子どもたちが自然と「インディペンデントラーナー」になるシステムを構築
第171回オンラインシンポ・前半

活動報告|レポート

2025.1.10 Fri
子どもたちが自然と「インディペンデントラーナー」になるシステムを構築</br>第171回オンラインシンポ・前半

概要

超教育協会は2024年10月30日、東京インターハイスクール 学院長の渡辺 克彦氏を招いて、「教師なし、授業なし、教科書なしで成功する子どもたちの話をしましょう。自学自習の環境を提供する東京インターハイスクール(TIHS)!」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

シンポジウムの前半では、渡辺氏が東京インターハイスクールで実践している「学び」について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

>> 後半のレポートはこちら

「教師なし、授業なし、教科書なしで成功する子どもたちの話をしましょう。自学自習の環境を提供する東京インターハイスクール(TIHS)!」
■日時:2024年10月30日(水) 12時~12時55分
■講演:渡辺 克彦氏
東京インターハイスクール 学院長
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

渡辺氏は約30分の講演において、東京インターハイスクールの設立経緯や目指している学びのスタイルなどについて話した。主な講演内容は以下のとおり。

GiftedからDisabledまでスペシャルなニーズを満たす教育環境を整える

私は東京インターハイスクールの学院長として10年以上学校運営に関わってきました。本日は、東京インターハイスクールでのパーソナライズド・ラーニングを中心にお話しをします。

まず、私が教育の大切さに目覚めたのは、2003年に内閣府がやっていた日米高校交換留学プログラムにボランティアとして参画したことが契機です。それをきっかけとして、東京インターハイスクールの前身であるアットマーク・インターハイスクールに2007年に参画しました。そして2011年には東京インターハイスクールの学長に就任しました。

東京インターハイスクールは、東京・渋谷に位置する米国ワシントン州認可ハイスクールの日本校です。

▲ スライド1・2000年に設立した
東京インターハイスクールの概要

不登校生や帰国生など、「普通の学校に行きたくない・行かない」、または「インターナショナルスクールに通いたい・留学したい」といった子どもたちを受け入れています。当校に通う生徒たちは自分の目標を自分で見つける、または、目標に向かいながら自分流に高校を卒業する、そういった意志を持っています。その中で「Independent Learner(インディペンデントラーナー:大人)」として成長するためのサポートと環境を整えています。東京インターハイスクールは学校ではなく、生徒たちの学びと成長をサポートする教育システムといえるのです。

生徒が自分自身でこのシステム、つまり、当校の「パーソナライズド・ラーニングシステム」を利用して、自分の目標の達成や高校卒業資格の取得を同時に目指します。ただ、多くの生徒は自分ひとりで目標を見つけ、どのようにその目標を達成するのかを実践するのは難しいです。そこで、経験豊富な当校の学習コーチ(担任)が生徒をマンツーマンでサポートします。当校のシステムを利用して、どうやって卒業するかを学習コーチとともに考えて、それを実践して大人に成長していく学びの環境が東京インターハイスクールにはあります。

2000年創立以来、東京インターハイスクールには常時150人ほどが在籍しています。お互いに切磋琢磨しながら、自分の目標と高校卒業を同時に目指しています。例えば、医師になりたい生徒は、医学部に進学するために専門塾に行き、それを高校の単位にして高校の卒業資格と受験勉強を並列して勉強します。医大に進学した一人は、在籍中に病院でアルバイトをして体験学習を実務学の単位にしました。目標が留学という生徒なら、TOEFLの受験勉強が英語の単位になります。東京インターハイスクールには、目標を実現するシステムと環境、そしてサポートがあります。

東京インターハイスクールの前身であるアットマーク・インターハイスクールは、リクルートを経てアットマーク・ラーニングを立ち上げた日野 公三氏が始めたものです。日野氏はその後、全国41箇所に明蓬館高等学校のSNEC(Special Needs Education Center)を展開しています。その過程で日野氏が目指したことは「スペシャルニーズエデュケーション」です。日本の学校では「特別支援」と訳されることが多いようですが、我々の考えは、支援ではなく「ニーズを満たす環境とサポートを提供する」というものです。

生徒にはそれぞれ違うニーズがあります。それらを満たすための学びの環境やリソースを提供する場が必要と考え、2000年に東京インターハイスクール、その後、学校教育法一条項の構造改革教育特区制度を利用して2004年にアットマーク国際高等学校、2009年に明蓬館高等学校を設立し、3つの学校で「Gifted(ギフテッド)」から「Disabled(デイスエイブルド)」まで、生徒たちの多様なニーズを満たす教育環境を整えています。実際に明蓬館高等学校は、この5年ぐらいの間で全国に広がり大成功を収めています。

なお、当グループでは身体あるいは精神に障害を持つDisabled(ディスエイブルド)の生徒だけではなく、いわゆるStandardの生徒も含め、生徒たちの資質カテゴリーにこだわってはいません。それぞれの学校にはワイドレンジの生徒がおり、フォーカスがGifted(ギフテッド)やDisabled(ディスエイブルド)、Standardということです。

