不完全なロボットが助け合う関係性を作り出す
第114回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2023.3.24 Fri
不完全なロボットが助け合う関係性を作り出す</br>第114回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2023215日、豊橋技術科学大学 情報・知能工学系教授の岡田 美智男氏を招いて「〈弱いロボット〉概念とその学習支援分野への応用可能性」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半は岡田氏が、自らが研究中の〈弱いロボット〉の概念、開発したさまざまなタイプのロボット、「知の拠点」あいち重点研究プロジェクトの一環で進めている学習支援の取り組みを踏まえての教育分野への活用可能性を示した。後半は超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者を交えての質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

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「〈弱いロボット〉概念とその学習支援分野への応用可能性」

■日時:2023年2月15日(水)12時~12時55分

■講演:岡田 美智男氏
豊橋技術科学大学 情報・知能工学系 教授

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

岡田氏は約35分間の講演において、まず、〈弱いロボット〉の概念、さまざまなタイプの〈弱いロボット〉、愛知県と進めている教育現場で〈弱いロボット〉を活用するための研究プロジェクトについて説明した。

完璧さを求めないからこそ「ゆるやかな雰囲気」が生み出される

〈弱いロボット〉とはどういうものか、その概念について事例をあげて具体的に説明します。まずは「注文を間違える料理店」です。注文を取るスタッフの多くが認知症の方々だそうで、お客様からすれば頼んだ料理が間違って運ばれてくることもあるのですが、「これもおいしそうだから、まぁよいか」と、ゆるやかな雰囲気を生み出します。

 

また、最近、ファミリーレストランなどでは「猫型配膳ロボット」が活躍しています。ロボットが通ると店内の子どもが道を開けるなどでして店内のムードが和らぎます。

 

このロボットの特徴は、お客様のところまで料理を運んではくるものの、配膳まではせず、お客様に手伝ってもらうところです。完全ではないことが、多くの人から「大丈夫かな」、「ちょっと手伝ってあげようか」という気持ちを引き出しているのではないかと思います。こうしたロボットは何事もしっかりやらなければならないと几帳面に考える日本人では開発しにくいのかもしれません。事実、このロボットは外国生まれです。

 

▲ スライド1・周りに手伝ってもらいながら
ファミリーレストランで活躍する
猫型配膳ロボット

 

お掃除ロボットも、〈弱いロボット〉と同様の概念で作られており、壁にぶつかったら方向転換するというだけの仕組みです。部屋にいる人がなにげなく、椅子やテーブルを整えてあげて、掃除がしやすいようによけてあげています。つまり、「自然に応援を引き出して」いるのです。これも几帳面すぎる日本人の技術者は、「もし蚊取り線香などを倒して火事になったら…。やはり商品にならないのでは」と考え、商品開発が遅れた経緯があります。

 

「不完全で頼りないけれど、なんだか放っておけない」ロボットが、周りの人の手助けを上手に引き出して一緒に物事を達成していく、このようなタイプのロボットを〈弱いロボット〉と呼んで研究してきました。

他の手助けを引き出しながら目的を実現する〈弱いロボット〉の概念とは

〈弱いロボット〉の概念は、20年前に〈む~〉というロボットを幼稚園に持ち込んだことに始まります。なにもできないポンコツなロボットにもかかわらず、子どもたちはとても喜んで、このつたないロボットの世話を始めました。その姿を見て、弱さには「積極的な意味」があると考えました。

 

子どもたちは、ロボットに「どこから来たの」、「いつ生まれたの」、「お母さんはどこにいるの」などと話しかけていました。生活の中に目新しいものが入り込んでくると、そこに自分の世界観を作っていく様子がとても印象的でした。

 

▲ スライド2・2つのロボット〈む~〉を囲み、
喜びはしゃぐ幼稚園児たちの動画

 

〈む~〉は手足がなくて動けません。それでも、子どもたちが世話をした様子から、自ら動けないのであれば誰かに動かしてもらえばよいと気づきました。手がなくてモノが取れないなら誰かに取ってもらえばよい、表情がないのであれば誰かに解釈してもらえばよい。このような他力本願なところが面白いのです。

 

これは、乳幼児がお母さんの手助けを上手に引き出しながら目的を達成してしまうのと同じ「関係論的な行為方略」です。私たちはこのような社会性を持つロボットができればよいなと考えました。

 

その後、もう少し分かりやすいものということで、ゴミ箱の形をしたロボットを作りました。こちらも20年ぐらい前です。ランドリーバスケットに学生たちがモーターやマイコンをつけて動くようにしました。

 

