主体性を持ち「仲間を巻き込んで」困難に立ち向うキャプテンシップこそが大切
第145回オンラインシンポ・後半

活動報告|レポート

2024.2.9 Fri
主体性を持ち「仲間を巻き込んで」困難に立ち向うキャプテンシップこそが大切<br>第145回オンラインシンポ・後半

概要

超教育協会は2023年1220日、FC今治高校立ち上げ準備室長(20244月里山校校長就任予定)兼(株)まちなかキャンパス 代表取締役の辻 正太氏を招いて、「共助の社会のキャプテンを育てる!FC今治高校の挑戦」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、辻氏がFC今治高校里山校の独自のカリキュラムや目指すところについて講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

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「共助の社会のキャプテンを育てる!FC今治高校の挑戦」

日時:2023年1220(水)12時~1255

講演:辻 正太氏
FC今治高校立ち上げ準備室長
20244月里山校校長就任予定)
兼(株)まちなかキャンパス 代表取締役

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

キャプテンシップを育むための具体的な授業・サポートに質問が多数

 石戸「たくさんの質問がきています。複数から寄せられた質問は、『子どもたちのやりたいこと、夢中になれることを応援するということで、学校はどのようなサポートをしていくのか、できるだけ具体的に教えてほしい』というものです。また、『先生やサポートする大人の人数が必要なことだと思いますが、子どもに対する先生やスタッフの割合はどうなっているのか』という質問です。いかがでしょうか」

 

氏:「現在、入試をやっていますが、その中でもすでに『こういうことをやりたい』という意志を強く持っている子どもが集まっているという感覚はあります。ただし、まだ中学校3年生で、これから変わっていくでしょう。重要なのは、どれだけいろいろな人と出会えるか、対話ができるかということだと思っています。岡田学園長のご縁もあって、全国から色々な方々が学校の想いに共感してくださっています。これからの日本の教育をアップデートしていかなければならない、日本の教育はこのままでは駄目だ、もっと時代に合ったものに変えていかなくてはならないという思いを持った方々がすでに30人ほどいらして、毎月のように来てくれるので、そういった方々との対話をまずベースにしています。そこで何か火がついた子どもたちに対して、実際に現場にいる我々がサポートしていく形になりますが、何かをやりたいと思っても余白がないと子どもたちは取り組めないので、その余白をどう作るかということをカリキュラムでは大事にしています。生徒が80名集まる予定ですが、新しい1年生を見る先生はほぼ採用が終わっていて、そういった先生方と、もともといた明徳学園の先生方で手厚くサポートしていきます。先生と生徒の垣根をできるだけ崩していきたいと思いつつも固定した関係性にもなりかねないので、企業向けの1on1サービスをやっているエール株式会社と連携して、子どもたちに1on1のサポーター、メンターが1人ずつつくということも準備して、子どもたちが本当にやりたいと思ったことをしっかり伸ばしていけるような環境を作ろうとしています」

 

石戸「理念として掲げている教育を実現するにあたって、教員にはどのような力、資質が必要だと考えているか。そしてまた、そういう方々のスキルを伸ばすための教員研修についてどのように考えていますか」

 

氏:「キャプテンシップを子どもたちに求めていくなかで、教員にもそういった資質を持っていてほしいと思っています。具体的にはチャレンジしているかどうかです。そして先生が夢中になれるものを持っているかどうかについてもかなり大事にしています。先生はどうしても、こういうことをやれ、ああいうことをやれと生徒に言いつつ、じゃあ自分はどうなんだと問われると学校の外に一歩も出ていないみたいなことはけっこうあるので、我々としては副業もOKにしようと思っていて、先生が学校外も含めてチャレンジしているかどうかに重きを置いています。私自身も今、青森県で会社を経営しつつ、もともと4月まで代表をしていた会社を含めて3社に所属をしながら、子どもたちに背中を見せていけるように頑張っています。とにかく、何かチャレンジをしていることが前提です。

 

そのうえで今までの成功体験をどう活かすか。先生として成功してきた部分と、これから必要な教師としての定義は大きく変わってくると思います。今までは401で先生が知っていて生徒が知らない前提で授業をやっていましたが、その前提がすでに崩れています。必要な子にはティーチングしますが、あとはいかに手放せるかが重要です。手放して、何か手を差し伸べたくても我慢をする、そういったことも必要です。先生は子どもを何とかしたいという気持ちが強いので、そこをいかに共に学び合う仲間なんだという視点で関与し過ぎないようにするか。岡田氏は、『コーチや教員は子どもが育つのを邪魔しないくらいがちょうどよい』ということを代表監督としてよく仰っていましたが、そういうことを大事にしています。研修としては、横浜創英高校の工藤 勇一先生に来ていただいて、教職員研修をやっていただきました。あとは新採用の教員を集めて、電波も一切入らない森の中にキャンプをしに行きます。そういった形で自分自身が体験したりチャレンジしたりすることを大事にしようという観点から、教員研修をしています」

