概要
超教育協会は2月22日、一般財団法人オープンバッジ・ネットワーク常務理事の吉田 俊明氏を招いて、「教育エコシステムの要となるオープンバッジ」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、吉田氏が世界共通の技術標準規格に沿って発行されるデジタル証明・認証であるオープンバッジの概要や教育分野での活用事例などについて講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子氏をファシリテーターに質疑応答を実施した。その模様を紹介する。
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「教育エコシステムの要となるオープンバッジ」
■日時:2023年2月22日(水)12時~12時55分
■講演:吉田 俊明氏
一般財団法人オープンバッジ・ネットワーク常務理事
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。
オープンバッジの国内企業への認知度や今後の普及の見通しなどに多数の質問
石戸:「ありがとうございました。まずは、オープンバッジを日本でもっと普及させるにあたり、現状で何が一番障壁となっているのか。そしてそれをどのように乗り越えていけばよいのかアイデアなどをお聞かせください」
吉田氏:「今すでに3,000種類くらいのバッジが出ていますが、日常で使うスキルは3,000どころではありません。何万も何十万もあると思います。そうしたことにも対応できるように多種多様な種類のバッジが出てくることが必要だと考えます。
個々の発行する側としては、ゴールを明確にすることで学ぶことに対するモチベーションを上げることができます。まずは個々の発行されるものに対するモチベーションを上げるツールとして出てきますが、それがもっと多数出てくると、いろいろな学びのルートを獲得する要素が出てきます。それから次のフェーズに入っていくと思っています。
もうひとつは、バッジを受け取る側の対応です。例えば学校などが入学時に、その人が持っている検定の資格や学習歴をバッジで見ることの機会が増えていくでしょう。2023年から2024年にかけては、バッジを持っている人が就職活動でアピールし始めるようにもなってきます。学校や企業などが実際にバッジを目にするようになって、その人の学習歴をどう判断するのか、バッジを受け取る側の意識が変わると普及が加速すると思います」
石戸:「参加者からの質問です。『学習歴証明のニーズが高まるには、日本の雇用のシステムが変わる必要があるのではないか』という質問です。いかがでしょうか」
吉田氏:「卵が先か鶏が先かの話かなと思っています。雇用側にも変化が現れていて、ジョブ型雇用などもあります。全員そちらへ行くのではなく、多様化しているのがポイントです。多様化を支えるツールとして、デジタル証明の意義がでてくると思いますし、そういったことを核に広がっていくのではないかと考えています」
石戸:「人材の流動性は加速させるのが良いと思いますが一方で、こんな質問もきています。『社内のスキルフルな人材がオープン化されることで引き抜きにあうのではないか。先ほども企業の事例をご紹介いただきましたが、企業の反応としてよかった点、よくなかった点を教えてください』というものです」
吉田氏:「そういった懸念を持っている企業もあります。人材の新陳代謝はどうしても必要で、スキルフルな人たちに出ていかれると困ることは事実ですが、人材を輩出したり、輩出したことで空いたポストに来る次の人材を育成したり、活躍してもらう場所を提供したり、ポジティブに捉えて導入していると思います。ただ、懸念点に目をふさぐわけにもいかないので、我々の母体になっているネットラーニングでは、企業内で適度にコントロールできるようなバッジを準備しています。そういったニーズにも対応したサービスが出てくると思っています」
石戸:「参加者からは『オープンバッジの日本での認知度をどのくらいと捉えているか』という質問がきています。例えばオープンバッジの就活での利活用の実態は、諸外国と比較してどうなっていますか」
吉田氏:「まだまだ全然認知されていないと感じています。就活もデジタル化しているので、エントリーシートに貼って提示するということは始まっていると思います」