このロボットはヨタヨタと動き、ゴミを見つけるのですが自分では拾えず、人の方にすり寄っていってペコリとお辞儀をします。それだけなのですが、見た人から「なんとなく、拾わなければいけないような」気持ちを引き出します。ゴミを拾ってゴミ箱に入れるとまたペコリとお辞儀をします。その様子がお礼をしているようでかわいいのです。

 

▲ スライド3・ランドリーバスケットを使い
「ゴミを人に拾ってもらう」ロボットを開発した

 

〈弱いロボット〉は、「他の手助けを引き出しながら、合目的的な行為を組織する〈関係論的な行為方略〉を備えたロボット」です。いろいろなロボットを作って試してみると、周りの子どもたちがいい表情をします。手伝ったほうもまんざら悪い気はしないようです。

 

▲ スライド4・手助けを引き出す
〈弱いロボット〉は、手伝った人を
幸せな気持ちにもさせる

 

ゴミを拾ってもらうロボットのポンコツさは、子どもたちのやさしさや強みを引き出します。3つぐらい同時に動かしておくと、幼稚園の年長さんぐらいの女の子が、ゴミを乱雑に放り込むとゴミ箱がかわいそう、と「こっちはペットボトル専用よ」「こっちにはアイスクリームの袋を入れるの」などと仕切り始めるなど、子どもたちの工夫も引き出せることも面白いです。

 

〈ゴミ箱ロボット〉にはたくさんの凹みがあり、その凹みが人のやさしさや強みを引き出します。私たちにも凹んでいるところ(できないこと)があり、その凹みはロボットの強みを引き出します。凹んでいる部分はお互いをつなげる「のりしろ」のようなもので、弱いところを補って強いところを引き出し合う関係性が生まれます。

 

▲ スライド5・ロボットも人も不完全。
お互いに弱さを補いつつ
強みを引き出し合う関係に

これまでに開発された数々の〈弱いロボット〉

これまでにいろいろなロボットを作りました。ポケットティシュを配ろうとするロボットや最近ではアルコール消毒をしてくれるロボット、サイズを小さく作ったロボットは机の上に置いて会話したり、胸ポケットに入れて一緒に散歩したりすることもできます。

 

▲ スライド6・実現したい目的に合わせて
異なる大きさで作られた
〈アイ・ボーンズ〉シリーズ

 

ポケットティッシュを配ろうとするロボットでは、通りの人の動きが思った以上に素早くてなかなかタイミングが合いませんでした。差し出してみては引っ込める動作を繰り返しますが、それがモジモジしているように見えて、周りの手助けを引き出しました。結果としてティッシュを受け取ってもらうことができます。周りの手助けを上手に引き出し、しなやかな関係を作るロボットです。

 

手をつないで一緒に歩くだけのロボットも、お互いをおもんばかるような関係を作る意味では、ちょっと頼りないくらいぐらいがちょうどよいかなと思っています。

 

▲ スライド7・手をつないで
一緒に歩くだけの〈マコのて〉には、
どんな目的があるのか

〈弱いロボット〉における重要な概念のひとつ「ウイ・モード(we-mode)」

並ぶ関係でのコミュニケーションでは「どっちに行く?どっちがよいかな?」と相手のことをおもんばかったり、頼ってみたりする関係で一緒に歩きます。ここでは「あなたと私」ではなく「私たち」として一つのシステムを作り上げている感じが面白いのです。認知科学の言葉では「ウイ・モード(we-mode)」といわれています。

 

▲ スライド8 ・人とロボットが
「私たち」として
ひとつのシステムを
作り上げるwe-mode

 

会話など社会的相互行為の場面での、コミュニケーション研究の一端で開発した会話型ロボットをご紹介します。

 

〈トーキング・アリー〉は、相手の目を気にしながらオドオドと話すロボットです。相手の視線が外れると、「あのー」と言うなど非流暢で、言い直しや言いよどみがあるのですが、それによって「何かを伝えたい」という意思を感じてしまいます。またこのロボットは、聞き手の状態に合わせてタイミングや発話内容を選ぶため、聞き手は優しさを感じて、思わず話し手側に寄り添ってしまう、という関係性を作ります。「私たち」として一緒に話を作っていくwe-modeになります。

 

▲ スライド9・非流暢に話すロボットの
伝えたい意思や配慮が感じられて、
we-modeになれる

 

これを拡張した概念として「言葉足らずな発話」がすごく面白いと思います。小学校から帰ってきた子どもの「きょうね、いっぱいあそんだ!」という言葉に対し、お母さんが「えっ、なにして遊んだの?」と思わず聞き返す。言葉足らずな発話が相手の関心を引きつけ、手助けを引き出して会話が弾む状況です。お母さんが能動的支援的であることがあって初めて実現できるわけですが、言葉足らずでも結果として豊かなコミュニケーションが生み出されます。この延長でロボットに実装した例もあります。