 

石戸「評価に関する質問もきています。『体験型の学びで魅力的だと思う一方、そういう子どもたちの学習に関してどういう評価を考えていますか』というものです」

 

氏:「期末や中間という形ではテストをやらないことは決まっています。どれだけ進捗しているかを見る単元テストはこまめにやりますが、大きなテストはやりません。評価についてですが、本人がどれだけ伸びたかの絶対評価はしっかりやってきます。主体性やいくつかの項目のルーブリックを作っていて、推薦入試の書類選考や面接もその評価に基づいて評価をしました。そういった形で、テスト一発であなたは何点、という形ではない評価をしていこうとしています」

 

石戸「一般入試でも筆記の試験はなく、12日の合宿によるパフォーマンス選考がありますが、このような選考にしたのは何故なのか、選考の時にどういう視点で見ているのか、それはイコールどういう子どもたちをこの学校は欲しているのかということにもなると思いますが、その点をもう少し教えていただけないでしょうか」

 

氏:「主体性と多様性を大事にしている学校ですが、主体性は自ら何かを起こしたいとかチャレンジしたいという意識があるか、自分から進んで学びたいという意識があるかなどを評価したいと思っています。多様性については、学校の中だけではなく、共助のコミュニティでも多様性を大事しています。岡田氏が小さいころ住んでいた大阪は、いわゆるインクルーシブな社会でした。隣の家の子たちに、お父さんがお酒を飲んで暴れるからうちでごはん食べなさいとか、障がいのあるなしに関係なく一緒に遊んだりなど、そういった場所の豊かさみたいなところが岡田氏の原体験としてあります。同質の同じような人ばかり集まる組織だと、なにかひとつ難しいことが起きた時に総倒れしてしまうかもしれませんが、さまざまなタイプの人間が集まっている組織は、何か起きても総倒れしないで誰かが支えられるという考えがベースにあります。できる限り多様性を担保しようとした時に、偏差値みたいなもので切ってしまうと、考え方や生活の水準や色んなものが同質の人が集まりやすくなってしまいます。最初は数学だけはチェックしようと言っていたのですが、今回はいろいろな子どもたちを受け入れようとなりました。一般入試の中身については、その場で発露するキャプテンシップみたいなものを見たいので、いわゆる入試としては想定外のこと、ちょっと混乱するような環境を提供して、その中でそれぞれがどういう動きをするのかを見ていこうとしています。評価をしようと思っているのは、どれだけ自分で手を挙げて自ら動けるかというところや、自分たちでその場をどう作っていくかという力で、それをさまざまな項目でチェックします。面接官は学校の先生だけではなく、例えば前回の推薦入試だと元陸上のハードル選手だった為末 大氏にも入ってもらいましたが、ビジネスの現場などで活躍された人やスポーツの現場で活躍された人に参加していただき、いろいろな目線で一人ひとりを見ていただくということをやっています。教員だけが見ると、教員が扱いやすいよい子が集まりがちです。評価についても、例えば10人のうち9人はちょっとこの子はどうなのかと思っても、1人が強烈に押す子を取るようにして、多様性の担保をしようと考えています。とはいっても納得感を得ることも重要なので、そこは点数としてしっかりつけて評価します」

 

石戸「多様性という話がありましたが、『障がいのある生徒や不登校の生徒、留学生などの受け入れなどはどうするのですか』という質問もきています」

 

氏:「そのあたりも含めて、できる限り受け入れていきたいと思っています。実は矢田分校のトイレがバリアフリーではないので、それを急いで何とかしなくてはと考えています。この間、パラリンピックのアイスホッケー銀メダリストの上原 大祐氏に講師をお願いしましたが、やはりトイレに行くのがすごく大変だったそうです。そういうことを含めて、どんな人が来ても対応できるように学校として準備を進めています。推薦入試を受けてくれた子たちも、3分の1くらいは学校に行かなかったあるいはフリースクールに行っていたという経験を持つ子でした。誰かにいじめられたとかではなく、今までの学校とフィットしなかったということです。そういう子たちも受け入れています。調査書も出してもらっていますが、出席日数や、成績に1がついているなど、そういうことは一切評価に加味していないので、そこも含めて全て受け入れようとしています。ただ、この間、『全て英語で授業をやってくれますか』という相談がきて、目指したいとは思いますが、正直まだその体制は作れていないので、それを理解したうえで来てくださいと伝えました」