▲ スライド2・教育はスペシャルニーズを
満たすものである

そして、東京インターハイスクールには、現在、Gifted(ギフテッド)の生徒が多数在籍しています。私たちは「子どもたちは、それぞれがスペシャルであり、教育は子どもたちのスペシャルニーズを満たすものでなければならない」という原点に立ち返り、スタンダードも大切にしつつ、スペシャリティを磨くような教育を展開していかなければいけないと考えています。

▲ スライド3・子どもは
全員それぞれスペシャルである

自分が大人だと思っている割合が日本では非常に低い

一方で、現在の学校教育の現場でスペシャルニーズに合致した教育環境を整えることや、先生方にスペシャルニーズに合った指導を求めるのは無理があります。教育現場や教師だけではなく、子どもたちの状況も考えなくてはなりません。2018年から日本財団がまとめている統計では、日本の18歳は自分が大人だと思っている割合が世界の主要国に比べると非常に低いです。

▲ スライド4・日本の18歳は
自分が大人だと思っている割合が、
世界の主要国と比べると非常に低い

つまり、18歳の生徒たちには「当事者知識がない」のです。2018年から2024年の間、結果がまったく変わっていないことも大きな問題です。こうした実情がある中、当校には今年12歳でアメリカの大学に飛び級した生徒が1人いました。そこで、最近の飛び級の状況はどのようになっているのかを知りたくて、文部科学省のWebサイトを調べました。結果は、約30年前に飛び入学制度(いわゆる飛び級)が導入されましたが、これまでに152人しか実績がないことがわかりました。

▲ スライド5・日本でも約30年前に飛び入学制度
(いわゆる飛び級)が導入をされているが
累計で152人しか実績がない

30年かけてこの実績ということは、まさに「失われた30年」といえるでしょう。例えばアメリカでは、多くの公立高校にAdvanced Placementというプログラムが導入され、高校で大学単位の学習が普通にできるようになっています。また、高校で提供するのが困難であれば、カレッジの授業を高校生が取って、大学の単位を高校在学中に取得できる制度もあります。さらに「チャータードスクール」という制度が広がり、全米で6,000校ぐらい、400万人ぐらいの生徒たちがチャータードスクールで学んでいます。

チャータードスクールとは、東京インターハイスクールのような特別な目標(当校の場合は、Independent Learning)を持った学校を公的に支援する、公設民営学校制度です。アメリカでは過去20年ぐらいで急速に広がってきており、「Most Likely To Succeed」というハイテクハイスクールを描いた映画が有名です。具体的にはITを中心に学習する高校というアイデアを持った民間人が、州の予算を獲得して学校を開校運営します。現在全米で6,000校以上に拡大していて、このトレンドは今後もさらに広がるでしょう。子供たちのスペシャルなニーズを満たして才能を伸ばすような学校を、民間のアイデアで設立運営して、それを税金でサポートしていくという制度です。

かたや日本における飛び級制度の数字を見ると、「スペシャルはダメだ」ということを如実に表していています。この失われた30年の間にシリコンバレーを中心にアメリカのハイテク産業が増大し、日本が到底立ち打ちできないような状況に陥った背景の一つには、硬直した教育制度にあることは間違いないでしょう。

生徒と保護者を対象にラーニングサクセスというコーチングの考え方を普及

こうした状況から、日本は今こそ何かをしなければいけません。学校を変えるなり、学校の授業でAIやITを使うなり、今まで通りではないことをしなければいけないですが、それには時間がかかります。しかし、子どもたちは日々成長しており待っているわけにもいきません。そこで、ソリューションとして我々が一般に啓発しているのが子育てコーチングです。2000年から24年間、東京インターハイスクールの生徒と保護者を対象に、ラーニングサクセスというコーチングの考え方を普及させてきており、全国的に子育てされている保護者を中心に子供を愛するペアレンティングと並行して子供を自立させるコーチングをご家庭の中に導入しましょうと啓発しています。

▲ スライド6・1人ひとりの思考の
傾向や特性を理解し、その人に適した
アプローチによって目標達成へと導く手法である
ラーニングサクセス

子どもたちに対し一人の人間として接してコミュニケーションを展開していくには、保護者自身が変わることが大切です。そこで、我々が24年間、培ってきた子育てコーチングの方法論をもとに、「自分自身を変えてみよう」と考える保護者を増やしていこうと取り組んでいます。目標としてSNSを通して10万人規模の共感コミュニティを作りたいと考えています。

東京インターハイスクールは、オンラインという手段は使うものの、利便性や効率を求めているのではなく、密度あるコミュニケーションを通して人間信頼関係作りを重視するマンツーマン(生徒と学習コーチ)の非効率なアナログな学校です。生徒は多くても200人が入学できるキャパィしかありませんから、全国の保護者に向けて子育てコーチングを啓発することで、過渡期にある日本式の教育で悩んでいる親子をサポートしたいと思っています。

最後に私が2017年(2000年改訂)にポプラ社から出版した本を紹介します。QRコードからアクセスしてアンケートに答えていただければ本を贈呈しますので、興味のある方は資料請求アンケートを答えていただければと思います。

▲ スライド7・渡辺氏が出版している書籍
『学びに「成功する子供」教えに「失敗する大人」』

>> 後半へ続く

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