概要
超教育協会は2026年4月22日、文部科学省 中央教育審議会 高等学校教育の在り方ワーキンググループ 委員、国立市教育委員、元学校法人NHK学園理事長の篠原 朋子氏と、合同会社デロイト トーマツの吉田 圭造氏を招いて、「外国人財の受入れ・共生・活躍に向けた現状とデジタル施策」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、吉田氏が日本における外国人財政策の論点について講演し、篠原氏がNHK学園の日本語学習支援講座について講演し、後半では超教育協会の石戸奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。
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「外国人財の受入れ・共生・活躍に向けた現状と教育デジタル施策」
■日時:2026年4月22日(水)12時~12時55分
■講演:
・篠原 朋子氏
文部科学省 中央教育審議会 高等学校教育の在り方ワーキンググループ 委員、国立市教育委員、元学校法人NHK学園理事長
・吉田 圭造氏
合同会社デロイトトーマツ
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
吉田氏(▲写真1)と篠原氏(▲写真2)は、約30分の講演において、日本における外国人財政策の論点と、NHK学園の日本語学習支援講座について話した。主な講演内容は以下のとおり。
【吉田氏】
社会の中で外国の人財がより身近になってきています。日本においては「一時的な人手不足」ではなく、人口・経済・制度の三位一体の構造崩壊が進んでいる中、外国の方々と一緒に生活していく機会が増え、社会の持続可可能性をどう再設計するかが問われています。
日本における外国人財政策の主な論点についてまとめました。
日本では今、受け入れ制度の拡張と社会統合インフラの整備の遅れが非対称に進んでいる段階と言えます。受け入れ自体はたぶんに進んでいるものの、実際に受け入れる側のマインドセットやインフラがなかなか追いついていないのが現状です。具体的には生活インフラの未整備、日本語教育の制度的弱さなどです。特に日本語教育の制度的な弱さについては、これまでは外国人財を受け入れる企業任せになっていたり、来日する外国人財の努力次第になっていたりというのが実情だと思います。
外国人財の教育環境における論点について、まとめました。
教育環境の問題は、言語問題だけではなくて制度全体の問題であると認識しています。例えば、日本語指導が必要な児童生徒の急増と多様化、日本語教育の供給不足があります。文部科学省でも対策を進めていますが、なかなか追いつかず、地域住民のボランティアなどサポートがないと立ちいかなくなっている状態が続いていると思います。
その他にも不就学・未把握の問題、さらには「進路の分岐」の問題もあります。普通高校への進学率が低く、進路が定時制や通信制に偏ってしまう「義務教育後の断絶」が問題としてあります。また、支援人財・体制の不足も問題です。
こうした課題がある中で、義務教育を終えた段階でどう次の段階に進んでいただくかを考えると、やはり日本語教育が重要です。その学習のためのプロダクトについて、篠原さんからご紹介いただきます。
外国にルーツを持つ子どもたちの将来のために日本語教育は重要
【篠原氏】
▲ 写真2・文部科学省 中央教育審議会
高等学校教育の在り方ワーキンググループ 委員、
国立市教育委員、元学校法人NHK学園理事長の
篠原 朋子氏
NHK学園の「にほんご学習支援講座 Jプレハイスクール」についてご紹介します。まず、NHK学園は1962年にNHKが設立しました。
全国にあまねく届くNHKの放送を利用して、勤労青年に高校での勉強をしてもらうことを目的とした広域の通信制の高校です。その後、生涯学習の通信講座、社会福祉士の養成課程などを開設しています。これまでの高等学校の卒業総数はおよそ8万人です。
NHK学園のJプレハイスクールについて、設立初期段階の構想を紹介します。
学習の核は「中学生のにほんご」というテキストです。このテキストで日本語を学ぶと、理科・社会・数学の各教科をマスターできる内容です。高校入試の壁が少し低くなって、日本語ができないことによって高校に入れない人が少なくなるのではと考えます。全日制だけでなく定時制、通信制も含めて、とにかく高校を卒業してもらいたいというのが我々の思いです。社会には中卒でできる仕事、高卒でないとできない仕事、資格取得の要件など、さまざまな制約があります。NHK学園も高校卒業を大きな目標に掲げて教育をしてきました。外国人財の子どもたちでも高校を卒業することで社会参加が可能になっていきます。
教育現場における具体的な問題についてお話します。例えば、ある公立中学校でネパール出身の中学2年の女子生徒から話を聞いたときのことです。日本語の勉強はしているが、休み時間や授業中など友だちの前で間違った日本語を使うのが恥ずかしくて、日本語で話す勇気はないということでした。
また、高校入試においては問題文にルビを振るなど配慮が進んできていますが、まず日本語を習得して、その後に各科目の理解を深めるという学習を短期間で実施するのは、かなりハードルが高いものです。高校入学後に授業についていけないという子どもも一定数います。勉強はしていても学習に追いつかず、不登校になったり中途退学になったりするケースも多いです。やはり、日本語能力が必要で重要です。
指導法は未確立で標準化されず統一化された日本語教科書もない
一方、学校現場からも悲鳴が聞こえてきます。
担任の先生にしてみれば、「ある日突然、自分が全く分からない言葉を使い、日本語が通じない児童生徒が入学してきた」という感覚になってしまうこともあります。実際、教育現場でお話しを伺っていると、そんな児童生徒を何とかしたいと思っても何もできない、すごく歯痒かったし、そんな児童生徒に申し訳なかったという先生もいました。地域によっては、「1クラスの約半分が外国に繋がる子どもたち」というケースもあります。