石戸:「オープンバッジの利活用が進んでいる国の利活用実態はどのくらいですか」
吉田氏:「ビジネススクールレベルだとみんな出しています。そこでスカウティングなどが行われいます。Linkedinには証明を埋め込むスペースがあるので、みなさん積極的に活用しています」
石戸:「『オープンバッジの普及に伴って、今後大学の学位を重視する傾向は弱まるのでしょうか』という質問もきています。海外の大学では、卒業証明書よりどの単位を取ってどのスキルを身に付けたかを重視する流れが生まれつつあります。日本の大学の反応を見てどうですか」
吉田氏:「意識の高い大学から導入が始まっているという印象を受けていて、先生方の話をうかがうと、もちろん学生のためにと思ってやっていただいていますが、実は教育改革にも直結しています。どういう内容の授業をしているかが詳らかになるので。毎年毎年同じ対応をしているわけにもいかないし、より詳細に記述されていくので、大学の教育内容自体の改革、ブラッシュアップに寄与するのではないかと期待される声もあります」
石戸:「オープンバッジの内容のレベル分けに関する質問がきています。『同じタイトルにおいてもレベルは違うわけですが、あくまで受け取る側が判断するということですか』というものです」
吉田氏:「クレデンシャルに必要な枠組みとして、技術的な話と、今ご質問いただいた内容的な話の2つがあります。オープンバッジという技術標準はあくまで技術的な内容で、証明書として改ざんされていないということを担保しています。例えば初等、中等教育であればその課程を修了したことを認める、高等教育あるいは生涯教育になると認証主体が内容取得を担保するというものです。
また、例えば学士相当といってもベルギーの学士とドイツの学士では内容にずれがあります。日本の場合は大学が発行したり教育機関が発行したりしています。アメリカの場合は認定するためだけの団体があります。そこが何を認定するのかの枠組みを作っていかなくてはいけないと思っています。今、財団のなかでそういう枠組みを作っていこうという取り組みがあります。また、スキル基準を分野ごとに設定して、例えば英語ではTOEICのマッピングとTOEFLのマッピングと英検と色々あるので、それぞれ分野を区切ることでマッピングがしやすくなると思います。そういったマップを財団内で持たせるか、あるいはしかるべき業界と共同で作っていって、バッジの中身にどんな価値があるのかについても基準表を用いて皆さんが理解すやすいような環境を作っていきたいと考えています」
石戸:「初等中等教育に関して諸外国の導入の実態、日本での動きに関して教えてください」
吉田氏:「ボーイスカウトなどの活動で、スタンプをもらう感覚でバッジが発行されている事例は海外であります。日本の特徴は、初等中等は義務教育でもあるということで、国としてのコミットの度合が非常に高いということ。GIGAスクール周りのプロジェクトでも参画させていただいたが、そこに対してオープンバッジを活用していこうという話もあります。ただ、例えばメールアドレスの管理の仕方とか個人情報の管理の問題があって、進め方については若干慎重にしなくてはいけないかと思っています。各種検定協会がここを工夫して準備しています」
石戸:「それに関連する質問です。『データのオーナーが個人であるとして、日本においては情報活用リテラシーが問われるのではないでしょうか。学習履歴を適切に管理し適切に使う個人を育てるために必要な手だてがあれば教えてください』というものです」
吉田氏:「IT全般に言えることですが、非中央集権型のID管理の概念が進んでいて、欧米も含めてその方向に進むと認識しています。しかし先行しているような欧米でも、実はきちっとまとまりきっていません。本当に個人で管理しきれるのかという声もあります。GAFAなどに管理されすぎるのは嫌だけれど、全部自分で管理するのも困るといったことのせめぎ合いだと思っています。
オープンバッジに限っていえば、今はバージョン3.0がドラフトまでできていて、それは認証の仕組みとして個人で管理していく側に寄ったものになっています。実装はまだという状況。時間が少しかかるかと思います」
石戸:「個人で講師をしている人から質問です。『個人でオープンバッジを発行することは現状で可能なのですか』というものです」
