予測できない時にドキドキする身体的感覚と創造性の関係とは
第197回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2026.1.16 Fri
予測できない時にドキドキする身体的感覚と創造性の関係とは</br>第197回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2025年11月12日、東京大学次世代知能科学研究センター 准教授の大黒 達也氏を招いて、「創造性はどこに宿るのか― ―AI時代に問う,“場”と“身体”,そして“余白”の知へ」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、大黒氏が非言語的な身体知と創造性の関係性について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

「創造性はどこに宿るのか― ―AI時代に問う,“場”と“身体”,そして“余白”の知へ」

■日時:2025年11月12日(水) 12時~12時55分

■講演:大黒 達也氏
東京大学次世代知能科学研究センター 准教授

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

大黒氏は約30分の講演において、言語化できない身体知と創造性の関係性について話した。主な講演内容は以下のとおり。

音楽を聴いたときの身体を伴う非言語的感動 それこそが音楽における身体知

身体と創造性の関係性について、大黒の研究アプローチは大きく分けると4つある。神経生理計測、音響分析、計算モデル、そして、シミュレーションである。

 

▲ スライド1・大黒氏の
4つの研究アプローチ

 

音楽の創造性がどこから来るのかというテーマをもとに、これら4つの学際的アプローチをとっている。神経生理計測や音響分析の研究結果をまとめて計算モデル、つまりAIや機械学習モデルを作り、それでシミュレーションをするというかたちで、音楽と創造性の研究に取り組んでいる。また、言葉にならない音楽を聞いたときの「言葉にならない感動」や、ドキドキ、ワクワクを実体験するための心臓デバイスを作ったり、自分の個性を可視化するアプリを作ったりといったことにも取り組んでいる。

 

研究内容を具体的に説明する。創造性をテーマにした研究では、グラハム・ワラスという研究者が「準備」「孵化」「閃き」「検証」という創造性の4つのプロセスを1926年に発表している。このように歴史のある領域ですが、初期の頃はポップサイエンスとして扱われてきたところがある。最近になって論文も数多く出され、社会的に創造性の重要性が認識されるようになったこともあり、「創造性はどこから来るのか」というテーマで研究が注目され始めた。

 

創造性は難しいテーマである。その中で大黒は身体、特に音楽と身体に焦点を当てて、そこから人間のジェネラルな創造性を理解したいと考えている。まずは、音楽の身体知について考える。身体知とは、そもそも身体を通して獲得される言語化しにくい技や感覚的な知である。音楽における身体知とは、身体を通じてとなるので演奏に関わる側面もありますが、大黒は聞く側を中心に考えている。音楽を聞いたときには、言葉にならない感動があります。ドキドキしたりワクワクしたり、鳥肌が立つような「身体が感動している状況」、そういった非言語的な感動こそが身体を伴った感動であり身体知であると捉えて研究をしている。

 

▲ スライド2・音楽と身体知の関係性とは

 

物理的な音の信号、つまり波型の空気振動、物理的な情報が耳から伝わって入ってきて、どのようにして一つの情動または感情として表象されるのか、この情動、聴覚、身体という3つの関係性を理解したいというのが大黒のテーマである。

 

聴覚に作用する物理的な音情報、情動、身体の3つのうち、まず物理的な音情報に着目して話をした。外部から音の刺激を受けて認識する過程でどのように音を処理しているか、じつは脳の予測が非常に重要である。

 

▲ スライド3・音楽を認識する上で
脳の予測処理が重要になっている

 

もともと脳は、音に関わらずさまざまな外部情報を予測している。脳の予測符号化と言われるものですが、それは音楽に対しても当てはまる。ドイツの神経科学者で大黒がドイツで学んでいた頃の上司でもあるProf. Stefan Koelsch(ステファン・ケルシュ)氏は、音楽に伴う感情は脳の予測処理を通じて生じるとしている。

 