 

言葉足らずだけではなく、ロボット側が物忘れしたらどうなるかの研究もしました。

 

ロボットが子どもたちに昔話を語ろうとしますが、ときどき大事な言葉を忘れる。やってみたところ、ロボットが言葉を忘れると子どもたちの目が輝き始めました。

 

ロボットのポンコツなところが子どもたちの関心をうまく引きつけます。忘れた言葉に対して、ロボットと子どもたちがああでもないこうでもない、と豊かなコミュニケーションを作り出します。子どもたちは自分で勉強するよりも、自分より年少の子どもの世話をすると熱心になり結果として学んでしまうことがありますので、これは学習環境に応用できるかもしれないと思いました。

 

▲ スライド10・子どもたちも
よく知る「桃太郎」。
ロボットが
忘れた言葉を子どもたちが補おうとする

 

物忘れする、ちょっと手間がかかる、すべて提供しているわけではない、というロボットは、関わる子どもたちの能力を引き出して生き生きとした幸せな状態、ウェルビーイングをアップさせることになります。これも学習環境に応用できないかと考えているところです。

 

▲ スライド11・不完全なロボットを
自然に助けることで
子どもたちのウェルビーイングがアップ

〈弱いロボット〉 を学校教育に活用するための取り組み

〈弱いロボット〉の話は、教育の場にも少しずつ入り込んでいます。すでに東京書籍の小学校5年生の国語の教科書に登場、今年度からは高校の現代国語や英語にも登場します。

 

▲ スライド12・〈弱いロボット〉の話は
2018年以降、複数の教科書や
参考書に登場している

 

そうはいっても子どもたちにはロボットに手が届かない状況です。なんとか子どもたちに届けたい。そこで私たちは、愛知県の「知の拠点」あいち重点研究プロジェクトの一つとして学校教育でロボットを活用できる環境を整えようとしています。学びのSTEAM化、学びの個別最適化、新たな学習基盤づくりに合わせて〈弱いロボット〉の特性を活かせればと考えています。

 

▲ スライド13・〈弱いロボット〉を
学校教育に活用するため
さまざまな取り組みを研究中

 

学びのSTEAM化については、新しいロボットのデザインを考えています。自分たちでプログラムを組んで動くものを作るだけでなく、生き物の世話をするように〈弱いロボット〉と一緒に生活しながら、修理や手当をする、しつける、世話をする場面を作れるとよいと考えています。そしてまた次の面白いロボットを作ることもできると思っています。

 

▲ スライド14・概念を学び、
実際に新たにデザインし、制作し、
生活を共にし、育てる

 

〈弱いロボット〉たちと協働的な学びの場を作ることも考えています。

 

最近子どもたちの手の届くところにあるタブレットはヒューマンレスな環境ですので、そこにロボットを配置します。デジタル教科書の穴埋め問題を単に解くだけではなく、ロボットたちと「弱いところを補いあい、強いところを引き出す」関係性を築きながら協働的に学んでいくことができます。家庭学習にも活用できる可能性があります。ロボットと会話することに加え、子どもたちがデザインした服を着せてみる、英会話させてみる、歌わせてみる、など共構築型の学習環境がいろいろと考えられます。

 

▲ スライド15・〈弱いロボット〉
PoKeBoを
活用して
「個別最適かつ協働的な学びの場」を作る

〈弱いロボット〉は子どもと教師をつなぐ「ソーシャルメディアエータ」にもなる

子どもと教師をつなぐ「ソーシャルメディアエータ」もご紹介します。

 

学校の教室では、ロボットがちょっとおもしろい発話をして子どもと先生との議論を引き出します。

 

また発達に躓きのある一部の子どもたちは、ロボットとの親和性が非常に高いことが知られています。ロボットは社会的な刺激が抑えられていて、普通の人とよりは関わりやすい媒介の役目をしますので、療育士とのコミュニケーションを活性化したり、遠隔で参加して親御さんとの会話を引き出したりすることもできると思います。

 

▲ スライド16・子どもと教師
(療育士、保護者)の間で

コミュニケーションを媒介するロボット

 

モバイルタイプは子どもが持ち歩けるサイズにしています。発達の躓きのある子どもの発話やコミュニケーションを代替できるよう、タッチパネルに断片的な言葉を入れると代わりに話してくれるロボットの試作も行っています。

 

▲ スライド17・発達障がい児の療育支援を行う
コンパクトサイズのロボットも開発中

 

このような、さまざまな子どもたちのさまざまな支援になるロボットを、愛知県の「知の拠点」重点研究プロジェクトの一つに採択され、研究開発を進めています。

 

>> 後半へ続く

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