吉田氏:「私たちの財団では今のところ団体のみという形にしています。質保証の観点で、個人の方がどうなのか評価するところまではおよばないので、団体を評価する形にしています。海外でも、個人が発行する事例は今のところ見たことはありません」
石戸:「ここから先、大学の教員や教員だった人、エンジニアなどスキルを持った個人の方が、個人として開講できると、新しい学びの環境づくり、新しい教員のあり方にも繋がり、面白いと思います。こんな質問もきています。『教育や資格以外での活用もありそうですが、期待しているジャンルはありますか』というものです」
吉田氏:「あります。ネットラーニングで企画しています。まだ準備中です」
石戸:「『日本にもニューカラーは存在するのですか』という質問がきています。最近はそういう採用も増えていますか」
吉田氏:「大企業ではまだと思いますが、IT人材は枯渇しているので、アピールしている人はアピールしていると思います。有名なところだとMicrosoftの資格やAWSなどでオープンバッジが発行されています。我々の提供するウォレットの中にバッジをインポートしてアピールしている人も出ているので、バッジの活用は進んでいると思いますが、そういった人たちは大学を出ていないのかと言われると、そういった調査はしていないので何とも言えないです」
石戸:「それに関連して『いくつかの企業や大学が共同でオープンバッジを作成するケースはありますか』という質問ですそれぞれの専門領域が違うなかで補い合いながらカリキュラムを作成するのは有意義な取り組みと思いますが、そういう事例はありますか」
吉田氏:「別の大学のを、活用するといったエクスチェンジの一環のようなものは出てきています。韓国がドラスティックで、相互に受講修了認定して、2年生大学や4年生大学の卒業まで認めるというところまで進んでいます。そういった組み合わせも出てくると思います」
石戸:「ここの国のこの取り組みには注目しておくとよいというものがあれば教えてください」
吉田氏:「アメリカのデジタルな活用は中央集権的ではないので、色んな形で起きていますが、Linkedinなどを見ると、こんな風に活用しているのかと参考になると思います。オーストラリアも採用までくっつけて、就職希望者のスキルをオープンバッジでまとめてそれをツールとして活用するといった動きをしているので、それも参考になると思います」
石戸:「最後に、まだ活用が少ない状況ではありますが、今後このように取り組んでいきたいという展望、メッセージをいただいて終わりにしたいと思います」
吉田氏:「今回のタイトルに改めて戻りたいと思います。お伝えしたいことは、つなぎ目となるツールとして注目されているということと、教育エコシステムという考え方です。企業研修はやらされる研修や、研修は休みに近いみたいに現場と切り離されている傾向があります。したがって、その教育の中身というよりは、あの時にみんなが集まった、懇親会をやったなど、人脈のみが残るというのがこれまでの形で多かった。それはそれで大事だと思いますが、デジタルをうまく活用することによって、学びながら働くなど働きながら学ぶということがしやすくなっていると思います。
今日、学んだ成果を明日の仕事ですぐ使うなど、仕事を踏まえて学びの方にフィードバックすることがしやすい環境になってきていて、より実務的な内容の学びに繋がっていったり、学びがより実務に繋がっていったり、そういうよい循環が起きるツールのひとつだと思います。全部がこれで解決するなど、全員がこっちに来るとかではなくて、多様になっていく。これまでのように対面で喧々諤々と議論する教育もよいと思うし、それはなくならないでしょう。キャンパスでの良さもありキャンパスでの学びもあります。一方でデジタルを活用することで、時間や場所を飛び越えて交流したり成果を認め合ったりもできます。ますます楽しい時代が来るのではないかと思っています。皆さんと一緒にそれを作り上げていければと思うので、お力添えのほどよろしくお願いします」
最後は石戸の「実質的に役に立つスキルが育まれる学びに繋がるためにも、オープンバッジを導入することによって、提供する側もどういうスキルを提供している/すべきかを考え直すきっかけになるのではないか」という言葉でシンポジウムは幕を閉じ
た。