また、神経科学者のロバート・ザットーレ氏をはじめとする多くの研究者が、音楽の予測誤差には身体感覚や身体運動を伴い、脳の報酬系が活動するとしている。例えば、ドレミファソラシと続くと大抵の人は次にドを予測する。このような遷移確率、ある音の次にどのような音が来るかのる確率をモデル化し、音楽の一般予測モデルを作っていると言われている。そうすると音楽に伴う感情は、音楽の予測誤差、いわゆる意外性から生まれる。音楽を聞いている際に突如予想に反した意外な音が出ると「何だろう?」という知的好奇心や、面白い、クリエイティブだという感情が予測誤差情報としてモデル化でき、そういうポジティブな音楽の予測誤差が来る時に、心臓の鼓動が速くなったり鳥肌が立ったり体が動いたりすると言われている。

 

簡単に例を示すと、ただのビートに基づいてずっと同じリズムの音は、次にどのタイミングで音が来るのかを簡単に予測できてしまいますので単調でつまらないと感じてしまうという。一方で、例えばシンコペーションやジャズなどでよく耳にするように少しビートをずらすといった工夫をすると、無意識に足や手でタップをしたり身体を動かしたりするようになる。ノリノリになるみたいな感じである。予測誤差が起きると身体を動かしてしまう。これを音楽のアクティブインファレンス(能動推論)と呼びます。シンコペーションでは、音の出るタイミングにおいて微妙な予測誤差が起きる。それに対して能動的に音を出すことによってその予測誤差を解消しようとする。この解消によって予測誤差が予測通りになった瞬間、我々の脳は報酬を得られると言われている。大黒はリズムでなく、音色や和音でもこうした研究ができると考えて取り組みを進めてきた。

 

そこで、過去の約9,000曲のポップ音楽のコーパスデータを脳の予測の計算論的なモデルに学習させて、音楽の一般予測モデルを作成したという。

 

▲ スライド4・予測誤差と
不確実性を組み合わせた音楽モデル

 

そのモデルを自作の自動作曲システムと組み合わせて、予測誤差と不確実性の変化の仕方を制御して、予測誤差の揺らぎや不確実性の揺らぎがある和音進行を作り、モデルに自動作曲させる。青線は予測誤差で、赤線は、不確実性を表わす。不確実性とは、いわゆる予測の「しづらさ」「次に来る可能性のある音のばらつき度合い」を表わす。この予測誤差と不確実性の2つの情報をコントロールした、4つの和音からなら和音列を4種類作成する(パターン1〜4)。パターン1として予測誤差と不確実性の両方がずっと低い和音列、パターン2は予測誤差が3つめまでは同じで4つめで高くなる。ただし不確実性はずっと低い状態である。心理的に予測誤差が予測誤差であることを意識的に理解できるような和音列になる。実際に聞いてみると、4つめに何か変な和音が来たと感じたと考えている。

 

パターン3は3つめの和音で不確実性が上がる。次は何の和音が来るのだろうと予測がしづらくなる。ただし、ずっと予測誤差が低い状態なので4つ目の和音を聞くと、曖昧だけど予測通りかもしれない、たぶん予測通りだろうというようなはっきりしない和音列となる。3つめの和音を聞いたときに「うん?」とわからなくなりますが、4つめの和音を聞くと「これでよかったのかも」と違和感が解決された「かもしれない」というような心理的な状態である。

 

このように、予測誤差と不確実性の揺らぎ方、曲の中の揺らぎ方をコントロールすると、ある程度、音楽的な感情を制御できる。

場の知性が少しずつ変化して集団的な創造性が表れる

大黒はこの「揺らぎ方」が実はとても大事であると考え、次の研究に取り組んだ。具体的には、1900年から2000年までのジャズの即興演奏の部分だけのコーパスデータを抽出して時系列で計算し、揺らぎ方の特徴を調べました。それが先に示したスライドの下の方にある点が集まっているグラフである。

 

黒く濃くなっている点の集まりは過去で、薄く白っぽくなっているところほど最近のデータである。個々の点は即興演奏を示しているので、点と点が近ければ近いほど揺らぎ方が似ていることになる。これを見るとなんとなく、黒から白へと左下から右上にかけて徐々に色が薄くなっているのが分かると考えている。

 