さらに、「外国に繋がる子どもたち」と一括りにはできないことも問題です。個人差が大きいです。母語は色々、家庭内で話す言葉もさまざまです。来日したときの年齢によっても日本語の習熟度に差があります。子どもの成長段階にも注目する必要があります。一人ひとりの児童生徒のことを考えないといけないのです。
実際の支援体制でも整備が追いついていません。例えば、タイから来た子どもに対して、教育委員会が慌てて通訳を探し、やっと見つけたのが、タイに住んでいたことのあるタイ料理の研究家でした。日本語教育の専門家ではないので、言葉は通じても日本語教育はできません。もう一段、壁があります。こういう状況は、地域によって大きな差があります。
指導法も確立しているとは言えません。学齢期の子どもに特化した方法論がまだ一般化していないです。国が実施する施策は、まずは大人の外国人財を対象とし、「大人のことが解決したら子どもも」というように後回しになりがちです。要するに、統一した教科書もなく、指導内容も標準化されていないです。よく「国語の先生が日本語を教えれば良いのでは」という声が聞かれますが、国語を教えることと日本語を教えることは違います。
これらを考え合わせると、現在は地域ごとに多様な支援者が日本語教育を支えているというのが実情です。支援者には、それぞれのバックグラウンドがあり、教える内容も教え方も違います。それでも、そこに任せているのが現状です。2年前から登録日本語教員という国家資格ができましたが、まだまだ浸透していないと感じています。
中高生のための統一化された日本語教科書とWEBコンテンツを提供
こうした現状を踏まえ、Jプレハイスクールでは全国共通の日本語教育のスタンダードの確立を目指しています。
▲ スライド7・Jプレハイスクールは
日本語教育のスタンダードを目指す
例えば、外国人財の家族が北海道から大阪に引っ越してきても、子どもたちがどこまで日本語を勉強していたのかが引き継がれて、安心して学びを続けられるようになってほしいと願っています。外国に繋がりがある児童生徒は、グローバル人財の卵、いわば「令和の金の卵」かもしれません。数年経ったら成人になって、高校を卒業して社会のパワーになれる、あるいは進学してより高度な技術を身につけて日本の社会でさまざまな役割を果たすことができる、そういうグローバル人財の卵ではないかと考えています。
さらに、日本が外国人財から選ばれる国になる条件の一つは、子どもの教育環境だと考えています。例えば、インドのIT技術者をある企業が採用したいと考え、管理職のポストを用意しても、子どもの教育環境や学校の環境がお粗末な状況であれば、その人財は日本を通り越してアメリカやカナダなどに行ってしまうかもしれません。それが今の日本の社会の現実だと思います。
また、同じ学校の同じクラスの中で、日本人と外国に繋がりのある子どもたちの両方がいて、色々なことを学び合い、感じ合うことで、本当の意味での多文化共生が進む可能性があるでしょう。子どもたちが「地球人」になってくれれば良いと思っています。
具体的にJプレハイスクールはどんなものなのかを説明します。対象になるのは、小学校5・6年生から高校生くらいまで。ひらがなカタカナの読み書きができる人が参加できます。目指しているのは、そうした子どもたちの社会参加です。なんとなく日本語を勉強するという子どももいますが、社会参加という目的を持っていただきたいと願っています。
そしてNHK学園としても、この取り組みが将来的には外国人財の児童生徒たちが自学自習し、日本語力を向上させていくプラットフォームになれば良いと思っています。基本のテキストは、中高生のための唯一の総合日本語教科書『中学生のにほんご』です。スリーエーネットワーク社から刊行されています。「学校生活編」、「社会生活編」、「教科編」の3冊で構成されています。
▲ スライド8・中高生のための
日本語教科書『中学生のにほんご』
これは、「やさしいにほんご」の第一人者である一橋大学 国際教育交流センター 教授の庵 功雄氏が監修されたもので、科学研究費助成事業の研究成果として刊行されました。言語の4機能を主体的に自分で考えながら学べる実践的な教材です。長年、子どもたちを支援してきた方々、日本語教育の専門家の方々がさまざまな工夫をし、研究の成果を盛り込んで制作したものです。実際の学校現場の協力も得て、これは分かりやすいのか、こういう話題は面白いのかなど議論しながら作り上げられました。
そして、自習用にはウェブコンテンツが3種類あります。
スキット動画というのは、紙のテキストの中にある会話例を中心に、その会話をアニメ化したものです。字幕の有無を選択することができ、これを使って聞き取りや発話練習、シャドーイングができます。
2つめは練習問題です、これはテキスト執筆者の先生方が一から全て作ってくださいました。選択問題形式で正解はもちろん正答率も表示します。動詞グループの問題も揃っています。読んだり聞いたりできるようになってくると、実際に話したくなると思い、AIと自由会話に挑戦するプログラムも入れました。外国に繋がる中高生のためにチューニングしまして、専門家の方と開発のスタッフでかなり苦労されながら、このかたちに仕上がっています。
2026年3月までの間に、さまざまな方々に使っていただいて、概ね好評を得ています。生徒の皆さんからは「自分のペースで考えながら取り組めた」、「間違えた練習問題も繰り返し解いていくことでだんだん正解が分かるようになって嬉しかった」、「AIとのお喋りが楽しい」といった声などがありました。実際、生徒の皆さんからはAIのソフトが一番人気になっています。
指導者の皆さんからも、さまざまな声をいただいています。テキストは18課までありますが、子どもたちの習熟度や状況、様子に応じて、どこからでも始められます。児童生徒一人ひとりに合った学習方法をデザインでき、「何を使って子どもに教えようかと、一人ひとりに対して工夫することができて良かった」という声がありました。「普段はあまりおしゃべりしない、おとなしそうな生徒さんでも、AIとの会話はとても楽しそうにしていた」という話しも聞いています。ご関心のある方は、NHK学園 Jプレハイスクール事務局にお問い合わせいただければと思います。
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