 

石戸「このような質問がきています。『今の日本の高校は極端に言うと部活動と大学入試のための予備校になっています。おそらく学校設立の意図のなかには本来の高等教育での学びの提供があると思われます。目指すところ、よいところはたくさんお話いただくとして、社会の風潮の課題、今乗り越えなければならない課題などマイナスの面もぜひお伺いしたいです』というものです。確かに、応援もたくさんあると思いますが、とはいえ、といった声も届くのではないかと思います。聞こえてくるネガティブな声、それを踏まえた日本の教育の課題、そこに対する乗り越え方を教えてください」

 

氏:「ネガティブなことだらけなので、誰かを批判するようなことにはならないようお答えしたいと思います。まず、新しいことをしようという時点でかなりの逆風がありました。そもそも我々の発表の仕方、情報の出し方にも問題があったとは感じています。例えば、とにかくインパクトを出そうとFC今治高校という名称にしましたが、『サッカーの学校ですか』という声も多くありました。批判としては、OB・OG方々や在校生から『学校名が変わることをヤフーニュースで知りました』と怒られました。それは本当に申し訳なかったと思って丁寧に謝りました。

 

また、愛媛県は教育について保守的な側面ももちろんあるので、新しいもの未知のものに対して、すべてを手放しで受け入れていただけてはいません。すべてについて理解を得られているかというとそうではないのが正直なところで、多くあったお声としては、いろいろな人が入ってきて授業が成り立つのかというものでした。ただし、我々は強制的に学ばせることには興味がありません。静かにみんなが先生の方を向いて座っているようなことに力をかけようとは思っていません。それよりも、本来の学ぶことが学べているかを重視します。ただし、学校に対する評価として、誰かが視察に来た時によいクラスと言われるのは、みんなが黙って座って前を向いているクラスです。これがまず問題だと思っています。我々は、2024年にスタートした後は、フルオープンにして視察なども多く受け入れたいと考えていますが、その際に『パッと見た印象が荒れているね』と言われたとしても、席に座っておとなしく話を聞くことを強制するより、学びの本質を忘れないようにしていくことを重視したいと思っています。

 

その他にも3年生になったら寮を出なくてはならないことも含めて、『子どもたちをリスクのあるところに放り込む』ことに対する批判もあります。それでも、できる限り学校を飛び出したりコンフォートゾーンを飛び出したりすることを、勇気を持ってやっていきたいと思っています。こういったところが今のところ多い声です」

 

石戸「最後に3質問です。1つめは、このところこのシンポジウムのシリーズでは生成AIと教育をテーマとして掲げています。学校設立の準備している間に生成AIが広がり始めて、教育が大きく問い直されるのではないかと議論され始めていると思いますが、生成AIの登場により、学校としての理念やカリキュラムなど再考されたことがありましたら教えていただきたいです。2つめは、国内外問わず参考にしている、理想にしている学校がありましたら教えていただきたい。3つめは、最後にメッセージをいただきたいです」

 

氏:「まず1つめの生成AIについては、背中を押されたというか後押しになったと思っています。もともと野外体験や数字で表せない力をつける教育を重視したいと思っていて、生成AIが発達すれば発達するほど野外体験の重要度が上がってくるので、そういう意味では生成AIと共存しながらどんどん追究していきたいと思っています。2めについては、国内ではいくつかあり、例えば横浜創英高校です。学年の壁をなくすなど学び方を自分で選ぶことを実践されています。他にも佐賀県の東明館高校。私は神野校長を見習ってピンクのパーカーを着て職員室の集合写真に写ろうかと思っています。

 

メッセージとしては、我々は自分たちの学校だけがよくなってもあまり意味がないと思っています。教育が大きく変わっていかないと、これからの子どもたちに社会を生き抜く力を与えることができないと思っているので、公立も含めていろいろな学校でこういう動きをやっていけたらと思うし、一緒にやっていきたいと思っています。あとは学校だけでやっていても意味がなく、企業の人たちが学校の中に入ってくることが大事だと考えています。何か関わっていただけることがあればいつでもお話させていただくのでご協力よろしくお願いします」

 

最後は石戸の「国内だけでなくて海外も含めて新しいタイプの学校が色々生まれ始めています。いきなり制度が変わるのは難しいとは思うけれど、新しい動きがどんどん広がっていくなかで、そちらがスタンダードになっていく、そして教育が変わっていくのではないかと思いました」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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