この点について、その意味が問われた。同じ時代に生まれた作曲家、即興演奏家は同じ揺らぎ方をしているとうことである。同じような即興演奏をしている。さらに面白いのは、時代とともに少しずつ変わっている。演奏家たちが、「この時代には、こういう揺らぎ方をしよう」と同意したわけではないのに、何となく集団的な知性があり、それに基づいて即興演奏をしていると思われる。それぞれの作曲に個性はあれど、揺らぎ方がなんとなく共通していて、しかもさらにずっとそれに留まることなく、ちょっとずつ新しいことをしてみたいと、少しずつやり方をずらしていく、徐々に変化しているというのがここで示されている。

 

そう考えていくと、この動き方を見ていくと「これから先」の様子も可視化できる。未来はどういう揺らぎ方をするかまで予測できる。そうなると、未来の曲が作れるのではないかと大黒は考えていると述べた。実は未来の曲を試行錯誤して作っている段階である。これが大黒の中のいわゆる場の知性である。このように場の知性があり、しかもそれが少しずつ変化する、いわゆる集団的な創造性が見えてきているのではないかと考えている。

ポジティブな感情やワクワクドキドキには心臓やお腹など内臓の感覚が重要になる

このような音信号としての新しい情報を生み出すモチベーションは、ある程度、計算論的に客観的に可視化できる。こういう揺らぎ方、音の予測の揺らぎ方というのが実際に身体とどう関係しているかというのが、次のクエスチョンになる。

 

この身体のドキドキワクワクをどうやって可視化するか。大黒はその中でも主観的な身体感覚に着目しているという。これはボディマップという手法である。

 

▲ スライド5・感情を身体のどこで
感じるかを示したボディマップ

 

シルエットを出して、怒りというものを身体のどこで感じますかと主観的に答えてもらう。そうすると、怒りはだいたい上半身で感じる。「ムカつく」というのは胸の辺りだし、「頭に来る」は頭である。怒りというとみんな感覚的に上半身の辺りに熱を感じる。それに対して幸せや愛などは全身に感覚が生じていて、いわゆる「溢れるような思い」とか「胸がいっぱいになる」は、全身の感覚が反映しているのではないか。 このボディマップの手法を使えば、予測の揺らぎや身体の関係性が理解できるのではないかと思い、先ほどの4つを含めて全部で8つの揺らぎのパターンを示した音楽を自動作曲で作って、その時のボディマップを500人以上で実験を行った。共通の揺らぎ方を示すたくさんの和音列があって、それをランダムに被験者に聞かせるという実験である。これがそのボディマップの結果である。

 

▲ スライド6・音楽の
予測誤差に基づくボディマップ

 

不確実性も予測誤差もずっと低い状態の、いわゆる「予測通りの和音」だと、特にお腹に強い感覚が生じる。一方で予測誤差であることを認識できるような和音列を聞くと、特に心臓に強い感覚が生じるというのが示された。これは何なのかと色々考えたという。全員が日本人を対象とした実験ですが、日本人は理解したり分かったりしたときに「腹落ちする」「腑に落ちる」などと表現する。お腹の辺りを使って表現するのですが、これは日本人特有である。その他にも胆力や腹切り、腹のうちが分からないなど、人間の魂を示す時に心臓ではなくてお腹を使った表現した。つまり、お腹の辺りに強い感覚が生じることを反映しているのではないかと考えている。理解できたときにお腹や胃のあたりを示すのは日本人特有で、文化固有な反応かと考えている。

 

もうひとつは文化普遍的な反応である。いわゆるびっくりさせるような和音が来ると、「びっくりした」と心臓を触れる。生理的な反応である。その反応がここで反映されていると考えている。

 

もうひとつ興味深い点があった。ボディマップを答えてもらった後に、感情も言語で答えてもらったという。すると、お腹か心臓に強い感覚を生じるような和音列の時に、最も音楽の美的な感覚が強くなる傾向にあった。つまり、音楽を聴いて感動したり美しいと感じたりするためには、心臓かお腹、内臓の主観的な感覚が重要なのではないかということが見えてきた。内臓の感覚があまり生じない音楽には、割とネガティブな感情が示された。だから、ポジティブな感情やワクワクドキドキ、美しいという感情では内臓の感覚が非常に重要で、それがないとぎこちなさや不安感が強くなるのではないかということが、ここで示唆される。

