモデルです。

ビジネスモデルを詳細に説明します。まず企業に有償参加してもらいます。参画費をいただき、先生方と連携しながら企業活動を学習プログラム化します。

こうして作られた学習プログラムを中学校や高校のキャリア教育、探究学習、民間のフリースクールの授業などで使っていただきます。授業でさまざまな業界を知ることができ、結果として次代の消費の中核を担う中高生の認知や好意形成を獲得できるようになることを期待しています。将来的には、PMYに参加いただいている企業で働きたいという人がでてくることも考えられ、企業にとっては長期的なブランディングにも繋がるといえます。

2025年4月から正式導入ですが、すでに三菱UFJアセットマネジメント、ニチレイフーズなど6社に参画をいただき、メタバース空間に入ると企業の教室を見ることができます。具体的に各社の学習プログラムを紹介します。

中学校や高校の教育現場では、社会に開かれた教育活動を実践するように要請されていますが、そもそも企業との接点がなかったり、地域によっては企業が少なかったりといった問題があります。また、先生不足もあり社会との接点を作る場、企業との接点を作る場の創出にまでは手が回らないのが実情です。

一方で、令和元年に始まったギガスクール構想では、一人一台端末のネットワーク環境が整備され、生徒全員がアプリをダウンロードして授業で活用することも可能になりました。急速にネットワーク環境が改善され、タブレット端末のスペックもかなり上がっているという印象を持っています。また、ICTを活用した探究的な学びを強化することを目指したDXハイスクールの設置、実社会で役に立つ学びの実践を目的としたSTEAM教育の拡充など、教育のデジタル化が進んでいます。教育現場からも非常に強い関心を持っていただいて、PMYアカデミーでは、本格実施前に20校でテスト授業を実施しました。

▲　スライド3・複数の学校で
テスト授業を実施

現在は全国の100校近くから関心があるという連絡をいただいています。利用方法を簡単に紹介すると、まず生徒がAppStoreなどからPMYアカデミーのアプリをダウンロードして、IDを入力してメタバース空間に入ります。空間の中では企業が教室を公開しており、教室の中にはだいたい15から16くらいのパネルが掲示されています。それをクリックすると全画面表示となり、動画やテキストが表示され、生徒がそれらを活用して自ら学んでいける仕組みになっています。

▲　スライド4・メタバース空間内の
企業ごとの教室

メタバース空間には大講堂もあり、ライブ配信機能も備えているので、例えばここで講演会やライブを開催し、生徒が集まって視聴したり楽しんだりすることができます。また、生徒が成果を発表する場としてのいわゆるアーカイブギャラリーも用意されています。

講演内の動画で紹介された音声：

アバターは30体から選ぶことができ、自分でニックネームを設定できます。個人情報は取得しない設定です。アバター同士はチャットでも音声でも会話できるほか、絵文字を表示させたり、飛んだり跳ねたりと動いてコミュニケーションができます。

ある学校では、海外の姉妹校とこの空間でIDを共有して共同授業をしています。通信制の学校では、在宅の生徒と通学の生徒がこの空間で一緒に学んでいます。さまざまな使い方が可能です。

PMYのメタバース空間は、XANAという信頼度、満足度、注目度においてナンバーワンと言われているプラットフォームを使っています。ドバイの企業ですが、日本人の経営者がいます。すでに東京都や地方の自治体、大手企業でも活用されており、私が所属するJTBのセキュリティ審査にもクリアしています。安心して使っていただけると思います。

また、生徒がきちんと学習できるように先生方にご協力いただきながら、企業ごとのワークシートを作ったり、企業ごとの教育向け指導ガイドを作ったりと工夫をしています。生徒は端末で学びながら自分のワークシートに記入し、授業の最後に発表するという使い方をしているケースが多いようです。

企業が伝えたいことと学校が学びたいことには少なからずギャップがありますので、そこを先生方にアドバイスいただきながらうまく調整をしています。色々な機能をプラスしながら、価値あるものにしていきたいと考えています。

メタバース空間の中に入れるアバターの数は現在、15人と限定しています。100人や200人がひとつの空間に入ると、アバター同士が混雑してしまうので、例えば40人学級の場合は学校にはIDを3つ、渡しています。グループ分けをしていただいて、メタバース空間に入ってもらうようにしています。アバター同士でコミュニケーションを取りたい場合には、同じIDで同じ空間に入らないとなりません。全校生徒で入りたい場合は、相応の数のIDをお渡しして入っていただくことになります。今は都内の中高一貫校を中心に試験導入していますが、地域の学校や公立学校からの問い合わせも増えています。

教員用に配布されるガイドには、どのような企業なのか、この企業のメタバース空間に入ると何が学べるのかといったことが書いてあります。学習のテーマのヒント、問いの例、振り返りの例、授業での活用の場なども書いてあります。こういったガイドを作成して、先生方に提供しています。

生徒用のワークシートも用意しています。生徒がワークシートを出力して、書き込みながら学びを進めています。

ネットワーク回線の通信速度などの問題で全員でのログインが難しい場合は、2人で1台を見るなどで対応しているケースもあります。春休みに色々な業界をまずは勉強してきて、新学期に発表するという学校もあります。このように、さまざまな使い方があるのではないかと思っています。

学校は無償で利用できますが、安全にご利用いただくために禁止事項やルールを設けています。

▲　スライド5・PMYアカデミーを
安全に利用するための注意点

IDを第三者へ渡さない、チャットでの発言に注意するなどの規約を作って学校にお渡しし、その上で申し込みいただくようにしています。もし導入をご希望の場合、お問い合わせいただければ詳しい資料をお送りします。また、教室で自社の取り組みを伝えたいという企業がおりましたら、問い合わせいただければと思います。今申し上げた内容をコンパクトにまとめた資料も作っています。QRコードもありますので、ご質問などあればご連絡いただければと思います。

私はこれまでに中学校や高校を50校くらい訪問してお話していますが、やはり企業との接点がないという先生方が非常に多いです。そのため、生徒たちは狭い選択肢の中で自分のキャリアを考えているということが分かりました。社会にはもっとたくさん会社があって、大人たちは頑張って仕事をしているということを早いうちに見せてあげることが大事ではないかと思っています。

この取り組みを始めるきっかけのひとつともいえますが、私の息子が15歳の時に、10人くらいの企業人と意見交換をする場を学校が作ってくれました。息子はある企業人の仕事に興味を持って、その興味のまま大学に進学して学び、大学院に進み、結局、その業界で職を得ています。15歳の時の出会いがなかったら、この未来はなかったのだろうと思います。中高生の頃に、さまざまな企業を知ることが自分の将来を切り開く力になるということを身近に感じました。これを多くの生徒たちに届けたいという思いから、今回の取り組みをスタートしています。

メタ―バス空間を使い、産業界が連携して子供たちの「未来を切り開く力」を育む支援をしていきたいと思っています。ぜひご賛同いただいて、この取り組みを多くの方に知っていただいて、全国の学校で使っていただければと思っています。

JTB PMY Academy リーフレット（pdf 10.8 MB）

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