身体感覚に刺激を与えると創造的感覚が強くなる可能性も

さらに創造的な感覚も検証した。

 

▲ スライド7・創造的体験と身体の関係

 

どの和音列でも人によって創造的だと感じたり、感じなかったりする。つまり、創造的だと感じるための特定の揺らぎは見られなかった。ただし、大事なことも見えてきた。その人が創造的だと感じる時は、概して心臓の感覚が強いということである。クリエイティブだと思うときは、心臓の主観的な感覚が非常に重要であるということが分かる。これが創造性と身体の関係で、予測誤差の揺らぎ方と身体の関係性が示されている。

 

次はつい最近、発表した論文を紹介する。大黒が2024年に論文を出し、さまざまなところで講演を行ってから、ボディマップの研究が非常に増えている。そこでさまざまな研究内容をレビューペーパーでまとめようと思って発表した論文だという。

 

▲ スライド8・感情体験が生じる
3つの経路

 

大黒はその中で、ボディマップの意義を考えるにあたって、3つの重要な経路があると語った。1つめは「Body-to-Brain経路」で、びっくりしたときに心臓を触る、鳥肌が立つと腕を触るような、生理反応から生体反応をもとに生じる主観的な身体感覚である。2つめは「Brain-to-Body経路」で行動的起源である。リズムのよい音楽を聴くと身体が動くというような手・足の身体感覚である。

 

シンコペーションのあるリズムの良い音楽は、手と足に主観的感覚が生じるという報告がある。3つめは新しい提案である。頭に血がのぼるとか頭に来るとか言いますが、別に頭に何か来ているわけでもないし、腹落ちするのも腹に何か落ちているわけではないのに、我々は身体を使って感情を表現する。こういう言語的または文化的なメタファーがボディマップに反映されるという経路もあるのではないかと考えている。先ほどのお腹のボディマップもこの3つめに該当するし、心臓のボディマップは1つめに該当する。それぞれが混在してボディマップを示しているのではないかと考えている。

 

その概念的なモデルをここで示している。

 

▲ スライド9・身体感覚と音楽と情動の関係

 

音を聴いたらドキドキする反応が生じて情動が生じていますが、そのあとコンセプチュアルな主観的な身体感覚メタファーのようなものが生じて、3つがそれぞれ関係し合っているのではないかと考えている。そこで主観的な身体感覚を外部から無理やり変えてあげると、感情や生理反応もこの赤の1と2の経路によって変化させることができるのではないかと考えていた。

 

そこで2つ手法を試してみようとしている。1つは音楽を聴いたときのポジティブなボディマップを抽出した後、その人にもう一度、音楽を聴いてもらい、ポジティブなボディマップに基づいて触覚刺激装置で外部から刺激を与えるものです。全身の触覚を用いた音楽体験にプラスでポジティブなボディマップに基づく刺激が無理やりに生じるので、どういう音楽でも感動体験がさらに倍増されるのではないかという実験である。

 

もうひとつは心臓デバイスである。ドキドキしたらポジティブな情動が生じるのであれば、心拍と同期する心臓デバイスに敢えて嘘をついてちょっと鼓動を速くしてあげると、自分はドキドキしているのだと勘違いして感動体験が増えるのではないかという実験である。この2つの手法を考える。実際、自分の心臓より速すぎず遅すぎない、ちょっと速いくらいの心拍数にすると、情動が変化するというのは研究で知見が得られた。

 

このようにボディマップが情動を生じるきっかけになるのであれば、ボディマップを外部から無理やり刺激してあげると情動を制御できるのではないかと考えている。そうすると、心臓の感覚を心臓デバイスで少し速くしてあげると、創造的な体験が強くなる可能性があるという。これは、創造性とは何だという哲学的な面白いクエスチョンに繋がる。ちょっと身体を制御して、内臓の感覚を制御してあげると創造的な感覚も強くなっていくのではないかという話である。これで大黒の研究発表が終了した。

 

>> 後半へ続く

おすすめ記事

他カテゴリーを見る